『聖女』を連れまわす ⑦
「ふんふんふ~ん」
シアに気づかれないように対処するために、魔法の発動条件を鼻歌に指定する。鼻歌に乗せて魔力を流し、私の思うままの魔法が行使される。
小さな悲鳴が聞こえてきたのは、魔法が成功したからだろう。
私が行使した魔法は、その身体を虫や蛙に変える魔法だ。姿を変化させる魔法というのは、結構操作が難しいものだけど、私にかかれば簡単なのよ!
これで誰かに踏みつぶされて死んだとしても正直知らないわ。
運が良ければ数時間後には人間の姿に戻れるわ。
シアはならず者に追いかけられていることも、私が魔法を行使したことにも気づいていないようだった。
うん、それでいいわ。
そしてしばらく歩いて教会へとたどり着く。教会には神官がいて、何だか神についてのことを口にしたりしていた。正直神様になんか興味がないので、そういうのを聞いたところで私は何も思わない。
ただ教会というのは、人々にとっては重要な場所なのよね。何か大変な苦労が起きた時、人はそれを神の試練だ。これを乗り越えれば幸せになれると思って行動する事も多いのよ。やっぱりそういう思い込みというか、そういう何かをより心にする力というのは、人を動かす大きな力なのよね。
それにしてもお祈りを捧げているシアは、絵になるわね。
そんなに神に対して特別な思いを抱いているというのならば、過去の『聖女』に纏わる場所にでも連れて行ったら喜ぶかしら。
街で暮らす人々が知らない特別な場所とかも私は知っているのよねぇ。ほとんど誰も訪れないような場所だけど、きっとシアは喜んでくれるはずだわ。
シアは神官の女性と会話を交わしていた。
少しだけ目がキラキラしているのは、やっぱりシアが信仰深い『聖女』だったからだろうか。教会にいると落ち着くのかもしれない。
……シアがこのまま教会に残りたいとか、街で暮らしたいって言ったら困るわね。まぁ、いったところで私はシアを放すつもりはないのだけど。シアは頭の良い子だから、ちゃんと話し合えば大丈夫よね。
「シアは、教会が好きなのね」
「はい」
「これから時々連れてきてあげる。でもシアは私に飼われているのだから、勝手にどこかにはいかないでね?」
「……行く気はないです」
シアがそう言い切ったのを聞いて私は小さく笑った。
シアは何だかんだよく人を見ている。私のことも見ていてどういう人間か分かったのだと思う。あとは恐らくシアは何らかの事情で『聖女』の立場を追われた。その事情は不本意なものだったのだろう。それこそシアがいるというだけでその場所に不利益を与えるような事情なのかもしれない。
『聖女』として幸せに生きていたはずのシアが、ボロボロの状態で森に捨てられるなんて異常事態だ。
そう考えるとシアは、私が簡単に魔法を使って、ドラゴンと仲よくしていたりするのを見て、私ならば何があってもどうにかしてくれると思っているのかもしれない。
そしてそれは決して出会って間もない私を信頼しているとかそういうのではなくて、きっと打算的な気持ちからだと思う。私の強さを利用しようとかそういう気持ちなのかも。
まぁ、色々失って絶望ばかりで、笑えも出来ない子だからあくまで私の想像で、そこまで考えてはいないのかもしれないけれど。
私が拾って、私が飼っている子の面倒はちゃんと最後まで見るし、どういう事情があってもどうにでもするけれど。
「なら良かった。それで、シア、他に行きたいところはある?」
「いえ」
「思いつかないなら、私が行きたい場所にどんどん連れていくわよ」
シアは他に行きたい場所を言わなかったので、そのまま私がシアを連れて行きたい場所にシアを連れて行った。
シアを着飾るために色々見て回ったり、本屋にいったり、あとは魔法薬などの材料のお店にいったりしたのよ。
結構シアはきょろきょろとあたりを見渡していたわ。慣れてないのね。
非合法な賭博場とかに連れて行ったらどうなるのかしら? あとは闇オークションとか。きっとシアは関わったことのない世界よね。
シアに沢山のものを見せてあげたいわね。そうしたらもっとシアは面白い表情を見せるかもしれない。
でも一先ず、連れていくとしたら今度ね。今回は買い物が目的だもの。
そして買い物をした後、ロームの所まで戻って帰宅する。
久しぶりに外に出て疲れたのか、シアは途中眠ってしまった。シアが落ちないように魔法を使いながら私はシアの寝顔を見る。
やっぱり綺麗で可愛い見た目。眠っていると本当にお人形さんみたい。
帝都に連れて行っただけでも、色んな表情が見れて楽しかったからもっと他の場所にも連れて行きましょう。
とりあえず死の森と呼ばれる森の中を一緒に歩きましょうか。
聖域に連れて行ったらどんな顔をするかしら。それに『聖女』に纏わる場所もあるのよね。
シアがどんな顔をするのか楽しみだわ。




