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鈴の章 使い魔

エル君とビーちゃんの件もあるし、魔物を討伐した事も伝えて置く必要がある。

一度街へ戻って、改めて準備をしてから件の『鈴の最期の場所』へ向かおう。


そんなラーナとアズマの提案で私達は三人、深い森を歩いていた。


道中、私が倒したのは魔物と呼ばれる存在で

この世界には多種多様の魔物が存在すると説明を受けた。


「アズマちゃんは街でも五本の指に数えられるくらい強いんだよっ! だから危険な魔物とかの討伐をお願いされたりするの!」


ラーナは、まるで自分の事のように自慢気にアズマの事を語ってくる。


「あたしには魔物から素材を上手く取るような器用さは無いし、特定の魔物を探すような力も無いから……その手の力に長けてるラーナの方が凄いって何度も言ってるんだけど」


照れたように、アズマは頭を掻きながら、ラーナの事を褒め返している。


親友同士、お互いの強さを認め合っている関係。

二人の会話から、なんとなくそんな事を感じ取れる。


「それより、大丈夫かな。鈴の見た目で魔物だと思って街の奴らパニックになったりしないか心配なんだけど」


「爪は伸縮自在みたいだけれど、耳と尻尾は隠す事が出来ないみたい。自分の身ながら……変な所で不便」


アズマは、歩きながら少し考えるような仕草で私の耳に視線を向ける。

そんなアズマに自分ではどうしようも無いと、小さなため息を吐き、言葉を返した。


「うーん、確かに獣人の魔物の新しいタイプとか思われそうだけど……鈴ちゃん可愛いから大丈夫じゃないかな?」


訳のわからない理屈で、きっと大丈夫だと気楽に言うのはラーナ。


ビーちゃんにもいつか見た目は可愛いと言われたことがあるのをなんとなく思い出す。


「可愛いのかな……。やっぱり人間の美的センスって良くわからないかも」


ラーナの言葉に、いつかも言った事のあるような言葉を漏らしてしまう。


私は自分の容姿が、他と比べて綺麗だと感じた事が無い。


「そ、その見た目で自分は可愛く無いとか思ってたら、世の中の女を相当敵に回す事になると思うけど」


それもいつかビーちゃんに言われた言葉だった。


「人間ってやっぱり面倒くさいかも……」


「えへへ、でも言葉があるから私達と鈴ちゃんは争うような事が無かったんだし、それは人間の特権なんじゃないかな。なんて私は思うよ?」


「…………」


まるで私の考えを見透かしているかのようなラーナの言葉に思わず詰まる。

言葉が通じるからこそ、余計な争い事が起こらない。

そんなのは綺麗事な筈。


言葉があるからこそ、争いが生まれる事もある。


私は人間としてあの世界で生きていた時にソレを実際に経験している。

……それなのに、人間としての生は私より長い筈のラーナは、言葉がとても大切なモノだと言う。


ラーナの性格は短期間の会話でも理解している。彼女はとても優しい人。


優しい人は損をする。いつかビーちゃんはそんな事を言っていた。


それなのに、ラーナが損をしているようには見えない。

ラーナの笑顔には偽りを感じない。


「……ラーナが凄いって意味、少しだけ理解出来たかも」


自然と笑みが浮かぶ。


「ラーナに笑顔の魔法かけられちゃうと皆ラーナの事が好きになっちゃうんだもんなぁ。ラーナの方こそ実はそういう魔物なんじゃないかって疑っちゃうぞー?」


私の言葉に乗っかって、アズマは悪戯な笑みを浮かべてラーナの事をからかっていた。


笑顔の魔法。


小一時間前にかけられたその魔法は、本当に魔法のようだと感じさせられる。


「そっ、それだよアズマちゃん! 私が使い魔を従えれば、鈴ちゃんも同じ私の使い魔だと思ってくれるかもっ!」


悪戯な笑みを浮かべるアズマの言葉に、ラーナは閃いたとばかりに声を大きくしてアズマに向かって抱き着いていた。


「アズマちゃん! 流石っ! 私自身、自分でその力の存在を忘れてたのにっ!」


「えっ、あっ……いや、ただの冗談のつもりだったんだけど……」


「えっと、ごめん。二人とも。私が話についていけないんだけれど……」


困ったように照れるアズマと、アズマに抱きついたまま、やっぱりアズマちゃんは凄いっ。

なんて言うラーナの二人の会話の意味が理解出来ず、口を挟む。


「えっへん。聞いて驚いて! 鈴ちゃん! 私は魔物を従える力を持ってるのっ!」


「それは、どんな魔物でも大丈夫なの?」


