『聖女』を連れまわす ⑥
新しい『聖女』の話を聞いているシアは、少しだけ顔を青ざめさせている。
その新しい『聖女』というのは、私の可愛いお人形さんにとって彼女の座を奪った存在なのだろうか。
それにしても通常なら、どんなに新しい『聖女』が現れた所でシアのように優秀な『聖女』を追い出すなんてことはまずありえない。
それだけ不測の事態が起こり、シアは森の中に倒れていた。
私はシアの事情をこのまま盗み聞きしていてもいいのだけど、シアがそういう顔をしているのは少し嫌だわ。
だから、そうね。
「この場に静寂を。対象は、”ロージャス王国”」
一言紡げば、その場に魔法が体現する。
噂をしていた声は、これで私にもシアにも聞こえない。ロージャス王国の噂だけ聞こえなくした。私だけ聞こえるようにも出来るけれど、シアが聞かれたくないっていうのならばわざわざ聞く必要もない。
少し気になりはするけれど、私にとってそれはどうでもいいことだから。どういう事情があろうとも、私がシアの飼い主で、シアが私に飼われている可愛いお人形さんなことには変わらないから。
「ファニー様、これは……」
「聞こえなくしたの。シアは聞きたくないのでしょう?」
私がにっこりと笑って言えば、シアは驚いた顔をする。
「……ファニー様は、全然私のこと、聞かないですね」
「聞く必要はないもの。それに私の可愛いお人形さんが聞かれたくないのならば、敢えてその情報を聞く必要はないわ。それよりご飯が届くわよ。食べましょう」
それから注文していた食事が届いて、一緒に食事を食べる。
シアは食べる所作もとても綺麗なのよね。そういうのを見ているだけでも何だか楽しいわ。
「シアはどんなものを食べるのが好きなの? 甘いものとか好き?」
「……嫌いじゃないわ」
「ふふ、なら甘いものも食べに行きましょうか」
やっぱり女の子は甘いものが好きな子が多いわよね。でも苦手な子がいるからなと思っていたけれど、シアは甘いものが好きみたい。
私も甘いものを食べることは結構好きだから、一緒に食べられるわね。
そう考えるとワクワクしているの。
甘いものって結構値段がするものもあるけれど、私の可愛いお人形さんには格別に高価なお菓子の方が似合いそうだわ。
「ファニー様って、お金持ちですね」
「今まであんまり使ってこなかったからね」
仮にも私は長い間生きていて、それでいて森で生活しているのもあってそんなにお金を使うこともなかったし。必要なものやほしいものを買いたい時にお金がないのも嫌だから、色々資産はため込んでたしね。
結構一生暮らせるような値打ちのする素材とかもあったりするわ。あまりそういうのを市場に流すと面倒だから流さないけれど。
それにしても溜めていたお金で可愛いお人形さんを思いっきり着飾れるのが楽しいわ。まだまだ買ってあげたいものは沢山あるもの! 甘い物も食べさせてあげたいけれど、この美しい見た目が崩れるのは嫌だから、運動も適度にやる形にしてあげましょう。
今回は帝都だけど、他の場所にも連れて行きたいし。
私がいればどんな危険な場所でも綺麗なお人形さんの身の安全は保障されるわけだし。もっと何処に行きたいとかあるのかしら?
ロームを見て目を輝かせていたからドラゴンの里にでも連れていく? それとも珍しい魔物を見せにいってもいいわ。でもおどろおどろしいものだとシアは怯えるのかしら。
「シアは帝都で行きたい場所はあったりする?」
「……」
シアは私の言葉に少しだけ黙る。何か考えているようだ。
あら、てっきりないと答えるかと思ったけれど行きたいところがあるようだわ。
シアが行きたい所ならば連れていきたいわね。
「……教会に」
「そうなのね。行きましょうか」
『聖女』というのは、教会とかかわり深い。シアは信仰深い『聖女』だったようだから、そこに行きたいのだろう。
教会は基本的に誰にでも開かれている場所だから、シアもお祈りが出来るだろう。私もシアと一緒にお祈りしたほうがいいかしら。でも神に対してそういう信仰心はないのよねぇ。形だけでもいいなら祈るけれど。
私は神には祈ることはしない。信じるのは神ではなく、自分の力だもの。
神殿でお祈りを捧げるシアもきっと可愛いはずだわ。
そう考えると楽しみになってきた。
その後、追加でケーキを注文して砂糖をふんだんに使ったケーキを食べた。
砂糖も結構高価だから、このケーキだけでも結構高いのよ。美味しかったからいいけど。
そして食事処を出て、教会へと向かっているわ。
その最中に私たちを尾行している存在がいるのに気付いた。
何だかならず者風ね。帝都は人が多いからこそ、こういう荒くれものみたいなのも時々いるのよね。私とシアが女二人で旅をしている風だから、どうにでもなると思っているのかもしれない。
私にそういう目を向けるのも、可愛いお人形さんにそういう目を向けられるのも面白くないわ。
シアに気づかれないように対処しちゃいましょう。