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エルの章 同種

「生き返るーカエルだけに生き返るー」


ワニの魔物を倒した僕達は、その水辺で一夜を明かす事に決めた。


「なんなのです。その下らないオヤジギャグは」


水辺に浸かって、なんとなく気分が良くなって歌っていると、枯れ木を集めていたリーノに冷たい目で見られた。


「きゃー! リーノさんのエッチー!」


なんか悔しいから、そう言って胸を隠すように身体をくねらせて言ってみる。


「何故だかよくわからないけど、物凄くイラッとするのです」


「え? エルさんって服の概念とか無いよね? 今更何を恥ずかしがってるの?」


同じように枯れ木を抱えた凛がリーノの隣に現れて、呆れたような目を向けていた。


……鉄板ギャグが通用しない。流石異世界。

ちょっと泣きたい。


「と言うかエルさんも手伝ってよー! 暗くなるよー!」


リーノと凛が集めた枯れ木に火を灯し、蒼は道中で倒した魔物や、さっきのワニの魔物の素材を仕分けしながら

何かを作っている。


「いやぁ、なんか水の中の方が落ち着いて……それに、焚き木は一応集めるの手伝ったし」


水中から舌を伸ばして適当に拾うとか言う、ちょっとずるい方法を使ったけど。


悲しきカエルの性か。それとも僕の想像通り、身体が熱を持っていたのが疲れの原因だったのか。


水の中にいると、妙に落ち着いて、体力の回復も実感出来る。


「ところでエル様は何を食料とするのでしょう? 私達は先程倒した魔物の肉を夕食にするつもりですが……」


…………そう言えば考えてなかった。


「う、うーん……人間の頃は普通になんでも食べてたし、カエルになってからは昆虫とか食べてたけど……この身体だと何を食べたら良いんだろう……」


「私が集めた植物の素材の中に猛毒の植物がありますけど、それで良ければ食べますか?」


何故か天使のような笑みでとんでもない提案をしてくるリーノ。


「リーノ、ナチュラルに僕の事殺そうとしてない!?」


「いえいえ。運が良ければ毒属性が付与されるとかあるかも知れないのですよ? エルさん、すばしっこいのと弱い魔物相手ならその長い舌で動きを封じる事は出来ても、攻撃らしい攻撃出来ないみたいですし」


……いや、その通りだけど、運が悪ければ普通に死ぬから。


「そう言う博打は打たない主義ですからっ」


何故かそう言うとリーノは小さく舌打ち。

……ちょっとさっきから酷すぎる。泣くよ?


