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詩詠み騎士の夢想曲《トロイメライ》  作者: 小日向 ななつ
第1章 夢へと駆ける序曲《ウヴェルテュール》
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2、ちょっと口うるさい女の子

◆◆◆◆◆


 王城が一望できる大通り。そこは祝祭ということもあってか、多種多様の人々で溢れかえっていた。肌の色が濃く黒い者や反対に白く薄い者、この国にとっては珍しい亜麻色の髪をした美人もいれば小柄ながらもガタイのいい中年男性など、表現するには億劫となる数だ。

 当然、トラブルも千差万別になり、あまりの数に対応する騎士の数は足りていない。


「お前が先にぶつかってきたんだ!」

「いいや違う。お前だ! お前がぶつかってきたんだ」

「どっちでもいいから弁償してよ。結婚指輪をなくしたって旦那にバレたら困るんだけど」

「すみません、順番にお伺いしますから一旦落ち着いて――」


 二人の男性の言い合い。その間に挟まれる女性は呆れたような表情を浮かべつつ、結論を急かすように議論を進ませようとする。そんな茶々があるためか言い争っている男性二人は苛立ちを浮かべていた。

 そんな三人を取り持つ少女がいる。肩にかかるほどの長さがある銀髪は雪のように美しく、身体は白いブレザーに赤いリボンと藍色のスカートに包まれており、その腕には【騎士見習い】という腕章があった。

 銀髪の少女は懸命に笑顔を取り繕い、話を整理しようとする。しかし、そんな銀髪の少女の苦労の甲斐もなく、男性二人はケンカ腰になっていった。


「だーかーらー! 俺は悪くねぇ!」

「うっせぇっ! だったら俺も悪くねぇよ!」

「どっちでもいいから弁償してよ。というか叫ばないでくれない?」


 銀髪の少女は苦々しい笑みを零し、思わず手を上げて降参のポーズを取ろうした。

 もはや自分だけでは対応できる範疇ではない。銀髪の少女がそう思っていると、後ろから真面目ながらも気の抜けた声が放たれた。


「盛り上がっているな」


 銀髪の少女は反射的に振り返る。そこには同じ騎士見習いのヴァンの姿があった。

 若干ながら助かった、と安堵しつつ銀髪の少女は何気に視線を落とす。するとヴァンの後ろに隠れているクロノの姿を発見した。


「た、ただいまぁー……」


 銀髪の少女はクロノの姿を見た途端、眉をつり上げ睨んだ。クロノは思わず小さな声で悲鳴を上げると、銀髪の少女は男性達に「ちょっと失礼しますー」と声をかけた。

 チラリとヴァンに目配せすると、やれやれと肩を竦まされる。ヴァンはそのまま銀髪の少女と入れ替わるように男性達の前に立ち、声をかけて話を進め始めた。

 銀髪の少女はその光景を確認すると、そのままクロノの耳を掴み引っ張ってその場から離れた。


「いだだだだっ!」


 クロノは痛みに悶えていると、そのまま銀髪の少女に建物の影へと連れていかれる。裏路地に入った銀髪の少女は誰もいないことを確認し、悶え苦しんでいるクロノを解放した。


「いってぇー。何するんだよ、フィリス!」

「何するんだよ? それはこっちのセリフよ、クロノ!」


 クロノは目に涙を浮かべ耳を抑えながら訴えるように叫ぶと、フィリスと呼ばれた銀髪の少女は怒りを込めて叫んだ。

 孤軍奮闘、といえばいいだろうか。ずっと一人でトラブル対応としていたということもあり、フィリスはストレスが溜まりに溜まっていた。


「私はずっとどうしようもない言い争いに付き合わされていたのよ! なのにアンタは何? 何してたの? どうせどこかでサボって遊んでいたんでしょ? そうなんでしょ、クロノ!」

「ち、違うっ。僕は、その、町中をパトロールして……」

「いいわね。私も出店で遊びたかったわ。どうせクロノはリンゴ飴でも頬張って遊んでいたんでしょ?」


 うろたえるクロノにフィリスはジトッとした目で見つめる。そんな姿を見てクロノは慌てながらも必死に否定した。


「違うって言ってるだろ! 僕はちゃんとパトロールしてたんだって」

「ふーん、そうなんだ。私を放っておいて、一人で出店周り。いいないいなぁー、私も遊びたかったかなぁー」


 ブーブーと文句を言うフィリスに、クロノは否定するのが面倒臭くなった。このままストレス発散のためにフィリスに付き合っていたらかなり時間の無駄になる。

 そう思い、クロノは仕方なくあるものをポーチから取り出した。


「わかったよ、これあげるから許してくれよ」


 それは射的屋でたまたま撃ち落としたウサギのぬいぐるみだ。クロノはそれをぶっきらぼうに渡すと、フィリスは途端に静かになった。

 プレゼント作戦は成功かな、と感じたクロノはフィリスの顔を見る。するとフィリスはとびきり素敵な笑顔を浮かべていた。


「かわいい~。このウサギちゃん、かわいいじゃないっ」

「でしょでしょ? パトロールの途中で見つけたんだよ」

「ふ~ん。ねぇ、クロノ。このウサギちゃん、どこで買えるかな?」

「ああ、たぶんそれは一つしかないよ。だってそれは――」


 クロノはハッ、と息を飲んだ。クロノは言いかけた言葉を慌てて飲み込むが、フィリスは笑ったままクロノを見つめている。


「どうして一つしかないのかな、クロノォー?」


 しまった、とクロノは顔を歪める。フィリスに詰め寄られ、思わず後ずさりするが冷たい何かが背中に当たった。

 振り返るとそこには、レンガで作られた壁がある。


「私に隠れて遊んでたわね、クロノォォォォォ!」


 クロノは語るに落ちた。

 飛びかかるフィリスにクロノは情けない悲鳴を上げる。


「た、助けてぇぇぇぇぇ!!!」


 逃げるクロノに、追うフィリス。それは傍から見ると仲睦まじくじゃれ合っているように見えた。


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