「お、驚いてくれないっ……!」


さっき思いっきりラーナが自分で言ってたから、今更驚けと言われても少し困る。


「ある程度知性があって、人間に害を及ぼさないようなヤツ。……んでもってソイツがラーナを主人と認めなきゃいけないって結構面倒な制限はあるって言ってたかな……」


私の疑問に、わざとらしく落ち込む素振りを見せているラーナの代わりにアズマが答えてくれた。


「うーん、白ちゃんは鳥さん。花ちゃんは猫さんの魔物を使い魔にしてるんだよね……私と合う使い魔になってくれそうな子って、どんな子だろう……」


話の流れから、ラーナと同じ能力を持つ人と思われる二人の名前を耳にする。


鳥に猫。どちらも私のいた世界では愛玩動物として有名な部類の生き物。


「多少強い魔物の方がラーナにとっても都合良いよね?」


なら、一つの生き物に心当たりがある。


薄いながらも私達の血を引く子孫に当たる生き物。


「で、でも強すぎる魔物だと私には懐いてくれないんじゃないかなぁ……」


自信なさげにラーナは言うけれど、そこはきっと問題無い。

私がラーナを主人と認めていれば、自然と認めてくれる筈。


「……この世界に彼らがいるのか、私の言葉が通じるのかあまり自信は無いけれど、試す価値はありそうだから」


狼の力を取り戻している今なら、きっと呼べる筈。


そう信じて、深く息を吸う。


遠くにいる仲間と意思を疎通する時に使っていたあの頃を思い出して。


…………


今の声帯には似つかわしく無い、遠く長い鳴き声が自然と口から出せた。


『私はここにいるよ。私の主人が困っているの。手を貸して』


その意味を成す遠吠え。


「……なんだか、切ない声」


ラーナが、私の遠吠えに少し淋しげな声を上げていた。


私の遠吠えに呼応するよう、いくつかの声が返ってくる。


大半は興味は無いが初耳だから返しておくと言った意味合いの声。


『事情はわからぬが人間風情に力を貸すなど犬族の恥め。今すぐに殺してやるからそこで待っていろ』


そんな中で、一匹。毛色の違う声が大きく響いた。


……わかりやすいほどに誇り高い性格。


これなら逆に扱いやすいかも知れない。


「鈴、なんかすんごい殺気立ったヤツが来てないか……?」


「懐かしい喧嘩が始まるから、ラーナとアズマは下がって……と言うかちょっと余計なモノも呼んじゃったみたいだからそっちを片付けて置いてくれると助かるかも」


犬族を嫌う魔物か、ただ声に反応して来てしまった知性の無い魔物か。

犬の気配とは正反対の方向からいくつかの気配。

その辺りはラーナ達の方が詳しいだろうし、余計な事を考える必要は無い。


関係の無い魔物にまで刺激を与えてしまうとなると、あまり遠吠えは多用しない方が良いみたいだと学んだ。


「えへへ、鈴ちゃん。なんか嬉しそうだね。使い魔にする儀式があるから、今から来てくれるその子を服従させたら私を呼んでねっ」


傍から見ても、嬉しそうに見えるものなのかな……。


ラーナの言葉に、微笑んで頷く。


ラーナの言う通り、私はらしくない程に胸が高鳴っている。


久々の同族同士の喧嘩に。


「あたしらの方は雑魚ばっかっぽいけど、鈴、そいつ結構腕立つ魔物だぞ。大丈夫なのか?」


流石は強いと言われるだけある。

今からやってくる犬の魔物の強さはなんとなく理解出来ているらしい。


野生で生きてこなきゃ中々得られないその感覚を人間として生きているのに持っているのは凄い。


「うん。大丈夫どころか、ワクワクしちゃってる」


「成程。そう言う事ならあたしらが下手に手出ししちゃ駄目だな。まぁ、鈴はあたしより強いと思うし無用な心配だったか」


クスリと。アズマは何かを察したように私の言葉に笑みを浮かべていた。


人間同士での喧嘩でこういったモノは経験したことが無いけれど

アズマとだったら楽しめそう。なんて、そんな事を感じる微笑み。


「アズマも気をつけて」


「あたしの力を鈴に見せ付けられないのが悔しいなぁ、もうっ!」


言いながら、アズマとラーナは反対方向からやってくる魔物達の方へと踵を返した。


……確かに、アズマの実力はちょっと気になる。

人間は武器を持たないと弱い筈なのに、アズマの身体に武器らしい武器と言うものは見当たらなかった。


やがて、背後ではアズマの声が響き始める。


「だあぁっ! 意外と数が多いぃ!!!」


それだけの減らず口を叩く余裕があるなら、アズマの方も問題は無さそうだった。

  

