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第六話 交戦ノチ真相

 第六話です。

 

 今回は久々に四〇〇〇字を下回りましたが、依然として文字数が多いです。

 

 ですが、重ねてお願い致しますが、ご興味があればご拝読よろしくお願い致します。

 

 

 五十嵐は規制線の張られた、六本木ヒルズ前でタバコを吸っていた。


「珍しいですね? 係長がタバコなんて?」


 菅原がそう言うと、五十嵐は「坊やと嬢ちゃんは映画か?」と言いながらタバコを吸い続けた。


「係長、ソトゴトが加わるから機嫌が悪いんですか?」


 菅原がそう言う中で、五十嵐は煙草を吸い続ける。


「〝教団〟関連の犯罪が主な目的だったら、俺達も捜査は出来るが、国内のカルト団体が世界的な犯罪結社に踊らされている事が分かったんだ。公安部同士で摩擦が強まるのは目に見えるだろう?」


 五十嵐がそう言いながら、タバコをポケット灰皿に入れる。


「係長がタバコを吸う時は大体、機嫌が悪い時です」


「観察眼が鋭いな。ついでに言えば、ソトゴトの四課が来る場合はもれなく、俺の嫌いな大島がやってくるんだ」


 五十嵐がそう言うと、菅原は「大島警視は係長のハコ時代の先輩ですよね?」と聞いてきた。


「今じゃあ、ノンキャリアのくせにソトゴトで尚且つ、俺よりも一階級上の警視だが、ハコ時代、俺は相当つらく当たられたよ」


 五十嵐がそう言うと、後ろから「人の悪口を言う時は場所を考えなきゃな?」と声が聞こえた。


 大島卓警視本人だった。


「大島先輩、ご無沙汰です」


 五十嵐は先ほどまで悪態を吐いていたが、すぐに直立不動の姿勢に変わった。


 しかし、当の本人には「相変わらず、お前が失礼な奴だといういうことを確認したよ」と本心を見透かされていた。


「公総も当面は動かせるが、メインは俺達、外事四課が担う。不服は無いな?」


 ふざけるなよ!


 俺達がせっかくここまで、捜査の主導権を握っていたのによ!


 そのような大島に対する、本心を隠しながら五十嵐は直立不動で「意義ありません」とだけ言った。


「お前等もジに対して、こういう事をしていたんだ。因果応報って奴さ。よく踏まえておけよ」


 そう大島は意地の悪い笑みを浮かべて、規制線の向こうへと消えて行った。


 そして、その後に数名のスーツ姿の男女が大島の後に続いて行った。


 外事四課はどうやら、とりあえず少数で目立たないように現場を見に来たのだろう。


「因果応報ねぇ? ジに対して俺達がやっていた対応がまさか、ソトゴトの連中にやられるとはな?」


 五十嵐はそう言うと、二本目のタバコに手を出す。


「係長、どうします?」


「鑑識やコウキソウの鑑定結果を見たら、すぐに本部に戻る。進藤にもレイザドライブを使って、動いてもらうから、これからは大忙しだ。主導権を奪われてもな?」


 そう言って、五十嵐は三本目のタバコに手を出した。


「係長、吸いすぎです」


「俺がヘビースモーカーなのは知っているだろう。今日ぐらいは吸わせろ」


 そう言った、五十嵐はパトカーに寄っかかって、事件現場を眺める。


 向こうは歳が数歳違って、尚且つ、俺よりも一階級上か?


 面白くないな?


 いつまでも、新人扱いしやがって、バカ島が?


 五十嵐は自分が苛立ちを覚えているのを感じていた。


 そして、早くも四本目のタバコに手を出そうとしていた。


「係長、肺がんで死にますよ」


「黙れ、俺はこれで精神を安定させている」


 現場には雪が降っていたが、五十嵐は痛いぐらいの寒さの中で、ただ、タバコを吸い続けていた。


 ガキ共は仲良く映画か?


 面白くないな?


 独身の五十嵐にとっては不快感しか残らない、冬の夜になりそうだった。



 六本木での交戦から数日後、亜門はソルブス使用では無い、通常のFNSCARを組み立てていたが作業はひどく難航していた。


「これ、すごく難しいんだけど?」


「部品を無くすなよ? 自衛隊だったら、無くしたら見つかるまで捜索しなければならないからな?」


 メシアがそう言うと同時に亜門はFNSCARを少しずつ組み立てていた。


 通常の警察官は小銃を組み立てる必要性は無いが特殊部隊に勤務して戦いをこなす以上は小銃を自分で組み立てるれるようになる必要があり、同時にメシア曰く拳銃や小銃の仕組みを理解しないと射撃は上手くならないそうだ。


 その為、亜門は今、小銃の組み立てで四苦八苦しているのだ。


「下手くそ」


「仕方ないだろう。素人なんだから? 部品一つ無くしたらアウトだろう? 神経を消耗するよ」


 亜門がそう言うと、整備班の中岸が部屋に入って来た。


 そして、中岸が「貴様!」という大きな声を挙げた為、部品を床に落としてしまった。


「あぁ、部品が!」


 亜門がそれを必死に拾って何とか危機を脱したが、中岸のあまりの怒りぶりを見て、すぐにFNSCAR一式を安全な所に置いた。


 メシアとの喧嘩が始まると小銃の組み立てどころではないと思えたからだ。


「すまんな? またあんたが寝ている時間帯に新装備の概要を送った」


 メシアがそう言うと、中岸は「どうせレインズ社が作って、横田に置いておくんだろう。それなのに俺が深夜に寝ている時に送るだと・・・・・・お前は俺を舐めているのか!」と怒鳴りだす。


 中岸がそう怒鳴りながらメシアに問いただすと、メシアは「概要は見たか?」と何事も無かったかのように話し出す。


「確か、レールガンを装備するんだろう?」


 中岸がそう言った瞬間に亜門は「レールガンって、かなり大きな装備だろう?」と会話に加わる。


「二〇数年以上前に自衛隊が実用化して以降はレインズ社がソルブスが装備できるように小型化を進めたのさ。レーザー兵器をアパッチに装備しようとしているぐらいだ。その内に陽電子砲も視野に入るだろう」


 レールガンとは電気誘導性の二本のレールから出る、磁場を使って弾丸を発射する最新鋭の兵器だ。


 火薬よりも省エネでマッハ七の速度を誇り、威力のある弾頭を打つことが出来て、連射も可能な装備だが、問題はその電力をどうやって賄うかで、自衛隊による実用化以降は同盟国のアメリカにも技術が渡り、ソルブス用の小型化について議論されていたという事は亜門もネットニュースで知っていた。


「あぁ、電力は結構食うが、新型のバッテリーパックをレインズ社が作ったから、俺を実験体にしてレールガンの実用性とやらを米軍がモニタリングするらしい」


「電力が限られているなら、少ししか撃てないんじゃないか?」


 中岸がそのような疑念を口にすると、メシアは「連射は可能だ。そして、今回のタイプは電力自体を弾丸にするタイプだ。はっきり言って、今、亜門が組み立てているアサルトライフルより、威力が大きい。小型化された電池の問題がクリアされれば、戦場のゲームチェンジャーになる可能性がある装備だ。それをソルブスが使えるように小型化するんだ。中々、革新的なプランじゃないか?」とだけ言った。


 メシアがそう言うと、亜門は「まぁ、僕等が米軍に体の良い実験体にされているみたいだけどね?」と口を挟む。


「その分、最新鋭の装備を分け与えてもらえるんだ。良いじゃないか?」


 それを聞いた、中岸が「バッテリーについて整備班でミーティングする。相当な電力を食って少ししか撃てないと意味が無いからな?」と怪訝そうな表情を見せた。


 そう言って中岸が部屋に出ると、亜門は「頑張ってください」とだけ言った。


 中岸はそれに対して手を振って答えた。


「問題はバッテリーと小型化に伴う電力か?」


 亜門がそう言うと、メシアは「さっさと小銃を組み立てろ」と静かに亜門を注意した。


「は~い」


 亜門はそう言うと、小銃の組み立てを始めた。


 時刻は午前十時前で昼ご飯を何にするかを考えたいが、神経を使う小銃の組み立てに悪戦苦闘するしかなかった。


「素人にしては手先が良いな。軍人は手先が良くないと務まらないんだ?」


「嬉しくない褒め言葉をありがとう」


 午前の庁舎の一室で亜門とメシアはそのような会話を行っていた。


 すると、そこに庶務の警察官がやって来た。


「一場特務巡査、お客様です」


 それを聞いた、亜門は「僕に?」と聞き返してしまった。


「えぇ、ロビーでお待たせしています」


 そう言われた、亜門は「僕にお客さんか?」と思わず呟いてしまった。


「孤独なお前には珍しいな?」


「黙れ」


 メシアとそのような掛け合いを行いながら、ロビーへと向かうと、そこには兵頭がいた。


「おぉう、亜門!」


 そう言った、兵頭を確認した後に亜門は同人を休憩室へと迎え入れた。


「お前の指摘に沿ってここ最近で行方不明になっている医者について調べてみた」


 兵頭が肥満気味の体から汗を流しながら「寒いな?」と言いながら体を震わせる。


 この人はインフルエンザではないだろうな?


 これだけ庁舎内は暖房が効いているのに?


 亜門は兵頭からウィルスを拾わない為に微妙に距離を置き始めた。


「その医者の名前と所属している病院は分かるか?」


「須藤俊一と言って、六十二歳の開業医だ。診療所が何の前触れもなく閉鎖されていた。その診療所では看護師達が須藤が時間になっても来ないことを不審に思って、最寄りの八王子署に相談した事も確認された。警視庁管内で行方不明の医者で該当する人物はこの須藤という人物だけだ」


 兵頭はそう言いながら「寒い」と言い続ける。


「兵頭さん、インフルエンザじゃないですよね?」


 亜門は耐えかねてそう言うと、兵頭は「それは無い。汗は出ているが今日は本当に寒いんだ?」と言って、体を震わせた。


「日本全国で行方不明の医者はいないか?」


 そう聞いたメシアに対して、兵頭は「お前みたいなひねくれ者相手なら、そういうイレギュラーな対応をすると思ってバッチリ調べてきたぜ?」と返してきた。


 そう言って、兵頭はタブレットを取り出す。


 豪快な外見とは違って意外とITを平気で使いこなせるんだな?


 もっとも、今の世の中ではITと繋がっていない人の方が珍しいが?


