『聖女』と『魔女』はロージャス王国へ ⑤
2/6 二話目
シアはとても優秀な『聖女』である。
あのぼんくら王子でなければ、捨てられることなんて全くなかっただろう。
その『聖女』であるシアのことを、ロージャス王国に留まってほしいと思うのも当然だろう。
私はその言葉を聞いて、何とも言えない気持ちだ。
私は可愛いシアを、ロージャス王国に返すつもりはない。だって可愛いお人形さんが、私の側からいなくなるなんて嫌だもの。
でもこれでシアを攫うように連れ帰ったら、シアに嫌われてしまうだろうか。
そんなことを考えると私はちょっと悩みそうになる。でもシアが例えばロージャス王国に帰る道を選んだとしても、私はシアを無理やり攫うっていうのは決定事項だけど。
そう思いながらシアを見ていれば、
「――申し訳ございません。リッカルバ様」
シアははっきりとそう言った。
「その申し出は、ファニー様に会わなかったら、頷いたと思います。私にとって『聖女』であることは全てだったから。だけれども、私はファニー様に会いました。私はファニー様が許してくれるならば、『聖女』としてではなく、ただのファニー様のシアとして生きたいって思っています。だから、申し訳ございません」
シアが、私のことを選んでくれた。
私のお人形さんであることを、私のシアであることを選んでくれた。
私はそれが嬉しくてにこにこと笑ってしまう。
「――そうか。それならば仕方がないな。ただ、出来る限り望みがあるなら聞くから言ってくれ」
「はい。あ、でも、ファニー様が許してくれるなら時々はロージャス王国のために『聖女』の力を使うことは問題ありません」
「ふふふ、良いに決まっているわ。私の可愛いシアが望むなら時々ならロージャス王国に連れて来てあげる」
何だか嬉しくなって、シアに抱き着く。シアは「きゃっ」と小さく悲鳴をあげながらも嫌がらない。うんうん、可愛い!!
王弟はそんな私とシアの様子を見て、驚いた様子を浮かべている。
だけど、そんなまわりの反応なんて関係ないわね!
それにしてもアダイは何だか興奮した様子でこちらを見ているのだけど、どうしたのかしら?
可愛い私のお人形さんは、『聖女』としての力も強くて、見た目もとっても綺麗で、何処にでも行ける。
名誉が回復すればそれこそ、引く手数多になる。だけれども、シアは私の傍にいることを選んでくれたのだ。
そんな可愛いシアのためにならなんだってやってあげたくなる。
こんな風に私が誰かのために何かをしたいと思うのも珍しくて、自分で自分が不思議な気持ちになった。
それからロージャス王国の王位は王弟が継いだ。突然の王位交代にロージャス王国の国民たちは大変驚いたらしいが、そのあたりはロージャス王国の王が病に倒れていて王位を継続できないことや、王子がやらかしたことを王弟とアダイたちが説明をしていたらしい。
私とシアも王弟とアダイに頼まれてその場にいた。
シアの名誉を回復させるための行事でもあったからね。シアの名誉は、新しく王になった王弟とアダイの名において回復した。
そしてシアは親しくしていた人たちとも再会して、嬉しそうにしていた。
私のシアを慕ってくれている子たちに会えるのは良かったわ。そういう親しくしていた人たちと会ったらシアは帰るって言いだすんじゃないかなって私は思ったけれど――シアは私の元にいてくれるっていってくれたの。
ちなみにシアを蔑ろにしていた公爵家の評判は悪くなっているわよ。
シアの名誉が回復したからって、シアを取り込もうとかしだしたからちょっと痛い目に見てもらったの。シアに内緒でね。
それにしても厚かましい連中だわ。
「ねぇ、シア。本当に私のお人形さんのままでいてくれるの?」
「はい。ファニー様。それにファニー様は、私のことを離すつもりはないですよね?」
「ふふ。よくわかっているわね。シアが帰るっていったら攫うつもりだったわ。だってシアは私の可愛いお人形さんで、私の物だもの。よく私のこと、分かってくれているのね。シア」
森の中の家に帰る前に、そう言った会話をシアと交わした。
シアは、私がどういう性格をしているのかもわかった上で、自分の意志で私の傍に居てくれていようとしているらしい。
私はシアが逃げたり、このロージャス王国に帰ろうとしたら攫う気しかない。
私は自分のものは誰にも取られたくないし、その意志なんて気にしないもの! 私が飼うって決めたシアが、私が許可していないのにどこかに行くなんて嫌だもの。
シアに嫌われたらどうしようかなと思っていたけれど、シアは怯えも何もなく笑っているわ。
「一緒に過ごしていれば、ファニー様のことは分かりますよ。私はファニー様が怖いからファニー様の傍にいることを選ぶわけじゃないです。私はファニー様のことが大好きだから、自分の意志で、ファニー様のお人形でいたいんです
「はぁ、滅茶苦茶可愛いわ! ねぇねぇ、ちゅーしていい?」
「はい」
そして頬を染めて頷いたシアに沢山ちゅーをした。
その後、私はシアを連れて森の家へと戻った。