「本来なら今頃は街に戻っている予定だったのです。野宿する羽目になってしまった私達への誠意を少しは見せるべきなのです」


「わ、ワニと戦った時僕だって結構頑張ったと思うんだけどっ!」


「あ、そう言えば最初に出会った時に見せた動きよりは確かにワニの魔物と戦った時の方が動き鈍かったよね。今はどんな感じなの?」


僕の反論に、凛は少し僕の身体能力に興味があると言うような反応。


……よし、なんだか色々と汚名を被されて来たし、ここは汚名返上のチャンスかも知れない。


「ようしっ! 伊達にカエルやってないから、見て驚けっ!」


立ち上がり、思い切りジャンプしてみる。


「……え、いや。ちょっとこれ怖っ!」


自分で想像してたよりも高く跳ねる事が出来て、驚いた。

少し怖いけれど、この高さなら周囲を一望出来る。


「リーノ達が言う街っていうのは、あの光の事かな」


ここからはかなり遠く。小さな光の集合体のようなモノを視認出来る。


「エル様、ついでですので大きな魔物の存在を視認出来たら教えて下さい!」


下の方から、クランさんの声。


確かに、寝込みを襲われるなんて事があったら困る。

キョロキョロと周囲を見渡すと、大きな巨体の魔物が数体視認出来た。


ここからはそれなりに離れているから、襲ってくる事は無さそうだけど、地上に降りたら一応言っておこう。


「……っと。目に見えるような大きな魔物は近くには五体。だけど僕達の存在に気付いてるような様子は無かったよ」


重力に任せて下りるより、適当な木に舌を巻きつけて、その舌を戻すようにして地上に戻った方が早い。


そうやって地に降り立つと、視認出来た魔物の数を伝える。


「凛ちゃん、端末で確認出来る距離には居ます?」


「黄色が二つ。確かに私達が居る所からは少し離れてるかな。……と言うかエルさん本気出すとあんなに高く跳べるの!? ちょっと見直しちゃった!」


よし。汚名返上は上手く行ったらしい。

こっそりガッツポーズを取る。


「五体。そのうち二体が近くに存在していると……その、エル様は投げナイフや弓のような飛び道具を扱えたりは……」


「申し訳無さすぎるけど、そもそも僕はカエルの身体能力持っただけの一般人みたいなモノだから……」


クランさんの言葉に、フルフルと首を振る。


「そうですか。リーノ様、先程エル様が飛んだ距離から毒矢で彼らを射る事は可能でしょうか」


「やっぱり私にお鉢が回るのですね。……あの高さから見ての巨体ってなると、毒の量を増やす必要があるので少し時間を貰いたいのです」


言いながら、リーノはさっき僕に食べさせようとした草や他の植物を取り出して

鉢のようなモノに入れてすり潰し始めた。


毒の調合だろうか……。


「料理は私が作っておきましょう。凛様はそのまま端末を見て、もしも近付いてくるようでしたら声をかけていただけると」


「私は引き続きで、ワニの素材でエルさんの服とかナイフ作ってるねっ。んー、見た目も街に戻ったときエルさんを見て変な騒ぎが起きないようにだと、フード付きのロングコートみたいな感じにするのが良いかな」


「それじゃ僕は体力温存する為にまた水の中で……」


「寝床くらい作って置いて欲しいのですが。エルさんは水の中で寝て、そのまま溺れたとしても構いませんが、私達は人間ですので。流石に土の上で寝るのは少しイヤなのです」


サボろうとしているのはお見通しとばかりに、僕にも仕事が与えられてしまう。


……寝床と言われても、サバイバル系のゲームだと干し草とか集めてベッドみたいなのを作るくらいの知識しか無いけど


とりあえずお粗末な出来でも、この世界知らないって言い訳は出来るし、ここは素直に言う事を聞いておくべきだと判断。


……変にサボってリーノに毒を盛られても困るし。


「はいはい……満足出来るような寝床を作れる自信はないけど、リーノ様の為なら頑張りますー」


少し皮肉を込めて言ってみる。


「毒矢の前に試し打ちしておくべきですかね。丁度いい的になりそうなカエル居ますし」


「すみません。ちょっと体力戻って調子に乗ってしまっただけです。勘弁して下さい」


リーノなら本気でやって来そうなので、素直に土下座。

生きるためにプライドなんて必要ないんです。良いんです。


……そんな言い合いをしていると一羽の鳥が僕達の方に向かって来るのが見えた。


「あれ? リーノ、あれも魔物?」


鳩かカラスくらいの大きさ。あの程度なら僕の舌を使えば簡単に絞め殺す事も出来る。


もしも魔物なら、先に倒した方が良いかも知れない。


そう思い、立ち上がった僕の指を指した方向を見て、リーノは小さく首を振った。


「いえ、白さんの使い魔なのです。人間に害を及ぼすような存在ではありませんし、この時間になっても帰ってこない私達を心配して飛ばしたのでしょう」


白。確か、蒼の姉であり、クランさんが仕えている人。


リーノの説明からして伝書鳩のようなモノだと判断出来る。

僕達の存在に気づくと、その鳥は急降下して、蒼の隣に降りた。


「あうぅ、帰ってこない事に白姉とヴャクトさんちょっとお怒り気味。えっと、道中で困ってる人を見かけたから、街に戻るまではもう数日はかかりそうって伝えておいて欲しいかな……」


鳥の頭に手をかざして、蒼は少し困っている。


例のスマホ的なヤツの通信機能はこの辺りでは使えないなんて説明も受けてるし、

もしも伝書鳩のような役割をしているなら、僕も情報を集めておきたい。


「蒼、差し支えが無い様なら、僕が鈴ちゃんとビーさんって人を探してるって事も伝えてくれないかな。もしも見かけたら、教えてくれるように」


「うん! 大丈夫だよっ! えっとね困ってる人って言うのは人の形をしたカエルさんで、鈴さんって人とビーさんって人を探してるって言うのも追加してお願いっ!」


蒼の言葉に、鳩のような姿の鳥はクルルと鳴き声を上げ、飛び去って行った。


「手紙を巻きつけるとかじゃないんだ……」


「白様は魔物を従える事の出来る力を持つ御方です。蒼様は従える事は出来なくとも、白様の使い魔の声を聞くことは可能ですので、その様な事をしなくとも問題は御座いません」


