『聖女』と話す昔の話 ④
ロームの上に乗って、エルラーサ教の本部へと向かっている。
シアと手を繋いだままだ。それにしても色々考え込んでいたり、不安がっているシアって本当に可愛くて愛らしいわ。
「シア、何を考えているの?」
「……私の、想像が間違っていなければファニー様ってすごい人だと思うんです。偉大な人だって」
「あら、急に褒めているの?」
「いえ、エルラーサ教に影響を与えるだけのものを個人が持っているという事実を見るに、やっぱりファニー様って『暁光の聖女』エルソッラ様と一緒にこの大陸を邪神から守り抜いた英雄様ですよね?」
「あら、英雄なんて柄じゃないわよ! 確かに邪神をどうにかするためには動いたけどね。だって邪神の支配する世界なんてつまらないでしょう? 私は邪神の支配する世界なんて気に食わなかったし、エルソッラに誘われたから一緒に行っただけよ」
英雄なんて呼び名、嫌いなのよね。
一般的にはエルソッラが今に伝えられている英雄で、『聖女』で、有名だけどあの当時邪神をどうにかするために動いた人たちって総じて一部では英雄扱いされてたりとか、伝わってたりとかもするのよね。
私はそういう扱いより、『魔女』扱いの方がいいわ! そっちの方が私らしいもの。
でも何だかシアがキラキラした目で見ているから、ちょっとだけ嬉しくなった。むず痒いし、私らしくはないけれど……まぁ、人によっては私も英雄に入っているのかもね。そんな自覚も自負もないけど。
「やっぱり! うすうすそうって思ってました。というかそれなら『魔女』なんて自称しなくていいのに……。『魔女』って自称するだけで敵視する人もいるのに……」
「最初のシアみたいに?」
「……そ、それは忘れてください!!」
そういえば一番最初にシアには、神力で攻撃されたのよね。
そう考えると、シアが抱きしめさせてくれたり、キスさせてくれたり、今も手を繋いでくれたり――シアはとっても私に懐いてくれているわ。
嬉しいことだわ!
「……エルソッラ様以外の方々ってあんまり記録に残ってないんですよね」
「エルソッラが一番目立っていたもの。それにエルソッラは後々のことも考えて、自分の名を盛大に残すことにしたのよ」
「……ファニー様も、凄い方だから、きっと活躍されたと思うのですけど。私の神力をどうにか出来たぐらいですし、きっと『聖女』としても活躍していたのでは?」
「まぁ、回復したりとか、『聖女』っぽいことは柄にもなくしたわよ。でも『聖女』扱いなんて嫌だもの。祭り上げられたくないから、そんなのエルソッラに押し付けたわ! それに別に英雄扱いもされたくないから、エルソッラに私の名前残さないように頼んだしね」
私って、今も生きているぐらいだし寿命がとても長いもの。
私の場合、魔力が多くて、色んな要因が重なって身体が適応して、ほぼ不老って状況になったわけだけど。
そんな長生きする私にそういう称号とか逸話とか散々残されていたら自由に出来ないじゃない! まぁ、流石に長命種の人間以外の種族には一部正確に伝わってたりするけどさ。
そもそも『聖女』とか、英雄とかそんなの私の柄じゃないもの。
だから思いっきり祭り上げられそうになったけれど、エルソッラに全部押し付けたのよ。エルソッラは「ファニーらしいわ」って言って笑っていたわ。
何だかエルソッラのことを思い出すと懐かしくて、思わず口元が緩んでしまうわね。
「ファニー様らしいというか、何というか……。だからファニー様ほどの実力者の当時の名前や功績が残ってないんですね。ロージャス王国で王太子妃として、第一の聖女として『暁光の聖女』様に関する書籍は散々読んできましたが、ファニー様のファの字も見当たりませんでしたし……」
シアがくすくすと笑いながらそんなことを言う。
こうやって静かに笑うシアも可愛いわ。ドラゴンの上で美しく笑うシアは誰よりも綺麗で美しい私の自慢のお人形さんだわ。
エルラーサ教の神官たちに可愛いシアを自慢できると思うと嬉しいわ!
沢山自慢しちゃうわよ。私の可愛くて綺麗で、お気に入りのお人形さんなんだって。
そんな気持ちで神聖国家のエルラーサ教の本部にロームに乗ったまま向かった。凄く騒ぎになってたし、攻撃してくる者もいたけれど全部はじいたわ。
私とシアがロームの上から降りると、警戒したような顔をした神官や神官騎士たちが私たちを囲んでいたわ。私と手を繋いでいるシアは不安そうにしている。
さて、どうしようかな。
エルソッラの首飾りを見せたら納得して話聞いてくれそうな権力者っていないかしら? なんて思っていたら、声が響いた。
「お前たち、武器を下げなさい」
聞こえてきたのは落ち着いた言葉。
そしてざわめく周りを、一瞥し黙らせる男。
――金色の美しい髪と、藍色の瞳を持つまだ若い男。
だけれども周りの様子からしてこのエルラーサ教の中でも有力者なのだろう。
彼は周りを黙らせると私たちに近づいてくる。敵意はない。
だから私も構えない。
そして彼は私の前にひざまずいた。
「お初におめにかかります。『封印の聖女』様、ファニー様」
……なんでその呼び名、まだ残っているのよ!! 私がその言葉に思ったのは、まずそれだった。