第13話 2/3
※本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズの一編です。
物語はいよいよ新たな局面へ入ります。
それまでの蝉の鳴き声がピタリとやんだ炎天の駐車場で、お互いに向き合い、曲川と周は睨み合っていた。
目には見えないが、曲川の右の手のひらには剣の柄を握る感覚があり、血筋を軸に不安定に揺れる剣身が蛇行していることに気付いていた。
まるで過去に手にしたことがあるバットを握るようにしっかりと握る。
「木之本さんに何をしたんや?言えや!」
見えない剣先を周に向ける。
「何言ってるの???あなた?曲川くん・・よね?」
いつの間にか拾い上げたリシンが残るプレートを後ろ手に、ゴム手袋の中で針先の向きを変えていた。
「なぜそんなに怒っているの?まず私に自転車をぶつけたことを、謝るべきじゃない?傷害罪よ、あなた次第では殺人未遂になる可能性もあるわ。」
殺人未遂に言葉に、更に憤怒の念が燃え上がる。
「殺そうとしたのはお前の方やろ!倒れている人に手を差し伸べようとせんと、訳の分からん正義面で見下ろしているだけはおかしいやろ!」
不安定に揺れる見えない剣先を、更に突き出す。
「正義面って、それは今のあなたでしょ?」
小さく微笑んだ周は一歩前へ出た。
「俺にはわかるんや!お前の魂が俺らの世界を壊そうとしている事を!」
「・・・・どうしたの?みんな揃って・・・異常気象の暑さで狂ってしまったの?」
曲川の額から滴り落ちた汗が頬を伝い、止まることなく地面へと落ちていく。
「お前の正義は時代錯誤や!見誤っとる!」
迷いなんてなかった。叫びは喉から突き抜けた。
「・・・・・本当に支離滅裂ね・・・。」
周は首を横に大きく振る。
「あなたたちは間違っているのよ。明治の開化も、敗戦後の復興も、先人はこの国を導こうとした。あなたたちはその正義に、敬意を払うどころか――まさに冒涜していることに、なぜ気づかないの?」
「お前が言う正義も、それ以前の先人に敬意を払っとったんか!」
負けじと曲川も、周ににじり寄る。
「間違った未来を選ぼうとする者たちを、正そうとするのは当たり前でしょう!」
更に一歩近づく。
「そうやって、己の正義を絶対的だとするために戦いを繰り返し、悪しき者と決めつけられた人々を殺し、自分たちの満足できる未来を作れたためしが今まであるのか?」
「だからまた我々が、無秩序になりつつあるこの国を正すために、現世にいるのよ!」
お互いの距離が詰まる。
「そんなありがた迷惑な善意を、俺らは望んでないんじゃ!どうせまた、善意同士がぶつかり合って、矛盾を産んで弾圧し合うくせに!おんなじことばかり繰り返すなや!」
そんなセリフにフッと笑った周の腕が、まるで舞うように弧を描く。しかし、その先にあるのは優雅さではなく、狙い澄ました一撃だった。
「あなたも、熱中症になるわよ!」
首筋を狙った一撃に、体を瞬時に反らした曲川は、何も持っていないはずの掌で宙を薙ぎ払う。その軌道はまるで、透明な刃がそこにあるかのような鋭さを帯びていた。
ゴム手袋から見えるプレートに当たる感覚がないまま、剣身が重なり通り過ぎる。
「それ!!物質は切れんで!!!!」
周が再び曲川に向き直った背後で、急速に走り来る足音と、静寂を突き破る叫びが響いた。
ハッと振り返った周は、何故か顔を強張らせ硬直したままの曲川を一瞥し、急いで車に乗り込んだ。
駆け寄る北越智は逃げるように走り出した車内に見える人物と、ナンバープレートを頭に叩き込む。
「先輩!!!曲川先輩!!大丈夫ですか!!!!」
固まったままの体を揺する。
「曲川先輩!!!こら!!!タギシミミ!!どないしたんや!!あいつは誰や!!」
更に大声で目の前に立ち、両肩を激しく揺らした。
その声に、我に返った曲川は木陰に寝かせたままの木之本へと、全力で走り出した。
「木之本さん!!!」
膝をつき、顔を覗く。
顔面がさらに蒼白になり、苦しそうな声を漏らしている。
