第2話ー①
第3章までの登場人物(※身体的性で表記)
・久米香月【17・男】・・・・大和まほろば高校3年2組・野球部主将
・縄手章畝【30・男】・・・久米香月のクラス副担任
・斎部優耳【40・女】・・縄手章畝の婚約者
・木之本沢奈【17・女】・久米香月の彼女
・葛本定茂【17・男】・久米香月の幼馴染で野球部
・久米香織【47・女】・・・・久米香月の母
・小槻【31・女】・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・雲梯【25・男】・・・・・・・・・斎部優耳と同じ社内チーム
・北越智【15・男】・・・・・・・野球部1年生
橿原神宮前駅西出口の改札口で、手に持つスマホと、過ぎ行く人の群れを、交互に眺めながら落ち着かない様子で、木之本沢奈は久米香月を待っていた。
昨日の出来事は色々なサイトに拡散され、新たな書き込みが増え続け炎上になりかねない様子を漂わせていた。
ーーーSNSで見つけたサイト
【全世界腐女子連盟】
通称【WFF】
世界中のBLファンが集まる巨大コミュニティサイトだった。
そこには、久米と、縄手が抱き合っている動画がアップされており、すでに反響を呼んでいた。
現役の男子高校生と教師との恋愛話は鉄板ネタのように、多種多様な言語のレスで盛り上がりを見せ始めていた。
個人名や高校名の書き込みはまだないが、時間の問題であろう。
当事者たちを置き去りに勝手に盛り上がる外野のコメントに、苛立ちを隠せない木之本は、昨日から引きずる気まずさを、愚痴り合う事で盛り上がって修復できるんじゃないかと思っていた。
通勤ラッシュの人波に隠れるように、改札口を抜けた久米は、昨日と同じように野球帽を深く被り、目立たないよう通路の隅を選ぶように歩いてきた。
「香月!おはようさん!」
木之本が駆け寄るが、俯きイヤフォンで両耳をふさいだ久米は、気づかないまま歩き続ける。
ーーーー【俺のことが好きなんだって?俺も久米のことが好きやで!マジで】
ーーーー【俺は最後の最後の一人になっても久米を守り抜くからな‼】
自分を抱きしめながら、叫んだ縄手の姿が脳裏にリフレインする。
幾度も繰り返す縄手の姿と、学校に近づく距離に合わせ、久米は自分の気持ちを伝えたい思いが強くなっていった。
『今日も話せるかな』
『今日も抱きしめてくれるかな』
『今日も頭を撫でてくれるかな』
欲求は強くなるばかりで、自己を保つ軸がずれ始める。
「言わな。」
先生に俺の気持ちを伝えたい。
ーー 伝えなきゃいけない。
芽生え始めた衝動は加速し始める。
「俺も久米のこと好きやで!」
「俺も先生のこと大好きです!」
言わなあかん!
きっと、きっときっと分かり合えるはず。
受け止めてくれるはず!
消えないリフレインに、残像なのかリアルなのか、久米の目の前に、縄手の姿がたたずんでいるように思えていた。
ーーーーーーーー「いやいや。ちゃうやろ。冷静になれや。」
ボヤっとした世界の中
ーーーーーーーー「先生に迷惑をかけるだけやって気付けや。」
自問自答が始まる。
「それでも、俺は先生が好きなんや・・・・」
ーーーーーーーー「あの言葉は、本心なんかとちゃうって、なに真剣に受け止めとんねん。」
「そうやとしても、もうこの気持ちは止められへんねんって。」
ーーーーーーーー「嫌われる可能性だってあるんやで。」
「もうみんなにバレてもーてるやん。すべて失ってもええし!この気持ち、伝えるんやって。」
ーーーーーーーー「実際、無謀やで。」
「アカンかもしれん。きっと無理やと思う。せやけど、伝えるだけ伝えるんや。」
ーーーーーーーー「また・・・不幸になってまうな。」
・
・
・
ふいに腕を掴まれる。ぼやけいた景色がグルッと一回転した。
我に返った久米は、掴まれた腕の方を見た。
木之本が口を動かし、何かを言っている。
慌ててヘッドフォンを軽く一回叩き、音楽を止めた。
「あ・・・・おはよう。」
小さくつぶやく久米に
「香月っ!ホンマに大丈夫?しっかりしてや!」
そのまま久米を引っ張り寄せるように腕を絡ませた木之本は、少し睨んだ。
大きくため息をついた久米は、両目を強くこすり、瞬きを何度かさせて、今いる場所を確認するように辺りを見渡した。
「ごめん、考え事してた。」
木之本にちらっと目をやり、俯いたまま歩き出した。
昨日に続き、元気がなさそうに見えた久米に木之本は話しかけた。
「縄手ってやっぱ、頭おかしいって!あんなみんなの前で香月を抱きしめるなんて!セクハラやでガチで!」
口元を歪ませながら続ける
「あいつこそゲイちゃうの?」
挨拶をしてから、一向にこちらに視線を移してくれない久米の肘を軽くゆすり同意を求めるが、久米は深く被った野球帽で目元を隠し歩き続けていた。
「なあ!香月!もうあんな奴と関わるのやめや!」
心を閉ざしたように、反応がない久米に不安が積もり始めた木之本は、ネットの話ができないまま、なんとか自分に心を向かせようと、思いつくままの言葉を投げかけ続けた。
「明日からテストやし、今日は一緒に勉強しょう!全然進んでへんねんやろ?」
歩きなれた街の風景に背中を押されるように、自分の気持ちを早く伝えたい思いが加速していく久米には、肘に伝わっているはずである木之本の腕のぬくもりは、忘却の彼方へ追いやってしまった過去のように無いものとなっていた。
「夏の大会もすぐやし、ガチで忙しいけど、一緒に頑張ろうや!」
不安に押しつぶされそうになりながら、精一杯の作り笑顔で久米を覗くが、無反応のままいつの間にか学校下の坂道に差し掛かっていた。
どうしても、反応が欲しい木之本は
「ホントに縄手はキモイねん‼」
「ガチキモイ‼ キモ過ぎっやって‼」
久米の横顔を見ながら、縄手を罵倒した。
一瞬歩みを止めた久米は、「キモイ」という言葉に、自分の胸がナイフで貫かれた気持ちになった。
怒鳴り返したい思いを無言にして木之本を睨みつけ、そして突き放すように歩調を速めた。
その視線に言ったらいけないことを言ってしまった感覚に陥り、体が固まってしまった木之本は、腕がほどかれる様をスローモーションのように目の中に写し取っていた。
葛本君の口癖である「おとろしい」は、奈良県の方言で「めんどくさい」「鬱陶しい」を意味します。
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本作は『トゥルーカラーズ=僕らの家族スタイル』シリーズとして連載しています。
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