アズマが蹴散らしているであろう魔物達の断末魔が聞こえる中、私の声に反応した彼は隠れる事なく

奇襲なども考えていないと言った様子で堂々と姿を見せた。


「驚いた。昔の私にそっくりな子」


その姿に、少し目を丸くする。


真っ白な毛並み、金色の鋭い瞳。


運命の悪戯か、私の言葉に反応したのは私が狼だった頃の姿と瓜二つの犬だった。


背中に二人は乗れそうなくらいの巨体。


相対するだけで感じ取れる、その強さ。


『なんだ。力強い遠吠えだと思ったが、貴様獣人の類か』


犬の言葉も理解出来るのは、この耳のお陰だろうか。


「うーん、別世界での貴方のご先祖様って言っても信じてもらえないよね」


返しながら、手を地面につける。


久しぶりの四足の構えに慣れず、何度か姿勢を変えているとしっくりとくる構えを取れた。


『ふざけているのか、それとも服従のつもりか?』


「別にふざけても服従もしてないよ。人間として戦ってもいいんだけれど、久々の同族同士の喧嘩なんだから、私も狼のスタイルで行かせて貰おうかなって」


私の言葉も通じているみたいで、私の行為に白い犬は毛を逆立てて怒りを現していた。


「キミも犬なら犬の掟くらい知っているでしょう。私が勝ったら、キミには私の主人に服従してもらう」


『駄犬が。我に勝てるつもりでいるとは、力量差もわからぬか』


……そっくりそのまま言葉を返してあげたい。

力量差があり過ぎると逆にわからないものなのか

私がこんな姿だから舐めているのか。


後者ならわからせてあげる必要がある。


「キミ、犬としてはきっと相当強いんだろうね。だけど、狼はもっと強い。格の違いを見せてあげる。遊んであげるからかかっておいで。どっちが駄犬なのか教えてあげる」


私の挑発に、犬が怒りの形相で飛び掛ってきた。


スピードは確かに速い。

そのスピードに乗せて薙ぐような爪の攻撃も、きっと相当な威力だとは思う。


……攻撃が当たりさえすればの話だけど。


「どう? 降参するなら痛い目は見ないよ?」


所詮は私の子孫。


犬としては強くても、そのスピードも攻撃も、私と比べたら天と地程の差がある。


一度、木へと飛び退き、その巨体の背中に移り乗り、首筋に軽く牙を立てる。


『我の攻撃を避ける速さは大したものだが、その程度の牙と力で我の皮膚を貫けるとでも思ったか!』


叫びながら身体を回転させ私を潰そうとしてきたので、一度彼から身を放し、再び狼の構えで地に降りる。


「言ってるでしょう。キミを服従させるって。私はキミを殺すつもりは無い。それに今のは甘噛み」


『ふん。負け惜しみのつもりか』


……どっちが負け惜しみを言っているのか。


少しばかり、自分の力量を認めようとしないコイツに腹が立つ。


「キミね、弱点の首に噛み付かれてるんだよ? 私が本気出したら殺されてるって理解してる?」


『抜かせ! いつまでも我の攻撃を避けられると思うな!』


鋭い牙が私に向けて襲い掛かってくる。


……避けるのは簡単だけど、どうもそれだけでは私の力を理解してくれないらしい。


「誇り高い性格は流石は私の血を引いてるって認めてあげるけど、あまり調子に乗られると私だって流石に怒るよ?」


だから、飛び掛かってきたその減らず口を思い切り前足……じゃなくて手で引っ叩いて踏みつける。


『むぐっ!』


鼻っ面を踏み付けてるせいか、声にならないような声で、犬はその瞳を私に向けていた。


それは伏せのポーズに良く似ている。


まだ尻尾も腰も半分上げてる状態だから、服従している訳ではないんだろうけど。


「『我』とか変に格好つけた話し方してるけど……キミ、何歳? ちなみに私は狼の頃十三歳で殺されてるけど。この身体になってからは十一年。だからこんな見た目だけど二十四年生きてる。キミとは潜った修羅場の数も全然違う。格の違い、少しは理解出来た?」


『むが……』


犬の瞳から殺意が消える。


少しだけ、犬の姿勢が低くなった。


だけど、もう少しお仕置きが必要な気がするから前足の力はまだ解かない。


別に怒ってるわけじゃないから……。


「それに、そもそもキミは犬。私はキミの先祖って説明したよね? 別に力量を試すのが悪いとは言わないけれど……キミは私の力量を見た目だけで判断した。それがどれだけ愚かな事か。今なら少しはわかるでしょう?」