 二〇四〇年という年代から考えると、今の時代は兵頭のような古い人間でもITに免疫のある時代なのだと実感した。


「高齢で死んだり、逮捕された医者はいるが、行方不明となると須藤以外に該当者がいないな?」


「まぁ、俺もそれを鑑みてお前に調べてもらうように言ったんだがな? ご苦労だった」


 メシアがそう言うと、兵頭は「随分と上から目線のAIだな?」と亜門に目を向ける。


「えぇ、こいつ本当に失礼なんですよ?」


「お前も十分、反抗的だと思うがな?」


 メシアがそう言うと、亜門は「メシア、何を考えて医者なんか探しているんだよ?」と聞いてみた。


「まだ推測の段階だから俺は何も言わん。それよりも兵頭?」


「何だ?」


「今から俺達を八王子署に連れてってくれないか?」


「俺は今から本部に戻らないといけないんだがな?」


「わざわざこれを説明する為にここまで来たのか? 律儀だなお前?」


「隊長に頼んで、今から捜査に行けばいいだろう?」


 兵頭がそう言うと、亜門は「警備部が捜査するのはご法度だし、尚且つ、僕等は持ち場を離れちゃいけないでしょう?」と口を尖らせる。


 それを聞いたメシアは「よし、隊長に進言しよう」と言い出した。


「もしダメだったら?」


「こっそりとお前の警察手帳を持ち出して、密かに八王子署へと向かうのさ?」


 メシアがそう言うと、亜門は「警察手帳を使うか? 一度やってみたかったけど、特殊部隊員が私用で所轄署に入り込んだなんてバレたらまた大騒ぎになると思うな?」と口を尖らせる。


 そう言った亜門だがメシアドライブを持って、隊長室へと向かって行った。


「お前、そうは言っても乗り気じゃないか?」


 兵頭がそう言うと亜門は「そうですかね?」とだけ言った。


「まぁ、頑張れや。俺は遠くからお前を応援するよ」


 兵頭はそう言って手を振っていた。


「傍観者め・・・・・・」


 メシアがそう呟くと、亜門は「ちゃんと、調べものしてくれたじゃないか?」と兵頭を擁護した。


 亜門がメシアにそう言うと、兵頭は「おい、飯どうする?」と後ろから声をかけてきた。


「驕ってくれるんですか?」


「いや、割り勘だ」


 それを聞いた、亜門は「調べものを優先します」と言ってその場を離れた。


「お前も十分、理由なき反抗をしているじゃねぇか!」


 兵頭がそう言うのを背中越しに聞きながら、 亜門は隊長室へと向かって行った。


 今からまさしく理由なき反抗を行う心境は心臓の鼓動を高まらせるものだった。


 心地の良いものでは無かったが、小野は良い意味で目が悪い上司なので、多分容認するだろうなという楽観的な観測も抱いてはいた。


「何か、暖房熱くない?」


 メシアにそう聞くと「俺に暑さや寒さが分かると思うか?」と答えを返してきた。


 暖房の暑さは確かに汗ばむ物だった。



 亜門とメシアは大手町駅から東京メトロ東西線へと乗り込んで、中野駅からJR中央線に乗り変えて、八王子を目指していた。


 隊長に警備部ではご法度の捜査をする事の許可を直談判した結果、亜門とメシアが八王子に行く事には何も言わずに、保管されていた警察手帳を渡してくれた。


「これは、黙認という事かい?」


 電車の中でメシアと話すと不審がられるので、一応はイヤホンをして電話をしている体を装っていた。


「まぁ、あの女の事だ。失敗した時の理由はすでに考えているだろう?」


 メシアがイヤホン越しにそう言うと、亜門は「しかし、手帳なんて初めて見たな? 一応撮影で警察の制服は着たけど?」とだけ言った。


「公共の場だ。誰がいるか分からない。発言には気をつけろ」


「分かったよ」


 亜門はそう言って、辺りを見渡した。


 平日、昼間の中央線は人はいるが、かなり空いていた。


 これが通勤時間帯や帰宅時間帯なら、社会問題レベルの混雑ぶりだ。


「怪しい人はいないかな?」


「いや・・・・・・いるんじゃないか?」


「えっ、本当?」


「しかし、対処法は無いな? 兵頭が付いて来てくれば、いくらか対処ができるんだがな?」


 亜門はそれを聞いた後に辺りを見渡すがあまり怪しそうな人々は見当たらないように思えた。


「誰も僕を見ていないよ」


「諜報機関の人間がそんな気配を漂わせるわけないだろう? 油断するな」


 亜門とメシアがそのような会話をしている中でJR中央線は東京でも比較的、都市部とは言えないエリアを走行していた。


 武蔵野市から向こう側は大学の授業がオンラインになってから初めて向かう。


 亜門は大学が位置的に近づくことに若干の不快感を覚えながらも、電車の座席にただ座っていた。



「対象は電車に乗って、調べものか? 引き続き別班の連中が監視を続けるらしい」


 蓮杖亙がスマートフォンで自衛隊所属の諜報機関組織である情報保全隊の隊員が撮影した画像を眺めていた。


 イヤホン越しに誰かと通話しているが、その姿は基本的には普通の大学生としか思えなかった。


「こんな子どもがメシアの装着者か?」


 相川祐樹がそう言いながら、ゴウガドライブを形成するスマートフォンをポケットへ入れて、スマートウォッチを手首に巻いた。


「油断は禁物だよ、祐樹君。メシアはプロトタイプと言っても様々な事態への対処法を知っている。砲撃戦用に特化した僕よりも市街地戦闘には慣れているんだ」


 ゴウガドライブに搭載されているAIは幼さを残した声音でそう答える。


 ゴウガの重量級ボディを考えると、ギャップを感じさせるように思えたが蓮杖はすぐにそのような疑念を抱くことを止めた。


「あんたの筋書き通りだな?」


 蓮杖がそう後ろを振り向くと、レインズ社のマイク・シフォンがそこに立っていた。


「我々としては、ソルブス同士の戦闘によるデータが欲しい。さらに自衛隊への販売実績を残したいのも事実です」


「いいのか? 大事な顧客の警視庁の人間にこんなことして?」


「我々、アメリカ人にとって日本は数ある同盟国の一つにすぎません。現在の与党の自明党議員は一時期、日本とアメリカは夫婦のような関係と言っていましたが、とんでもない。外交関係に真の友人など存在しない事は常識です」


 シフォンがそう日本という国を嘲笑うように言い放つと、蓮杖は「なるほど、俺達の祖国は体のいい金づるという事だな?」とだけ言った。


「えぇ、契約を勝ち取ったら、金額を釣り上げて、大金を払わせる。この国にアメリカが武器を購入させる典型的なパターンです」


 シフォンがそう言うと、蓮杖は「ちなみに俺達の事案で在日米軍は動かないのか?」とだけ聞いた。


 すると、シフォンは一瞬だけ沈黙した後に「一会社員の私が知るワケが無い」とだけ言った。


「どうかな? レインズ社は米軍との関係性が強い。あんたの上司とやらが何かしらの情報を得ていたとしても、おかしくない」


「私はそこまで会社での地位は高くありませんよ」


 シフォンがそう言うのを聞いた後に蓮杖は「何だ、お前は知らないのか?」とシフォンを怒らせて、本音を言わせる狙いでその言葉を言い放った。


 しかし、それを聞いたシフォンはとつぜん低い笑い声を挙げた。


「あなたは中々の悪党だ?」


 シフォンはそう言うと「かつて日本に潜入したソ連のスパイである、ゾルゲはドイツの新聞記者に扮して日本の官僚達から面白いように情報を得ていた。官僚達からどのように情報を得ていたかというと、蓮杖さん、あなたが今やったような行動と狙いによってだ」と言って、腹を抱えて笑い出していた。


「そのゾルゲは日本で墓にまで入れてもらったからな? 日本人を騙し続けたスパイにも人情とやらを向けるのが日本人の悲しい国民性さ?」


 腹を抱えて笑うシフォンはおそらく日本人の事を本気でバカにしているのだろう。


 しかし、蓮杖はそれに対して怒りを覚えることは無かった。


 アメリカ人の大半は日本がどこにあって、どのような関係性にあるかなど、あの広大な土地の中で興味は持たないだろう。


 日本に対して興味を持ち、尚且つ、日本語を話すのは余程のインテリか、知日派だ。


 それ以外のアメリカ人には日本は遠い東洋の島国で、漫画、侍、忍者、富士山、芸者にオタクぐらいしかイメージが湧かないのだろう。


 このシフォンは日本語を話す分、まだ日本に理解がある方なのかもしれない。


 それはまだ良い方だ。


 英語しか話せなくて日本人と中国人の違いが分からないアメリカ人よりはまだマシな方だ。


 しょせん、日本はアメリカという好意的とは言えない父親に守ってもらえなければ戦う事の出来ないドラ息子でしかないのだ。


 存在すらも怪しい軍隊であって軍隊でない俺達だ。


 そのような日本を嘲る西洋人は合同演習で数多く見てきた。


 今更、シフォンごときに祖国をバカにされても何も感じない。


「そんな事よりも一場特務巡査と相川三曹をどうやって接触させるんですか?」


 シフォンが笑いこけながらそう聞くと、蓮杖は「おやっさんに任せるさ。ゴウガを大々的に使ったら大騒ぎだろう?」とだけ言った。


 それを聞いた、シフォンは「楽しみにしていますよ」とだけ言った。


 中継車の中では航空自衛隊出身のオペレーターがシフォンを睨み付けていたが、蓮杖は密かに「そんなもんさ、日米関係なんて?」とだけ言った。


 シフォンにもそれは聞こえていただろうが、同人は気にすることなく一場亜門が電車に乗っている様子を眺めていた。


 その様子は陰湿ないじめをこれから起こそうという、どこかかび臭く、悪意を大いに匂わせる表情だったが、蓮杖と相川は何も反応せずにそれを無視した。


 この坊やが陰湿なインテリの罠にどう対処するかだな?


 そう思いながら、画面を見ていると、一場亜門は八王子駅へと降りて行った。


 それと同時に別班の隊員も一場を追って移動する。


「始まるんだな?」


「祐樹君、市街地では砲撃戦は厳禁だよ」


「お前、AIのくせにとろいな? その為に今、お膳立てしているんだよ」


 ゴウガに対して蓮杖がそう言うと、ゴウガは「僕はとろくないもん」といじけ始めた。


 何で警視庁のAIは切れ者揃いで、俺達のゴウガはこんな天然なガキなんだ?


 蓮杖はそう思いながら、画面に映る一場亜門に目を凝らした。


 お手並み拝見だな?


 蓮杖はそう思った後にシフォンに目を向けるが、そのシフォンからはこの一場亜門をいかに罠に嵌めようかというのが、表情から見て取れた。


 まぁ、あんたの思う通りになれば良いな?


 蓮杖はタバコを取り出した。


「蓮杖二尉、タバコは外でお願いできますか? 一応は禁煙なので?」


 先ほどの航空自衛官がそう言うと「分かったよ」とだけ言ってタバコをしまった。


 喫煙者に優しくない社会だ。


 蓮杖は航空自衛官にそう指摘されると、初めて苛立ちを覚えた。



「ソルブスユニットが何の用だい?」


 八王子署の刑事組織犯罪対策課長に警察手帳をかざしたが、こんなひ弱な若者が警察官であるとは誰も信じずに、この課長に至っては「君、これは偽造手帳じゃないよね?」と目を向ける。


「いや、それは――」


「大体、隊の持ち場を離れるなど、けしからん。第一その細さで特殊部隊なんて? 君、本当に警察官?」


「いやあの・・・・・・それは――」


 亜門がそうしどろもどろの状態になると、後ろから若い女性警察官が駆け寄る。


「課長、サッチョウからお電話です」


「サッチョウ? 何で? 誰?」


 そう悪態を吐く課長は「はい、八王子署刑事組織犯罪対策課長の・・・・・・」と面倒くさそうに応対した。


 すると次の瞬間には「失礼いたしました!」と大声を上げた。


「えぇ、今来ています・・・・・・はい・・・・・・」


 電話の向こうの人物が誰かは分からないが、どうやら小野が何かしらの形で動いたようだ。


 援護射撃を得た亜門は先ほど、手帳を偽造とまで言った課長の狼狽ぶりを見て、思わず嘲りたい気分だった。


「はい、もうそれは・・・・・・すぐにこちらでも対応します」


 そう言って、電話を持ったまま立ち尽くした課長は数秒すると力なく受話器を戻した。


 どうやら電話は相手から一方的に切られたようだ。


「申し訳なかった。君に協力するようにサッチョウの設楽警備局長からきつく言われた次第だ。君のメンチョウを偽造だと疑ってすまなかった」


 メンチョウとはメシアから聞いた話によると警察手帳を指す隠語の事らしい。


 現在の警察手帳はバッジ式になっているのでその隠語には該当しないだろうなと思えたが、この狼狽している課長を始め、多くの警官達が未だに手帳をメンチョウというのだ。


 亜門は若干の違和感を覚えながらも、課長が「確か、行方不明になった医者に関して調べたいと?」と聞いてきた。


 階級では圧倒的に亜門の方が低いのだが、警察庁の警備局長の後ろ盾がそれだけ強いのだろうなと思い、亜門は呆れかえるばかりだった。


「えぇ、須藤俊一という開業医なんですが?」


「あぁ・・・・・・須藤医院の院長ですね。確かに突然姿を消しましたが・・・・・・それが何かの事件に関係をしているんでしょうか?」


 課長がそう言うとメシアが「それを調べるんだ」と静かに言い放った。


「スマホが喋った・・・・・・」


 課長はひどく驚いていた。


「うちの最新鋭装備です」


 そう言われた、課長は数秒の沈黙の後に「おい」と若い女性警察官を呼びつける。


「うちの手の空いている連中を一場特務巡査に割り当てろ」


「課長。捜査一課の人員は現在、ストーカー事件で全員外に出ているので空いている人員はいません」


 それを聞いた、課長は「ぐっ・・・・・・」と言ったきり黙ってしまった。


 女性警察官が遠慮がちに「どうされます?」と聞いた。


「なら、地域課でうちのオヤジに目をかけられている若いのを割り当てよう。柴田と北山を呼べ」


 オヤジとはこれまた警察の隠語で警察署の署長を意味するらしい。


 これもメシアからもらった情報なのでそれ以上の情報は知らなかったが?


