『聖女』が懐いてきた ②
私はシアを連れ出して、シアと一緒にエルソッラとの思い出の場所を巡ることにする。
とはいえ、昔のことなので忘れている部分もあるので、精霊たちにも確認してシアを連れまわす場所を確認した。
エルソッラと過ごした期間は、私が眠ってしまったのもあってそこまで長くはない。だけどエルソッラと過ごした時間は、とても濃いものだったと思う。私の人生の中でも、沢山の思い出を得ることが出来た日々だった。
でも本当にエルソッラとの思い出の場所を巡るとなると、結構遠いのよね。ボロボロだったシアは、此処で過ごしていて元気にはなっているけれども、そんなに沢山連れまわしても大丈夫なのかしら。
そう思いながらシアに聞いたら「問題ないです!」と言われたので、連れていくことにする。エルソッラとの思い出の地には、人の街になっている場所も当然ある。まずは近場から回ることにして、今回もロームを呼びだした。
ちなみにローム以外にも私の足となる子はいるけれども、この前も乗ったロームにしたのはシアが慣れているからというのがある。もっと乱暴な方法の移動方法とかもあるのだけどね。
「シア、まずは近場から行きましょうか。街も通っていくけれど、シアはロージャス王国には行きたくないわよね?」
「……それはその、はい。よくわかりましたね……。何も私はファニー様に話していないのに」
「見ていれば分かるわよ。ロージャス王国の話題で顔を青ざめさせてたしね」
「……今は、まだ行きたくないです。ファニー様に飼われている身で、我儘かもしれませんけれど。ファニー様が絶対に行くって言うなら行きますけど」
「いいのよ。我儘でも。自分の意見を言ってくれた方が、もっと可愛いお人形さんになるもの」
私とシアは、ロームの上で会話を交わしている。
自分の意思を語らない。自分の言葉を口にしない人形よりは、喋ったり動いたり、笑ったりするお人形さんの方がきっと可愛いものね。
「じゃあしばらく行くのはやめましょうか。でもシアがその国に行きたいって思ったら連れて行くからね?」
私の可愛いお人形さんが望むのならば、その場所にだって連れて行こう。そもそもシアに青ざめた顔をさせるような王国って結構どうしようもないのでは? って思っている。
第一、『聖女』をひどい目に遭わせた王国ってだけでも少なくとも上層部はまともではない。
まずはこの前行ったヤンド帝国に向かうことにする。ちなみにエルソッラと過ごしていた頃は、この場所はヤンド帝国ではなかった。六百年もあれば住んでいる人たちも、国も変化する。というか、国でさえなかったはず。
人の寿命は短いからこそ、自分のいる国が存在しないほどの昔なんて想像出来ないだろうけれど、国なんてそういうものだ。
本当にずっと存在しているような国もあるけれど、結局国というのは変化していくものだからこそ、元々の形のままではいられない。私だって、人生の中で色んな影響を受けて変化しているしね。
「――ファニー様、今は何処に向かっているのですか?」
「ドローヴェイ山って知っているかしら」
「知ってます。エルソッラ様が強大な魔物を退治したって言われている場所でしたっけ? 何だかそういう逸話だけ伝わっていた気が」
「そうよ。それよ!」
あの頃は、本当にこの世界に暗雲が立ち込めていた時期だった。
邪神と呼ばれる恐ろしい存在が目覚めた時期だった。だから魔物だって活発化していたし、下手したらこの大陸の人々の数は、もっと減っていたと思う。滅ぶまでは行かないけれど、苦境に立っていただろう。
その邪神があのままこの大陸を支配していたら、大変なことになっていただろうなとは思う。今では懐かしいとさえ感じられるけれども、あの頃の人々はもっと色んなことが必死だった。特に『聖女』は大活躍していた。
『聖女』のおかげで救われた命は多くて、英雄と呼ばれる存在だって沢山いたのだ。
そういう時代だったのだ。
とはいえ、『聖女』や英雄と言われる存在でも時が経てもその逸話も、その功績も人の記憶から薄れていく。私は死んでいった人たちを覚えているし、その当時活躍していた人たちのことを覚えているけれども。
そう言う話もシアは楽しかったりするのかしら?
そんなことを考えながらしばらくすると、ドローヴェイ山にたどり着く。この場所も結構、魔物がいるのよね。というか自然豊かな場所は魔物も生息しやすい場所だから仕方ないけれど。
でもそういう山の上でも暮らしている人たちもいる。こういう過酷な場所で暮らしている人たちって街で暮らしている人たちよりも強かったりするんだよね。
そういえば、まだシアのことは鍛えられていないからこのお出かけの中で教えられることは教えよう。その方がシアも退屈しないだろうし、楽しいだろうからね。
私とシアはロームから降りると、山の中の集落に向かった。その集落は、旅人や商人が時々くるぐらいで、あまり人は訪れないらしい。しかも女二人で訪れるのが珍しかったみたいで注目されていた。