『聖女』を求めて訪れた者たち ②
「お前は何者だ! そこの罪人と関係があるのか!」
「罪人ですって?」
叫んだ男は、その集団の中でも高価な鎧を身に着けていた。あいつがこの集団のトップかしら。
それにしてもシアを罪人と呼ぶなんて……。シアの過去に関係があるのかしらね?
まぁ、正直シアが誰かに取っての罪人であろうと、罪人でなかろうとも、どっちでもいい。そんなのどうでもよくて、関係がない。
シアはシアだもの。
「はっ、お前は知らないのか。その女は王太子の婚約者という立場を利用して好き勝手していたんだ。我が国の『聖女』様に対して殺人未遂を行った悪女だ」
「あらあら、シアのことを酷い言い草ね? 私の可愛いお人形さんが、貴方達を傷つけることも良しとしなかった優しい子がそんな悪女のはずがないでしょう」
私がそう言い切れば、馬鹿にしたようにその男は笑った。
失礼な男だわ。私の可愛いお人形さんがそんなことするわけがないのに。
「はっ、優しいだと!? 冷酷で冷たい女に何を言う!」
「はいはい。貴方がシアのことをどう思っていようが、私にとってはどうでもいいわ。貴方がシアをどう思おうとも私にとってシアは優しくてかわいい子よ。それ以外のなんでもないわ。そもそも貴方達はシアに会いに此処まで来たのでしょう? どうして悪女と決めつけているシアに会いに来たの?」
そもそも不思議よね。
シアを悪女と思い込んでいるのならばそもそも会いに来る必要もないじゃない。それなのに会いに来て暴言を吐くなんて何を考えているのかしらね。
シアは私が口を開いている間も、黙って話を聞いている。時々私の手をぎゅっと握っているのは、少しだけ不安を感じているからなのかもしれない。
「その女が『聖女』様を呪っているからだ!」
「は?」
「『聖女』様は、その女に呪われて上手く結界を張れないでいるんだ。その悪女のせいで我が国は困っている!」
……何を言っているのかしらね。
それにしても聞いている限り、シアに成り代わった新しい『聖女』が思うように成果をあげられていないってことかしら。
そもそも特定の『聖女』に大きな仕事をやらせるなんて非効率的よね。もしかしたらシア一人にやらせてたのかしら。代わりの『聖女』が仕事を出来ないからってシアのせいにしているの?
なんて性格が悪いのかしら。そもそもその子って本当に『聖女』であると言えるほど神聖な子には見えないわね。
「シアは呪いなんてしていないわ。そんなことをしていたら私が分かるわ。そもそもどうしてシアがその子にそんなことをしなければならないのかしら。いいがかりもやめなさい。シアはそんなもの気にしていないわ」
シアから過去を聞いているわけではない。それでもシアを見ている限り、シアは過去のことを気にしていないように見える。
ロージャス王国の『聖女』であったオルタンシアとしてではなく、ただのシアとして此処にいるシアは穏やかだもの。
「……私は新しい『聖女』様に何もしておりません。そもそも嫌がらせもしておりませんし、呪ったりもしていません」
「嘘を吐くな!」
ようやく口を開いたシアの言葉にも、その男は否定する。どうしてそんな風に否定をするのだろうか。シアが自分の思いを口にしているのに。
というか、シアがこの森に捨てられたのもこうやって信じてもらえなかったのだろうか。シアを見ていたらすぐに分かるだろうに。馬鹿な子たちだわ。
「シア、そんな痛ましい顔をしないの。シアは今はロージャス王国の『聖女』であるオルタンシアではなく、私の可愛いお人形であるシアでしょう? だから周りの言葉なんて気にしなくていいわ。誰が信じなくても、私は貴方の事を信じているもの。シアがそんなことをしない子だって私は知っているわよ」
痛ましい顔をしたシアにそう言って笑かければ、シアは小さく笑った。
「ありがとうございます。ファニー様。はい。私はファニー様のお人形です」
可愛いわ!
とても可愛いお人形さんだわ。
思わず可愛いシアの頭を撫でる。シアと笑いあっていたら苛立ったような声に邪魔された。
「お前ら、何をしている! いいからその悪女を渡せ!」
「煩いわね。私は可愛いシアを愛でているのよ。貴方達に邪魔される筋合いはないわ。はぁ、優しいシアが貴方達みたいな馬鹿な子たちも死んでほしくないっていうから此処に来たのに、全くそのあたりのことを考えていないのね。シアの優しさを無碍にして、馬鹿な子」
私はそれだけ告げて、もう話すことなどないと、魔法を行使した。
シアが望まないから、殺しはしない。
私は魔法で彼らを吹き飛ばした。遠く遠く――ロージャス王国方面に吹き飛ばす。彼らは何が起こったかも分かっていないだろう。
でも正直どうでもいい。
それよりもシアが私のお人形であることを言いきったのが嬉しい。
可愛いお人形さんが、私に懐いてくれて本当に嬉しいわ!
「シア、帰りましょうか」
「はい」
シアは私の言葉に頷いて、私の手をぎゅっと握る。
「……あのファニー様、家に帰ったら私が、何で此処にいるか、聞いてもらってもいいですか?」
「もちろんよ」
シアは先ほどの男たちの来訪を受けて、自分の事を私に話してくれる気になったらしい。
私はシアの言葉に頷いた。