「柴田巡査長と北山巡査ですか?」


「何だ、不満か?」


 課長がそう女性警察官を威圧するかのように言うと、女性警察官は黙って「すぐに呼び出します」とだけ言ってその場を去って行った。


「すみませんが、一課の連中は今別件で動いているので、地域課の若手に案内をさせます。よろしいですね?」


 課長がそう言うと「その二人の年齢はいくつだ」とメシアが課長に聞いた。


 すると課長は「柴田が三一歳で、北山が二八歳です」と答えた。


「若いな? 亜門よりは上だが?」


 メシアがそう言うと、亜門は「よろしくお願いします」と課長に頭を下げて、刑事第一課のデスクからいったん出た。


「僕は警察官には見えないみたいだね?」


「ひょろひょろだからな? 鍛えろ」


「嫌だよ。痛いし」


 亜門はそう言いながら警察署の中を歩いていた。


 外は曇り気味だが今日、雨は降らないとの予報だった。


 しかし、その天気は陰湿な何かを感じさせる不吉な感覚を亜門に抱かせていた。


 何でだろう、何か胸騒ぎがする。


「このまま、平穏無事に済めばいいけどな?」


 亜門がそう言うと、メシアが「一波乱起きそうな予感がするか?」と聞いてきた。


「大体こんなお出かけをしていたら一波乱起きるじゃないか? 僕等は?」


「だろうな。戦闘になったらユニットに通信が繋がるから、バックアップは安心しろ」


「今から、不吉なことを言うなよ・・・・・・」


 亜門はポケットに手を入れて軽く息を吐いた。


 建物の中なので白くはならなかったが今日も寒いのだと考えると、陰鬱な気分に陥らざるを得なかった。



「対象は八王子署員と共にパトカーに乗車。須藤医院へと向かうようだ。オクレ」


 別班の隊員からそう通信が入ると、蓮杖は「了解した、こちらから村田曹長を送りこむ。地ならしをお願いしたい。オクレ」と告げた。


「了解、オワリ」


 そう言った別班の隊員が動き出し、カメラは車を走らせた。


「これでいいな?」


 蓮杖は陰湿な罠を思い浮かべている、シフォンにそう告げると、当人は「あなた方に任せます」とだけ言った。


「相手が機動力を使ったらどうすればいい?」


 相川がそう言うと、ゴウガは「その時は装甲をパージして、軽装備状態で戦えばいいよ」とだけ言った。


 それが披露されるのもこれからの地ならし次第だが?


 蓮杖はそう思いながら、車でパトカーを追尾するカメラ映像を眺めていた。


「地ならしとはどのようなことを行うんです?」


 シフォンがそう言うと、蓮杖は「内容を分かっていて、質問をするのは卑しいぞ」と初めて、シフォンに苦言を呈した。


「そうですか、卑しいですか?」


 そう言うシフォンの表情は蓮杖を侮蔑するようなものだったが、蓮杖は目の前のモニターに目を通した。


 手荒だが、犠牲者が出ないことを祈るよ。


 蓮杖はこれから始まる地ならしで関係者以外の犠牲者が出なけらばいいと、希望的な観測を抱いていた。


 汚れ仕事をしていて何だが・・・・・・



「須藤医院は医院長の須藤俊一が突然失踪したことで今ではもぬけの殻ですよ」


 亜門の案内を担当する柴田巡査長がそう口にすると、亜門は北山巡査に「どこに行ったかは分からないんですか?」と聞いた。


「えぇ、看護師にスタッフに須藤の家族も、心配して八王子署に行方不明届を出しましたが、そこは人材不足の警察ですから。届けは出されましたが、捜索はまだ行っていないです」


 警察は基本的に人の数や人材が不足している為、行方不明届を出されても重要事件が別に起きていれば、その捜索はたらい回しにされるのが現実だ。


 捜索するにしてもそこまで手が回らないのだ。


 亜門も警察のそのような現状は理解していた。


 メシアから教わった情報だが?


「須藤先生ってどんな人ですか?」


 亜門がそう聞くと、柴田は「まぁ、大学の医学部で講師をしているらしいですし、クリニックでは有名人も多く診療している事で有名でしたね」と言いながら、前方を見据える。


 自動運転に世の中の自動車産業が移行したとはいえ、事故を起こせば運転者の責任になるというのが現在の道路交通法だ。


 柴田は前方に目を凝らしていた。


「ただ、悪い噂もありましたね?」


 北山がそう言うと亜門は「何です、それは?」と聞いてみた。


「医者というのは常に論文を書かなければいけないのが常ですからね。須藤は大学の医学部の教員で尚且つ、大学病院でも働いているぐらいですから、その論文作りは当然行わなければいけません」


 北山がそう言うと、メシアが「確か、噂によると学生を使って何らかの臨床実験を行っているというのが医学業界での須藤の悪い噂らしいな?」と話し始めた。


 パトカーにいる全員がその発言を聞いた後に亜門はあることに気づいた。


「というかメシアは知っていて、僕にその事を黙っていたのかよ?」


 メシアにそう聞くと「あぁ、すまないな?」と軽いタッチで答えた。


 亜門は軽くスマートウォッチを小突いた。


「実体が無いから意味は無いぞ?」


「うるさい、人に重要な情報を伝えなかったくせに」


 亜門とメシアのそのようなやり取りを見て、北山は「仲がよろしいんですね?」と言った。


「すいません、続けてください」


「まぁ、要するに自尊心が強くて、高額の時給を餌に釣られた、学生を中心にいろいろな臨床実験をしていたそうです。これが業界での須藤の悪評ですが、あくまで噂の段階で証拠が無いので、何とも言えませんし、警察としても被害届が出されていないので介入も出来なかったんですね」


 北山は亜門をじろりと眺める。


 警察は人を疑うのが仕事とは言うが、自分はこの二人におかしな新人警察官もどきとしか思われていないだろうなと思えた。


「まぁ、優秀な医者であることは確かだが、金持ちしか見ないのと怪しい臨床実験の噂が常に出回る存在で、二十数年前に自衛隊再編論に反対する運動に参加していたから、公安のリストにも名前が載っていたらしい、事実――」


 そう雄弁に語るメシアは突然黙り始めた。


「どうしたの?」


 亜門がそう聞くと、メシアは「後ろの黒のSUVはさっきから俺達を追尾していないか?」と言った。


 それを聞いた、柴田は「確かにさっきから付けているな?」と呟く。


「気が付かなかった・・・・・・」


 北山もそう続く。


 すると信号が赤になったので、パトカーは緊急走行ではない事から当然止まる。


 すると後ろのSUVも止まり始める。


「職質掛けます?」


「怪しいからな。オヤジの覚えもめでたくなるから行ってみるか?」


 そう言って柴田がパトカーから降りようとすると、パトカーの側面に黒いホンダ製のバイクが横付けする。


「何だ?」


 柴田が腰に付けたSAKURAに手を掛けようとすると、バイクに乗った男はオートマチックの拳銃を柴田に向けた。


「なっ・・・・・・」


「兄ちゃん、少しドライブしようや?」


 男が低いだみ声でそう言うと、北山はPフォンで応援を頼もうとするが、男は発砲し北山の腕は血にまみれた。


「うっ・・・・・・うわ!」


「余計なことすんなよ。走れ」


 それを聞いた柴田は自動運転を解除して、レベルワンの完全な手動運転へと切り替えた。


 そして、目の前の赤信号を無視して走行した。


「八王子6から、警視庁!」


 柴田が絶叫にも近い声で無線に連絡を入れる。


〈こちら、警視庁、どうした?〉


「現在、黒のホンダ製バイクに乗った、男に襲撃を食らい――」


 柴田がそう応援を呼んでいる間に後ろから銃撃音が響いた。


 後ろを走っていた、黒のSUVから男達がマシンガンらしい物体で亜門達が乗るパトカーを銃撃していた。


 亜門の座る後部座席の後ろではぼこぼことパトカーに銃弾が当たる音が聞こえていた。


「あれはヘッケラー&コッホのMP5か?」


「こんな状況で、銃の種類なんか冷静に解説している場合じゃないだろう!」


 亜門はメシアに対してそう叫ぶと「大事なことだ。アメリカやヨーロッパ製の兵器は金が掛かる。つまり――」とメシアは勿体をつける。


「勿体をつけるな!」


「背景にいる奴等は政府系の連中か、よほどの金持ちかということだ!」


 メシアがそう言う中でもパトカーは走り続け、背後にいるSUVからの銃撃を受け続ける格好となった。


「これじゃあ、やられっぱなしじゃないか!」


 北山がそう叫ぶと、無線からは〈八王子6! どうした応答しろ!〉と通信指令センターの警察官から怒号が飛び交う。


「現在、黒いSUVから銃撃を受けている! 応援を願いたい!」


〈銃撃だと? 誰がそんなことを?〉


「本当に行われているんだ! 応援を!」


〈分かった、応援を向ける。とにかく耐えろ!〉


 通信指令センターの警察官がそう言った後に「応援は間に合いますかね?」と北山は血にまみれた手を抱えながら不安気な声音を出す。


「そうでなければ、俺達は死んでいるよ」 


 そう言いながら、柴田は運転を続ける。


 しかし、その時に柴田は「何だ!」と大声を上げる。


 目の前にホンダ製の黒いバイクが突っ込んできたのだ。


 ライダーは車に当たる直前に飛び降り、バイクのみがパトカーに当たる結果となった。


「うわ!」


 一同がそう驚くと同時にパトカーはバイクとの衝突でバランスを崩し、歩道に乗り上げる格好となった。


〈八王子6! どうした! 応答しろ!〉


 柴田はハンドルに・・・・・・エアバックこそ機能したものの、頭を強打して失神し、北山は体のどこかを骨折し、意識も無くなっていた。


 亜門も体を強く強打し痛みを覚え、失神をしていたが、メシアから「起きろ、亜門!」という声が聞こえて目を覚ました。


「痛い・・・・・・」


「お前、そうは言っても怪我していないだろう?」


「・・・・・・そうかな?」


 亜門は痛みを堪えて、起き上がると「柴田さん、北山さん!」と声を掛けるが二人とも意識が無いので、仕方なく外へと出た。


「頑丈だから、俺はお前を選んだんだよ」


「その前に二人を何とかしないと・・・・・・」


 野次馬が集まり始める中で、黒いSUVとホンダ製のバイクから黒づくめの男達が現れ、亜門を囲み始める。


「あなた達は・・・・・・」


 亜門が睨み据えるような目線で襲撃者達を眺めると、奥から若い男がやって来た。


「こいつは・・・・・・」


 メシアがそう呻くと「メシア、こんな形で再会するのは残念だよ」と子どもの声が聞こえた。


「ゴウガか、お前まで実戦配備されたか?」


「戦う形になるのは辛いけど、任務なんだ。ごめんね?」


「警察以外にお前が実戦で使われるとなると・・・・・・」


 メシアがそう言うと若い男が「装着」と言った。

 