言いながらクランさんは手際良く、肉を捌いている。


……なんて言うか、本当に流石はファンタジー。


あまり話し込んで寝床を作れなくなるとリーノに怒られそうなので

とりあえず「そうなんだ」とだけクランさんに返して寝床に使えそうなモノを探す事にする。


「えっと一応ライトか松明借りていっていいかな?」


流石に、近辺にはそう言った柔らかそうな干し草も見当たらず

森の中に入って探そうとして、一度手を休める。


まだ完全に日が落ちていないとは言え、森の中は薄暗くなりつつある。

明かりが無いと、道に迷いそうな気がした。


「構いませんよ。それから件の魔物がいる場所とは正反対の方向で探して頂けると多少は安全だと思われます」


言いながら、クランさんは手早く松明を作って僕に手渡してくれた。


料理の片手間で簡単に松明を作る辺り、クランさんの万能さが凄い。


「もし魔物と出会ったらなるべくは逃げるようにして下さい。まだエル様の武器も作れておりませんから」


「うん。逃げ足には自信あるし、大丈夫っ!」


心配してくれるクランさんに向けて軽く自分の胸を叩いて、心配は無用とアピールをしてから僕は森の中に入り、寝床に使えるような柔らかい干し草を集める。


……流石に舌で持ったらリーノ怒るよね。

唾液ついてたら気持ち悪がられそうだし。


両手が塞がるくらいに集めては一度拠点に戻って、そしてまた森に入っては干し草を集めて。


何周かそれを繰り返して、とりあえず四人分の寝床を作れそうなだけの干し草を集めてくる。


僕は水辺で寝た方が体力回復しそうだから、僕の分は必要無い。


「エルさん、毒矢が完成出来たのです」


丁度集めきった頃に、リーノの声。


「早いね。えっと、肩車して高く跳べばいいのかな?」


言いながら、リーノの服装を見て少し躊躇う。

リーノは年相応の可愛らしいワンピース姿。


どうしても肩車をするとなると生足に触れてしまうことになる。


「なんだかムッツリオーラを感じてしまうので私としても不本意なのですが……この際妥協するしかないでしょう」


「うん、大丈夫。リーノをそういう目で見た事はないから」


僕が気にしなくてもリーノが気にするだろうから気を利かせたのに、またムッツリとか言われたので、とりあえず言い返す。


いくら生前に女性との関係が薄かったとは言え

流石にまだ十五歳くらいに見えるリーノや凛、蒼をそう言う対象として見る程腐ってはいない。


「って事はクランさんはそういう目で見たことがあるんだ……アズマ姉さんとかラーナさんも危ないかも」


揚げ足を取るのは凛。


……アズマとラーナ。それは最初出会った時にもリーノ達の口から耳にした人の名前。


「申し訳ございませんエル様。お気持ちはとても嬉しいのですが、私はエル様が思うような人間ではありませんので、恐らくそのお気持ちに答える事は出来ないかと……」


なんか流れでクランさんに振られてしまった。

告白したつもり無いのに。


いや、確かに綺麗だし万能だしで格好良いとは思ってたけど……。


カエルとしての本能みたいなのがあるのか

そもそも人間の女性にそう言った感情は持てないように出来ているような気がする。


……かと言ってカエルのお嫁さんを迎えるのも何か違うと思うのは、人間の感情とカエルの感情が混ざり合っているせいなのか。


「いや、多分僕、恋愛感情みたいなの抱かないように上手く出来てるから……それより無駄話してると暗くなっちゃうよ?」


リーノ達が場を和ませるようにそういう事を言うのはもう理解しているし

いちいち大袈裟に反応してたらキリが無い。


闇に包まれてしまっては魔物を視認するのも不可能だと思い、話を切り上げてリーノに問う。


流石は元社会人。ちゃんと子供の相手が出来てる。偉い。


「……なんだか子供をあしらうような言い方で少し腹が立つのですが、完全に暗くなってしまって魔物を見失うのも困るのは事実なのです。一応、私が調合出来る限りでは一番の猛毒を仕込みましたが、中には毒の耐性を持つ魔物も存在しますので、その時は凛ちゃん、クランさん。お願いします」


言いながら、リーノは僕にしゃがめと言う仕草。


「うんっ! 私も自分の武器作って貰ったから、それなりに戦えるようになったよ!」


リーノの言葉に笑顔で答え、凛は薙刀のような武器を手に持っていた。


「え、ワニの骨から作ったのそれ? この短時間で? と言うか今までは戦えないって感覚だったの……?」


そんな凛の言葉に、思わず疑問が溢れ返る。


クランさんが壊れ性能過ぎるだけで、僕から見れば今までの凛も十分過ぎるくらい強かった。


小さな身体の何処にそんな力があるんだって聞きたくなる程の拳や蹴りの破壊力。


クランさんとは別種と思われる格闘技術。


武器を使わないのは、その技術を活かす為だと思っていた。


「アズマ姉さんの戦闘スタイルを目標にしてるし、それにエルさんと初めて出会った場所に潜んでる魔物程度なら私も素手で対応出来るんだけど……流石にあのワニレベルだと私の拳は通らないって思い知ったから」


