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ルーラーの言葉

 必死に語るエヴァの肩にジョンがそっと手を置いた。

 ルーラーは表情を少し緩めるとため息を吐く。


「はぁ・・・、そんなだから簡単に操れちゃうんだよ」

「たとえこの国が点数と波長表示を無くしたとしても君たちは変わらない」

「僕が居なくたって今の国の在り方と大差ないさ」

「だから、僕がいることでここを表向きは天国のような国にしてあげてるんだよ」

「その方が嬉しいだろう?」


 エヴァはルーラーの言葉により一層怒りをあらわにする。


「嬉しくない!」

「そんな嘘で塗り固められた世界なんて私はイヤだ!」


 彼女の言葉にルーラーは少し困ったような表情を浮かべる。


「じゃあさ、君は辛くて苦しいことがあってもいいの?」

「人間はそういうものでしょ」

「じゃあ、辛いことや苦しいことがあったらどうするの?」

「人生は辛いことや苦しいことばかりじゃない」

「生きるために一生懸命働いて、休日になれば楽しみも待ってる」

「人間だっていい人ばかりじゃないのもわかってる」

「でも、そうやって酸いも甘いも経験して年を重ねていくのよ!」


 ルーラーはやれやれと言わんばかりのポーズで彼女の言葉を聞く。


「だからさ、そんなだから簡単に操れるんだよ」

「君はちゃんと自分と向き合ったことあるの?」

「あるからこうしてあなたを破壊しようとして」

「違うだろ・・・」


 ルーラーは再び真剣な表情へ変わると、どこか威圧感させ与えてくる雰囲気を醸し出す。


「君はこの国の在り方を僕や国のトップの人間のせいにしてるだけだろ」

「だって、そのとおりじゃない!」

「嫌なら嫌でさ、この国から出ていけばいいじゃないか」

「世界は広いんだよ?」

「なんでここにこだわっているのさ?」

「それはこの国で生まれ育ったからこそ、この国の人間だという自覚もある!愛国心よ!」

「それに大切な人たちもいたからなんとかして変えたかったのよ」

「そのためならテロリストにもなると?」

「なんだってやってやるわよ!」


 エヴァはルーラーの言葉にどんどんヒートアップしていく。


「でも、もっと他にもやり方はあっただろう?」

「本当に変えたいんなら国民ひとりひとりにその想いを説いてまわればいいじゃないか?」

「個人的な活動だって次第に仲間も集まるだろうし、政治家になったっていい」

「君は最初から無理だと決めつけ、この国を破壊することしか考えてなかったんだ」


 図星のエヴァは何も言い返せず、悔しそうな表情を浮かべる。


「君は全然ダメだ。未熟すぎる」

「もうひとりの君はなんでこんなこと始めたんだ?」


 ルーラーの言葉にジョンはハッとすると、少し考えてから話し始める。


「俺も最初はこの国の在り方を聞いて『国を変えたい』と思ってたんだ」

「でもさ、その中で作戦失敗や仲間の裏切りも経験してさ、挙句の果てには指名手配からの収容所だよ」

「そんなことがあったからか、俺はもうそんなのどうでもいいと思うようにもなった」

「俺は俺らしく生きていきたい」


 ルーラーはジョンの言葉に関心を示すような表情を浮かべる。


「俺、前まではサラリーマンでさ、毎日めんどくさいと感じながらも仕事に行ってたんだ」

「人間関係も嫌いでさ、点数表示や波長表示も気になってほんとに息苦しかったよ」

「休日には遊んでストレスを発散できるからさ、めんどくさい仕事や人間関係があっても頑張れたんだよ」

「辛くて苦しいことがあっても楽しいことや幸せを感じられることがあればそれでよかったんだ」

「でも、今は違う」


 ジョンは顔を上げてルーラーを見つめた。


「今は辛いことや苦しいことがあれば、それにちゃんと気付いてどうにかしなきゃと思う」

「もう自分に嘘をついてまで仕事も人間関係も続けたくない」

「楽しいことや幸せを追い求めるのもどうでもいい」

「俺はいつも楽でいたいんだ」

「もう誰かのせいにしたくないし、何かに振り回されたくもない」

「戦いも嫌だ!」


 ジョンも精いっぱい声をあげて想いを伝えた。


「君は自分と向き合うようになったんだね」

「そうなるまでとても長い道のりだったけどな」

「自分と本当に向き合うようになれば、君はもっと楽に生きていける」


 ルーラーの意外な言葉にジョンは驚く。

 エヴァのように論破されると思っていたからだ。


「そうさ、この国にあるのはすべて幻」

「天国のように感じるのは君たちの本音を隠すためだ」

「本音が隠された君たちはもう僕の操り人形」

「幻の幸せが自分が求めている幸せだと錯覚するからね」

「それに気が付けば君みたいに抜け出すことができるのに」

「僕の支配から抜け出すにはそれしかないからね」


 その言葉にジョンとエヴァは驚きの表情を浮かべる。


「どういうこと?」

「自分が何を感じ、どう思ってるのかをしっかり知ることができれば、何かに振り回されることは無くなる」

「『嫌なら嫌』、『好きなら好き』とみんなわかっていても行動はまるで真逆のことをしている」

「嫌なのに仕事や学校へ行く。仕事に行けばお給料がもらえるし、学校へ行けば友達にも会える」

「でも、最初に『嫌だ』という思いがあるのに行動は『仕事へ行く』、『学校へいく』」

「嫌なら嫌でちゃんとその思いに対処しなきゃ」


 ジョンとエヴァはいつしかルーラーの言葉に耳を貸すようになる。


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