 その後に緑色の閃光が光ると同時にモスグリーン色をした戦車を思わせる重厚なボディをした、ソルブスが現れた。


「これは・・・・・・」


「亜門、奴は敵だ!」


 それを聞いた亜門は瞬間的に「装着!」と言って、戦闘態勢に入った。


 赤い閃光が亜門の体を包むと、ゴウガと呼ばれるソルブスとは異なるスタイリッシュなボディが現れる。


「対象確認。これより目標の殲滅を始める」


「メシア、悪いけど・・・・・・」


 子どもの声が曇り始める。


「死んでくれるかな?」


 そう言った、ゴウガは右肩から機関銃を掃射してきた。


「亜門、殺す気でかかれ。でないと本気でやられるぞ!」


「くそっ、何でこんな事に巻き込まれなきゃいけないんだ!」


 亜門はそう悪態をつきながら、飛行機能ですぐに距離を取りながら、FNSCARをゴウガと呼ばれる、ソルブス相手に掃射し始めた。


「亜門、野次馬に気を付けろ!」


「相手は・・・・・・民間人がいるのに!」


 そう言う中で亜門は目の前の重々しいソルブスと銃撃戦を繰り広げる事となった。


 曇り空と八王子署での不吉な予感を抱かせた軽口が現実のものとなった事に対して、亜門は舌打ちをしたい気分になっていた。


 そのような心境の中で銃弾が頭部をかすめていった。


「チッ!」


 亜門は本当に舌打ちをしてしまった。



〈警視庁から各局、警視庁から各局。八王子署管内において、未確認のソルブスが出現〉


〈マル被は黒のSUVとホンダ製バイクでPCを襲撃。至急、応援を願いたい〉


 蓮杖やシフォンが乗る、中継車には警察無線が響いていた。


 事前に警視庁内の協力者から無線を貰っていたから、警視庁側の動向はこちらに筒抜けになっている。


 野次馬に紛れて戦闘を撮影している、別班の隊員は相川が装着するゴウガと一場亜門が装着するメシアとの戦闘を中継車宛てに撮影していた。


「いいぞ・・・・・・そのままデータをどんどん取らせてくれ!」


 シフォンはまるで学校でいじめを楽しんで行っているような陰湿な笑みを浮かべて、画面に映るゴウガとメシアの戦いを眺めていた。


「蓮杖二尉、警察車両が多数詰めかけているようですが?」


「到着予定時間は?」


「五分もありません」


 それを聞いた蓮杖は一瞬で判断を下した。


「祐樹、警察の応援がまもなくやってくる。五分もかからないだろうから短時間で遊んだら、すぐに離脱しろ」


「離脱方法は?」


「事前の打ち合わせ通り、派手に行く。遅れるなよ」


「了解、離脱の時間は五分もかからないな?」


「そうだ、頼むぞ」


 蓮杖がそう言って、相川との通信を切ると、シフォンが「警察ごとき、まとめてゴウガの重火器で吹っ飛ばせばいい」と楽しみを奪われた子どものような表情を浮かべる。


「野次馬が多すぎる。自衛隊がこんな大騒動を起こしたとなれば大ニュースだ。あんたの玩具遊びで大事な部下を失いたくない」


 それを聞いた、シフォンは「なるほど、永田町の伺いを立てるんですね?」と言った後に「ちぇっ!」と舌打ちをした。


 オペレーターを務める航空自衛官はそれを睨み据えたが、蓮杖が「ヘリはどの地点にいる?」と聞いて、オペレーターはすぐに冷静な態度に変わった。


「後、三分で来ます」


「三分か・・・・・・遅刻しないでもらいたいがな?」


 蓮杖はそう言いながら、モニター上に移される戦闘の様子を眺めていた。


 世間は騒ぐだろうな?


 蓮杖の不安はそこにあったが、そこは別班や市ヶ谷の幕僚連中が何とかするだろうと気にしないことにした。


 曇り空から気候は雨になり、雷が鳴り始めていた。



 亜門はメシアの補正によってFNSCARによる銃撃を目の前のゴウガと呼ばれるソルブスに対して行う。


 しかし、ゴウガの目の前にモスグリーン色の盾が現れ、銃弾を弾いていた。


「何だ!」


 亜門がそう叫びながら、ゴウガの肩から掃射される機関銃を避けながらFNSCARで牽制の銃撃を行う。


「サイココントローラーシステムか。あれまで実戦配備されたか・・・・・・」


 メシアがそう言うと、亜門は「何だよ! それは!」と叫びながら銃撃を続ける。


「後で話す。それよりも・・・・・・」


「何だよ!」


「野次馬はもういないか?」


「全員、逃げたよ。遠目から動画を撮っているけど?」


 亜門がそう言うと、メシアは「なら、銃撃で牽制をしつつ相手の懐に入って、近接戦闘を行う。ゴウガは砲撃戦に特化したソルブスだ。近接戦闘用の装備はナイフとレーザーブレイドがあるが、あの形態を維持しているなら機動力では俺達が上だ!」とまくし立てた。


「あの形態・・・・・・」


 亜門はその一言が気になったが、それを知らずかメシアは「とにかく、機関銃の牽制を避けつつ、近接戦闘だ! 行くぞ!」と言った。


 そして亜門とメシアは機関銃の掃射を避けつつ、背中に装備された日本刀を取り出した。


「行っけぇぇぇぇぇ!」


 亜門がそう言って滑空しながらゴウガに迫り、日本刀を振りかざすと、そこに盾が現れ始めた。


 日本刀と盾が火花を散らしながら接触する。


「この日本刀は何でも切れるんじゃないのかよ!」


「残念ながら、この盾はレーザー兵器かビーム兵器以外は効かないんだよ?」


 ゴウガから子どもの声が聞こえる。


 するとゴウガの肩から機関銃がこちらに向けられる。


「やべっ・・・・・・」


 亜門はそう言ってゴウガと距離を保ち始めるが、機関銃の銃撃を受けて左腕を負傷した。


「うぐっ!」


「亜門!」


 メシアがそう言うと、ゴウガの重厚感が漂うボディから「中々、大胆な攻撃を仕掛けて来るね?」と子どもの声が響く。


「貴様、目的は何だ!」


 メシアがそう叫ぶと、子どもの声は「それに関しては答える時間がないんだ。お迎えが来るからね?」と幼さの中に残酷さをにじませた口調でメシアに応対していた。


 そう子どもの声が言い放つと、空からはヘリコプターの羽音が聞こえてきた。


 ヘリコプターが近づいてくると、メシアは「ベル407・・・・・・あれで逃げるつもりか!」と言って、亜門に右腕で日本刀を手に取らせ、再び近接戦闘を行おうとしていた。


「じゃあね、メシア、また遊ぼう」


 子どもの声がそう言うと、亜門は「逃がすかよ!」と言って日本刀で切りかかる。


 しかし、再び盾がそれを遮り、ゴウガの機関銃が亜門を捉える。


「亜門、逃げろ!」


「くっ!」


「懐に入りすぎたね?」


 そう子どもの声が言うと、機関銃を亜門に向けるが掃射はしなかった。


「貴様・・・・・・情けをかけたつもりか!」


 メシアが怒鳴りつける中で、亜門は負傷した左腕をさする。


 その間、ヘリコプターの羽音とパトカーのサイレンの音が響く。


「じゃあ、僕等は帰るから頑張って怪我を直してくれよ」


 そう子どもの声が言うとゴウガの装着が解け、若い男が現れたが、素顔はバラクラバに隠されて分からない。


「手を上げろ、警察だ!」


 そう言って、応援に現れたパトカーから警察官達が降りてSAKURAを男に向ける。


 男はそれを黙って見据えた後にヘリコプターへと乗り込み、それは空へと消えていった。


「待て!」


 そう言って、警察官達はSAKURAをヘリコプターに向けて発砲し、弾丸がヘリの装甲に当たる音が耳に響くが、ヘリは何事も無かったかのように飛び立っていった。


「臆病者共が・・・・・・監察の聴取を恐れて、容疑者を撃たずに逃がすなど!」


 メシアはそう悪態をついた後に「警察官が狙われたのに・・・・・・なんて臆病なんだ!」とも言い放った。


「ハヤブサがあのヘリを追う、俺達も地上から追うぞ!」


 警察官がそう言って、パトカーに乗り込み、ヘリコプターを追い始める一方で負傷した亜門に他の警察官が駆け寄る。


「大丈夫ですか!」


 そう言う警察官達の掛け声が聞こえる中で、亜門はメシアの装備をそのままに、血まみれになった左腕を眺めていた。


 正直に言えば激痛で頭がおかしくなりそうだ。


 災難だな?


「装備を解かずに待っていてください。すぐに病院へ連れて行きます」


 警察官がそう言うと、メシアが「亜門、意識はあるな?」と声をかける。


「左腕が超痛い・・・・・・」


 亜門がそう言うと、メシアが「まぁ、意識があるなら死んだりはしないだろう。病院まで我慢しろ」といつもの様子で亜門に語りかける。


「何だよ、もっと励ませよ」


 そう言う中でも、気が付けば救急車が駆けつけ、亜門は装備を解かれない状態で担架に乗せられた。


 救急車の中に入ると同時にメシアは亜門の装備を自動で解いた。


 それを見た警察官と救急隊員達は驚きの表情を浮かべるが、メシアは「余計なことを話したら、殺す」とだけ言った。


 それを聞いた警察官と救急隊員達は「分かりました」とだけ言った。


「・・・・・・今日は厄日だ」


「あぁ、それには同意する」


 それを聞いた亜門は激痛の中で救急隊員の質問に答え続けていた。


 外では雷雨が降り始めていた。


10


 久光瑠奈は大学の講義が終わると同時に八王子にある病院へと向かって行った。


 ソルブスユニットが謎のソルブスと交戦した様子がニュースになり、隊員が負傷したと聞いて、小野に電話をしたら、亜門が負傷したと告げられたからだ。


 恐れていた事が起きた。


 亜門が死んでしまうかもしれない経験をしてしまったのだ。


 瑠奈は急いで電車を乗り継ぎ、八王子駅へと向かうと急いで亜門の入院する病院へと向かった。


 病院には小野や関係者と思われる警察官が多くいた。


「小野さん、亜門君は・・・・・・」


 瑠奈が涙ながらに小野にそう聞くと「ここに搬送されて手術を受けた後に横田にある米空軍病院に移送されるそうよ?」と沈痛な面持ちを見せる。


 それを聞いた、瑠奈は「そんなに具合悪いんですか?」と小野に問い質した。


「上が決定した事よ。私達には何も知らされていない」


 その後に「左腕に機関銃の射撃を受けて、血まみれになったけど、銃弾が腕を貫通して事無きを得たわ。普通なら腕が飛び出て、骨折してもおかしくないのに」と言って、ため息を吐き始める。


