『魔女』、『聖女』を拾う ③
10/8 二話目
「私を飼う? 飼うって……、私をどうするつもり!?」
「だから飼うだけよ。私ね、貴方のこと、とても綺麗だと思うの。だからこのまま亡くなってしまうのはもったいないかなと思って拾ったの。貴方がとても綺麗だから私は飼うの。これは決定事項よ。私が決めたんだもの!」
私がはっきりとそう言ってもその疑うような目は晴れない。
私の事をよっぽど警戒しているのだろう。次の瞬間には、オルタンシアの美しい神力がその場で編まれる。
その美しい力に、私は見惚れそうになる。それにしてもよっぽど有能で、強い力を持っている『聖女』だったのだろう。
ただ今は、力が足りない。もっと良いものを食べて、ゆっくり休んだらもっときれいな神力をオルタンシアは編むだろう。
ああ、やっぱり綺麗。
それにしてもどうしてこんなに綺麗で、強い力を持つ『聖女』であるオルタンシアが捨てられたのだろうか。それが私には分からない。
でもまぁ、例えオルタンシアが美しい神力を編んだところで、私にはきかないけどね?
「ふふ、凄いわ。オルタンシア。とても綺麗な神力。オルタンシアの年でこれだけ出来るのは凄いわ。でも私は貴方を飼うって決めているの」
私はそう言って手をかざす。
私だって、神力を使える。私は伊達に長生きしているわけではないのだ。
私は自分の神力を絡めて、力技で美しく編まれたそれを無理やり崩すのはちょっともったいないけれど、仕方がないわ。
「え?」
「オルタンシア、私は貴方を害する気はないわ。ただ飼いたいだけ。その美しい顔がどんな表情をするのか、それを見たいだけ。衣食住は保証するわよ。だからオルタンシア。私に飼われて? 嫌って言っても飼うけどね?」
「……貴方は、何なの。私の力を無効化するなんて……」
「だから私はただの『魔女』。オルタンシアが倒れているのを見て拾っただけの『魔女』のファニー。ただ貴方は私に飼われればいいの」
にっこりと笑ってそう告げれば、オルタンシアは力が抜けたようなぽかんとした表情をする。
その表情もかわいらしいと思う。
「……貴方は」
「私はファニー。ファニーって呼んで」
「ファニー様は……、あの人たちとは関係ない……?」
「あの人というのが誰かは分からないけれど、私は本当に偶然オルタンシアを拾っただけよ。というか、オルタンシアのことは私が拾ったんだから、もうオルタンシアは私のものよ」
それにしてもオルタンシアのかわいらしい声で、「ファニー様」って呼ばれるととても気持ちが良いものね。
私が拾ったから、オルタンシアは私のもの。
「もしね。その人たちがオルタンシアに何かしようとしても、オルタンシアを取り戻そうとしても私はオルタンシアを渡す気はないわ。オルタンシアが嫌がってもオルタンシアは私の所有物だわ。だから大人しくして?」
それにしてもあの人たちっていうのは誰なのかしらね。オルタンシアがこの死の森で捨てられてしまう要因がその人たちなんだろうけれども。
だけど正直それはどうでもいいの。
誰がオルタンシアに何かしようとしても、取り戻そうとしても私がどうにかすれば問題がない。
「……」
「大人しくなったわね。諦めた?」
「……私は、もう死んだようなものだわ。私の居場所はもうないもの。だから、いいの」
「オルタンシア、悲しいこと言っているわね。居場所がないっていうのは、誰にも必要されないって意味? なら私が必要としているから居場所はあるわ。あと、居場所っていうのは誰かに認められ必要とされる場所ではないわ。オルタンシアがいる場所がオルタンシアの居場所よ」
「私がいる場所が、私の居場所?」
「ええ。私は少なくともそう思っているわ。私自身がいる場所が私の居場所。周りに認められることも、必要とされることもいらないの。オルタンシアがやりたいように、好きなように生きている場所がオルタンシアの居場所になるのよ」
人ってのは、必要とされたがるものである。
誰かに認められること、誰かに必要とされること――それを求めて、それがないと居場所がないなんて言う人は沢山いる。
だけど私は正直、周りからどう思われていようともどうでもいいと思っている。
だからオルタンシアがオルタンシアらしく生きればそれが居場所なんじゃないかってそういうのが正直な感想だ。
そんな意見は初めて聞いたとでもいう風に目を大きく見開くオルタンシア。
ベッドの上に座り込んで、私を見るオルタンシアはやっぱり可愛い。
「――というか、もしオルタンシアが誰かに必要とされたいっていうなら、もう私がオルタンシアを可愛い人形さんとして必要としているわ。居場所がないっていうなら拾った私の側がオルタンシアの居場所よ。オルタンシアは、私の可愛いお人形さん。それでいいでしょう?」
私が一気にそう言い切ったら、オルタンシアはこくんと小さく頷いたのだった。
やった!
納得させたわ。
これで可愛いお人形さん――オルタンシアを思う存分可愛がって、飼うの!




