これからも ずっとずっと キミと幸せでいれますように。
※今作品に、誤字や脱字、その他にも読みにくい所があると思います。面倒だとは思いますが、X(旧Twitter)で@GODZIRRA1954で検索していただくと、僕のアカウントが出てきますので、発見次第DMにて連絡してください。よろしくお願いいたします<m(__)m>
第一章 小春日和
校庭の桜が満開に花びらを咲かせている。
「桜綺麗だねー! ね! 冷斗!」
奈那が元気よく俺に話しかける。
「そうだな」
靴箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替え、校内に入る。
「しっかし今日は小春日和だねー! こんな日は余計に外でお弁当食べたくなるねー!」
「お前霊だから食えないだろ」
「まあそうだけど! 生きてたらなー」
校内では、生徒同士の楽しそうな笑い声が響いて、外からは運動場の隅で朝練をしているテニス部の声が聞こえる。
教室に入ると仲のいいグループ同士で話をしている。
もちろん、俺がいるグループなんかない。
誰にも気づかれないように自分の席にゆっくり座った。
「ねね! わたし買い物に行きたいんだよねー! 死んでから一度も行ってないし!」
急にだな。まあ確かに、奈那に取り憑かれてから一回も買い物なんか行ってないな。
教室では大多数の生徒がじゃんけんをしている。
「冷斗―! ちょっとだけ窓開けて!」
「はいよー」
外からはさっきと違い、登校する生徒が生徒同士で挨拶したり、校門前に立っている先生に挨拶する声が聞こえる。
そんなことを横目に外の風景を見ていた。
「冷斗はいいなー。わたしみたいに…………されてなくて……」
「うん? ごめん、外の鳥の鳴き声聞いてて、途中から聞こえなかった」
「ううん! 気にしないで!」
奈那が明るい笑顔を見せる。
「そうか」
しかし今日は気温もちょうどいいし、奈那が言ってた通り小春日和だな。
「冷斗ってさ、わたしに取り憑かれる前から友達いなかったんじゃない? なんか性格的にそういう感じがするけど」
「ご名答」
「やっぱりねぇ」
奈那が小さなため息をつく。
奈那に取り憑かれている前から友達は一人も出来なことなかった。小学校の時に周りに霊が見えることを自慢したら引かれて、そのまま友達が作れなかった。中学時代はスタートダッシュ失敗して友達作れなくて、結局、奈那に取り憑かれ一度も友達が出来ることはなかった。
「奈那って髪の毛、茶色いよな」
「うん! 家族全員茶色いんだ!」
「へぇー」
茶色い髪の毛いいなー。俺の髪の毛、霊感あるからか知らないけど白色だし。
「ふわぁ~ねむぅー。ちょっと寝るから先生来たら起こしてー」
欠伸で、出た涙を制服でぬぐう。
「りょうかーい!」
奈那は元気いっぱいの笑顔だ。
周りからすれば全部独り言だもんな。話しかけずらいし、まず、話したくないだろうなー。
窓からやわらかい風が吹き、その風が俺と奈那の髪を揺らす。
コツコツと誰かの足音が聞こえる。
ああ。また後ろで話すんだな。うるさくて寝れなくなるから嫌なんだよ
右手で頭の後ろをかく。
「ねぇねぇ……体調大丈夫……?」
誰かが俺の体を優しくたたく。
「え、あ、うん。単純に眠いだけぇー」
眠い目を擦りながら、話かけてくれた子の顔を見る。
誰だこの人……。ていうか先生と家族と奈那以外に話しかけられたのなんか何年ぶりだ……?