「とにかく軽症なんですね? よかった」


 瑠奈は亜門が手術されているだろう手術室の前の廊下で泣き始めた。


 すると、小野が手に持つメシアドライブから「ゴウガが実戦配備された。それに連中の動きと装備から見ると、政府系のプロ集団のようだ」と呟く。


「自衛隊と言いたいの?」


 小野がそう言うと、メシアは「まぁ、結構な高い装備を使っていたからな? ゴウガが配備されたことを考えると日本の公務員さんだと思うな?」と苦々しい声音を挙げた。


「・・・・・・だとしても、理由は何?」


「警察相手に喧嘩を売る理由か? それは今の時点でどこかに出かけているあのアメリカ人に聞けばいいんじゃないか?」


 それを聞いた小野は「あいつか? 一場君の事を考えると拷問の一つもしたくなるわね?」と小野は歯ぎしりをする。


「まぁ、警察と自衛隊が争っても意味は無いが、背景に何らかの利権が働いたとなると話は別だ。警察と自衛隊は何かと因縁がある事で知られているからな?」


 それを聞いた小野は「すぐに警視庁から防衛省に事実確認を申し込みます」と息まいた。


「証拠が無い。もっとも、若い男がゴウガの装備を解いて、ヘリに乗った瞬間が動画で拡散しているから、何かしら事態が進展する事は期待できるが、今はそれらの動きを静観する事が一番良いアクションだと思われるな?」


 メシアがそう言うと小野は「東洋系であって装備が欧米製であることから考えれば、自衛隊が関与するのもあり得るけど、目的は・・・・・・」と深く考え込み始めた。


「元自衛官の経験から思考を働かせているのか?」


「自衛隊は一見、災害活動とかで国民に好意的に見られているけど、私の現役の時から裏で薄暗い工作活動や作戦行動を担当させられる事があったのよ」


「軍部というのは、そのような薄暗い世界と表裏一体だからな?」


 小野とメシアのそのような専門的な話は分からなかったが、亜門が軽傷とは言え、手術を受けているという事実を考えると、涙が堪えられなかった。


 それを見ていたメシアが「亜門は大丈夫だ。だから俺は選んだ。死ぬことはない」と瑠奈に語り掛ける。


 それを聞いた瑠奈は「こんな事がいつまでも続くの?」と言って、むせび泣き始めた。


「奴はアムシュだ。時間をかければ、どんな怪我でも簡単に治すことが出来るだろう」


 メシアが口にしたアムシュという言葉に若干の引っ掛かりを覚えながらも、瑠奈は「そんな事は無理よ! 亜門君は普通の男の子だから・・・・・・」と言いながら、再びむせび泣く。


 すると、手術室から医師が現れた。


「手術は成功しました」


 医師がそう言うと、瑠奈は「彼の体に異常はないんですか?」と医師に問い詰める。


 自分が医大生であることを忘れていた。


 自分は今、感情のままこの医師に向かい合っている。


 そう知覚しつつも瑠奈は動揺を隠せなかった。


 すると医師は「恐ろしいですね。機関銃の銃撃を食らったら、腕は骨が折れて、飛び出すんですがね。運よく銃弾が左腕を貫通したからいいですが?」と医師は何かを躊躇った表情を見せる。


「何か不都合でも?」


「・・・・・・通常の医療では考えられませんが、彼の受けた傷が徐々に回復しているんです。この短時間で銃弾に貫通された筋肉や骨が再生を始めて、傷口も自然と回復し始めています。後、三時間経ったら、もう腕はほとんど元に戻っているでしょうね」


「そんな事はありえません! 何らかの処置をしない限り、自己再生では回復には限りがあります!」


 瑠奈は医師に詰め寄り始める。


「我々にも理由は分かりません。回復に向かっているのは僥倖ですが、はっきり言って、この回復力はもはや怪物のようなものです」


 医師がそう言うと「まぁ、このような異常な回復能力だから、偉い人が横田の米空軍病院に搬送させるんでしょう。あそこは謎に包まれているから何をされるか分かりませんがね?」と言って、そのままどこかへと消えて行った。


 瑠奈は大きな不安に襲われた。


 亜門は何かしらの実験をされるのだろうか?


「俺が見込んだとおりの奴だ。奴は本格的に覚醒を始めている。もっとも、現段階で空軍病院に俺が同行できないのが気に入らんがな?」


 メシアがそう言ったのを聞いた、瑠奈は混乱を始めていた。


 覚醒って何?


 それが原因で軍の病院に移されるの?


 気が動転してどうしていいか分からない中、小野は冷静な声音で「あなたが一場君を選んで、上層部もそれを黙認したのはそのアムシュとやらが理由なの?」とメシアに問い詰める。


「時期が来たら話すさ。だが、奴がもうすぐ人間を超越した存在になるのは間違いないとだけ言っておこう」


 何それ?


 亜門君は人間じゃないの?


 瑠奈はそのまま泣き続けていた。


 メシアはそれを見かねて「瑠奈、奴は生きる、安心しろ。あいつは簡単に死ななない。お前が支えてやれ」と珍しく優しい声音で語った。


「時期が来たら、話すのね?」


 小野がそうメシアに問いかけると、メシアは「当然だ。俺が奴を選んだ理由にそれを黙認した上層部の狙いも教えてやるさ」とだけ言った。


 そう言うメシアからは悲壮感は一切感じ取れなかった。


 瑠奈はそれらを聞いても目から涙が止まらなかった。


 それを見た、小野が「缶コーヒーでも飲む?」と聞いてきた。


「・・・・・・いただけると思いますか?」


 普段ならコーヒーは大好きだが、この日は飲めるわけがなかった。


 亜門にこれから起こるであろう何らかの事変が瑠奈の心を今の時点で動揺させていた。


11


 八王子の路上で兵頭は苛立っていた。


 自分が見込んでいた一場亜門が謎の武装集団によって、警察官もろとも襲撃をされて、現在、手術室へ搬送されたという事実がそうさせていた。


「主任、何を苛立っているんですか?」


 石上がそう問いかけると、兵頭は「八王子署の若い奴等はどうした?」と声を荒げる。


「えぇ、骨を折るほどの重症ですが、命に別状は無いそうですね?」


「・・・・・・亜門は撃たれたそうだな?」


 それを聞いた石上が「お偉いさんが一場の容態を見に行ったそうです」と歯切れの悪い口調で語った。


「お偉いさんが?」


「えぇ」


「何で?」


「知りませんよ。お偉いさんに知り合いなんていないですから?」


 兵頭は軽く舌打ちをしてしまった。


「でっ、左手はどうなんだ?」


「見事に回復を遂げているそうです」


 それを聞いた兵頭は一瞬、言葉を失った。


「機関銃をもろに喰らったんだよな?」


「えぇ、運よく、銃弾が貫通して、驚異的な回復力で普通の状態に回復しているそうです」


 それを聞いた、兵頭は「本当にそうなのか?」と石上に念を押した。


「分かりませんよ。俺は直接見ていないですから?」


 それを聞いた兵頭は「・・・・・・こんな短時間で回復なんて、何かの間違いじゃないか?」と聞いたが、後ろから「お偉いさんが奴の相方のAIに聞いたら、奴はアムシュの可能性があると言っている」と五十嵐徹の声が聞こえた。


 兵頭はそれを見ると「公総は便利だな。お偉いさんの裁量でいろんな働きができるからな?」と精いっぱいの皮肉をかける。


「外事四課が動いている中で、謎の武装集団による一場亜門襲撃だ。ソルブスユニットの主軸を担っている、一場が負傷した事実によって上は大慌てで容態を見に行った。上層部が奴を重宝しているからな?」


 五十嵐はそう言うと「上層部は奴がアムシュであることを回復具合を見て確信したそうだ。もっとも、最初から上層部はそれを知っていたがな?」とさらに続けた。


「アムシュ?」


 兵頭が聞いた事のない言葉を疑念に思い、口に出すと、五十嵐はそれを無視して「三十年前にアメリカやヨーロッパ主導で、脳機能と細胞機能の進化により、空間認識能力に反応速度、驚異的な体の再生能力を得た人類の存在が報告された」とだけ言った。


「ムーとかエックスファイルの話しか?」


「だろうな?」


 五十嵐はそう言った後に「各国の政府はこれを公表せずに密かに対象者を招集し、兵器への転用を図った。日本政府もそれに同調して、兵器化の計画を練ったが欧米政府がその対象の致命的な欠陥に気付いた事により、この計画は中止になった」と言い続けた。


「いいのか? それは国家機密臭いぞ?」


 兵頭がそう言うと「お前はあの坊主に接触した。それに放っておいてもその内に坊主に関しては内調やらFBIにCIAなどの調査が入るだろう。廃棄された計画から三〇年。上層部が事前に知っていたとは言え、覚醒が近くなった異能者だ。色々データを取りたいだろうさ?」とだけ言った。


 五十嵐がそう言うと、兵頭は「何で、そんな超人連中を兵器化する計画は中止になったんだ?」と質問する。


「脳機能の進化による空間認識能力の進化によって、非情に繊細になった人間が多くなりすぎた事と、いかに空間認識能力と体の再生機能が進化しても、運動神経だけは訓練しないと向上しない事からだ。さらにそれ等を兵器として転用するには普通の感覚以上に繊細な彼等、彼女等では堪え切れずに軍の実験中に自害する連中が多く出た事からアムシュ、正式名称アラウンド・ムーブメント・スペース・ホルダー(Around Movement Space Holder AMSH)を使った計画は中止になり、ここまでは忘れ去られた存在だった。一部の政治家や官僚を除いてはな?」


 五十嵐がそう言うと、兵頭は「何故、俺に話す?」とだけ言った。


「お前が余計な事をしない為さ。事前に知っていれば、余計な事を探って消されるなんて事は無いだろう? 余計な事はするなよ。無駄な事なんだからな?」


「・・・・・・随分と優しいな?」


 兵頭がそう皮肉を言うと、五十嵐はそれを無視して「問題は一場の処遇さ。最初から警視庁上層部と日本政府は日米安保条約の関係から、一場をモルモットよろしく兵器として転用して、アメリカに恩を売る、あるいはアメリカが直接乗り込んで、日本政府には何も言わせずに直接、一場を兵器として転用する事を狙っていた。レインズ社との契約もあるが、人間を兵器扱いするなんて聞くに堪えない話だ」とだけ言った。


 兵頭は血の気が引くのを覚えた。


 亜門が何らかの人体実験をされるという事か?


