『聖女』が懐いてきた ④
「はぁ、はぁ……」
シアの息切れが聞こえる。
お弁当を食べた後にシアに稽古をつけている。
私が準備した木剣で、私とシアは打ち合いをしている。魔物がいたらシアに戦ってもらうのもありかなと思っていたのだけど、中々魔物がいないのよね。
このあたりの魔物は石碑があるからこそ、魔物の間引きをしているのだろうとは思うけれど。
魔物が出てきたらとりあえずシアが相手に出来そうなレベルなら少し戦ってもらってもいいかも。
そんなことを考えながら汗だくのシアを見る。
それにしてもシアは、木剣を振り回すのも苦手みたい。
やっぱり力が足りないからかしら。でも『聖女』としての力があれば、どれだけ傷つこうが自分を回復し続けるといったことも出来るのよね。
素質的には十分だから、戦う力まで身に付けたらきっとシアは誰にも好き勝手されないような、自分の意思を貫けるような存在になれるはずだもの。
「ファニー様は……『魔女』なのに、剣も、凄い……」
「世の中には色んな相手がいるのよ。魔法だけではどうしようもない存在が少なからずいる。だからこそ、そういう相手と遭遇した時に、戦って勝てるような力があった方がいいわ」
「……そうですね」
シアは私の言葉に頷く。
その表情を見るに、シアがボロボロだった原因の一つにシアの『聖女』の力ではどうしようもないことが起きたからだというのが分かる。
それにしても『聖女』は結界を張れるから、よく考えたら結界を上手く使えばボロボロになることも少なかったはずなのよね。やっぱりそれだけ疲弊させられていたってことと、シアを好きなようにしようとする力が強かったってことかしら。
やっぱり『聖女』であるシアが身体を暴かれた状態になったのは、国自体がシアを排除しようとしたのか、それとも国の権力者がシアを排除しようとしたのか。
どちらにしても国全体で排除しようとしたらその国は色々終わっていると思う。
「シア、もっと体力つけましょうね。私の力で強化しても、それはシアの力じゃないもの。ちゃんとシアの力で強くなった方がいいわ」
息切れ一つせずに、にっこりと笑って言えばシアの私を見る目に少しだけ力が入った。
私の事を見直してくれたのかしら。とっても可愛いわ。
もっとシアにとって、憧れられる存在にならないと!
シアにもっと懐いてもらえたら嬉しいものね。なんて考えて、張り切りすぎてしまった。
「はぁはぁ」
結果としてシアは疲れ切って座り込んでいる。
シアに聖水を飲ませてゆっくりしてもらう。魔法を使って、汗などをなくしてあげる。身体を清潔に保つための魔法も結構使えるのよ。
そういう生活魔法も使えると便利だもの。
「シア、剣を振るってみてどう?」
「疲れます。……騎士の方々は、こんなものを振り回しているんだって思うと、凄いって思います」
「ふふ、そうね。騎士も冒険者も、武器を使う人は凄いわよ。私なんて主に魔法メインだから、剣の腕だけで言えば全然敵わないもの」
エルソッラと過ごしていた頃の知人。まぁ、ある意味友人と言えるかもしれないけれど、喧嘩友達というか、私は魔法で、あっちは剣を扱ってたから、戦いの方向性は全然違ったけれど。
それでも互いに良い訓練相手だった。剣を使った相手との戦い方を学べたし。本当に熟練の技を極めている人に関しては魔法だって斬るし。
まぁ、今の時代、見た感じそういう人ってあまりいなさそうだけど。
邪神がいた頃だと、邪神に対抗するためにって皆必死だったけれど、今は邪神の復活した時代とは違うから、仕方がない。共通の敵がいなければ、生命の危機に瀕しなければそういう風に必死になる人は少ないし。
私もちょっとした魔法ぐらいなら剣でどうにかできるわよ。でも魔法の方が楽だから、魔法でやってしまうけれど。
「……私が、剣を使えるようになったら、ファニー様は喜んでくれますか?」
「ふふ、もちろんよ」
――シアは、居場所をなくしたような小動物なよう。何をしたらいいのか分からなくて目標もない。
でもシアは私の言葉に小さく笑って、剣を使えるように頑張ろうと口にする。
少しずつ前向きになってきているのかしら。
「シア、剣が使えるようになって、もっと強くなったら、何だって出来るのよ。私は力をつけたからあの森で好き勝手やっているし、シアもそうなれるわ」
そしたらシアは何を成すのかしら?
今のシアの様子だと復讐とかはしないのかしら?
それともただそういうことを許していくような『聖女』らしさを見せるのかしら?
そういうのを考えると、気持ちが高揚してくる。シアの新しい姿をどんどん見れるのだものね!
そんなことを考えてワクワクしていたら、丁度魔物の気配がした。
強さは、そこまで強くなさそうだわ。
「シア、早速魔物と戦ってみましょうか」
「え?」
シアは私の言葉に何を言われたか分からないといった表情を浮かべている。そしてその言葉を理解したのか、顔を青ざめさせた。