プロローグ
燃え盛る城。戦火が外壁に2つの影を映し出す。1つは大陸にその名を轟かす魔族の王、グラン-ユグドラシル。そして、その傍らには妃のエミリアが静かに立たずんでいた。
「とうとう終わるのですね、貴方の時代が。」
そう言ってエミリアは、どこか安心めいた表情を浮かべた。
「天下取りの最期がこれでは兵に笑われてしまうな。だが、悪くはない生涯であった。」
2人は互いに見つめ合い、笑みを交わした。
「しかし、気がかりなのは…」
「この子達の事ですね?」
「ああ…。我が城の陥落によって魔族と人間との間により一層確執が生まれるだろう。そうなれば当然、我が娘達も苦しい生活を余儀なくされる。我はそれが心配でならんのだ。」
グランは足元に目を落とす。そこには生まれて間もない2人の赤ん坊の姿があった。
「そうですね。だから私達がこの子達にしてあげられる…最大限の事を…。」
「その通りだ。2人とも、最期まで不甲斐ない両親ですまなかった…。お前達だけが…魔族と人間との架け橋に…な…ーー。」
バタン
その場に倒れ込んでしまったグランの胸元の大きな傷口から大量の血が流れている。喋ることもままならない様子だ。それでも彼は最後の力を振り絞り、小さな魔法陣を足元に発現させる。瞬間、2人の赤ん坊は一筋の光となり空に舞い上がり何処かに消えていった。
後に残ったのは魔王の亡骸と、それを抱き抱える妃の姿のみ。そしてその姿さえも、崩壊する城の瓦礫に埋もれていったーーーー
ボフッ!
腹上への激痛により目が覚める。
「ぐへぇっ!?」
我ながら情けない声で朝を迎えてしまった。寝ぼけ眼で目を擦ると、俺の腹上に1人の少女が跨っていた。ロングの銀髪に赤い瞳。
「なんだ、アカツキか。早朝から父親にマウンティングとる娘なんて聞いたことないぞ…。」
アカツキはムッとして、こう言った。
「何回呼んでもパパが起きてこないのがわるいの!もう朝ご飯できてるよ!早く来ないとパパの分まで私が食べちゃうから!」
「それは困るなぁ。」
アカツキに手を引かれながら階段を降りると、だんだんとパンやコーヒーの良い匂いがしてきた。
「パパ。おはようございます。」
そう言いながらエプロン姿でサラダを盛り付けているのは、ショートの銀髪に青の瞳、アカツキの姉妹のトワだ。
「ああ、おはようトワ。今日も朝ご飯作ってくれたのかぁ。偉いな!」
頭を撫でてやると、トワは遠慮気味に微笑んだ。
「そんな…当たり前の事ですよ。家族ですから。」
するとアカツキが不服そうな目でこちらを見て言った。
「わ、私だってトワのお手伝いしたわよ!……少しだけ….。」
目が泳ぎまくっているが、これも娘の成長。と割り切り、
「そうか、そうか。アカツキも頑張ったな。」
と頭を撫でてやる。満面の笑みを浮かべ、とても嬉しそうだ。
そんなこんなで朝食の準備が整い、席につき3人で手を合わせる。
『いただきます。』
今日もいつもと変わらない日常が廻りまじめる。
何故俺が2人の子供達とこんな生活をしているのかというと、話しは12年前まで遡る