『聖女』と『魔女』はロージャス王国へ ①
私とシアは、アダイたちと一緒にロージャス王国へと向かうことになった。シアへ煩わしい干渉をどうにかするために、即急に行動したいと言う私にアダイは笑顔で頷いてくれたのだ。
というか、アダイは私の言葉を否定するつもりは全くないらしい。そんなのでいいのかしら? と思うけれど、使えるものは全て使うわ。
「ファニー様が望むのならば、すぐに行動いたします。こちらからは少人数ですが聖騎士を連れて行きましょう。向こうが武力行使をしてきたとしても、ファニー様がいればどうにでもなると思いますが……ファニー様、私共のことも守ってくださいますでしょうか」
「ふふ、いいわよ。貴方達ぐらい私が守ってあげる。まぁ、まともな神経をしていたらエルラーサ教に手を出そうなんてしないでしょうけど」
「ファニー様、まともだったらそもそもオルタンシア様のことを『悪女』と言い放って、『死の森』に追放などしません」
はっきりとそんなことを言うアダイに思わずくすくすと笑ってしまう。
本当にその通りなのだ。
まともな神経をしていたら、『聖女』という特別な存在を追放などしない。そんなことをしたらどうなるのか、というのを目に見えて分かるはずだ。
それでもそんなことを行ったと言うだけでも、頭がおかしいと言える。
「それにこんなにもシアは、可愛いのに! 可愛くて一生懸命なシアのことを、可愛くないなんていう連中なんて目が節穴なのよ!」
「ファ、ファニー様! アダイ様に何を言っているの」
「何をって、可愛いシアを布教しているのよ。こんなに可愛いシアのことを蔑ろにする存在なんて、全員ぶちのめしたいもの」
可愛い私のお人形さんを、蔑ろにする存在に対して、私は嫌な気持ちで一杯なのだ。
それにしても私の言葉に、恥ずかしがっているシアは本当に可愛いわ。こんなに可愛くて愛らしい存在は他にいないわよね。
ちなみにアダイが連れていくことにした聖騎士たちは、私のことを正しく知らない人たちみたいで、私とシアのことを訝し気にみていた。アダイが私の許可を取ってから『封印の聖女』についてのことを語っていた。
……何だか目の前で自分の事を語られると、何だかむずむずするわね!
シアもキラキラした目でその話を聞いているもの。でもシアが楽しそうだから、少しむずむずしてもいいわ。
それにしても周りにとって肩書というのは、重要なものなのよね。
私のことを不審な存在だと思っていた聖騎士たちは、アダイの話を聞いているうちに目を輝かせていった。私がただの『魔女』だったらこんな目は向けないだろうから、やっぱり私がエルソッラと一緒に色々やったことはエルラーサ教によって特別な役割を持つらしい。
私はやりたいようにやっただけなのだけど。
ひとまず、ロームや他のドラゴンたちを呼んだわ。
流石にロームだけで全員のせるのも難しいもの。ドラゴンでロージャス王国に行けば、向こうの度肝を抜けるはずだわ!!
私の可愛いシアにちょっかいを出すものたちをつぶすのよ! 再起不能にしてやりたいわ。
「……ファニー様」
「あら、シアは何か不安な気持ちになっているの?」
「こんなに大事になると思っていなかったので、私のためにエルラーサ教が動くことに……ちょっと怖気ついてしまって……」
「まぁまぁ、可愛いわねぇ。いいのよ。何も気にしなくて。だってアダイたちが望んで私たちの味方をしてくれるって言っているのよ? それにシアは私の大切なお人形で、私のものなんだから、堂々としていていいの。アダイたちが味方になってくれるのも当然で、使えるものを使えばいいのよ」
私がそう言ったら、シアはくすりっと笑った。
「ファニー様らしいですね。私も、ファニー様のお人形として、ファニー様のようにもっと、堂々としたいなって思います」
「ふふ、きっとそうなったら素敵だわ。貴方はもっと魅力的になるわ」
そんな会話をしながら私とシアはロームの上へと乗り込む。
ローム以外のドラゴンに乗る事も出来たけれど、ロームが私たちを乗せるって言い張っていたのでロームに乗った。
それにしてもアダイも聖騎士たちも、ドラゴンに乗るのは初めてみたいで少し時間がかかっていたわ。
ドラゴンたちは彼らを乗せるのを少し嫌そうだったけれど、私の望みだからって乗せてくれたの。
このままロージャス王国に向かう。
空の上から見下ろすロージャス王国の王都を見渡す。結構栄えているわね。でも確かに結界は弱いっていうか、こういう結界なら魔物が突破しても仕方がないなって感じね。
それにしてもあんまり綺麗じゃない結界だわ。エルソッラの結界はとても綺麗で、洗練されていたから、それと比べると心惹かれないわね。
下の方がざわめいている。
私たちに向かって魔法を放つものもいたけれど、私が全て相殺した。
「オルタンシア、貴様!!」
そして、下の方からシアに怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。