『魔女』、『聖女』を拾う ②
私は『聖女』をベッドに寝かせている。
穏やかな寝息を立てて眠りについている『聖女』はやっぱり綺麗だ。
それにしても此処は死の森と呼ばれている場所なのもあり、生きている人間が訪れることはまずない。
だから私がこうして自分の家に誰かを招くのは久しぶりのことである。
私の家は、死の森と呼ばれる森の奥深くに存在している。
どうしてわざわざ此処に住んでいるかと知人から聞かれたことはあるけれど、人と関わり合いをそこまでしたくないからというのが一番の理由だ。
私って、あんまり人から関わられるのが好きではないのよね。ほら、私って可愛いし、魔法も大得意だし、回復魔法も使えるしで、色んな人が今までやってきたもの。
そう考えると私が自分からこうして生きている人間を拾うのは珍しいのよね。
それにしても『聖女』を見るのも久しぶりだわ。『魔女』と『聖女』ってある意味対極の立場の称号だわ。
だからこそ『聖女』が落ちているなんて面白い状況だわ。
このお人形さんをどんな風に飼おうかしら?
やっぱり『聖女』としての立場だと、私に飼われることを拒否するのかしらね。
国によっては『魔女』は倒すべき存在なんて風に『聖女』に教育をしているような国もあるのよ。
いってしまえば『魔女』なんていうのは一つの称号でしかないのに、その称号だけで世界を害するものなんて思い込んでいる人もいるのよね。
私の事を討伐するって息巻いていたものたちもいたし。
もし『聖女』がそういう性格だった場合は、ちょっと可愛くないかも。でも見た目が人形みたいだから拾っているわけだし、折角珍しい『聖女』が落ちていて飼うことを決めたのだから、ちゃんと教育をしたらいいのかしら。
こんなに可愛いのだから、やっぱり声も可愛いのかな。
可愛い声だととてもいいわよね。でも予想通りの声じゃなくてもそれはそれで面白いけれども。
「『魔女』様、とても楽しそう」
「楽しいもの。そうだ。貴方達、この『聖女』を連れ戻そうしている連中がいないか探してきて」
私は自分の拾ったものを、誰かにあげるつもりは全くない。
『聖女』は酷い状況で死の森に捨てられていたわけだけど、『聖女』という立場の特別さを私は身をもってしっている。
だからこの『聖女』を連れ戻そう、助けようとしている人だってきっといると思うのよね。
とはいっても幾ら連れ戻そうとしても、この死の森を突破出来る人なんてあまりいないだろうけれど。
そんなことを考えながら『聖女』をずっと眺めている。
やっぱり綺麗で、可愛くて――やっぱり元がいいからこそ少しボロボロでも見ていて飽きない。
私は起きたらどんな言葉を発するかなとワクワクしながら『聖女』をじーっと見ていた。
だけど中々起きなかった。やっぱりよっぽど疲れているのだろうか。
そうしている間に精霊たちが戻ってきた。
精霊たちがいうには、『聖女』を探しに来ている人たちはいなかったみたい。
『聖女』って特別な存在なのに、なんてもったいないことをするのだろうか。それにこの『聖女』は身一つで捨てられていた。この『聖女』には何か大変なことが起きたのだろうなと思った。
まぁ、何が起きていたとしても正直どうでもいいのだけど!
そんなことを考えながら過ごしていて、夜になった。
夜になってようやく『聖女』が目を開ける。
「ん……」
『聖女』が目を開ける。
その瞳は、青い瞳だった。
なんて美しい色だろうか。やっぱり想像通りに綺麗な目だなと私は嬉しくなった。
自分がどうしてこんな所にいるのだろうかとでもいう風に『聖女』はきょろきょろとあたりを見回して、その青い目が、私と合う。
益々見開かれた目に、私は思わず笑みを深めた。
「――おはよう、『聖女』。体調はどう?」
「……あなたは?」
『聖女』は私が『聖女』と彼女を呼んだからか、警戒したような目を向けてくる。
反抗的な瞳でも、見た目が綺麗で可愛いから可愛いとしか思えない。それにこうして急に知らない所で目を覚ましたら驚くのも当然だしね。
「私はファニー。貴方達人間が死の森と呼ぶ場所で暮らす『魔女』よ」
「……『魔女』?」
「ええ。私、貴方が倒れていたから拾ったの。『聖女』が落ちているなんて珍しかったから。それで『聖女』の名前は?」
私は『聖女』の名前を知りたかったので、畳みかけるように『聖女』に問いかける。
「……私は、オルタンシア」
「オルタンシアね。素敵な名前だわ! ねぇ、オルタンシア。貴方がどうしてこんなところで倒れていたかなんていうのは正直どうでもいいの。ただ貴方が私の前に落ちていたから、拾ったの。捨てられたものは拾った人のものでしょ? だからオルタンシア。私、貴方を飼うわ」
オルタンシア。
その名前はとても素敵なものだわ。
綺麗な『聖女』にはぴったりで、私は思わず笑った。
オルタンシアは、私の”飼う”という言葉に意味が分からないとでもいうようにその綺麗な目をぱちくりとさせた。