数秒間固まっていると、奈那が俺の肩を叩いた。
「ダメだよ冷斗! せっかく勇気出して話しかけてくれたんだから話さないと!」
話しかけてくれた子にバレないように小さく、コクリとうなずく。
そう言われてもなぁ……初めて会う人と話す時ってどういう会話の仕方なんだ……? わかんねぇ……。
「冷斗! とりあえず質問して! わたしの言うことを聞いて!」
奈那の声のボリュームがあがる。
えええ……急にそう言われても……。
話しかけてくれた女子は不思議そうな顔で俺を見ている。
「なんで俺なんかに話した……?」
「え? いや、学級委員長だからクラス全員と話したいから……」
委員長はもじもじしている。
ああ……。委員長決めるときにこの人に投票したっけな。
「名前なんて言うの? あっ! ごめんね! まだ全員の名前を覚えきってなくて……」
申し訳なさそうにし、おどおどしながら聞いてくる。
名前覚えられてたら逆に怖いな。俺、名前自分で言ったのなんか、一度きりだし。
「水間冷斗」
「冷斗くんだね。覚えたけど……私、人の名前を覚えるのが得意じゃないから、多分名前じゃなくてキミって呼ぶけどいい?」
キミ呼びって……ややこしい気がするけど……。ま、別になんでもいいけど。
「いいよ。それで」
「やった! 気になるんだけど、特技とかあるの?」
「特にない」って答えたらダメだしなぁ。
奈那の方向をチラッと見る。
「霊が見えるって言ったらどう?」
それしかないよなぁ……。……本当は言いたくないんだけど……。奈那の言うことだしなぁ……。
「一応霊が見えるっていうのが特技?」
「霊が見えるの⁉」
委員長がクラス中に響く大声を出した。その瞬間クラス中の目線がこっちに向く。
俺は驚きのあまり、耳をふさいだ。
「あっ! ごめんね! 大きい声出しちゃって!」
ブンブンと首を横に振る。
「へぇー! 私幽霊とかそういう系が大好きなんだよね! そうだ! 私の守護霊とか見える?」
委員長の雰囲気が一気に明るくなる。
「わかった」
普段は霊が見えないようにつけているコンタクトを外し、委員長の顔を見た。
「大型犬……? 奈那、触れてみて」
「りょうかーい!」
奈那が、委員長に取り憑いている大型犬に
「大丈夫、大丈夫だからね~」と言い、近づく。
「普通の大型犬だよ。多分だけど、この子が小さい頃に飼ってた犬じゃないかな? 犬とか猫、つまり、ペットって結構飼い主への恩返しの一環で、守護霊として宿りやすいんだよね。わたしが地縛霊になってる時にいっぱいそういう人見たし」
奈那は大型犬の頭を撫でている。
大型犬は嬉しそうに「ワン!」と吠える。
「昔、大型犬飼ってた?」
「うん」
当たりだな。
「奈那、戻ってこい」
「はーい!」
奈那は大型犬に手を振った。
「その飼ってた犬が委員長の守護霊」
「本当⁉ やっぱりマロンは私のこと好きだなー!」
ふと周りを見渡すと、霊が見えた。
急いで、コンタクトをつけなおす。
「あ、俺が霊が見えるっていうのは内緒で頼む」
「うん! わかった!」
一瞬見えたけど、守護霊とかじゃなくて、普通にここに宿ってる霊たくさんいたな。学校ってたくさんの人たちの怨念とかが集まる場所だから多いのは当たり前なんだけど。
「あっ! 私の名前がまだだったね。清水冬李だよ! 覚えといて!」
「う、うん」
少し、引き気味になる。
奈那と一緒で、ぐいぐいくるタイプだなこれ。キッツ……。
「ねぇねぇ! キミって兄弟いるの?」
「妹が一人だけ」
「名前は?」
「奏」
「へぇー!」
「よかったー! 会話続いてて!」
奈那が安心したのか、「ふぅー」と息を吐く。
「冬李ちゃんー! こっち来て話そっ!」
少し離れた席から女子が手を挙げる。
「今から行くー! じゃあね! また話そうね!」
「え、あ、うん」
委員長は少し駆け足で俺から離れた。
委員長が俺から離れた瞬間、体の力が抜ける。
