第12話ー2/3
登場人物(※身体的性で表記)
・久米香月くめ かずき【17・男】・・・・大和まほろば高校3年2組・野球部主将
・縄手章畝なわて あきや【30・男】・・・久米香月のクラス副担任
・斎部優耳いんべ ゆさと【40・女】・・縄手章畝の婚約者
・木之本沢奈きのもと さわな【17・女】・久米香月の彼女
・葛本定茂くずもと さだしげ【17・男】・久米香月の幼馴染で野球部
・山本水癒やまもと みゆ【16・女】・野球部マネージャー
・戒外興文かいげ おきふみ【16・男】野球部2年生
・曲川勾太まがりかわ こうた【18・男】野球部3年生
★大和まほろば高校 硬式野球部メンバーは随時ご紹介予定です
・高殿持統たかどの もちすみ【15・女】・・生徒会長
・久米香織くめ かおり【47・女】・・・・久米香月の母
・葛本義乃くずもと よしの【48・女】・・葛本定茂の母
・小槻スガルおうづく すがる【31・女】・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・雲梯曽我うなて そうが【25・男】・・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・小角教授【不明】・・・・・カンダルパ産業技術総合研究所の教授
・北越智峯丸きたおち みねまる【15・男】・・・・・・・野球部1年生
・宇治頼径うじ よりみち【24・男】・・・・・・・・・・北越智のパートナー
・新口忠にのくち ただし【49・男】・・・・・・・・・・久米香月の父親
・ディアナ・カヴァース【年齢不詳・DQ】・・・・・・・・新口忠のパートナー
※感想・レビュー・ブックマーク・高評価など、何卒ご協力宜しくお願い致します。
遮光カーテンが引かれ、クーラーの効いた職員室で、ニヤニヤしながら縄手はパソコン画面に『妊娠がわかってから出産までにすべきこと』と書かれたページを、これ見よがしに映しだしていた。
「ほう、ほう。なるほど、なるほど。」
画面をスクロールさせては手を止め、文字にじっくり視線を這わせ、声に出しながら大きく頷く。
「縄手先生、ちゃんと彼女さんに確認とってからで、ええんちゃいますん?」
隣の机で、コンビニ弁当のビニールを剥がしながら後輩教師が、嬉しさに舞い上がっている縄手の姿にあきれ顔でつぶやいた。
「いやいや、こーゆうのは、家族になろーとするふたりが支え合わなあかんから、男が何も知らんってのは、ダサいやろ。」
今朝、興奮を抑えられずに優耳に聞き出そうとしたが、心地よく冷えた寝室で夢に漂う寝顔に声をかけることができず、頬に口づけだけを残し部屋を後にした。
昨夜は微妙な空気だったから、妊娠を伝えるタイミングとしてはあまり良くなかったのだろう。
今夜は空気をよどませることのないよう、笑顔でいようと縄手は誓いをたてていた。
「まだ彼女さんのご両親にも会ってないんでしょ?」
割り箸を卵焼きに突き刺しながら、後輩は縄手をチラ見した。
「せやねん・・・俺の親に会ってくれる承諾はもろとるんやけど・・・・」
腕組をした縄手は真剣な表情で後輩に向き直った。
「でもなぁ・・・・」
考えるように一度目を閉じた。
「彼女・・・実家がややこしそうで、家族の話をすると一気に機嫌が悪くなるんや・・。」
「あー、それなら別に無理強いせんでも、ええんちゃいますか?」
口の中で、卵焼きをかみ砕きながら話す。
「まあなぁー結婚は家族間やって言う人もまだおるけど、結局は個人同士やからなぁ・・・。でもなぁ・・。」
縄手は頭をかきながら、向きを戻した。
「なにがそんなに気になりますの?」
水筒からマグカップにお茶を注ぐ。
「彼女のご両親が、自分の娘の婿がどんな人か全くわからんってのは、やっぱり不安過ぎんか?」
パソコン画面の中で笑っている、幸せそうな家族の画像に、縄手は眉を下げた。
「んんん・・・・事情がよーわからんですけど、彼女さん・・・・実家とは縁切ってるってことないっすかね?」
そんな後輩のつぶやきに
「あーーーーぁ。」
縄手は何かに引っかかった気持ちになり、大きく声を出し椅子にもたれかかった。
「じゃあ、冠婚葬祭などには行かんでええってやつか?」
指を伸ばし、タッチパッドの上を意味もなく回す。
「まぁ今時は、籍は入れるけど、両家顔合わせはしないとか、結婚式なしで両家の親にも紹介はナシっていうカップルが、双方の承諾ありで増えてるんやろうと思いますけど・・・・。」
「とは言え、その後の事もいろいろありますからね・・・・『そんなんでええんか?』って、『違和感やモヤモヤ』みたいなの感じる親世代や当事者も、やっぱりいるんちゃいますかねぇ。」
後輩はシュウマイに箸を刺す。
「せやなぁー・・・・まあ正直、彼女はそう言ってても、俺自身『温かい人間関係⁈』みたいな付き合いしたいし、人としての挨拶を大切にしたいだけやねんけどなぁー。」
