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1日おきの名探偵  作者: 山神錦采
第一章 断片の日々
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No.1 木曜日の探偵

白鷺台高等学校に通う高校二年生・葛城蓮には、誰にも言えない秘密がある。

それは――自分の記憶が、1日おきに途切れるという謎の体質だ。目が覚めるたびに、昨日の出来事は何も思い出せない。それでも彼は、日常生活を装いながら、裏では“高校生探偵”として様々な依頼を受けている。

ある火災事件の調査をきっかけに、蓮は町に潜む不可解な“組織”の存在と出会う。

些細な事件の裏に隠された陰謀が、彼を次第に大きな渦へと引きずり込んでいく。

これは、1日おきに目覚める名探偵が、断片的な記憶と証拠を手がかりに、真実を追い続ける物語。

二月の風は、皮膚の奥にまで染み込むような冷たさだった。白鷺台高等学校の門をくぐった葛城蓮は、吐く息の白さを見上げながら、小さくあくびをした。


「……またか」


そう呟いたのは、空白を感じる目覚めの朝が、もはや日常になってしまっているからだった。記憶が“昨日”で途切れている。その事実に慣れてはいけないと分かっていても、もはや驚きはなかった。校舎へ向かう途中、三年生の教室から「受験まであと一年だぞ!」という声が廊下に響く。蓮はそれを背にしながら、自分の教室、2年B組へと入った。いつもの席、窓側から三番目に腰を下ろすと、机の上に白い封筒が置かれていた。少しだけ折れた角、そして万年筆で書かれたような達筆な文字――「葛城蓮様」。誰にも気づかれぬよう、そっと鞄の中へ封筒を滑り込ませた。休み時間、屋上の片隅でそれを開く。中には、手書きの一文と、新聞の切り抜きが一枚。


「助けてください。あれは事故なんかじゃないんです」

——2024年1月28日、白鷺台団地で発生した火災。高齢男性1名死亡。


蓮はその記事をどこかで見た記憶があるような気がした。だが、それは“昨日”ではない。おそらく、“前回の自分”が見ていたのだ。放課後、蓮は白鷺台団地へ向かった。火災現場は四階建ての三階。焼けた窓の中に、焦げたカーテンが揺れていた。団地の前では、車椅子の女性が彼を待っていた。毛糸のストールに顔を沈めている。


「あなたが……葛城蓮さん?」


かすれた声で尋ねる彼女に、蓮はうなずいた。


「はい。あなたが、この手紙を?」


封筒を取り出すと、女性はわずかに微笑んで答えた。


「兄が……この火事で亡くなりました。でも、あの人は暖房の扱いには人一倍注意していた。事故なんかじゃ、ないはずなんです」


「……誰かに、殺されたと?」


蓮の問いかけに、彼女は首を縦に振った。事件に見せかけられた事故。赤く焼け焦げた窓の奥に、まだ語られていない“何か”がある。



翌朝。蓮は布団の中で目を覚ますと、指先に違和感を覚えた。煤が、爪の間に入り込んでいた。


「……何だ、これ」


ベッドの横の机には、赤ペンで印がついた団地の見取り図が広げられていた。蓮の記憶には、昨晩その地図を広げた覚えはない。だが、目の前には確かに“誰かの行動の痕跡”が残されていた。


それが、誰なのか。なぜ自分の部屋に。

何より――なぜ、自分の手が煤にまみれているのか。


疑問は膨らみ、形にならず、胸の奥に沈んでいった。


「……俺の知らない“昨日”で、何があった?」


そしてそれは、次の“目覚め”にも続いていく。

次回予告:

赤いスイッチにまつわる奇妙な証言と、団地の地下に隠された改造痕跡。蓮がその“異常”に近づくとき、誰かがそっと蓮の背中に手を伸ばす――

次回「無言の隣人と、赤いスイッチ」へ続く。

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