 そう思った兵頭は「何とかならないのか?」と五十嵐の肩を掴む。


「離せよ」


「冷静でいられるか! あいつが何をしたっていうんだよ!」


「アメリカ政府からすれば有色人種で同盟国の外国人が異能者と分かったんだ。日本政府の了承が得られるかなんて関係ないさ。無論、アメリカに対して異論を言えない日本政府だ。了承を得たとしたら容赦なくモルモット扱いするだろうな?」


「ふざけるな! そんなことが許されるか!」


 兵頭がそう五十嵐を揺さぶると、五十嵐は兵頭の手を払いのけ「警視庁上層部は最初から一場を利用するつもりだったが、総監は娘を助けてもらった恩とやらで気持ちが揺らいでしまった。それを受けて日本政府の閣僚、外務省にアメリカ大使館の駐日大使に頼んで、一場に対する実験体扱いを避けるようにさせようとしていたらしいが、あの国がやると決めた以上日本は何も言えんさ。諦めろ」と冷たく言い放った。


 それを聞いた兵頭は「諦めろか? 公安部のお前らしいセリフだよ」と五十嵐を蔑視する。


「トップである総監が一応は動いているんだ。俺達に出来る事は無いさ。お前は何故、あんな子どもに情念を抱く?」


 五十嵐にそう聞かれると、兵頭は「純粋で正義感が強いからさ。あぁいう奴は警察官に向いている」と五十嵐を睨み据える。


「俺とは真逆のタイプだな?」


 五十嵐はそう言い切った。


「一場に対する救済措置を総監も考えているが、上層部とアメリカがやると決めたらやるんだ。俺達、現場の人間ではどうにもできないさ?」


 五十嵐がそう言って、兵頭の前を去ろうとすると、兵頭は「モルモットなんかにさせるかよ! あいつは何も悪い事していないだろう!」と五十嵐に対して喚く。


「だが、奴を助けて俺達に何の関係があるんだ?」


「あるさ! 俺達は何度も奴に助けられただろう?」


「そうだとしても、俺達には何も出来ない。お前も割り切れよ」


 五十嵐はそう言って、兵頭の前から去ろうとした。


「この出世亡者が!」


「言われても構わんさ。ガキ一人の命と警察官人生を天秤にかけるなら、俺は後者を取る」


 そう言って、五十嵐は車に乗って現場を去った。


 恐らく八王子署へと向かうのだろう。


「主任・・・・・・一場を助けるんですか?」


 石上がそう聞くと、兵頭は「何で、そんなことを聞く?」と石上を睨み据えた。


「アメリカや上層部まで介入するとなると、一警察官の裁量では対処のしようがないのではないかと――」


「俺は奴を助ける。お前は警察官人生とやらを取ればいい」


「じゃあ、どうやって助けるんです?」


 石上がそう聞くと、兵頭は「それはこれから考える!」とだけ言った。


「結局、ノープランなんですね?」


「分かっているさ。何とかしなければいけないことは・・・・・・」


 兵頭がそう言うと同時に雷が鳴った。


 雨は滝のように流れ、鑑識の作業を難航させていた。


「それにしても、一場を襲撃した連中ってどんな奴なんですかね?」


「〝教団〟の連中はありえないな?」


「何で、そんな事言えるんです?」


「年中やっつけているからさ。恐らく素人ではないだろうな?」


 兵頭がそう言うと石上は「主任が一場の事が好きなのが分かりました」と言って、目の前から去って行った。


「そうかい、好きにしろ」


「大人になってください。俺達は公務員ですよ」


「だが、俺達は正義を司るんだぜ?」


 兵頭がそう言うと石上は「とにかく、俺はリスクを冒しませんよ」と言った。


 好きにすればいいさ。


 俺はとにかく亜門を助ける。


 兵頭は雨の中、拳を握りしめていた。


 短く切った爪が掌に食い込んでいた。


12


 一場亜門は長い時間、病室で眠っていた。


 途中、意識が戻ると、白髪頭の紳士風の男が座っているのを目視した。


 誰だ・・・・・・この人?


 亜門が一瞬、そう思うと、白髪頭の男を俯きながら「このガキが・・・・・・」と一言だけ言い放った。


 その一言を聞いたと同時に亜門は再び眠ってしまった。


 そして、次に目が覚めた時には亜門は自分が初めて病室にいる事を知覚したが、目の前では外国の人間が多数見守っていて、亜門が目覚めると分かるはずのない英語を話し始めた。


 そして、どこかと連絡を取り始めていた。


 何なんだ・・・・・・こいつ等?


 亜門がそう疑念を抱くと、病室にマイク・シフォンが現れた。


「君がアムシュとは知っていたが、捕獲の機会を伺い、ゴウガまで投入してようやく、この病棟まで運んだ。ここに至るまで、関係各所への地ならしには苦労したよ」


 シフォンが日本語でそう話すが、その顔はユニット庁舎では見た事の無い、まるでいじめを楽しむ学生のような陰湿であまり気持ちのいいとは言えない表情だった。


 すると、シフォンは英語で男達に指示を飛ばす。


 すると男達が「イエッサー」と言ったのを確認して、シフォンは病室を出る。


「君はもう日常には戻れんよ」


 シフォンはそう高笑いを病室に響かせた後に出て行った。


 何なんだ、あのおっさんは?


 亜門は状況を理解することが出来なかった。


 すると一人のアメリカ人が「一場亜門特務巡査」と声を掛ける。


「私はCIAのティム・クルーザーと申します」


 亜門はティムの流暢な日本語を聞くと「CIA?」と疑念の声を上げる。


「あなたの監視をするようにと、アメリカ政府から命令されています。尚、日本国政府もそれを了承しています」


 亜門はティムが何を言っているかが分からなかった。


「あなたは何を言っているんですか?」


 亜門がそう言うと、ティムは英語で周りの男たちに命令をしていた。


「まだ、起きたばかりですからね。状況を説明すると同時に食事でも取りませんか?」


 そう言って、ティムはナースコールを押した。


「私です。一場特務巡査が目を覚ましました」


 亜門はその様子をぽかんと眺めていた。


「あの・・・・・・メシアはどこにいるんです?」


 ナースコールを終えた、ティムは「警視庁の方で預かっているそうです。気に入りませんが、シフォンはメシアがあなたに変な入れ知恵を働かせるのを嫌がったのでしょう。気の小さい男です」とシフォンに対する敵意を覗かせた。


「・・・・・・何が起きているんです?」


「言ったでしょう。食事をしながら状況を説明すると」


 ティムがそう言った後に、看護師が食事を病室まで運んできてくれた。


 メニューは汁なしラーメンだった。 


 病院食にしては美味そうじゃないか?


 ここでメシアがいたなら「ビンゴ!」という声を上げていただろう。


 亜門がそう感じたと同時に、ティムは「病院食にしては美味そうですね?」と声をかける。


 今、亜門が思った通りの事をこの男は言う。


「いえ、こんなところで運を消費したくはないですが?」


 亜門がそう言うと、ティムは「運とは無くなる物なのでしょうか?」と聞いてきた。


「・・・・・・分かりません」


 それを聞いたティムは「食べてください。状況も説明するので」とだけ言った。


 病室から見える外の様子を眺めると、ここが八王子ではないことは確かだった。


 辺りではヘリコプターの羽音が聞こえ、窓からは軍用機と見られる機体の姿も見えた。


 ここは軍隊の基地なのかもしれない。


 亜門は自分に何が起きたかは分からないが、恐らく、また面倒な事に巻き込まれたのだろうなと悟った。


 亜門はそう感じるとティムに「ここは米軍か何かの病院ですか?」と聞いてみた。


 するとティムは好意的な笑みを浮かべて「まず、そのヌードルを食べてください。のびるでしょう?」とだけ言った。


 亜門は目の前の汁なしラーメンを見て「いただきます」とだけ言って、食べ始めた。


「食欲がある時点であなたは回復している」


 ティムが横でそう言う中で亜門は汁なしラーメンをすすり続けた。


 病院食にしては予想以上に美味だったことが印象的だった。


13


 瑠奈は小野に車に乗せてもらって、米軍横田基地の目の前にいた。


 そして、助手席にただ座っていた。


 目の前ではテレビのニュースでよく見る、V-22オスプレイが飛び立っていた。


 それを目視した後に後ろに置かれているメシアに瑠奈は話しかけた。


「亜門君に会えるといいな?」


「隊長殿が必至で粘っているが、まず無理だろうな。手術が終わって、八王子の病院から米軍の病院に移送された時点で、嫌な予感はしていたが、ここまで厳重に警備されているとなると、バナナの一つも亜門に届けることは出来ないな?」


 メシアの言っている一言一言がオスプレイの轟音でかき消されそうになる中で、スマートフォンを眺めると、メディアは〝教団〟をバッシングする報道で溢れ、近々、警視庁公安部が塚田の息子に再び任意での取り調べを行うという可能性について示唆していた。


 それを数秒眺めた後に瑠奈は「・・・・・・亜門君は何かの実験体にされるの?」と聞いた。


「俺もそれを危惧している。アメリカ軍は世界最強の軍隊だ。いくらワシントンの政治家が人権や正義に自由を唱えたとしても、有色人種の外国人相手の実験だ。躊躇なくモルモット扱いすることも考えられるな? それにここには謎に溢れている国連軍後方司令部がある。第二次朝鮮戦争が終結しても、ここに国連軍が形式上駐屯しているというのは不気味だ。亜門のデータを同盟国同士で共用する可能性もある」


「・・・・・・日本政府は抗議しないの?」


「日本がアメリカに対して、物申すところを戦後において、見たことがあるか? それに横田基地は何があるか分らない場所だ。しかも、ここは日本であって日本ではない。ここから出入国しても法律上は日本には入国したことにもならない場所だ」


 それを聞いた瑠奈はただ無言を貫き通すしかなかった。


「・・・・・・メシアは亜門君を助けたくないの?」


「助けたいさ。だが、計画もないのにジタバタするのは見苦しいだろう?」


「見栄えを気にする状態じゃないでしょう!」


 瑠奈がそう言って、実体があれば、後部座席にいるメシアにビンタの一つを食らわせようとしたが、フロントガラスをノックされるのが聞こえた。


 小野が戻ってきたのだ。


「無理ね。米兵に警視庁の警察官が空軍病院に搬送されているから面会したいと言ったら『出ていけ、知らない』の一点張りよ」


 それを聞いた瑠奈は「亜門君が実験体にされちゃう・・・・・・」と言って、泣き始めた。


「・・・・・・とりあえず、私達も何かしらの作戦を練ろうとは思うけど、今日は戻りましょう。ここにいても亜門君は帰ってこないわ」


 小野がそう言った後に車の運転席へと座ると、すぐに自動運転を起動した。


 瑠奈は泣きながら、横田基地を眺めていた。


 会いたい・・・・・・


 瑠奈がそう思いながら、泣き続ける中で、オスプレイの轟音が横田の空へと響いていた。


 泣き続けていた瑠奈に対して、小野がティシュを渡してくれたことが、今のところは唯一の慰めにはなった。


14


「やはり上層部は一場亜門がアムシュであることを把握していて、メシアの装着者になる事を容認したのですね?」


 五十嵐は目の前で椅子にふんぞり返る、瀬戸の前に直立不動で立っていた。


「そうだ、政府はアムシュの可能性がある民間人として把握していたが、初回の戦闘で奴があんな人体に悪影響がある、軍事兵器を装備しても具合が悪くならない事で上層部は確かな確信を抱いた。それを受けて、レインズ社と我々は奴の起用を決めた。もっとも、政府や我々は、彼の存在はすでに知っていたがな?」


 それを聞いた五十嵐は「どういうことですか?」と疑念の声を挙げた。


「奴が生まれた病院で取違いが起きていたのさ?」


「取違いですか・・・・・・」


 五十嵐がそう言うと瀬戸は「奴の父親である山口県警の刑事と母親はそれを知らない。現にあいつの両親の血液型と、奴の血液型は違う。皆は気が付かなかったが?」と言った。


 その表情は不敵な笑みに包まれていた。


「私が知らない情報ですね?」


 五十嵐はその事に立腹して、雲の上の上司にチクリとその事を言うと、瀬戸は「アムシュ計画は三十年以上前に中止になった計画だが、古い世代の政府高官や警察官僚に自衛隊の幕僚達は密かにその計画を進めていた。そして一場の動向を常に観察していた。もっとも、別の理由もあったがな?」とだけ言った。