カーソルが幸せそうな家族の画像の上で円を描く。
「意外と先輩誠実なんですねぇー。でも、考えやなあかんのは、それだけやないじゃないですか。先生の場合、いろいろ他にもありますやん。」
笑いながらシュウマイを一口で頬張る。
「意外とってなんやねん!で、他って???」
「あーーーー。久米のことかぁー。あいつなぁーーー。」
そんな問いに今、この場で久米の事を頭に描いても、やはり性の対象にはどうしても成り得ない。
一瞬迷いそうになった時期もあったことは確かだが、考えられても兄弟のような関係性までしか想像できない。
まして、野球部の臨時監督になり、同じ時間を共有すればするほど、それまでの感情が薄まっていってしまったように思えていた。
『慣れ』なのか、そうであってほしい『期待』
なのか、自分が『傷付きたくない』だけなのか、
「あいつ最近、不安定になることもないし、野球部が調子ええし、なんか生徒会長からも頼まれごとあるみたいやし、野球引退したら受験もあるやろうし、俺の事どころじゃないんちゃうか?」
抱きしめた昇降口。
頭を撫でた教室。
背負い歩いた街角。
手を繋ぎ歩いた坂道。
拳と拳を合わせた球場。
久米の笑顔を頭の片隅に浮かべ、
「・・・・前よりはなんとも思ってないんかも知れんなぁー。」
そうつぶやいた縄手は、突然タッチパッドから指を離し、机の引き出しから目薬を取り出した。
「なるほどーー。まぁ、平穏に卒業してくれたらええですよね。」
「それな!」
マグカップに口をつける後輩に言いながら、顔を上げ目薬を注した。
「まぁ信頼関係が薄くなってしまうのは、寂しいですけどね。」
何度か瞬きをして、パソコン画面に目を移す。
「信頼なぁー・・・・。」
縄手は指で目を何度もこすり、上の空で答えた。
「大丈夫ですか?パソコンの見過ぎですよ。」
そんな縄手の姿に後輩は笑う。
「疲れてんかな????一瞬なんか、モノクロになってもーた・・。ビックリしたわ。」
縄手は再び瞬きをして、後輩に顔を向けた。
――――――――――
奈良県立大和まほろば高校。
その校門は、久米香月と縄手章畝のボーイズラブな話題でSNSなどが盛り上がりを見せ始めてから、不審者対策のためしっかりと施錠されているはずだった。
ふたりの話題は、応援する熱狂的なファンが増えるのと同時に、アンチと呼ばれる否定的な考えを持つ者も増やしていた。
今日に限り閉め忘れた校門を今、一つの影が横切った。その影は辺りを見渡すことなく、炎天の中堂々と、生徒が出入りする昇降口へと歩みを進めて行った。
昼休みと言うざわついた時間帯だけあり、複数の生徒が昇降口付近を行き来していたが、誰一人その人物を不審に感じないまま通り過ぎて行った。
その人影は昇降口にある下駄箱の前で立ち止まり、軽く曲げた指で、そこに貼られてある名前をひとりひとり確認していく。
おおよその検討がついてあったのか、短時間で目的の名前を見つけたその人影は、迷うことなくその下駄箱の中に並べられた、白いトレーニングシューズの一足を手に取った。
おもちゃ箱をひっくり返したように騒がしい校内を、木之本は山本と手分けして、野球部員のみんながしっかりと昼ごはんを食べているか、軽い声かえをしながら歩いていた。
右手には、選手の体調などを書き込んだノートと、つい先ほど生徒会長の高殿から受け取った、応援の寄せ書きがあった。
それは北越智と久米が、自販機脇のベンチで仲良さそうに話し合っている後姿を笑顔で確認してから、自教室に戻る途中だった。
色紙に書かれた
「全力で楽しんでこい!」
「悔いの残らんよう、思いっきりやってこいよ!」
「目指せ甲子園‼」
色とりどりに、イラストと共に描かれた応援メッセージを、頬を緩めて眺めながら歩いていた。
本当に偶然だった。
ふと何げなく色紙から目を離し、昇降口へ視線をやった。
そこには見覚えのある背中があり、今まさに、手にしていたトレーニングシューズを下駄箱に戻している瞬間だった。
【トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル】オリジナルイメージソングアルバムVolume1とVolume2がSpotify、Amazon music、YouTube Music、Instagram、TikTokなどで配信中です。
アーティスト名に【HIDEHIKO HANADA】入力検索で、表示されます。
ぜひ小説と共にお楽しみください。
また曲のPVなど登場人物のAI動画を
X(@hideniyan)
Instagram(@hideniyan)
Tiktok(@hidehiko hanada)
Threads(@hideniyan)
にてPV等も公開しております。
お手数ですが、検索からのぜひご覧になってください!




