エピローグ いつか来る平和を信じて
さてゴールデンウィークが終わった。今日も学校での日常が始まる。教室では休暇中に何をしてたか、生徒同士での話に花が咲いていた。
「ねぇ、どこか旅行してきた?」
「うん。異世界で空を飛んで、魔獣を退治したりしてたよ」
「はいはい、ゲームの話ね。モンハンっていうんだっけ、私は遊んだことないけど」
私の友だちが、適当に話を聞き流してくれる。都合がいい女子で何よりだ。
「……でも貴女、ちょっと雰囲気が変わった? 何だか、たくましくなったみたい」
「あー、わかる? 旅が私をワイルドに成長させたのよね。可愛がってあげるわよ、子猫ちゃん」
「か、からかわないでよぉ。もう……」
隣の席の彼女が、顔を赤くして俯く。この子は私のことが好きなんだよね。テレパシー能力があると、そういうことがわかってしまうのだ。教室に先生が入ってきて、そろそろ一時間目の授業が始まる。
『どう? 可愛い子でしょ、私の友だち』
そう私が、異世界からテレパシーで妹に話しかける。実は今、教室で授業を受けているのは、私に成りすました妹なのであった。私たちは他の誰にも聞かれない会話を繰り広げる。
『うん。こっちの世界の女子っていいねぇ。誰も何も殺してない、清らかな存在だわ。平和の尊さが身に染みるなぁ。私も、この子を好きになっちゃいそう』
『なっていいよ。私たち、好みも似てるんだから。将来は三人で付き合ってもいいんじゃないかな。彼女も同じ顔の私たちを歓迎してくれると思う』
長く家に留まったためか、妹は連休が明ける時期になって「まだ、帰りたくない」と言い出したのだ。三年も異世界で過ごしてたんだから無理もなかった。なので私は帰宅した両親に事情を話して、私が妹の代わりにしばらく異世界へ行くことを了承してもらったのである。今は妹も両親も、長い期間を一緒に過ごすのは久しぶりだから大喜びしている。
『お姉ちゃんの方はどう? 勇者の仕事って面倒じゃない?』
『そんなこともないよ。学校でのお勉強よりは向いてる気がするなぁ。貴女は久しぶりの高校生活が楽しいんでしょ。やっぱり、いい関係だよね、私たち』
ちなみに私は、異世界でもスマホで動画を見たりしている。私と妹が次元を超えて繋がっているからか、電波が普通に入るのだ。テレポートで渡せば、妹がスマホを充電してから送り返してくれる。
テレビ番組もマンガも配信で見られるから不自由を感じないし、私の衣食住は王都で、全て無料で提供される。楽しい楽しい、異世界ライフである。私たち姉妹を恐れている人も多いのは事実だけど、だからと言って、王様だって勇者と完全に絶縁したい訳じゃないのだ。
『じゃ、ちょっと仕事に専念するから。私の分まで授業を聞いておいてねー』
『うん、気を付けてね、お姉ちゃん……。……愛してる』
じんわりとした胸の温かさを感じながら、通話を切った。青空の下、私は空を飛びながら国境付近のパトロールを続ける。他国の軍勢が攻めてくるのは珍しくもなくて、そんな世の中では、まだまだ勇者の力が必要とされるのである。
いつまでも付き合う義理はないけど、スピード違反を気にせず空を飛べる生活は中々に捨てがたい。戦い疲れた妹のためなら、どんな脅威も殺して見せよう。いつか来る平和を信じて、今日もスマホ片手に私は異世界の空を駆け抜けた。