1.両親と妹から疎まれ、差別されています
1.両親と妹から疎まれる私
私には義理の妹がいる。
私は前妻の娘で、後妻の子である義妹に、両親の愛情は向いていた。
愛情を妹が独占している理由は、私が前妻の子だから、というだけではない。
妹は強い魔力を有しており、一方の私にはそういった力は全くなかった。
この魔力を有しているかいないか、それがこの国では……。
特に貴族社会では非常に重要になる。
なぜならば、
「ふ、本当に美しいな。マイナは。俺が愛するのは永遠にお前だけだ」
「まぁ、よしてくださいませ。お義姉様が見ていらっしゃいますわ、うふふふ」
そんな会話が目前でなされる。
いちおう、私に配慮しているような言葉を妹は口にするが、その目に映っているのは、私への侮蔑、差別意識、憐れみだ。
配慮を口にするのは馬鹿にするのが半分、そして、こうして自分の番となる美しい男性を見せつけて悦に浸るためでもあるだろう。
その証拠に、私が場所を移動しても、わざわざそれを見せつける場所まできて、こうしてイチャつき出すのだから。
抗議をしても効果はない。
いや、むしろ私が叱責を受けるだろう。なぜならば、
「なんだ、いたのか? マイナとの逢瀬の邪魔だからどこかに行ってくれないか」
妹にかけた言葉とは真反対と言って良い、絶対零度とも言えるほどの声音で、私に声をかけた。
その男性は人間ではない。
吸血鬼。
古より、この世界には人間以外の幻想種と呼ばれる種族がいる。その中でも高位種族として、吸血鬼が存在した。
古くは日光などに弱かった種族だが、今はもう違う。
それはなぜかと言えば、
「マイナほど美しく、そして強い魔力を持つ女性と番になれれば、また吸血鬼種族は強く、弱点も克服できる。ああ、愛しているよ、マイナ」
「当然ですわ。私は魔力を持たないどこかの能無しさんとは違いますから♪」
口元を歪めながら、妹が言う。
私は思わずグッと拳を握りしめ、悔しさをかみ殺す。
そう。この世界では幻想種が存在する。その幻想種は超常的な力や怪力、異能を持ち、この世界を裏から操っている。
しかし、そんな彼らと人間はうまく共生をしていた。
その理由と言うのが、さきほどの番になる、という言葉にあらわれている。
幻想種は古より存在すると同時に、様々な弱点を持っていた。例えば吸血鬼ならば、日光に弱かったりした。しかし、現在の吸血鬼はそういった弱点はほとんど無い。多少、立ち眩みがする程度だ。
それは、細かい理由は分からないのだが、魔力の高い人間と混血していくことで、弱点が克服され、また種としての力や異能も強化されて行くかららしい。
そう言うわけで、人間は彼らと共生……というか、庇護されているわけだ。
魔力の高い血統は貴族として遇され、私たち一族、モンタギュー公爵家のように爵位が与えられることになる。これはいわばこれまで幻想種の発展にどれだけ貢献したかを表す尺度のようなものだ。
ゆえに、そうした貴族の生まれにおいて期待されるのは、当然魔力の高い人間であり、普通は多かれ少なかれ、魔力を持って生まれる。
でも、なぜか私は魔力が一切なく生まれてしまったのだ。
そうなれば、どういった扱いになるかは想像に難くない。
まず私の様な無能を生んだ事実を消し去るために、父親は私を殺すかどうか真剣に議論したらしい。実の母が守ってくれたらしいが、元々体の弱い人だったために、既に他界している。
後妻はすぐに迎えられた。当然だ。私が無能なのだから、絶対に有力な子供を誕生させる必要があったのだから。
そして、見事、義妹のマイナはその期待に応えたわけだ。成績も優秀で、容姿も可愛くて端麗。そんなマイナを見初め、番にしようとしたのは、幻想種の中でも高位種たる吸血鬼のドナだった。
もうこうなっては、私の居場所など家にあるはずもない。
両親、妹、そして吸血鬼のドナからも日々罵倒され、侮られ、自分の居場所なんてないというのが私の日常なのだった。
だから、そんな私に、久々に父親から声を掛けられた時は驚いた。
何事かと書斎に赴くと、
「セシリア、お前は家の恥だ。さっさと出て行ってもらおう。だが、安心しろ。儂の方で夫の方は決めておいた。せいぜい、さっさと死んで、我が一族の恥をこれ以上、上塗りしないようにして欲しいものだな」
そう言い捨てられたのである。
普通、貴族の家督というのは長男か長女が継ぐ。
でも、
「公爵家はマイナが継ぐ。反論など無論なかろうな? そもそも、お前のような子供を産んでしまったことが、失敗だった。魔力もない無能な長女などな。死んでくれたほうがマシなところを、ここまで育ててきてやったのだ。感謝こそすれ、まさか我が公爵家を継げるなどとは思ってはおるまい?」
「で、ですが、公爵家は長女が継ぐものと……」
「ははははははは!!!」
突然、父の書斎に笑い声が響いた。
蝙蝠が舞い、一人の美男子へと変貌していく。
紅の瞳に艶やかな黒髪。ほっそりとした長身と真っ白な肌。その美貌は扇情的とも言える。吸血鬼ドナであった。
そして、彼が手を、まるで何かをつかむように動かすと、私の首が思いっきり締まるのを感じた。そして、そのまま、宙づりにされる。
(く、苦しいっ!)
