『聖女』を連れまわす ①
「オルタンシア、出かけましょう」
「出かける?」
オルタンシアは私が突然告げた言葉に驚いたような表情をする。
オルタンシアとしてみれば、自分が出かけるというのも想像していなかったのだろうと思う。
食事をとっていたオルタンシアがスプーンを止めてこちらを見る姿も可愛い。オルタンシアの青い瞳を見ているだけで楽しい気持ちになるわね。
「……お出かけとはどこに行くのでしょうか?」
「街とか、森とか、どこでもいいけど、オルタンシアを連れまわしたいなと思って」
オルタンシアは可愛いから、オルタンシアに似合うようなものを着せて周りに見せびらかしたら楽しいだろうか。
色んな所にオルタンシアを連れていったら、オルタンシアも笑ってくれるかもしれないし。もっと楽しいわよね。
それにオルタンシアを笑わせられたらきっと楽しいもの。
私の言葉にオルタンシアは口を閉ざす。口を閉じていてもやっぱり綺麗だわ。
「……ファニー様、私はあまり人がいる場所に行くことはできません」
「オルタンシアが此処に来る原因のことで何かあるってことよね? でも正直それは私にとってどうでもいいわ。人の世でオルタンシアがどういう立場だろうとも関係ないもの」
オルタンシアの身には、想像が出来ないことが起こって人の街に顔を出せなくなった。
『聖女』であるオルタンシアはやっぱり人から注目を浴びていた立場だったのだと思う。私って、あんまり街にまで行かないから、そういう情報に詳しくないのよね。
死の森は、一つの国の領土にあるわけではなく、幾つもの国と隣接している。だから一つの国だけの情報を知っているわけではない。オルタンシアは倒れていた場所的に、西に位置しているロージャス王国から来たのだとは思う。
というか、ならば他の国の街に連れて行けば、オルタンシアは目立ったりしないだろうか?
まぁ、オルタンシアが他国でも知られていれば目立つだろうか。
「でも……」
「オルタンシア、心配なら髪や目の色を変えてあげる。周りからオルタンシアがオルタンシアだってばれなければいいんでしょう?」
「……それはそうだけど」
「なら、いいでしょう? というか、オルタンシアに拒否権はないのよ?」
「……うん、じゃあ」
オルタンシアは無表情のまま、私の言葉に頷いた。
色々なことを考えてしまった不安に思っているのかもしれない。無表情だし、自分の言葉で何かを口にしたりしないので、実際に何を考えているのかは分からない。
でもまぁ、心から嫌だと思っているわけではなさそうなので街にも連れ出そうと思う。
まだオルタンシアを拾ったばかりなので、オルタンシアがどんなふうな子なのかいまいちまだ分からない。もっと詳しく知れたらオルタンシアを笑わせられるだろうか。
「オルタンシアも可愛い服を沢山買ってあげるから」
「えっと、そんなにいらないけど」
オルタンシアは現在、私の服を着ている。他の服はないしね。だけど私の貸している服ってぴちぴちなんだよね。オルタンシアって少し胸が大きいから。私はちょっと小さいし。
ローブを着ればその位気にならないだろうけれども、もっと似合う服を着せたい! ってそう思うから。
「ううん、買うわ。私、オルタンシアに沢山服を着せたいもの。可愛い可愛いお人形さんを着せ替え人形にしたいっていうのは当然でしょう?」
私がにっこりと笑えば、オルタンシアはただ頷く。
やっぱり表情が変わらない。綺麗で、可愛い。けれどその表情は無表情。驚かせたりしたらもっと素敵な表情になるだろうか。
私はそんなことを考える。
それにしてもどういう服を買ってあげようかな。
「……わかったわ。私はファニー様に飼われた身ですから」
オルタンシアはやっぱり何だか色々諦めている風よね。でも諦めているオルタンシアもちょっと可愛い。
それにしてもどこに連れて行こうかなぁ。最初のお出かけだし、ロージャス王国ではなく違う国に連れて行こうかなぁ。
やっぱり服装の文化が栄えているところに連れて行った方が楽しいかな?
オルタンシアが目立つことを考えると、人が沢山いる、あまり行かない所に連れて行った方がいいかな。
ってなると、北にあるヤンド帝国に連れて行こうかしら?
舞台などがとても栄えていて、衣装も色んなものがあるだろうし。帝都にまで行くとなると少し遠いけれども、久しぶりに遠出をしようかな。
そうなると、乗り物を使っていこうかしら。久しぶりに呼び出したら喜ぶだろうし。
そう考えると楽しい気持ちになるわね。
連れまわす中で、軽く情報収集ぐらいはしようかしら。
元々の『聖女』としてのオルタンシアが此処にやってきた理由はどうでもいいけど、知っていたら知っていたでそれはそれでいいし。
そんな風に私はオルタンシアを連れまわす計画を立てて笑った。
街以外の場所にも沢山連れて行きましょう。きっとそしたらもっとお人形さんが輝くだろうから。