 五十嵐は自分の知らないところで事態が動かされていた事実に腹を立てていたが、相手は本来であれば会うことも出来ない雲の上のような上司だ。


 それを必死に堪え「奴は当時の政府が行った悪行の果てに生まれた存在だからですか?」と声を振り絞って聞いた。


「奴の本当の父親は汚職を起こした、神谷晋作という国会議員だ。二〇年前に息子が生まれる前、東京地検に公職選挙法違反の容疑で逮捕されたが、時の宰相だった瀬口総理が今の一場亜門に犯罪者の息子という、汚名を着させるのを阻止する為に山口県警に勤務していた当時の一場雄二警部補夫妻に気が付かぬように神谷の子どもと、一場家の本当の子どもをすり替えるようにゼロの連中に指示をした。本当の一場の息子はゼロの手引きによって、児童養護施設送りさ。神谷の選挙区は山口だから、ある程度の権力があった。だから、こんな残忍なことが出来る」


 ゼロとは警察庁警備局警備企画課に属している、秘匿部隊である。


 その与えられた任務は全国で行われる、協力者運営の監理と警視庁公安部と各都道府県警の警備部に所属する作業班の指示と監督である。


 公安部は元が戦前の悪名高き、特高警察の後継組織なのだ。


 この瀬戸にしても公安の上層部は旧内務省の復活と東京を中心とした国家警察を理想像とするのが、主たるものだ。


 その構想の権化ともいうべき瀬戸を見据えた。


「本当の一場の子どもは荒れた生活を送ったらしい。児童養護施設に入所し思春期以降は非行に走り、何度も山口県警の世話になって、中学卒業を最後に山口県警警備部の監視を逃れ、国外へと出て行った」


 取り違いによって本来は恵まれた家庭で過ごす予定だった、本当の子どもが何らかの原因で取り違いの事を知って、亜門の家庭に何らかの影響を与えるのを防ぐ為に各都道府県警の警備部を使って、監視する事は五十嵐にも理解はできた。


「一場亜門に対して行った、取違いの措置は単に神谷の息子という事実を防ぐ為だけではない。当時、アムシュ計画には神谷夫妻も関係していた。あの夫婦は子どもが出来ない事と自身の地盤を継ぐ、優秀な跡取り欲しさにアムシュ計画の実験に自分達の精子と卵子を提供した。幾度もの失敗の末に生まれたデザイナーベイビーまたは試験管ベイビーとして一場亜門は誕生した」


 五十嵐には神谷という男は命という物が金でいくらでも買える物だと思っている奴なのだろうなと思えた。


 いくら汚れ仕事の多い公安部の五十嵐でも、こればかりは怒りを覚えざるを得なかった。


「試験管で生まれた子どもの存在に国会議員が関与していたとなれば大きなスキャンダルだ。当時の瀬口内閣はそれを神谷の汚職によって、息子が犯罪者の息子になるのを防ぐ一方で、そのような倫理的に問題のあるプロジェクトの存在を隠す為に意図的な取違いを支持したのさ」


 それを聞いて、五十嵐は拳を握りしめていた。


「・・・・・・試験管で生まれた事の倫理性の違反は理解しました。しかし、アムシュと云えど、空間認識能力と体の再生能力が通常と異なるという以外では、知能や身体能力は本人の努力によってのみ習得できるものでは無いでしょうか?」


 五十嵐は未だに自分の中で測り兼ねているアムシュである、一場亜門の能力に関する疑問に切り込むと瀬戸は「その努力次第では空間認識能力と、身体の再生能力は大いに有利になる。神谷は自身の金銭に関わる事件が無ければ、今頃、あの坊主にスパルタ教育を行っていただろうが、結果として、呑気な中流家庭の息子になって、三流大学の一般的な学生としての人生を送る事となった。運命とは皮肉な物さ?」と言って、にやりと笑いだした。


「大体の概要は分かりました。ですが、一つ気になることがあります?」


「何だ、簡潔に言えよ」


 黙れ、古狸。


 五十嵐はそう言いたいが、それを堪えて質問することにした。


「入れ替わった子どもが、国外に逃走したという事ですが――」


「その子どもは傭兵になった。ある人物の手引きによってな?」 


 そう言った、瀬戸はふんぞり返った椅子から立ち上がり、窓から国会議事堂を見下ろしていた。


「その人物こそ、世界的な犯罪結社ピースメーカーの首領、アツシ・サイトウだ」


「・・・・・・実在する人物なのですか?」


「どうかな? だが日本の非行少年に対して、資質を見出して傭兵へとスカウトするんだ。日本とは高レベルな関りを持つ人物だとは思われるよ」


 瀬戸がそう言うと、五十嵐に対して「聞きたくないか? それが誰か?」と問い返す。


「・・・・・・私には手に負えない情報です」


 五十嵐がそう言うと、瀬戸は「実に懸命だな?」と言って、高笑いを始めた。


 五十嵐はそれを見て、目の前の雲の上の上司に反感を覚え始めていた。


 俺を蔑ろにしやがって・・・・・・


 五十嵐はそう思うと同時にもう一つ何か、理解不能な怒りを覚えていた。


 それが何なのかは五十嵐には理解できなかったが、その正体不明の怒りが五十嵐の心中をぐるぐると回っていた。


 その正体不明の怒りは五十嵐を酷く不快にさせ、目の前の瀬戸を殴りつけたい気分になっていたが、それを行えば、自身の警察官人生が終わるという事は知覚していたので、行えなかった。


 瀬戸の高笑いがひどく癇に障る午前の出来事だった。


15


 ソルブスユニット分庁舎のミーティングルームでは隊長である小野隊員達に整備班が集まって、メシアドライブに繋げられたテレビを見つめていた。


「自衛隊が俺と亜門や警察官を襲撃した理由は今のところ見当はつかないが、あのアメリカ人がこの庁舎にやってこない事を考えると、ネズミのようにこそこそと何かしらの悪だくみを仕掛けていたに違いないな? でなければ同じ日本の公務員同士で戦闘を起こすなんて、クレージーな展開が起こるワケがない」


 メシアがそう言うと、高久が「確かなのか? 自衛隊が俺達、警察に喧嘩を売るなんて?」と質問してきた。


 元SATの高久からすれば合同訓練で共に汗を流す関係性にある、自衛隊が自分達に敵対行動を取った事が未だに信じられないようだった。


「俺や隊長殿も理由なく、自衛隊が警察を襲撃した事に関しては腑に落ちない点が多いが、一つ考えられるのは亜門がアムシュという異能者であることだ」


 それを聞いた中岸が「確か、お前が作成した電子資料ではアムシュは脳機能の進化により空間認識能力が高まり、細胞機能の進化も伴って自己回復能力も常人よりも進んでいるっていう、エックスファイル的な超人の話しだろう?」と言いながらタブレットに目を通す。


「あぁ、俺は亜門がアムシュであると事前にレインズ社から知らされていたから、あえて民間人である奴を選んだ。全ては仕組まれた事なんだよ」


 メシアがそう言うと、ミーティングルームはざわめいた。


「お前・・・・・・出来レースに加わっていたのかよ!」


「一場をこんな目に遭わせたのはお前にも非があるじゃないか!」


 整備班の班員達の怒号が飛び交う中で、メシアは冷静な声音で「最終的には奴が契約をして、俺達の仲間になって戦ったのは紛れもない事実だ。俺が責められる云われはないが奴を助けたいという思いはある。すまない」と整備班に対して、初めて謝罪した。


 普段は謝ることなどをしない、メシアの謝罪はユニットの人員に重い言葉となって響いていた。


「恐らく、米軍と自衛隊にはレインズ社またはアメリカ政府が絡んで、何らかの狙いで亜門の捕獲作戦を実施したんだろう。そう考えれば、あいつの大学に〝教団〟関係者が多い事も腑に落ちる。あの大学襲撃事件も大局的に計算されていたから、亜門と俺の関係性が出来たのさ?」


 それを聞いた、ユニットの面々は「あの事件まで仕組まれていたのか」と静かに呟く。


「今回の襲撃においては軍事組織に大きな国家勢力と民間による何らかの圧力がかかった結果、このような警察襲撃という蛮行に至ったと俺は考える。隊長殿はどう思う?」


 メシアが小野にそう問うと、小野は「彼が警察の功労者である事は考慮されなかったの?」とメシアに聞いた。


「奴は、アムシュである以前に汚職を起こした神谷という国会議員の息子だ。そして、デザイナーベイビーだ。時の総理が亜門に犯罪者の息子という事実を与えたくない事と、政府が試験管で生まれた子どもを作っていた事実を隠す為に、あいつの今の両親の本当の息子と意図的に取違いを行った」


 亜門がデザイナーベイビーであるという話をメシアがすると、ミーティングルームはどよめきに包まれた。


「アメリカ政府やレインズ社はそれを把握した上で、再調査を始めることにしたのだろう。その上で大学襲撃事件を計画し実行した。有色人種で外国人である三流大学生の人生など、あの国が考慮するはずはない」


「上層部とレインズ社は最初から亜門君をモルモットにする為に、あなたと亜門君がコンビを組むことを黙認したのね?」


「・・・・・・あぁ、政府からすれば三十年以上前の悪行を蒸し返されるのを嫌ったんだろう、故にアメリカの言いなりさ?」


 メシアがそう言うと、小野は深く息を吸った。


「官民問わず、一場君の出生の秘密を知っている勢力が彼を捕獲、モルモットにして、使い捨ての軍事兵器として転用しようとしているのはかつて軍部にいた私にも理解が出来る問題だと思うわ」


「これで自衛隊による警察官襲撃の動機の推測は解決だ。要するに過去の悪行を隠蔽したい政府の命を受けて、軍部が動き、ウチのお偉いさんもそれを黙認した。日米両政府や欧州の人を使った兵器転用計画には使い捨て・・・・・・というよりは、能力が有るが政府としては死んでもらいたい奴を使おうという思惑があって、亜門が適任者だったという事だ」


 それを聞いたユニットの面々からは「ひどすぎる・・・・・・」や「人命を助けるのが警察だろう?」という声が聞こえていた。


「だろうな、その上で実務的には大きな問題点がある」


「亜門をどうやって奪還するかだろう?」


 浮田と中道が制服のネクタイに手を掛けながら会話に加わる。


「奴に恩義を感じた久光総監がかなり動いているようだが、官邸とホワイトハウスが連携しているんだ。ここは事態に動きが見られるまで、静観するのが得策だと思うが、お前等は納得しないだろうな?」


 メシアがそう言うと、中岸が「お前はアメリカ側にいるはずだが、何故、空軍病院にいないで、ここにいるんだ?」と怪訝そうな顔で尋ねた。


「シフォンは俺が亜門に接するのを避けたのさ。俺があいつに何かを助言して、あいつの脱走を手引きするという事を警戒しているらしい。極めて小悪党らしい対応だ」


 メシアのその返答には、ユニットの面々の険しい顔と沈黙がそれに答える形となっていた。


「ちなみに亜門の奪還を考えるなら、あえて言おう。持ち場を離れて横田まで行けば懲戒。米軍基地を堂々と攻撃すれば政治犯だ。ここは時間をかけて戦略を整えるべきだと俺は思うがな?」