もう一度、軽く鼻っ面を引っ叩いてから口が聞けるようにと解放する。


『む、むぅ……我を上回る力を持つ犬族が存在したとは……』


「そんな事は聞いてないから。私の質問に答えて。何歳? 駄犬はどっち?」


言葉を間違えたら思い切り引っ掻くと。爪を伸ばし、威嚇しながら問いただす。


『わ、我は六歳だ……だが、この歳で我は一族の長を倒した!』


「キミの自慢は聞いてないって言ってる筈だけど?」


もう一度、鼻っ面を叩く。


『ぐ、ぐぬぬ……いっそ殺せっ! なんだこの屈辱はっ!』


……ちょっといじめ過ぎちゃったかな。


思い切り服従の姿勢を取られてしまった。


「だから殺さないって。便利な乗り物になってくれそうだし」


丁度、そのタイミングで背後からアズマとラーナの気配。


「うっわ、でっかい犬だなぁ。もう終わっちゃったのか?」


「この子、鈴ちゃんと似てるねー」


……見た目は確かに私の髪の色と同じ体毛だし、瞳も同じだけど

こんなのと同じにされたくない。


「一応終わったかな……今は犬としての掟を叩き込んであげてる所」


アズマの言葉に返し、服従した姿勢の彼に言う。


「私の主人はこの人。名前はラーナ。……キミは彼女に忠誠を誓える?」


「こ、こんにちは。えっと……名前とかあるのかな?」


犬の瞳が私からラーナへと移る。


『弱そうな小娘に名乗る名など無い』


「アズマ。ラーナ。コイツの事泣くまで殴ってあげて。その後は私が解体して投げ捨てておくから」


「す、鈴ちゃん……なんかキャラ変わった……?」


ラーナが私の言葉に困ったように苦笑いをして、そして犬に触れようと近付いた。


「ら、ラーナ! まだこの子キミに忠誠を誓ってないから……」


「ううん。大丈夫。それに忠誠なんて誓わなくていいの。私はこの子の気持ちを無視して無理に使い魔にしようなんて思ってないから」


言いながら、ラーナは優しく犬の頭に触れようとする。


もしもラーナに攻撃を仕掛けるような事があれば、容赦なく殺す。


私の背後からも似たような殺意。


アズマのモノだろう。


「あ、あはは……二人の殺気に怯んじゃってるからやめてあげよう? 話せば長くなっちゃうんだけど、色々事情があって貴方の力を借りたいの。無理強いはしないから、手を貸してくれるか教えてくれるかな?」


優しく、触れたら壊れてしまう物を扱うかのように。

ラーナはそっと手を伸ばす。


「私の心を届かせるから、貴方の心を見せて」


静かに、犬の頭に自身の手を乗せて、そう言葉を紡いだ。


「……これが、使い魔の儀式?」


