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点数と波長

 静かな休日の朝、カーテンの隙間から太陽光が差し込む。

 その光がベッドで寝ている男の目元を照らした。


「うん?・・・朝か・・・」


 男はベッドから体を起こすと背伸びをしながらあくびをする。


「ライト!今日の天気と気温は?」


 その言葉に反応して目覚ましの隣に置かれていた球状の物体が浮遊。

 彼の目の前まで飛んでくると、ホログラムで天気と気温が表示される。


「おはようジョン。今日の天気は『快晴』、気温は『22度』、公園にでも散歩に行ったらどうだい?」


 球状の物体はAIロボット『ライト』。

 国からひとりにつき1台支給される優れものだ。


「ジョン、少し波長が乱れているね。昨晩は飲み過ぎたんじゃないかい?」

「いいや、あれは飲み過ぎたんじゃなくてストレスを発散したんだよ」

「でも、羽目を外しすぎると点数が下がってしまうよ?」

「わかったよライト、ありがとう」


 この国では人間ひとりひとりに点数が付けられている。

 その点数は人間の「信用」を表すもので、点数が高いほどその人間の信用も高くなる。

 それぞれの点数は誰のものでも見ることができ、隠すことはできない。


「ほんとだ、波長が少し乱れてる」


 ジョンは手首に巻かれたバンドで自身の点数と波長を確かめる。

 バンドには『84.23点』と表示され、波長を表す周波数表示は前日よりも少し低く、乱れていた。

 この波長はその人の心の状態などを表したものになっていて、単純に波長が高いと「調子が良い」、波長が低いと「調子が悪い」といった具合だ。


「でも大丈夫、すぐに波長を上げるから」

「ライト!元気になる曲かけて!」


 部屋の隅に置かれたスピーカーからアップテンポな曲が流れ始める。

 ジョンは楽しそうな雰囲気で身支度を始めると、彼の波長はみるみるうちに高くなっていった。


「ほらな」


 いい気分で身支度を済ませたジョンは朝食も取らずに玄関を出る。

 彼が暮らすのは小規模ながら経済的に潤った国。

 街は大都会となっていて、高層ビルや商業施設が溢れかえり、快適性を重視したものになっている。


「ほんとだ、快晴だ」


 ジョンは空を見上げて呟く。

 今日は休日。

 これからジョンは日々の疲れを癒すためにリゾート施設へと向かう。


「おーい!ジョーン!」


 バス停の近くまで歩くとひとりの男が手を上げながら彼を呼んでいる。

 ジョンもその声に反応して手を上げた。


「早くこーい!バスが出るぞぉ!」


 それを聞いたジョンはバス停まで走る。

 息を切らせながらバス停に着くと、ベンチに飲みかけのジュースの缶が置かれているのを見つけた。

 ジョンは缶を隣のゴミ箱へ捨てるとバスへ乗り込む。


「点数稼ぎか?」


 ジョンより先にバスに乗り込んでいたスティーブンが眉毛を上下させながら聞いてくる。

 良い行いをするとバンドに表示された点数が上がるからだ。


「ゴミはゴミ箱へ。だろ?」


 当たり前のような表情を浮かべて答えるジョンにスティーブンは肩を組んでくる。


「今日は思いっきり楽しもうな」

「あぁ、しっかり楽しんで波長を上げるんだ」

「それと、イイ女の子がいたら積極的に声掛けようぜ」

「おう」


 今2人が向かっているリゾート施設は大衆向けというよりは高級な施設。

 プールはいくつもあり、サウナやスパなども完備されていて、ホテルまで併設されている。

 2人は日頃の疲れを癒すために今回のリゾート施設を選んだのだ。

 到着してバスを降りると、いかにも高級そうな玄関にドアマンが2人立っている。


「おぉ、さすが高級施設は違うぜ」


 そう感じながら2人は玄関を抜けて中へ入る。

 そこはとても広い部屋になっていて、天井は高く、たくさんのソファーとテーブルが並んでいた。


「あぁ、すげぇ・・・」


 その光景に興奮しながら2人は受付を済ませ、プールのほうへと出向く。


 そこには大きなプールと小さなプールがあり、すでにたくさんの人たちがいた。

 着替えを済ませた2人はプールサイドのベッドに寝そべる。

 すると、スティーブンはすぐに好みの女性を発見をし、「ちょっと行ってくる」と言ってその場を離れた。


 ひとりになったジョンはプールの周りを歩いて見て回ることにした。

 訪れている人たちはみんな笑顔で、その人たちの手首に巻かれたバンドを見ると波長は高く、点数も高い人ばかりだ。


 ジョンはそんな人たちを見て関心していると、バーに座っているひとりの女性が目に留まる。

 その女性は笑顔ではなく無表情で、どこか不機嫌そうにも感じた。


「こんにちは。隣いいかな?」


 ジョンが声をかけると、その女性は優しくほほえむ。

 その表情に彼は胸がドキッとするのを感じた。


「君はこんな楽しい場所でなぜか不機嫌そうだね?」

「彼氏にでもフラれた?」


 そう言いながらジョンは女性の手首のバンドを見る。

 表示されている波長はかなり低くなっていて、本当に不機嫌であることを察したジョンは少し申し訳なさそうな表情になった。


「あなたはとても楽しそうね」

「そりゃそうだよ、こんなに気持ちいい場所なんだから」

「なんでここに来たの?」

「日頃の疲れを癒すため・・・かな?」

「なんで疲れるの?」

「だって人生山あり谷ありだろ?いいこともあれば悪いこともある。だから疲れるんだよ」


 ジョンは女性に対し「なんでそんなことを聞くんだ?」という表情で見つめる。

 女性は再びほほえむと椅子から立ち上がった。


「そんな生き方いつまで続けるの?」


 そう言い残して女性はその場を去った。

 ジョンは立ち去る女性をただ黙って見つめる。


「・・・ダメダメ、せっかく楽しむためにきたんだから」

「気を取り直して楽しむか」


 ジョンはその日を思いっきり満喫した。


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