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『聖女』が懐いてきた ④

 その場に現れたのは小さな魔物である。兎の見た目をした小さな魔物。角は生えているけれども、そのぐらいしか攻撃力はない。


 このあたりには強大な魔物も多いけれど、ああいう小さな魔物もいるのよね。




「え、えっと」




 シアは戸惑った表情のまま、だけれどもしっかりと魔物を見据えている。

 此処で私の助けを呼ばないところを考えると、やっぱり肝が据わっているというか、戦おうとしているのだ。




 少しの付き合いでも私が手出しをしないというのが分かっているのだろう。シアが今、手にしているのは、私が準備した長剣である。木剣ではなく、真剣を渡してある。



 その長剣を振りまわして、あてようとする。

 けれどもやっぱり今まで戦闘らしい戦闘なんてしたこともなかったから仕方がないとは思うけれども。



 殺傷力はそこまでない魔物だろうとも、怪我ぐらいはするからちょっと危なっかしいわね。

 それにしても可愛いお人形さんが、傷つけられるのは嫌だわ。とはいえ、少しの傷ぐらいならすぐになおせるけど。ただ過保護にしすぎても、シアのためにならないでしょうし。




 そんなことを考えていると、シアがその鋭くとがった角を避けて、よろめいた。

 あらあら、どうしようもなさそうね。このままだとシアがまずそうだわ。一旦、私がどうにかしましょう。


 そういうわけで、剣で、魔物を一刀両断する。

 



「あ、ありがとうございます」

「さて、シア、次行くわよ」

「え?」

「まだまだよ。実戦経験は大事だもの。戦闘に慣れていないなら急所を狙うのもありよ。目とか、口とか、五感をどうにかすれば魔物でも人でも動きは鈍るもの」



 私がそう言ってシアを立たせれば、シアは戸惑いを見せる。

 だけど私の言葉にシアは立ち上がる。うんうん、いい子だわ。



 そういうわけで引き続きシアでも相手に出来そうな魔物がいたら相手にしてもらっている。

 けれどやっぱり倒せないわね。もっと美しくかっこよく戦ったシアが見たいのだけど。でもすぐには無理だわね。


 そういうわけで何体かの魔物の相手をさせた後は、ゆっくり休むことにした。



 シアに野宿のやり方など知りたい? って聞いたら、知りたいと言われたのでキャンプしている。



 私は野宿だって昔散々したからこういう外でのキャンプの方法も知っているのよ! それにしてもシアはやっぱり箱入りの『聖女』だったんだなって感じだわ。



 テントを張って、その中に簡易ベッドを作る。シアはこういうところで眠ることもあまりなかったみたい。まぁ、ボロボロになってた時はふかふかのベッドでは眠れなかったかもしれないけれど。それにしてもああやって私に拾われるまでの辛い生活はどのくらいの期間だったのだろうか?



「ファニー様、こうしてテントで過ごすのも不思議な気持ちです」

「シアはこういうところで眠ったりしなさそうだものね」

「……そうですね。外で眠ったことはありますが、それもこういう風に意図的に外で休むのはないですね。どこかに向かう時も村や街で休んでばかりでしたから」

「そうなのね。じゃあシアの初体験が沢山あるのね。今回は。こうして空を見るのも楽しいでしょう? 夜になるとまた目の前の風景が変わっていくのも見るのが楽しいわよ」

「ふふ、そうなんですね」

「ええ。それにしても今の『聖女』はあまり外に出ないのかしら?」

「そうですね……。私は外に出ることはあまりなかったです」




 シアと一緒に並びあって、テントの外で空を見上げる。

 こうしてのんびりと空を見上げるのも楽しいわね。




 そうしてシアと一緒にのんびりと過ごす。魔物は寄ってこないようにしている。シアを鍛えるのはやっぱり少しずつだわ。一気に教え込むと嫌がられるかもしれないもの。



 


「シア、ご飯作りましょう! 山菜はシア、分かる?」

「わかりません」

「ふふ。じゃあ教えてあげるわ。一緒に採取をしましょう」



 シアは知らないことも多い。


 私が拾ってから一緒に過ごすようになって、色々教えているけれども……まだまだ教えることは沢山だわ。



 そもそも山菜の種類は山ほどあるのだから、すぐにすべてを覚えることは難しい。少しずつでもいいから教えないとね。可愛いお人形さんが知識をどんどん付けたら、きっともっと素敵なお人形さんになるわ。




「シア、それは似ているように見えるけれど毒があるわよ。毒抜きをしないとどうしようもないわ。毒薬を作るなら別だけど」

「毒薬……」

「そんな難しい顔をしなくていいわよ。別に誰かに使おうとは思ってないわよ?」

「ファニー様がそんなことをするとは思ってません。でも……毒薬が簡単に作れるというのは恐ろしいなと思ってしまって」

「こういうのはどうやって使うか次第ね。それに誰が持っているか次第でどうにでもなるものだわ。毒づくりって知識があれば簡単に出来るもの」

「……私は毒に陥った人がいたら助けられるようになりたいです」

「シアには『聖女』としてのそういう力があるじゃない」

「そうですけれど、その力だけでは足りない部分もあるかもしれないですよね」

「まぁ、そうね。ふふ、私が教えられることなら幾らでも教えるわよ」



 それにしてもシアはやっぱり拾ってすぐの時よりは元気になったなと思って、少し嬉しい。



 そして採取した山菜で料理を作って、夕飯を食べて私たちは眠りについた。ちゃんと危険が来ないように魔法を使っていたので、とても快適に過ごせたのよ。




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[一言] 向上心があるのは良いこと
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