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1日おきの名探偵  作者: 山神錦采
第一章 断片の日々
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No.6 封じられた火災と、最後の通報者

蓮は廃工場で手に入れた図面と鍵を手がかりに、団地地下の“裏口”と呼ばれる通路へ足を踏み入れる。誰にも存在を知られていないはずの制御室の扉を開けた先で、彼が目にしたのは、管理人・佐賀野克也の遺体だった。

遺体の傍には手帳と録画装置が残されており、そこには火災が偶発的ではなく、あらかじめ仕組まれていた可能性が示されていた。さらに映像には、火災当夜に団地内部で何者かが動いていた形跡も収められていた。

蓮はこの場所で初めて、“誰かが意図的に動かしていた火”の存在を確信する。証拠を集め、佐賀野の沈黙の中に込められた真実の断片を携え、蓮は事件の全体像にもう一歩近づこうとしていた。

葛城蓮は日曜の朝、自室の机に広げたメモと図面の上に視線を落としながら、昨晩の記録を整理していた。団地地下の制御室で発見したUSBと佐賀野の手帳、そして複数の資料が、今ようやく一つの線に結びつこうとしていた。


鍵となったのは、図面に赤ペンで記された“B端末”の存在だった。佐賀野が火災前に裏口を封鎖しようとした理由、それはこのB端末に通電させるルートが故意に改変されていたからだ。もともと非常用に設計されていた配線が、一部だけ無理やり変えられていたことに蓮は気づいていた。手帳にはこう記されていた。


「端末Bを通すルートは通常使われない。だが、工事の名目で接続が復旧された。点火トリガーは、赤スイッチを通した感圧式電流。出火箇所と一致」


ここでようやく蓮は確信に至った。今回の火災は、ストーブの転倒ではなく、感圧式のスイッチを経由して配線が過熱し、電気的に起こされた“仕組まれた事故”だった。そしてそれを佐賀野は直前まで察知していた。では、なぜ彼はそれを止めなかったのか――USBの映像が、答えを残していた。


佐賀野は火災当夜、スイッチに触れようとしたが、その直前に誰かに止められた形跡があった。カメラの片隅に一瞬だけ映った黒い影。顔は不明だが、その人物が制御室を訪れた時刻の直後に配電エラーが発生し、スイッチの作動が確認されている。


つまり、佐賀野は最後まで事故を回避しようとしていた。だが間に合わなかったのだ。蓮は記録を整理し、メモを一枚の紙に書き起こした。


「火災は意図的に引き起こされたものである。加熱発火は配電盤の過熱によるもので、感圧スイッチが作動の引き金。機材の改造と通電経路の設計は複数回行われており、佐賀野克也はこれを封じようとして失敗。失踪ではなく死亡。第三者の介入があったと推定される。監視映像と資料は別途保存」


昼過ぎ、蓮は駅前の警察署へ向かった。匿名で提出された封筒の中にはUSBメモリと書類一式が入っていた。手紙は短い一文だけ。


「事故ではありません。これは計画された火災です」


それをポストに投函し、蓮は静かに踵を返した。証拠は出揃い、真相も明らかになった。だが――彼の心にはひとつだけ、消えない疑問が残っていた。なぜ火災を起こす必要があったのか。そこに利得が見えない。誰のための火だったのか。その背後にある「動機」だけが、まだ霧に包まれている。


帰宅後、蓮は日記を開いた。前日の欄にはこう記されていた。


「佐賀野死亡。記録回収。火災の仕組み確認済。原因不明。動機調査は後日」


まるで捜査メモのような書きぶりだった。自分で書いたものかどうか、確信はなかった。ただ、それは蓮自身の思考と一致していた。


その夜、蓮は久しぶりに安らかに眠った。事件は終わった。だが、まだ何かが、こちらを見ている。

次回予告:

次なる依頼が舞い込むのは、何の変哲もない火曜日の朝だった。だがその依頼が、過去と、そして未来に繋がる扉を再び開こうとは、まだ誰も知らない――

次回から第二章に突入!!「百の欠片と、一つの依頼」へ続く。

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