凛は薙刀を何度か振りながら、そう言って


「決して油断するな。どんなに力を持っていても自分が強いなんて慢心はしちゃダメ。アズマ姉さんの言葉は忘れてないよっ!」


最後の一振り。それは一本の大木をいとも簡単になぎ倒していた。


「どうやら私の出番はなさそうですね」


その鮮やかな動きと技術を見て、クランさんはクスリと微笑んでいた。


「あかりんに先に作って欲しいって頼まれてたせいで私のナイフはまだまだ足りないよぅ……エルさんの服も優先して作らなきゃだし、私は未だに戦闘不能だよぅ」


凛の薙刀を作ったのは蒼だったみたいで、そんな凛の姿を見ながら蒼はぼやいていた。


「ご、ごめんってば……でも蒼ちゃんが作る武器の方が私が自分で作るより出来が良いし……」


凛のそんな言葉から、蒼は魔物の素材から何かを作るのに長けているらしい事を知る。


凛のその武器は余計な装飾は無くて、ただの骨で作ったような質素な出来に見えるけれど

強度や切れ味に申し分は無い。


「と言うか蒼ちゃんがナイフを作るのに時間かけるのはこだわりが強すぎるからなのです。消耗品なのに見た目にこだわり過ぎなのです」


呆れたようにリーノはさっきのワニとの戦いで使っていた落ちたナイフを拾い眺めていた。


釣られるように、僕も近くに落ちているナイフを見つめる。


……戦っている時はいちいち皆の使う武器を眺める程の余裕は無かったけれど

言われれば確かに。手作りとは思えない程、細かく作り込まれている。


持ち手の部分は恐らく滑り止めとしての魔物の皮。一度に沢山の量を投げられるようになのか、指をかけるような輪もある。

それに投げた時にブレない様なのか、輪の部分には羽の役割代わりのような紐。


「蒼、手裏剣の方が多分楽だよ。これ」


掌サイズのその小さなナイフ一本に、随分な手間をかけているのは素人目でも理解出来た。


余程、手裏剣のような形状にした方が簡単に作れそうな気がして、なんとなく伝えてみるも、蒼は僕の言葉に頬を膨らませていた。


「むうぅ……りーのんもあかりんもエルさんもロマンがわかってないっ! あかりんの武器だってホントはもっと格好良くしたかったのに急ぎでって言われたから、妥協したのに!」


……中二真っ盛りなご様子で。


「さて、蒼ちゃんは無視して、さっさとやりましょうかエルさん」


ポイと、手に持ったナイフを投げ捨て、リーノは言いながら僕の肩に足を乗せていた。


「あ、うん。そうだね」 


蒼には強く生きて貰う為に、これ以上突っ込んではならない。

僕も察して、リーノの足を手で強く握る。


いくらファンタジーとは言え、流石に僕の跳躍した高さから落ちたら大怪我では済まないだろう。


「凛ちゃん、一応臨戦態勢取っておいてください。毒耐性のあるモノが来たら、叫んで伝えます」


「よしっ!」


リーノの言葉に頷いて、凛も構えを取る。


その様子を見て、僕はリーノを肩に思い切りジャンプした。

リーノの体重は軽く、大したハンデにはならないみたいで

さっきジャンプした時と同じくらいの高度まで平気で届く。


「……この高さだと的が小さすぎるのです。自然落下して狙えるタイミングになったら弓を射ります。……間違えて手を伸ばしたりしないで下さいね。掠っただけで普通の人間は数秒で死んじゃいますから」


