『聖女』を連れまわす ⑪
エルソッラのお墓に行った後は、一旦家に戻った。
シアは、私がエルソッラと友人だということを知って色々考えているみたいだ。何だか思考しているシアも可愛いわね。
「シア、私はこれからももっと色んな場所にシアを連れていくからね。シアをうんと驚かせるような場所にだって連れて行くから」
「……十分驚いています。まさか、エルソッラ様のお墓を拝むことが出来るなんて」
「ふふ、もっともっと驚かせるからね」
「……ファニー様は、私を驚かせたいのですか?」
何とも言えない表情で、シアにそんなことを言われた。
そう言う表情も綺麗な人形さんだから様になるわね。どんな顔をしていてもシアは私の素敵なお人形さんだわ。
「驚かせたいのではないわ。笑わせたいのよ」
「笑わせたい――?」
「ええ。だってシアはとても可愛いもの。可愛い可愛い私のお人形さんが笑ったら、きっと可愛いでしょう?」
そう言って笑かければ、シアはぽかんとした。
「言ったでしょう。笑ったシアは可愛いって。私は折角拾ったお人形さんだから可愛い姿をみたいもの」
可愛いお人形さんが、ずっとにこにこしていたらきっと幸せなことよね。私まで嬉しくなってしまうと思うわ。
だから可愛いお人形さんを、シアを笑わせたいって思うわ。
「ファニー様って、人たらしっぽいですよね……」
「あら? どうして?」
「人のこと、可愛い可愛いって言っているじゃないですか……」
「私は自分の気持ちに素直なだけよ。でもそうね。エルソッラにも素直に色々口にしすぎとは言われていたけれど」
昔から自分の気持ちに嘘を吐くのも嫌いだった。だから私は自分の言葉を相手に良く伝えていた。それでまぁ、喧嘩になることもあったけれど、そういう連中は拳で分からせればどうにでもなるものね!
エルソッラのお墓に行ったからか、エルソッラとのことを結構思い出しちゃうわね。懐かしいわ。あの日々が、六百年も前のことだなんてとてもじゃないけれど信じられない。
エルソッラが今もいたらもっと楽しかっただろうってそう思うけれど、亡くなってしまったものは仕方ないものね。
寿命を全うしてエルソッラが亡くなったことは、ちゃんと聞いている。幸せに過ごし、亡くなったことを聞いている。感傷に浸るのは私らしくないしね。
「明日はドラゴンの里に連れて行ってあげる!」
「ドラゴンの里? えっと、そんなところに私が行ってもいいのです?」
「いいの! 私が許可を出したらドラゴンたちは文句もないはずだもの」
「……ファニー様って、ドラゴンたちにとってどういう立場なのですか?」
「ちょっと叩きのめしたら私と仲よくしてくれているだけよ」
私もドラゴンたちも長く生きているというのもあり、気が合うのよね。それにドラゴンたちは人と違って見た目でこちらを侮ったりというのはあまりしないの。一度叩きのめしたらちゃんと覚えててくれるもの。
それとは正反対に寿命の短い種族というのは、過去のことを忘れがちなのよね。
当時を知っている人たちがいなくなり、当時の記憶が薄れているからだと思うけれど。
というか、そもそもちゃんと『聖女』に対する感謝の気持ちが残っていれば、シアをこんな目に遭わせるなんてしないだろうしね。
私のお友達、『暁光の聖女』エルソッラがいた頃やその後のしばらくは『聖女』は間違ってもシアのようにこの森に捨て置かれることはなかっただろう。
……流石に『聖女』にこんな真似するの、一か国だけよね? 多くの国が『聖女』を蔑ろにしているなんてことになっていたらちょっと何とも言えない気持ちだわ。
「ファニー様は、凄いですよね……」
「そうよ。私は凄いのよ」
「ふふ」
私が自信満々に言ってのければ、シアが笑った。
やっぱり笑った顔の方が可愛いわ!! まだまだシアは私に対する警戒心もあるし、心を許してくれているわけではないけれど、少しずつ表情筋が動いているのよね。
もっともっと、シアを楽しくさせるわよ!
シアと仲良くなってシアが可愛い笑みを見せてくれたら楽しいものね。
そんな思いで翌日ドラゴンの里に連れて行ったら、ドラゴンたちが私に対してファニー様、ファニー様言ってもてなしてくるから、シアにびっくりされちゃったわ。
恐る恐る「ファニー様って何者なんですか?」なんて聞かれたけれど、私はただの『魔女』。不老で長く生きていて、魔法を使うただの『魔女』のファニー。それ以外の何でもないって、そう告げたけど信じてもらえなかった。
正直言って他の人が私を違う呼び名で呼んでいる可能性もあるけれど、私はそんなのどうでもいいの。興味もないし、知ろうとも思っていない。
だから私はただの、『魔女』のファニー。
そして今は拾った可愛い『聖女』を笑わせたくて仕方がないだけの『魔女』。