『聖女』が懐いてきた ⑥
私はシアの手を引いて歩けてご機嫌だ。
シアの頭も撫でられたし、とてもいいわね!
シアともっと仲良くなれた気がするわ。
ヤンド帝国を見て回った後は、東と南の国にも言ったわ。それぞれにエルソッラとの思い出の場所がある。
「ファニー様、それにしてもこのあたりにはエルソッラ様の関わる場所が多いですね」
「それはそうよ。エルソッラはこのあたりで産まれたし、邪神が最終的に封印され、消滅した場所は私たちが住んでいる『死の森』と呼ばれる場所だもの」
「え」
シアが驚いた顔をしているけれども、それに笑ってしまう。
「邪神は復活した場所は別の場所だけど、邪神が封印された場所も消滅した場所もあの場所ね。さて、ちょっと遠くに行くからロームを呼ぶわね?」
私は驚いているシアにそう言って、オカリナを吹く。そうすれば、ロームがすぐに現れた。
ロームの上に乗って、飛び立つ。
「次は何処に行くんですか?」
「『死の森』と呼ばれる森の隣接している国だけじゃなくて、他の国だってエルソッラとかかわりがある場所だもの。エルソッラは邪神をどうにかするために、色んな場所にいったもの」
エルソッラは、本当に行動的な『聖女』だった。そして周りを導く光であり、先導する光でもあった。
エルソッラがいたからこそ、この世界は夜明けを迎え、絶望の世界が終わった。
そう考えるとエルソッラって本当にすごかったわね。私は今の所、あの子以上の『聖女』を知らない。まぁ、今目の前にいるシア以上に可愛い子も知らないけれどね!
シアと一緒に、『死の森』よりずっと東にある、山脈を幾つか超えた国へと向かった。途中で休憩もする。あと知り合いの場所に向かったりもした。私の知り合いは長命種の、人以外の種族が多い。
そういう年を重ねた種族は、私のこともよく知っているのよね。
「……何だか、ファニー様と一緒に居ると知らない世界がどんどん広がりますね。それにしても過去の時代は今よりもずっと、異種族の方々ともかかわりがあったのですね」
「それはそうよ。邪神がいたからこそ、どんな種族でもまとまらなきゃいけなかったもの。今はそういうのがないでしょう」
今、目の前にはエルフたちがいるのだけど、シアはそれを見ながらぽーとしているわ。まぁ、彼らはとても美しいもの。
彼らは自然豊かな場所に基本的に引き籠っていて、あまり表に出てこない。遠く離れた場所にはエルフの国と呼ばれる場所もあるけれど、そこに住んでいないエルフも多くいるわ。
もっとも、エルフたちはその寿命が長い分、そこまで数はいない。でも彼らはとても強い。そういえばエルフの中にも、エルソッラに恋慕していた奴がいたのよねえ。ふられていたけれど。
そういえばあいつ、エルソッラにふられてから旅に出るとか言ってその後はあまり知らないのよ。一、二回しか会ってないわ。
「それにしても、美しい人たちが多いですね」
「エルフだもの。そういうものよ。でもシアの方が綺麗だわ」
「いえ、そんなことはないと思いますけど……」
「本心よ」
シアはエルフと交流したことがそこまでないみたい。最近ではそこまで人の国に顔を出すエルフも少ないみたいなのよね。エルフの国周辺では別だけど、人とエルフの距離は大分遠いわ。
あとエルフは強いから問題はあまりないけれど、見目麗しいエルフを奴隷にしたいって行動する馬鹿もいるのよね。
「ファニー様は、エルフの方々にも慕われていて凄いです」
「昔からの仲だもの」
「……私はそこまでよく思われてないですね」
「元々ここの連中って、人が好きでもないもの。それに私の事を慕っているからこそ、シアが何か企んでないかって思っているのかもしれないわね」
「ファニー様って本当に、自信満々になんでもいいますよね。自分を誰かが慕っているって私は、言えないです……」
「だって本当のことだもの。シア、貴方が自信満々に言い張っていい事が一つあるわよ」
「なんですか?」
「私が貴方を世界で一番可愛いお人形さんだって思っているってことよ」
「え、いえ、それは流石に……」
私の言葉に恥ずかしそうに頬を染めるシア。やっぱり可愛いわね!
それにしてもエルフたちは相変わらずシアのことを嫌な目で見てたりもするわ。私が連れてきた相手だからこそ、追い出しはしないけれど……まぁ、仕方ないわね。
エルフの中でも魔力とか、産まれで寿命の長さが異なるから、エルソッラの事を知るエルフも少しずつ数を減らしている。
いずれ、エルソッラのいた頃のことを覚えている子も少しずついなくなるのでしょうね。
「ファニー様、どうかしましたか?」
「少し考え事をしていただけよ。それよりもシア、エルフたちは少し気難しい所はあるけれど、シアなら仲良くなれるわ。私の可愛いお人形さんならきっと出来るわ」
「……私、仲良くなれるように頑張ります!」
「ええ。私もシアがエルフたちと仲良くなってもらうと嬉しいわ」
そう言って私がシアの頭を撫でれば、シアは笑った。