「冷斗よかったね! 冬李ちゃんが話しかけてくれて! あと、わたしのアドバイスに救われたね!」
「うん。やっぱり陽キャ女子はすごいな。コミュ力が俺と段違いだな」
さっきは奈那にめちゃくちゃ救われたな。
俺も奈那と一緒のように「ふぅー」と息を吐く。
「奏ちゃんもきっと嬉しいと思うよ! 自分のお兄ちゃんがやっと友達作ってくれたこと!」
委員長は笑いながらさっきの女子たちと話している。
「そういえば、奈那にも妹いたよな?」
「うん! かわいいかわいい妹だよ! 今はどうなってるかなー!」
奈那が天井を見上げる。
奈那のお墓参りには一応命日・誕生日・お盆の時期に行ってるけど、奈那の家族はまだ一度も見たことないんだよな。
「ねぇねぇ冷斗! 見てトンボ! かわいいー!」
奈那が無邪気な笑顔で、指さす。
指を指している所を見るとトンボが木に止まっていた。
「何トンボだろうねー!」
「さあな」
外に手を出す。
するとすぐに、トンボが手に止まった。
「かわいいねー! 昔はよく妹と捕まえたなー!」
「へぇーいいな。奏は虫苦手だから俺もそんな思い出作りたいなー」
「まだ冷斗は生きてるからチャンスがあるよ!」
「それもそうだな」
キーンコーンカーンコーンと四限目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
周りはそれを聞き、体を伸ばしている。
「委員長挨拶してー」
「はい! 姿勢! 起立! 礼!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
言い終わると周りは席を移動し始めた。
それを横目に屋上に上がった。
廊下には購買部に向かうであろう生徒たちが走っていて、それを先生が注意している。
「冷斗はいいよねー。奏ちゃんが美味しいお弁当作ってくれて」
「奈那は昔、何食べてたんだ?」
「最初はお弁当だったけど、途中から学食にしたなー。おばあさんがいっつもサービスでわたしの大好きな玉子焼きを付けてくれてたんだー!」
「へぇー」
学食も学食で食べてみたいけどなー。
そんな会話をしていると、屋上についた。
屋上のドアを開けた瞬間スズメが一気に飛び立った。
「やっぱり屋上はいいなー。誰もいないしー」
「いいお天気―!」
弁当箱を開けると、唐揚げのいい匂いがした。
弁当は朝ごはんの料理を少し、リメイクした料理が大半を占めている。
「「いただきまーす(!)」」
奏が朝作ってくれた、チキン南蛮を口に運ぶ。
「冷斗って高校入学してからずっと屋上で食べてるよね」
「だって教室で食べるとお前とゆっくり喋れないだろ」
「確かに! ありがと冷斗―!」
奈那が俺の頭を撫でる。
「頭撫でるなー! 子どもじゃないんだからー!」
奈那は霊になっているが、なんでもかんでも触れる。
そのおかげで他の霊に触れたり出来るが、たまにこうやってちょっかいもかけられる。
ガチャとドアが開く音が聞こえた。
「あっ! いたいた!」
「委員長⁉」
委員長は片手に弁当箱を持っている。
「何でここに⁉」
「いやー! 『一緒に食べる?』 って誘ってくれる子が休みだからキミと一緒に食べたいなー! って思っただけだよ!」
わざわざ屋上まで来るか普通⁉ いやけどこれが普通なのかなぁ……。とりあえず、今日の昼休みはゆっくり奈那と話したりは出来ないな。
「ごめんな奈那」
「いいよいいよ! 冷斗と冬李ちゃんがどんな内容で話すのかめちゃくちゃ気になるしねー!」
奈那の返事が返ってくると委員長がさっきよりも不思議そうな顔を浮かべ、俺を見つめていた。
「ねぇねぇさっきから言ってる奈那さんって誰なの?」
「え? 俺に取り憑いてる霊」
唐揚げを口に運び、一口噛む。
「ええ⁉ 取り憑いてるの⁉」
委員長の目が大きく見開く。
「うん。ていうか人間全員守護霊っていう存在に取り憑かれてる。俺はその守護霊みたいな存在のヤツと話せるっていうだけだ」