ラーナから感じる、何処か神聖な雰囲気に邪魔をしては行けない気がして

ラーナと犬から距離を取り、アズマの隣へと移動して問いかける。


「うーん、本当は服従させてからじゃないと色々危ないんだけど、まぁラーナなら大丈夫だろ。それにしても良くこんなの傷付けずに服従させられたなぁ……」


「素直な子だったから」


「めちゃめちゃ鈴にビビってたように見えたけど?」


「……ちょっとわからせてあげただけ」


私のその言葉に、アズマは苦笑いを浮かべていた。


「え、えっと……話変わるけど、鈴さ、あの体勢での戦闘はちょっと良くないと思うよ。その、鈴の服装的な意味で」


そして、それ以上は深く追求はしまいと言った風に、話題を変えてくる。


「狼の構え? 別に動きにくくないし、むしろ私本来のスタイルだから戦いやすく感じたけれど……」


「いや、うん。鈴がそう言うヤツってのはわかってんだけど……狩人の中には男もいるし、その……鈴のその和装はあの構えをすると見せちゃいけないものが見えるから」


私は言われて、自身の服装を改めて確認する。

この世界に来ると同時に、私の身に起きた変化の一つ。


何故か私は洋服では無く、和服を着ている。


「別に私は見られても気にしないけれど」


なんとなく、アズマの言わんとしている事が理解出来て、言葉を返す。

こんな幼い身体の下着を見て喜ぶような人間も居ないだろう。


「いや、中にはそれで喜ぶやつも居るからな?」


「やっぱりたまに人間がわからなくなる……」


私の心の声に反論するようなアズマの言葉に

小さくため息を漏らしてしまう。


どちらかと言えばアズマのような体系が人気だとテレビでは説明してくれていた筈だけど……


「うん。ありがとう。よろしくね、ウルフ君」


そんな私の思考を遮ったのは、ラーナの声。


目を向けると、犬はラーナに向かって服従のポーズを取っていた。


「お、使い魔になってくれたのか?」


「ウルフって……キミ、犬だよね。ドッグに改名して」


確かに見た目はかなり狼に近いモノはあるけど、力は狼である私より劣っている。

なんだか名前負けしてるその名前に私は呆れてしまう。


「うん。心を見せてくれたからもう大丈夫。あと、この子、その……鈴ちゃんと同族の子みたい。自覚は無かったみたいだけど」


「えっ?」


ラーナの言葉に、犬の方へ目を向けると、コクリと頷いて犬は言葉を発した。


『……ご主人の心から鈴の事も見させて頂いた。我も狼だ。間違いない。恐らくはこの世界では最後の一頭なのだろう……同種のモノ達だと思ったモノは貴様の言う犬と呼ばれる種族のようだ』


