表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詩詠み騎士の夢想曲《トロイメライ》  作者: 小日向 ななつ
第1章 夢へと駆ける序曲《ウヴェルテュール》
8/34

8、異例づくしのお祭り

◆◆◆◆◆


 雲一つない青く染まった空が広がっている。ノアはその景色を見て、やれやれと頭を振っていた。

 護衛ゴーレムに殴り飛ばされたノアは、自分がいたテラスに目を向ける。普通なら落ちてしまってはひとたまりもない高さ。しかしノアは、ケガどころかかすり傷一つすらついていない状態だった。


「全く、派手にやられたもんだ。僕じゃなかったら死んでたよ」


 ノアはそう呟き、転がっているガラクタに目を向ける。先ほどまで一緒に王女を守ろうとしていた物体は、見るも無惨な姿へ変わっていた。もはや石ころと表現できるそれは、かつての姿を想像できない代物になっている。

 ノアは大きく息を吐き出し、疲れたように肩を落とした。これから起きることと、しなければならないことを考えて億劫に感じたのだ。


「これだと団長が目をつけそうだな。ま、頑張るとしますか」


 ノアは今後のことを考えつつ、テラスのほうに視線を向けた。そこには何が起きたかわからず、今も抱きしめあっているフィリスとアイリス王女の姿がある。フィリスはとても怖かったのか、アイリス王女に抱きついたまま情けなく泣いている姿があった。

 想定外のことだから仕方ない、とノアは苦笑いを浮かべつつ視線を大通りの方へ向ける。するとそこでは大きな喝采が起きていた。


 観衆の称賛を受けている者達がいる。一人は黒髪で、身体はよく鍛えられている立派な体格を持つ少年。もう一人は赤髪で、線が細くとても軟そうな少年だ。

 おそらく二人がこの事件から王女達を救ったのだろう。ノアがそう推察していたその時、聞き慣れた声が耳に入ってきた。


「大したもんだな。まさかあのゴーレムを破壊するとは」


 声を聞き、ノアが振り返るとそこには一人の男が立っていた。

 オールバックにされたブラウンの髪に彫りが深い顔つき、ノアとは違う鋭さを持つ目は強者の証でもある。新品同様の輝きを放つ黒いスーツに身を包んだ男は、ノアに豪快な笑いを放っていた。


「確かに大したものですね。あの距離からよく狙い撃ちできたものです」

「なんでも射的屋にあった弓矢でやったそうだ。いやー、あれはすごかったな。我が騎士団に二人をスカウトしたいもんだ」

「どうしてそんなことを知っているんですか?」

「ガッハッハッ! しっかりあの子達の活躍を見ていたからだ!」


 ノアは呆れて物が言えなくなった。そんな余裕があるなら急いで現場に来たほうがよかったのに、と。しかし、男はノアのことを気にすることなく笑う。

 そんな男の様子にノアはもう一度ため息を吐いた。いくら最強の騎士団長とはいえ、これでは緊張感がなさすぎるとノアは感じた。


「ジャクシオ団長、私が物申すのは失礼かと思いますがいつか足元をすくわれますよ」

「ガッハッハッ、お前じゃなければ大丈夫さ!」

「それで大切な姪を失ったら仕方ないかと思いますが?」

「大丈夫だ。そんな軟な鍛え方はしておらん!」


 騎士団長ジャクシオの言葉に、ノアは肩を竦める。何を言っても無駄だ、と諦めているとジャクシオが唐突に真剣な眼差しをノアに向けた。

 その目を見たノアに、一気に緊張感が走る。そしてジャクシオは転がっていたガラクタの一部を手に取り、ノアにあることを訪ねた。


「コアが赤く輝いているな。ノア、ゴーレムのシステムチェックはしたか?」

「ええ、ちゃんとしましたよ。他の騎士にもチェックしてもらいました」

「あいつらにはわからんだろ。俺もわからんが」

「複雑な術式が組まれていますからね。何にしても、自信を持っていえます。異常はありませんでした」


 ノアの言葉に、ジャクシオは顔をしかめさせた。ゴーレムに異常はなかったのならば、なぜ暴走したのか。システム上の不備があったのか、それともノアでも発見できない重大なバグがあったのか。どちらにしてもジャクシオでは検証しようがない。


「単なる事故、と片付けたいところだがそうもいかんな」

「王女が狙われましたからね。今は容易く外部から人が入ってこれる状況でもありますし」

「警備と護衛を強化せんとならんな。人員の増強はできるか?」

「もう手一杯です。これ以上はしたくでもできませんよ」


「そうか。なら話は決まりだな」


 ジャクシオの言葉に、ノアは引っかかった。

 一体何が決まりなのか、と問いかけようとした瞬間にノアは気づいてしまう。


「まさか、団長。学生をスカウトする気ですか?」

「そのまさかさ。目ぼしい者はいるし、ちょうどいいヒーローもいるしな」


 呆気にとられているノア。ジャクシオはそんなノアの顔を見て、悪ガキのような笑顔を浮かべた。


 そう、この祭りでは異例なことが起きる。

 様々な事情のために、大鴉の騎士団レイヴン・ナイツが学生をスカウトするという異例なことが――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