「へぇー!」
委員長が感心したような顔でこちらを見ている。
「じゃあさ! 奈那ちゃんが一番好きなスポーツってなに?」
「バスケ一択! 中学と高校はバスケ部だったし!」
「バスケだって」
「私も好きだよ!」
委員長が明るい笑顔で応える。
弱い風が委員長のポニーテールを揺らす。
「ねぇねぇ! 玉子焼き貰っていい?」
「うん」
委員長は嬉しそうに、弁当箱から箸を取り出し、俺の弁当にある玉子焼きを取り、口に運んだ。
「うわっ! 美味しっ! キミが作ったの⁉」
首を横に振る。
「奏が作った」
「奏ちゃんすごいね!」
委員長は玉子焼きがまだ口に入っているのがわかる喋り方だ。
「いつもここで食べてるの?」
「うん。奈那と気軽に話せるし」
目の前に委員長がいても、いつも通り奈那が俺の頭を撫でる。
「奈那―! 頭撫でるなー!」
「ええ~。別にいいじゃんー!」
俺らを見て委員長が笑う。
「奈那さんと仲いいね」
「四六時中一緒にいるわけだしな」
四六時中話されたらさすがに仲良くなる。
春の陽気が感じられる太陽が、俺らの頭を照りつける。
ガシャ
ドアが開くと、クラスの女子が三人立っている。
「あっ! いたいた冬李ちゃん! 一緒にご飯食べよ!」
「え、あ、うん! 邪魔して悪かったね。けど、とっても楽しい時間だったよ。ありがと!」
委員長は手を振った。
呼びに来た女子がドアを閉めた。
その瞬間、体に入っていた全ての力が抜けた。
「あーあ……。疲れたぁ……」
「お疲れ冷斗! よく頑張って話したじゃん!」
外からは弁当を食べ終わり、校庭で遊ぶ生徒たちの声がする。
「それにしても冬李ちゃん優しいねー」
「やっぱりみんなと仲良くしたいっていう気持ちが大きいんだろう」
それじゃないと俺なんかと話さないと思うし。
「奈那ってさ、なんで地縛霊なんだ?」
「う~ん……やっぱり一度でいいからもう一回、彼氏とか家族に会いたいっていう気持ちがあるからかな。あと、地縛霊になる人には大抵この世に未練がある人だから」
「へぇー」
確かに。奈那が言ってた理由も未練の一つか。
「ごちそうさまでしたー」
ごろんと屋上の床の上に寝転んだ。
「あったかいな~」
「わかる~。小春日和だね~」
肩にトンボが止まった。
「やっぱり冷斗って彼氏に似てるんだよねー」
「それ本当か?」
「うん! わたしもたまにこうやって屋上で寝たりしてたんだけどその時に、何にも言わずに横に座ったり、一緒に寝たりしてくれたんだよねー!」
「へぇー」
優しい彼氏だな。
「そういえばずっと聞いてなかったんだけど、彼氏の名前ってなんだ?」
「えっとね~如月悠」
奈那は空を眺めている。
「悠っていう人今は何してるんだろな」
「さあ? わたしはやっぱり結婚したかったけどね~。生きてたら」
「生きてたら」か。
奈那の言葉だから、いろいろと思っちゃうんだよな。
外を見ると、遊んでいた人たちが片づけをしている。
時計を見ると、昼休みが終わる時間だ。
「ううぅ~……そろそろ行くかぁ」
「ええぇ~サボろうよ~」
奈那が少したるんだ声で誘ってくる。
「ムリムリ。そんなことしたら奏にどれだけ怒られるか」
「確かに」
奈那が微笑する。
「ていうか奈那は授業サボったことあるのか?」
「あるよー。悠くんと一緒にねー」
彼氏をあんまり巻き込むなよ……。
小さくため息をつく。
「あの時は楽しかったなー。悠くんと一緒にご飯食べたりして」
「今は?」
「今も楽しいよ!」
奈那が笑顔で応える。
「そっか。よかった」
「まさか、心配してくれたの? ありがと冷斗―!」
「だから頭撫でるなー!」
「じゃ、今日はこれで―。委員長挨拶」
「はい! 姿勢! 起立! 礼!」
「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」
ふー! 疲れたー!
