『聖女』と『魔女』はロージャス王国へ ④
アダイがとても張り切って良い笑顔で行動中の間、私が何をしていたかというと――、王位に全く興味がないという王弟を辺境から攫っていた。
あのぼんくら王子以外に王位を継げる存在で。良い人選っていうと王弟だったからね。
シアは王弟とも会ったことがあったらしく、シアを連れていったのよ。
もちろん、あの馬鹿王子やターシリーとかいう『聖女』もどきのことは動けないようにしてからだけどね。
突然やってきた私に王弟を慕う連中が向かってきて面倒だったけれど、王弟は私の実力をすぐ把握出来たらしく、すぐに王都に行くのを頷いてくれたのよね。
私を敵に回すよりも、私の言うことを聞いた方が良いってちゃんと分かっていたみたい。
やっぱり戦闘職で、相手の実力を分かるタイプの人間だと私の実力も分かるし、話が早くていいわね。
私はこうやって物分かりが良い子は好きよ。
「……まさか、オルタンシアにそう言う真似をしていたとは」
「リッカルバ様のせいではありませんよ」
それにしてもシアは優しい子だわ。
王都での出来事に興味がなく、シアが大変だった頃を知らない王弟を許していて、うん、優しくて可愛いわー。
というか、自分の甥が『聖女』を蔑ろにするような愚かな真似をするとはこの王弟も思っていなかったのだろうとは思う。普通に考えてあの王子がおかしかったしね。
それにしても中々まともそうだから、立派に王をやってくれるんじゃないかなと思う。
「ねぇ、王弟。貴方が王位を継ぐことになるわ。エルラーサ教の司祭がちゃんとあなたの行いを見るから、馬鹿な真似はしないように。あとシアの名誉を回復させなさい」
「……もちろんだ。それにしてもまさか、『死の森』の『魔女』がロージャス王国に関わってくるとは思ってもいなかった」
「あら、貴方私を知っているの?」
「文献で見た程度だ。だが、『死の森』に住まう『魔女』に手を出してはならないというのは書かれていたから」
「ふぅん。そうなのね。その通り、私は自分に対して敵対する存在に容赦しないわ。正直政治に関しては興味はないけれど、可愛いシアのためよ」
それにしてもやっぱり王族でも、私が『封印の聖女』と呼ばれていたことまでは流石に知らないみたいね。まぁ、知っていたら知っていたで驚きしかないわけだけど。
エルラーサ教だからこそ、その情報を受け継いでこられたのだろう。そのことにはほっとした。
だって『聖女』なんて柄じゃないし、『封印の聖女』様なんて言われて色んな人が寄ってきたら面倒だもの。
そして王弟を連れて、ロージャス王国の王宮へと戻った。
すっかりアダイは神殿騎士たちを使って上手いことやっていた。やっぱりエルラーサ教の有権者として、有能なのねと思った。
「ファニー様、王弟殿下を連れてきてくださりありがとうございます」
「シアのためだから当然よ。アダイもよくやっているわね」
「はい! ファニー様の期待に答えるのは当然ですから」
アダイはそんなことを言いながら嬉しそうに笑っている。
王弟はその様子を見て驚いた様子を浮かべていた。アダイがこういう表情を浮かべているのは珍しいのかもしれない。そして「『魔女』に大司教が懐いているとは」と口にして、アダイに睨まれていた。
アダイは王弟に王位を継ぐように告げて、何よりもシアの名誉を回復させることを約束させていた。私が可愛がっている可愛いお人形さんだから、そう言ってくれているのね。
ターシリーは『聖女』としての力が弱かったから、結界を上手く張れていなかったので、その補完をするためにも一時的にエルラーサ教から『聖女』が派遣されるという話になっているようだ。
私には正直、ロージャス王国がどうなろうともどうでもいいので、シアと戯れている。
「ファニー様、ありがとうございます」
「ふふ、可愛いお人形さんのためだもの。シアは本当に可愛いわ」
シアの頭を撫でまわす。
それにしてもお礼なんていいのに。
私がお気に入りのシアの望みをかなえるのは当然のことだもの!
シアの味方をして王宮から離れていた人たちも王宮に呼び戻すみたいな話で進んでいるらしくて、その話を聞いたシアは嬉しそうに笑っていた。
シアは可愛いわ!
一通り話を聞いた王弟殿下は何か私たちの元へやってきた。
突然、王位を継ぐことを言われて色々考えているのだろう。
「オルタンシア、俺の甥が申し訳なかった。幾ら王都を離れていたとはいえ、王族でありながらこの国がこのような状況になっていることを把握できなかったのは俺の責任だ」
「それはリッカルバ様のせいではありませんから、謝罪はいらないです。それにああいう目にあったからこそファニー様に出会えたので」
本当にシアが可愛いことを言っていて、大真面目に話している場なのに思わず抱きしめたくなったわ。
だけどほのぼのした気持ちは、次の王弟の言葉になくなっていく。
「オルタンシア。ロージャス王国のためにも『聖女』に戻るつもりはないだろうか? この国が君に酷いことをしてしまった償いをしたい。それにこの国には君の力が必要だ。もちろん、望むものは出来る限り与えよう」
――王弟は縋るようにシアにそう言ったのだ。