「だとしたら、こっちの世界の狼弱すぎ。怠けてるの? ふざけてるの?」


『貴様が強すぎるのだ! 我は犬共から恐れられる程の力を持っているのだぞ! 先程の戦闘と言い、少しはご主人の優しさを見習ったらどうだ!』


……態度がまるっきり変わってる。

弱そうな小娘とか言ってた癖に。


「ラーナ、使い魔の儀式って魔物の性格も変えちゃうの?」


「そんな洗脳じみた儀式じゃないよー! 心を通わせて、理解し合えたら使い魔になってくれるの。私からはお願いしただけ。あと、契約が出来たから私にもウルフ君の声は聞こえるようになったよっ!」


……まぁ、ラーナの心を見たとか言うのなら、多分この犬も私と同じような考えに至ったとしても不思議では無いのかも知れない。


「ウルフ、生意気な事言ったら私がまた調教するから」


『ふん! その時はご主人に護ってもらうとしよう!』


「誇りまで無くしてるけど、この子……」


情けない言葉に、益々同族だと言う事実が信じられなくなる。


「あたしには魔物の声聞けないから置いてけぼりなんだけど……」


「ラーナ大好きだワン。ラーナの為なら死ねるワン。って状態だと思ってくれれば良いと思う」


困ったように私達を見るアズマにとりあえずそう言っておく。


あながち間違ってはないし。


「そ、そこまでじゃないけど。私達を信じてくれてるよっ! ウルフ君、早速だけど私達を背中に乗せて、街まで連れて行ってくれるかな? 歩いてたら結構時間かかっちゃいそうで」


『お任せをっ!』


もう、言葉通りラーナの犬となったその子の背に乗る。


「結構なスピードだから振り落とされない様にしがみついて! だって!」


「了解っ! うーん、モフモフかと思ったけど意外と体毛硬いんだなぁ……」


アズマはラーナの言葉に強くしがみつき、その体毛の硬さに少し残念そうにしている。


「うん。体毛って鎧の役割もあるから」


私の体格が小さいお陰で、上手く背中に三人で乗ることが出来た。


『鈴は乗らなくても良いと思うのだが』


「噛み付いたほうが確実に振り落とされないよね。そうしようかな」


『ご主人、我はこの少女が怖いのだが』


「今のはウルフ君のデリカシーが無かったかな? なんか私よりも鈴ちゃんと仲良くて嫉妬しちゃうよ?」


ウルフの言葉に、クスクスとラーナは笑う。


実際、乗らずに走っても追いつけるとは思うけど、

私の体格だと体力まで狼のままという訳でもない筈。


長距離の移動はウルフに任せた方がいざという時、私が戦える。


……それを口にしたら、駄犬がまた調子に乗りそうだから、ウルフの前ではその事は心に秘めておく事にした。


『我はご主人の使い魔。こんな恐ろしい少女に目移りなどする筈が無かろう……』


「そうかな? 戦ってる時久しぶりに本気を出せて楽しかったって言ってたのに?」


「私は全然本気出せなくて消化不良だったけど」


……ちょっと意地悪な事を言っておく。


久しぶりに一頭の獣として喧嘩をできたのは実は私も嬉しかった。

この子が同族の最後の一頭なら、私がこの世界から居なくなっても、誇り高く強く生きて欲しい。


だから、上には上が存在する事。そして見た目だけで強さを判断しない事。

その事を教えておきたかった。


『油断していたとしても負けたのは事実だ。返す言葉もない』


「また生意気な言い訳でもするかと思ったけど、その辺は素直なんだ」


喋りながらも、ウルフは森を器用に駆け抜ける。


ラーナを振り落とさないようになのか、多少スピードを抑えてはいるみたいだけど

やっぱり普通に歩くより断然に速い。


「この調子なら、夕方までには街に付きそうだな」


アズマが背後でそんな事を呟いていた。


「ウルフの姿の方が街の人、よっぽどビックリしそう」


「あー、こんなデッカい使い魔扱うようなヤツ居ないもんなぁ……」


なんだか別の不安要素が生まれてしまったけれど、ラーナなら上手く説明してくれるだろう。

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