小さく背伸びをする。
「帰ったら何するー?」
「帰ったら考えるー」
周りは放課後になり、とてもうかれている様子だ。
通学カバンを肩にかけ、誰よりも早く教室を出て、生徒玄関に向かう。
着けていたイヤホンをカバンにしまい、靴箱から靴を取り出し、学校から出る。
「冷斗っていいよねー。奏ちゃんが毎日帰ったら出来立てのお菓子準備してくれてて」
「まあな」
体をぐぅーと伸ばす。
「奈那って交通事故で死んだよな?」
「そだよー。いつもは行かない道を歩いてたらねー」
奈那が死んだ事故はほとんどメディアに取り扱われなかった。ただの交通事故として世間に認識されたからだ。俺もそのことをすっかり忘れて道を通ったら、見事に取り憑かれた。
「しかしお前に取り憑かれた日は苦しかったぞ。吐き気はするし、ずっと体は重いとかで」
「ごめんってー! わたしも取り憑いた人にあんなにも悪い影響を及ぼすとは思ってなかったもんー!」
「多分普通の人なら何にも感じないと思うけどな……」
なんでよりによって、俺に取り憑くんだろうなぁ……。
頭の後ろをかき、ため息をつく。
「そういえば、もう少しでわたしの命日だね」
「忘れるわけがないだろ。ちゃんとその日は予定を立ててる」
「さすが冷斗―!」
奈那の命日には必ず、奈那の大好きなクッキーと、その時飲みたい飲み物を買う。
奈那と雑談をしていると家に着いた。
ガチャ
「「ただいまー(!)奏(ちゃん!)」」
家に帰ると、エプロン姿の奏がキッチンから出てきた。
「お帰りれいにぃ! 奈那ちゃん!」
奏が天使のような笑顔でそう言う。
奏は他の人と違い、奈那の存在を完全に信じている。
「そうそう! れいにぃレモンクッキー作ったけど食べる?」
「うん」
手と顔を洗いに洗面所に向かう。
「今日のお菓子も美味しそうだなー!」
「ほんとほんと」
洗面所から出ると、クッキーの甘いにおいが漂う。
奏が笑顔で俺たちを出迎えてくれる。
「れいにぃ! いっぱい食べてね!」
「食べる食べる」
奏が作るお菓子は一流シェフが作ったのか疑うほど美味しい。
「どう? 新作なんだけど……」
不安そうに聞いてくる。
「とっても美味しいぞー!」
奏の頭を撫でる。
「やった!」
笑顔で喜んでいる。
「そうそう、れいにぃお弁当箱出して!」
「ごめんごめん。忘れてた」
頭を何度か下げ、バックから弁当箱を取り出した。
奏はそれを受け取り、台所に行った。
それを見ながらクッキーを食べる。
「冷斗って奏ちゃん相手には笑顔になるよね。冬李ちゃんとか、わたしの前で見せないのに」
「奏は、特別だから……」
「へぇ~」
奈那がいたずらっ子のような目をする。
「お前も妹にはそうだっただろ」
「もちろん!」
奈那が自信満々気に胸をポンッと叩く。
「ほらな」
台所の奥では奏が夜ご飯用の米をといでいて、シャカシャカッという音がする。
「れいにぃ学校どうだったー?」
奏が米をとぎながら聞いてくる。
「初めて先生以外の人に話しかけられた」
「えええ⁉」
奏が釜を台所のシンクに落とした。
「奏何やってんだ」
少し呆れた声になる。
「仕方ないじゃん! どうせいつも通りの『なんもなかった』って返されると思ったもん!」
奏が台所から勢いよくこちらに出てき、机を叩いた。そのせいで、お茶が少しこぼれ、ティッシュで拭きとる。
奏の手には少しだけ米が付いている。
「れいにぃ誰に話しかけられたの⁉」
「えーと、学級委員長」
「委員長さんが⁉ れいにぃに話しかけるなんて……」
奏が聞こえないような小さな声で「信じられない……」と呟く。
「絶対今度家に連れてきてね! どんな人か見たいから!」
「はーい……」
呆れた声になる。
奏は台所に戻り、米をとぎなおす。
「奏ちゃんからすれば冷斗に彼女が出来たのと同然だからねー。ああなるのも仕方ないよ!」
「彼女じゃねぇって……」
大きなため息をつき、クッキーを食べ進める。
「そういえば奈那の妹って何歳なんだ?」
「わたしが死んだときが四歳だったから七歳だよっ!」
「へぇー」
大分歳の差あるんだな。
「また会えるかな……」
奈那が小さい声で悲しそうにつぶやく。
「ああ、きっと会える。ていうか俺が会わせてやるよ」
「やっぱり悠くんに似て優しいな冷斗はー!」
「だから頭撫でるなー!」