「うわ!!!。なんでや!ヤバいんちゃう!」
追いついた北越智も慌てて、救急車を呼ぼうとスマホを手に取った。
「無理や!」
曲川は北越智を制止した。
「あれは・・・あかん・・・あれは、八岐大蛇の毒や・・・・出雲国の呪毒や。木之本さんはその毒に侵されてるんや・・。」
なすすべがなく、項垂れてしまう曲川は悔しさがこみ上げ、涙が視界を奪い始めてしまった。
「いや、だから救急車よばんと。」
「ホンマに無理やねんって!手遅れもクソもないんや・・・」
すすり泣きを始めた姿に
「は???どーゆう事っすか???てかなんで、それがわかったんっすか⁉」
北越智は苛立ちを見せながら問いかけた。
「なんかよーわからんけど、剣みたいに思えたもんが素通りした時に、記憶が一気に流れ込んで来たんや。ホンマに、よーわからんけど、そうやってゆーとるんや。」
木之本の手を両手で優しく包み込む。
「またや・・・・また、一緒におりたい人と離れやなあかんのんか・・・」
俯いた顔から涙の粒が次々に零れ落ちる。
「はぁ???」
何を言いたいのか全くわからない曲川にイライラが最高潮となり、理解しようと頭を掻く。
・・・・・・八岐大蛇・・・・・・・・・・
・・・・・・毒・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・剣・・・・・・・・・・・・・
「!!!!!!!!!!!!!」
「先輩!!!もう一回さっきの剣出して!」
何かに気付いた北越智は、大声を曲川に浴びせた。
「え???俺、ホンマに何が何かわかってないんやけど・・・。」
「ええから!先輩!」
「どないしたらええねん!」
「イメージや!自分の魂で表現するんや!」
「はぁ?」
「先輩にはもう一人の魂おるやろ!気付いてたはずや。」
「もう融合してるから、浮かぶ記憶をそのまま受け入れて、イメージしてみて。それに実態はないから目に頼らんと魂で感じて!」
「はぁ?」
「ええからって!!!!!タギシミミ!ええ加減にせぇ!」
北越智の苛立った鬼のような表情と気迫に、大きく溜息をついた曲川は目を閉じ、ゆっくりと右手を上げた。
イメージ・・・
手のひらの傷口から再び鮮血が滲みでる。
イメージ・・・・
時空が歪み、目を閉じた闇がかすむ。
思い出す・・・・・
あの頃・・・・・・
あの日・・・・・・
父である磐余彦【いわれびこ】の命【みこと】に呼び出された橿原宮で、渡された代々受け継がれてきた宝剣。
父は何も言わなかった。
出ていく私たちに最後の言葉もなかった。
いや、言えなかったのだろう・・・・
家族ではなく国を選び
愛ではなく秩序を選び
そうならなければならなかった運命に
父は己の心を閉ざさないといけなかったのだろう。
そう思いたい・・・・
そんな父が無言で手渡した剣。
それは・・・・・・・・
天羽々斬【アメノハバキリ】
遠い記憶の中、磐余彦【いわれびこ】の命【みこと】から剣を受け取る瞬間が鮮明に色を取り戻す。
「やっぱり!!そうや!行ける!」
夢を覚ますような北越智の大声に、閉じていた目をゆっくり開ける。
北越智には見えているのだろうか・・・・・曲川にはやっぱり何も見えない・・・。
だけど、剣の柄を握る感覚は確かにあった。
「先輩!それは!・・」
「わかってる。建速須佐之男【たけはやすさのお】の命から授かった剣や!八岐大蛇を浄化させた剣や!」
北越智の言葉を遮るように叫んだ曲川は、
「やから!!!!」
勢いよく木之本の胸に吸い込ませるように突き立てた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズとして連載しています。
★感想・評価・ブックマークをいただけると、とても励みになります。
また、本作の世界観をもとにしたAIドラマやイメージソングも制作しています。
ご興味のある方は、タイトル名や作者名で検索してみてください。
それでは、次回もお楽しみいただければ幸いです。