「お前などがこの公爵家を継げる訳がないだろう、無能のセシリア。それは俺のマイナへの侮辱にも等しい。この家はマイナのものだ、それを横取りしようとするとは、貴様、死にたいのか?」
更に首が締まる。私はあえぎながら何とか声を絞り出した。
「で、でも、そんな急に出て行けなんて……。私はここにいることすら許してもらえないの?」
確かに私は無能だ。
魔力もなく、貴族として失格。
迷惑な存在かもしれない。
だが、曲がりなりにも家族なのよ……?
殺したいほど、追い出したいほど恨まれるようなことをした覚えもないのに……。
だが、そんな切実な願いを打ち砕くように、父は言った。
「残念だがセシリア。お前の姿が目に入るだけで、不快なのだよ。だから早く出て行ってもらいたいと前々から思っていたのだ。だが、お前が魔力なしの無能のせいで、なかなか嫁ぎ先が決まらなかった。そんな風に悩んでいる矢先、お前のぴったりの嫁ぎ先が見つかってな」
ドサリ、と地面に落とされた。
「ぴ、ぴったり? げほげほ」
そう言えば、まだ嫁ぎ先がどこなのかを具体的に聞けていなかった。
「くっくっくっく、笑えるぞ。相手はあの人間を食べるのが大好きなレッドドラゴンの爺さんなんだからな」
はーっはっはっはっはっは!
吸血鬼の嬌声が響いた。
と、同時に、『さっさと死んでほしい』という、父の言葉を思い出していた。
レッドドラゴン。
地上で最強の幻想種と呼ばれる存在。
だが、最強であるがゆえに、番を必要とせず、何万年と生き続ける老人。
そして、噂によれば、その何万年と生きることへの『飽き』から、人間を喰らうことを喜びとする『狂える幻想種』とも呼ばれていた。
そこに嫁ぐというのは、すなわち、死を意味する。
でも、私には他に行き場所などない。
何より、嫁ぐことが決まった後に、それを私の意思だけで反故にすれば、どれほどの怒りを公爵家だけでなく、人間種族全体に及ぼすか分からない。それほどの存在なのだ。
いわば私は人身御供。
生贄というわけだ。
「それでも、本当の親…‥なの?」
私は絶望に苛まれながらも、なんとかそれだけを言うが、
「いいや? お前の親であるなどと、一日たりとも思ったことは無い」
そう傲慢に、そして嘲笑を浮かべながら、父ははっきりと言ったのだった。
「せいぜい、1日でも長く生き延びることだ。だが、レッドドラゴンのキース様は残酷な性格らしい。お前のような無能は一日と保つまい」
私はその時、はっきりと自分が本当に誰からも愛されない、孤独な存在だったのだと、思い知らされたのだった。
新作を始めました。ぜひ1話だけでもお読みくださいm(_ _"m)
「二度目の悪役令嬢は、変わらず悪役令嬢のまま自由気ままに生きさせて(蹂躙させて)頂きますね(笑)」
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