『聖女』が懐いてきた ⑦
私はシアを連れまわすのが楽しかった。
シアは私が何処にシアを連れて行こうとも、普段通り変わらなかった。シアは私に連れていかれて、色んな種族と遭遇していた。
シアにとって初めて見る種族も多かったみたいで、シアは驚いた顔をしていたり、戸惑っていたり、面白かった。
「ファニー様、色んな種族とかかわりを持つことが出来てとても楽しかったです」
「ふふ、シアが楽しんでくれたようで良かったわ」
シアの頭を優しく撫でれば、シアは少しだけ恥ずかしそうにしながらもされるがままである。
やっぱり何て可愛いのだろうか。
ロージャス王国以外の、エルソッラにかかわりがある場所にシアと一緒に回っていったわけだけど、私も久しぶりに訪れた場所が多くて感慨深い気持ちになった。
私とシアが二人でぶらぶらしていると、よく人に声をかけられたわ。私もシアも美少女だから仕方がないわよね。シアは私の後ろに隠れていてとても可愛かったわ。
それにしてもシアは外の世界を知っても、私から逃げようとはしていなくて良かったわ。シアはあくまで私が飼っているお人形さんだもの。シアが嫌がっても逃がす気は全くないのよね。
シアもそれが分かっているからこそ、私から逃げようとしていないのかもしれない。……それともシアが私の傍に居たいと思ってくれているのかしら?
それだったらそれはそれで嬉しいわよね。
「このエルソッラ様が訪れた場所というのは、ファニー様も一緒に行った場所ってことですよね?」
「ええ。そうよ。エルソッラたちと一緒に旅をした場所だわ。まぁ、後から訪れた場所もあるけれど。私、すこーし、眠ってたからその間にエルソッラと一緒に居れなかったもの」
「……眠っていた?」
「ええ。眠っていたの」
眠っていた間に、エルソッラが訪れた場所に目が覚めてから訪れていたのだ。あの当時は私とエルソッラのことを知っている者が多かったから、そういう場所を回るのは今よりも楽だったわね。
「……ファニー様」
「どうしたの?」
「……私は、自分の事を何一つ、ファニー様に言ってません」
「そうね。別に言わなくても構わないわよ?」
「でも私は、ファニー様から話を聞いているとファニー様のこと、知りたいって思ってしまっているんです」
「ふふ、いいわよ。幾らでも話してあげる。何を聞きたいの?」
「ファニー様と、エルソッラ様のこととか、ファニー様が、誰なのかとか」
シアは何だか不安そうにそんなことを言う。
そんな風に不安そうに瞳を揺らすこともなくていいのに。
それにしても私が誰かって、私は私なのだけれども。
「私は私としか言いようがないのだけど」
「んーと、そういうことじゃなくて……周りから見たファニー様がどういわれているかというか、何と呼ばれていたかとか、そういうのも含めて知りたいっていうか……」
「私の話を聞いたらそれが分かるのかしら?」
「そうですね……ある程度は分かるかと」
「じゃあ話してあげるわ。でも私の人生は長いから、話すとしたら長くなるから……、一旦家に戻ってからにしない? シアもそろそろ色々と回って疲れたでしょう?」
「はい!」
シアは私から私の話を聞けると言うのがよっぽど嬉しいのか、その目を輝かせている。なんて愛らしいのかしら。とっても可愛くて、私は笑ってしまった。
少しずつだけれども、私に懐いてきているシアがこのままもっと私に懐けばいいなぁ。
私が私の話をしたらもっとシアは私に懐いてくれるかしら。でも私の人生って、良い事ばかりしているわけでもないのよね。やりたいように、好き勝手に私は生きてきたもの。
シアに引かれてしまったら私は悲しいわ!
「ねぇ、シア。私、結構好き勝手してきたのよ。シアが引くかもしれないこともやっているの。でもね、シアが私のことを知って私から逃げたいって思っても、私はシアを逃がさないわよ? 少なくとも私が可愛いお人形さんを放そうと思うまでは」
そう言ったらシアは、少しだけ目を見開いて、だけど優しく笑ったのだ。
「……逃げませんよ。それに私が知りたいって思って、ファニー様が話してくれることですから。それを聞いて逃げるなんて無責任なことはしないです」
「ふふ、シアはいい子ねぇ」
思わず言い切ったシアの頭を撫でてしまった。
やっぱりシアはとてもいい子だわ。私にとって可愛くて仕方がない子だわ。
そう思うと撫でまわすのも当然よね。
とりあえず一先ず帰宅して、シアに沢山私の話をしてあげましょう!!
私はそんな気持ちでシアを連れて、家へと――『死の森』へと戻ることにした。
そして早速シアに沢山お話をしてあげようと思っていたのだけど……。
「ファニー、森に人が来ているわ」
戻ったら、精霊たちからそんな知らせを受けた。
どうやら望まぬ来訪者が訪れたらしい。集団だって話だし、シアに纏わることかしらね?