リーノは不安定な姿勢など問題にはならないと言ったように僕に忠告をしてくる。


……そんな怖い事、言われなくても僕の両手はリーノの足を強く握って離さない。


「一番奥にいる魔物は遠いので無視しましょう。手前にいる四匹を倒せば、今夜はぐっすりなのですよ」


ある程度落下すると、リーノは一撃目を放つ。


……一番遠くの魔物から狙っていく辺りは、流石の腕とリーダー気質。


「エルさん、空中移動できます? 枝が邪魔をして他の三体が狙えないのです」


「あまり僕の能力に過度な期待はしない方が良いけど、木に舌を巻き付けていいなら多少なら動けるかな」


「……それをしてしまうと今度は高度が足りなくなります。私がエルさん踏み台にして飛びますので、地面に叩きつけられる前にその長い舌で私の事を掴んでくださいです」


「え、危なくない?」


「そんな事を言い合ってる暇は無いのです。掴み損ねて地面に叩き付けられた時は化けて出ますから、早く手を放して下さい」


確かに、そんな事を話している間にも高度は下がっていく。

……まぁ速い虫を捕まえるくらいには舌も自在に扱えるし、なんとかなると信じるしか無い。


「わかった。気を付けてねっ!」


決断を早めて、リーノの足から腕を離すと、リーノは僕の肩を蹴って、空中を舞う。


「って言うかスカートだよ! リーノおぉ!」


状況が状況だけに、自然な流れでリーノのスカートの中が見えてしまい、思わず叫んでしまった。


「う、うるさいですねっ! 人間に欲情しないって言葉信じたのですよ!」


多分リーノもそこまで考えてなかっただけで、必死な言い訳なんだろう。

焦ったように叫ぶと気を取り直して二度目の矢を放っていた。


そして、直ぐに装填して、三撃、四撃。


「凛ちゃん! 一匹だけやっぱり毒耐性持ちです!」


四発目の攻撃を入れた魔物は、他の三匹と違って倒れる事無く、攻撃を受けた場所を探している様子で

やがてリーノの存在に気付くと、リーノに向かって飛び掛ってきた。


「あの図体でここまで跳べるの!?」


多少高度は落ちているとは言え、それでも高さ二十メートルはある。


迷い無く跳んでくるソイツに驚きながらも、慌ててリーノの身体に舌を巻き付け、一気に舌を巻き取る。


「私も想定外でした。……感謝だけはしておくのです。いえ、やっぱり下着見られたからチャラなのです」


間一髪。魔物の攻撃が届くよりも僕の舌の方が早くリーノに届いたおかげで、リーノに怪我は無い。


だけど、リーノの身体からは冷たい汗。


流石のリーノも口では生意気を言えても、恐怖を感じたのだろう。


舌を使っているから僕は今話せない。

リーノの肩を叩き、背中に移ってくれと身振りで意思を伝える。


魔物が僕を視認していた。

多分次に飛び掛かってくるのは僕目掛けてだ。


自然落下よりも明らかに早いその落下の仕方は覚えがある。


見た目も、あの世界にいた頃の僕を大きくしたような姿だった。


「こんな所で同類に会うとは思わなかったよ……」


リーノが背中に移動してしがみつくのを感じたので、舌を戻して呟く。


「エルさんも毒耐性ある説出て来たのです」


「いやぁ、種類が違うからどうだろう……って、もう来たぁ!」


眼下の森から、再びソイツが飛び掛かってきたのを視認して慌てながら地上の木に舌を巻き付けて、地上に戻る。


「凛ちゃん、寝る場所荒らされたら困るのです! 少し森に入りますよ!」


「あれ、エルさんの仲間じゃないの!?」


「僕の姿見ても攻撃してきたからっ!」


リーノは着地するとすぐに凛に向けて叫び、凛の手を引いて森の中に入った。

僕もリーノに付いていくように一緒に駆ける。


「戦い方も多分僕と殆ど同じだと思うけど……威力は段違いかも」


人の形をした僕と違って、ソイツは完全なカエルの形。

ワニよりかは簡単にダメージは通るだろうけれど、その巨体から繰り出される攻撃の威力は僕の比じゃないのは簡単に想像がつく。


「いえ、素早さは明らかにエルさんの方が上なのです……体力戻っているのなら、エルさんにはかく乱をお願いするのです」


現状の把握も流石に早い。リーノは僕に向けてそう言うと、端末を手に取っていた。


「私の端末でも黄色の表示。クランさんの力を借りる必要は無いのです」


言いながら端末をしまい、リーノはまだ空中にいるカエルに向けて矢を一撃。


軽く怯んだ様子でカエルの魔物は地面に降り立った。


「私の矢でもダメージは多少通るみたいですし、凛ちゃんの攻撃なら一撃でしょう」


「問題は当てられれば、かなぁ。かなりすばしっこそうだし」


……だから、僕がかく乱ね。


凛の言葉に、リーノが言わんとしている事を理解。


「私も動きながら、矢を放ちます。凛ちゃんは当てられると判断したら一気に行って下さいなのです!」 


「えっと、僕はアイツを疲れさせちゃえば良いんだよね?」


「はい。一応素早さは私達より上ですし、頼りにしてるのです。魔物より先にバテるなんてオチは無しなのですよ」


リーノは軽く微笑み、そんな事を言う。


女の子に頼られたら頑張るしかない。


暫く水に浸かってたし体力もまだまだ余裕がある。

汚名返上の第二幕と行こうじゃないか。


気合を入れて、僕達はカエルの魔物が落下したその場所へと駆け出した。


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