『聖女』を連れまわす ③
「わぁ……」
ロームが飛び上がり、ロームの上に乗っているオルタンシアはその青色の目をキラキラさせて、景色を見下ろしている。
ロームに乗るのは久しぶりだけど、下を見ると気分がいいものね。最近は出かけることも少なかったし、近場ならば自分で空を飛んで向かうことも多かったしね。
ロームの上に乗った時は、いつも風の抵抗を感じないように私かロームで魔法を使っている。そのまま乗っていると、風の抵抗が凄くて乗ってられないのよね。
それにしても拾ってからずっと無表情だったオルタンシアがこうして少し楽しそうにしているだけでも何だか楽しい。うん、無表情よりもこうしてキラキラした目を向けている方がオルタンシアは可愛いわ。
私はもっとこうやって素敵に笑うオルタンシアを見たい。私の可愛いお人形さんの美しく笑う姿をもっと見ていたいってそういう気持ちでいっぱいだ。
「オルタンシア、ロームの上は気に入った?」
「は、はい。ドラゴンを従えるなんて……」
「従えてはないわ。お友達なの」
従えていると言えばそうなのかもだけど、正確にはお友達だわ。
そう答えたら、オルタンシアは不思議そうな顔をしていた。オルタンシアには理解出来ないのかもしれない。
「そうだわ。オルタンシア。貴方、街では違う姿の方がいいわよね?」
私はそう言いながらオルタンシアに向けて魔法を行使する。オルタンシアの髪の色と目の色を変えるための魔法だ。
そして私はオルタンシアの髪色を青色に、そして瞳の色を赤色に変化させた。やっぱり色を変えただけでも十分に印象が変わる。
ちなみに何で目を赤色にしたかといえば、私の髪と目の色に合わせたのよ。やっぱり可愛いわ。
「目の色を簡単に変えるなんて……」
「このくらい私にとってはお手のものよ。オルタンシア、こうして空から下を見下ろすのは楽しいでしょう?」
「とても綺麗で、心があらわれるわ」
オルタンシアは、そう言いながら、眼下の光景を見る。
眼下に広がっているのは、村や森の光景である。上から見ると地上から見るのとはまた違う光景を見る事が出来る。
あそこで戦っている人がいるなとか、あそこでキャンプをしているなとか、そういうのとかを見ることが出来る。
中には魔物と戦っているはらはらするような光景もあって、オルタンシアが少し心配そうにしていた。
何らかの出来事があって、人に辛い目に遭わされてもやっぱりオルタンシアは人が好きなのだろうか? 私だったら大変な目にあわされたら人と一緒にいるのは嫌になるだろうけれど、オルタンシアはそうではないみたい。
可愛いお人形さんは、見た目だけではなくて中身も綺麗なのだろうか? 私はまだオルタンシアのことを良く知らないけれども、それでもオルタンシアはいい子だなぁとは思った。
「ファニー様、今回は何処に向かっているんですか?」
「ヤンド帝国の帝都よ」
オルタンシアは私の言葉に驚いた顔をした。
「オルタンシアはいったことある?」
「いいえ、ないです」
「そうなのね。ヤンド帝国の帝都はとても栄えているわよ。おしゃれな人も多いから、オルタンシアにお洋服を沢山買ってあげるからね。あとはアクセサリーとかも!」
私はそう言ってオルタンシアに笑いかける。
それにしてもオルタンシアは綺麗なお人形さんだから、色んな服装が似合うだろう。どんなものを着せようかな。似合う服が山ほどあるだろうから、私は沢山買ってしまいそうだ。
ドレスなども買いたいわね。
パーティーなどに参加する予定はないけれども、家でドレスを着せたら楽しいだろう。オルタンシアって出自がよさそうだから、ドレスも今まできてたんじゃないかなって思うのよね。
あとオルタンシアの髪は長いから、色んな髪型にも出来そうだし。とはいっても私は人の髪を結ぶの得意ではないのよね。誰かにやってもらおうかしら。そうなると知り合いに声をかけて、オルタンシアの髪型を整えてもらうのもいいかもしれないわね。
後普段着や神官服のようなものも買ってあげよう。色んな種類や色んな色の洋服を買ってきせたら絶対楽しい。オルタンシアは自分の着るものに現状無頓着そうだから、私が毎日選んであげるのもいいわね。
髪飾りやネックレス、あとは腕輪なんかも欲しいわね。
お金は山ほどあるから、可愛いお人形さんを着飾るために使うなら全然いいもの。一先ずオルタンシアを着飾るためのものばかり買う予定だけど、他にもいいものがあったらどんどん買いましょう。
「オルタンシア、もうすぐ着地するわよ」
「はい」
まずはロームに、帝都から少しだけ離れたところに着地してもらう。
そしてその場でロームには待機してもらう。
ここから少し歩いたらヤンド帝国の帝都である。
「じゃあ行きましょう」
「はい」
オルタンシアをロームから降ろして、私はオルタンシアの手を掴む。相変わらず誰かに手を掴まれるのにオルタンシアはびくりとしているけれど、気にせずそのまま手を引いて帝都へと向かった。




