『聖女』を連れまわす ⑨
美しい聖域で、シアはじっとその湖を見据えている。
何を考えているのだろうか。この神聖な場所で、シアは神を感じているのだろうか。
シアが楽しそうにしているだけで、私は何だか楽しい気持ちになった。
その青い瞳を穏やかに細めて、やっぱり綺麗だわ。私のお人形さんはなんて綺麗なのかしら。
「ねぇ、シア。此処は気に入った?」
しばらく湖を見ていたシアに、私は笑いながらそう問いかける。
そうすれば、シアははっとなったように私を見る。うん、可愛いわ。
「ごめんなさい。ファニー様。つい、綺麗で」
「いいのよ。見入っていたシアも可愛いもの。シアが気に入ったのならば何度でも此処に連れて来てあげるわ」
「ありがとうございます。『死の森』にこんなに穏やかな場所があるなんて思わなかったです。他の人は誰も知らないでしょうね」
「そうね。今の時代の人たちは知らないわね」
私がそう言って笑えば、小さくシアも笑ってくれた。
シアが笑ったと思うと、此処に連れて来て良かったと思う。
シアにもっと笑ってほしいな。シアがいつもそういう笑みを浮かべられるようになったらきっと素敵じゃない?
「シアは笑っているととても可愛いわね」
「そうですか?」
「ええ。とても可愛い。言われたことない?」
「……ないですね。私はどちらかというと、かわいいとは正反対で、かわいげがないって言われてましたし」
「まぁ! なんて見る目がないのかしら。シアはとても可愛いじゃない。私は長く生きているけれど、シアほど可愛い子は知らないわ」
シアは可愛げがないと言われていたらしい。
本当にシアはとても可愛い。美しい銀色の髪も、青い瞳も、とても綺麗。そして笑うと可愛い。うん、何処からどうみても可愛い子だわ。
「あ、ありがとうございます」
「照れてる顔も可愛いわ」
そう言うと照れている様子を見せる。私が可愛い可愛いと言いつづけると恥ずかしくなったみたい。うん、かわいいわ。私、もっと可愛いって言いまくるわ。
そしたらきっともっと可愛いシアが見れるだろうし。
というか今まで可愛いと言われてこなかったのならば、私がその分言ってあげればいいわよね。
「ふふ、シア、もっと他の場所にも連れて行きたいのだけど、しばらくここにいたい? 居たいならしばらくここにいてもいいけれど、もっと他の所にも連れていきたいのよ」
私がそう言って笑いかければ、シアは頷いた。
「構いません。でも……また此処に来たいです」
「ふふ、さっきもいったでしょう。何度でも此処に連れて来てあげる」
シアが喜んでくれたと思うと、此処にシアを連れて来て良かったと思う。
精霊たちもシアの感動した様子を見て、楽し気に漂っていた。いつか、精霊たちが自主的にシアの前に姿を現わす日がくるかしら?
私がシアを気に入ったままで、シアがずっとここにいるならそのうち姿を現わすでしょうね。シアのことはずっとお気に入りな気がするけれど、結局いつ私が可愛いお人形さんに飽きるのかも、自分では分からないしね。
未来なんて誰にも分からないからこそ、楽しいのよ。
誰かが知っている未来を、その通りに歩むなんて面白くないとしか言いようがないもの。
シアにつぎの場所に案内する。次は珍しい魔物の巣に連れて行った。こういう所にも慣れた方がいいものね。討伐が難しい魔物だから、その素材もとても高価なのよね。そもそも生息区域が危険な場所ばかりだからというのもあるけれど。
シアはそういう魔物がこの森に棲んでいて、私を見ると怯えているのを見てびっくりしていた。
私はこの森に棲んで長いもの。高位の魔物は人並みに頭が良いと言われている。だからこそ、私相手に怯える魔物も多いわ。まぁ、こりもせずに向かってくるのもいるけれど。あと食べるために狩ったりは当然するけれど。
「ファニー様は、魔物についても詳しいんですね」
「そうね。結構戦ってきたから。こういうのは実戦を積んでこそ、詳しくなれるわ。シアも一緒に戦ってみましょうよ。私が教えるわよ」
「えっと……」
「戦えた方が何かあった時に楽よ。結局何かあった時に自分の意志を貫きとおすためには、そういう強さは大事だからね。シアもそういう経験あるでしょ?」
私がそう言えば、シアは考えるような仕草をして、頷いた。
シアもあれだけボロボロの状態で倒れていたのは、結局自分を貫き通す強さがなかったからだ。私はシアを守るし、私の可愛いお人形さんにしないけれど。
でも戦える力があった方がいいものね。
誰かに戦闘訓練をするなんてあまりしたことないけれど、シアが少しずつ戦える力を身に着けられるようにしていこうと思った。
それに伴って魔物の弱点や、詳細について説明したりした。
それだけでも少し時間がかかったけれど、その日の最後に私はこの森に存在する巨木にシアを連れていくことにした。
そこは私にとっても特別な場所の一つだわ。
――昔、とある事情でしばらく眠っていたことがあったのだけど、その眠っていた場所がそこなのよね。