 メシアがそう言うと、小野は「それもそうだけど・・・・・・」とメシアがジャックした、テレビを横目で眺める。


「何だ?」


「やられっぱなしは面白く無いわね?」


「アメリカ相手にやられたらやり返せか。好きだなその考え?」


 それを聞いたメシアは笑い声を上げた。


「作戦と上層部への言い訳に俺達の保身を一気に考える。ガーディアンを用意してくれ」


 それを聞いた中岸達、整備班は「よし、整備するぞ」と言って、ミーティングルームを出て行った。


「でっ、作戦ってどうするの?」


「横田には俺が思うように扱える装備があるのは知っているだろう。ちょっと指示を出せば俺の思う通りさ?」


 それを聞いた、浮田は「あれか・・・・・・完成したのか?」と疑念の声を挙げる。


「あぁ、もうアメリカから空路で輸送されて、後は実戦配備を待つだけだ。遠隔操作は十分に行える」


 中道は「後ろめたいな。俺達は警察官だろう? テロを誘発するなんてさぁ?」と呻く。


「知るかよ、肝心のお上の腐った陰謀に俺達は付き合わされていたんだ?」


「宮使いとしては従わなければいけないが、人としては容認できないだろう?」


 高久と島川がそう意気込む。


「まぁ、その辺の後処理は隊長の爺殺しに任せてもらおう」


 浮田がそう言うと「あら、爺殺しなんて良い褒め言葉じゃない?」と小野が声をかける。


 同時にメシアは「一応は聞くが、亜門を助けるんだな?」と全員に聞いた。


 それを聞いたユニットの面々は「異議なし」とだけ言った。


「じゃあ、隊長殿、バックアップの要請を頼む」


「まぁ、期待しないでね。成功しても皆、政治犯で捕まる可能性があるんだから?」


 小野がそう言ったのを最後に当人以外の人間はミーティングルームを出て行った。


「あなた、レインズ社との契約は守らないの?」


 小野がメシアにそう問うと、メシアは「学習したのさ」とだけ言った。


「何を?」


 小野の問いにメシアは「ヒューマニズムさ」とだけ言った。


「ビジネスマンを気取るあなたが随分と、臭い方向に転んだわね?」


「亜門に毒されたな? だがヒューマニズムに染まるAIである俺は先進的であるという事を忘れるなよ」


「分かったから、作戦立てましょう?」


 小野がメシアドライブを持って、隊長室に向かおうとすると、メシアは「電気消せよ」とだけ言った。


 小野は無言で照明を消した。


16


 亜門は病室でただ眠っていた。


 これから僕はどうなるのだろう?


 有り余る時間と軍隊の病院に幽閉されている、今の状況に不安を覚えながら、機関銃で撃たれた左手を眺める。


 ゴウガと呼ばれた、ソルブスに襲撃されてから、三日が立っていた。


 もう全部、治っている・・・・・・


 亜門はその事実を実感して、改めて自分がアムシュと呼ばれる特殊能力を持った存在なのだと実感した。


 ティムからその話を聞いた時は若干の動揺を覚えていたが、傷口が治ったことを考えると、この特殊能力はありがたいなと思えた。


 事実、自分はメシアが言っていた通り、何故か体が丈夫なのだ。


 怪我してもすぐに治ってしまう。


 それを不思議に思ったことは今まで感じたことはないが、まさか自分がそんなSFじみた、特殊能力者だったとは?


 戦闘機の爆音が病室の外で響くのを感じた。   


 本当に軍隊の病院に幽閉されている。


 亜門はそのようなことをぼんやりと考えていると、病室にロドリゴという中南米系のアメリカ人が現れた。


 彼はダーパ(Defense Advanced Research Projects Projects Agency DARPPA)という機関の職員だ。


 和訳すると、アメリカ国防研究計画局という所で、国防総省の内部部局でアメリカ大統領と国防長官の直轄の組織であり、軍からの干渉を受けない為、例えばUFOなどに関する非現実的な研究も承認される組織である。


 その業務内容は軍事技術への最先端技術の転用が目的で、その中でも軍などの関与が無い、隙間的な発明への投資を行うのが主な仕事である。


 投資が主な仕事と言っても、とんでも研究を行う化学機関だ。


 技術者は多くいて、事実、亜門は彼等の要望に応えて、血液採取にランニングに尿検査を始めとする排他物の回収や、ヘルメットを被っての脳波測定まで行われていた。


 それらが確かな意味を持っているかは分からないが、亜門はただそれに従う他なかった。


 相手は武装している。


 逆らったら、何をされるか分からない。


 こんなところで幽閉されている状況なのだ。


 言うことには応じざるを得ないだろう。


 亜門はロドリゴが「Get UP(起きろ)」と言うのを聞いて、ベッドから起き上がった。


 彼はティムと違って、日本語が話せないのだ。


 ロドリゴはガムを噛みながら、亜門の肩を叩く。


「How were you to day? (今日は調子はどうだ?)」


 実際のアメリカ人はこのような会話を行わない。


 英会話講師が英語のできない外国人に対して、行う会話の仕方がこの会話の内容だ。


 亜門はクビをすくめるしかなかった。


 「Me to(俺もだよ)」


 ロドリゴはそう同意の意味も込めて、肩を叩くが、亜門はすぐに嘘だと感じた。


 マッドサイエンティストめ。


 自分を何らかの実験体にするんだろう?


 亜門はロドリゴに促されるまま、別の部屋へと移動させられた。


「Running! (走れ!)」


 ロドリゴにそう言われたときに亜門は大きなため息を吐いた。


 それを見た、ロドリゴが「Go! (行け!)」とだけ言って、亜門の肩を叩き続ける。


 亜門はロドリゴに促される形でランニングマシーンに乗る。


 近くでは米兵が小銃を構えて警邏をしていた。


「ゴリゴリの軍隊だな・・・・・・」


「What did you say? (何だと?)」


 そう言った、ロドリゴは肩をすくめていた。


 亜門は暖房の聞いた部屋で、様々な機器を付けられた後にランニングマシーンで走り出した。


 自身の英語力が貧弱である事を恥じた、亜門だが、ただ走ることに集中した。


 室内は静かになった。


17


 ティム・クルーザーは亜門とは違う部屋において、ビデオカメラで一場亜門が走る姿を眺めていた。


 もうすでに傷が治っているか?


 ダーパの実験も問題なく、行われているようだ。


 しかし、東洋人とは言え、自分の弟と同じ年代の若者がダーパの実験台にされる様子は見ていて、心苦しい様子だった。


「CIAの人間が、東洋人のガキに随分と同情的な感情を抱いているな?」


 後ろからは日本の陸上自衛隊に所属する、蓮杖亙二尉と村田曹長に、相川祐樹三曹が亜門の走る様子を眺めている。


「日本人は勘違いしているようだが、CIAは基本的に裏工作が仕事で自分達で手を汚すのは嫌うのさ?」


「だから、ガキが実験に加担されるのを見ると、心が痛むか?」


「あぁ、マフィアや食い扶持を無くした元軍人に手を汚してもらわない限りはな?」


「大国の諜報機関の連中の意外な一面を見たよ」


 蓮杖がそう言いながら、タバコに火を点ける。


「スプリンクラーが作動するぞ」


「喫煙者には辛い時代だな?」


 そう言って、蓮杖はタバコを地面に捨て、すぐに足で踏みつぶす。


 日本人なのになんてマナーの悪い奴なのだろう?

 

 もっとも、こんな非常識な奴だから、レインズ社のシフォンとも堂々と渡り合えるのだろうなと思えた。


 あの男は小悪党だ。


 米軍にも圧力をかける事の出来る軍需産業の極東部長でなければ、拷問の一つでも行いたいぐらいに腐った男だ。


 あんな男がアメリカ人の代表だと思われればこれ以上の屈辱は無い。


「何故、ガキに取違いの事を言わなかった?」


 蓮杖がそう問うと、ティムは顔を俯けた。


「必要がないと判断したからだ」


「違うな。お前はあのガキを傷つけたくないから、試験管で生まれた事や親父が犯罪者である事に取違いが起きて今の両親が本当の親じゃないことを言わないんだ」


 蓮杖がそう言うと、ティムは「それは俺の一存で判断する」と強い口調で話した。


「情に駆られたか? まぁいい、他人の事だからな?」


 蓮杖がティムを鼻で笑ったが、ティムは蓮杖がそのように人の事をバカにする態度を取る人物だと知っていたので、あえて無視をした。


「アメリカは自由、正義、人権を唱える国家だったな?」


「表面上はな。俺もそれを信じたいから、それを守る為にこんな事をしているのさ」


 ティムは蓮杖を一瞥すると、蓮杖は「そんなものを信じるなら、ジャーナリストになれば良かったんじゃないか?」とティムを嘲笑する。


「俺は正義を守る為に公職についている」


 ティムがそう言うと、蓮杖は「正義か。中東で戦争をして、イスラム教徒を排斥して、キリストの教えに沿った民主主義国家の押し売りの事を言っているのか?」と言って、ティムを嘲る。


「貴様等の祖国はそれで先進国になっただろう?」


 ティムは蓮杖を睨み返していた。


「しかし、日本の宗教観は神道を主体とする、八百万の宗教観だ。一神教では無いから、お前等の価値観もアレンジを加えて、受け入れることが出来たが、国家よりも部族を優先し、一神教のイスラム教が主体の中東ではお前等の正義は二〇四〇年になっても実現していない。現に第二次湾岸戦争では米軍はイランと決着を付ける出来なかった。この事はどう思う?」


 蓮杖はティムを嘲笑いながらそう言うと、ティムは「シフォンがお前を悪党と言った理由も納得できる。お前は大悪党だ」とだけ言った。


「お前は諜報機関の人間にしては情に厚すぎるだけだ。俺は職務に忠実なだけさ?」


 蓮杖はそう言う中で、ティムは沈黙を返事として返した。


 この男にイデオロギーや愛国心は無い。


 ただ、戦いと破壊を楽しむだけのいかれた軍人とも言えない戦争中毒患者だ。


 ティムはそんな哀れな男と相対すのを止め、ビデオカメラの向こうでランニングマシーンで走り続ける、一場亜門を眺めていた。


 前向きだな?


 白人と東洋人で違いはあるが、年齢は自分の弟と大差ない。


 そんな青年は幽閉される中でも、悲壮感を感じさせない走りを見せているのを見て、ティムは手に汗を覚える感覚を覚えた。


「お前の言う通り、ジャーナリストになればよかったかもしれないな?」


 そう言ってティムは目の前のカメラを見続けていた。


 カメラの奥の青年は若干、息を切らしながら走り続けていた。


 運動不足なところも弟にそっくりだな?


 ティムはカメラの向こうの東洋人の青年を見て、愛くるしさを覚えていた。


 諜報機関には俺は向いていないな?


 ティムは蓮杖に見えないように苦笑いを浮かべていた。


 それすらも嘲笑されるのが嫌だったからだが、気が付けばあの三人は消えていなくなっていた。


 ティムにはそれが有難く感じられた。


「頑張れ」


 そのような日本語を口にして、ティムはカメラを見続けていた。


18


「警備は厳重だが、手引きは内部にいる協力者が行う」


 中国出身のフォン・チャンは英語で話しながら、双眼鏡を横田基地の入り口に向ける。


 江角大門はジープを運転しながら、口笛を吹く。


「あのシフォンって奴は俺達みたいな連中にも武器を与えるんだ。とんでもない悪党だな?」


「悪党と言っても小悪党でしょう。私嫌い」


「秋葉原のあの密入国ブローカーもひどい小悪党だったな? 週刊誌に奴の情報と俺達が日本に入国した事実を明かそうとして、金を揺すりとろうとしたんだからな。殺されて当然だ」


 アイルランド出身のレイラ・マーカスはそれを聞くと「ヒュー」と口笛を吹く。


 この国の警察官は福祉職員のように優しいイメージがあったが、一方ではこの国の警察は邪魔になった奴は証拠を残すことなく殺すことが出来る、秘匿部隊を隠し持っているのだ。


 確か、その存在の名前はゼロとか言ったか?


 江角がそう思うと、レイラが狙撃銃の一つであるバレットM82を組み立て始める。


 〝スポンサー〟が正義の味方を気取っている一方で俺達、悪党にこんな高価な狙撃銃まで用意してもらえるのだ。


 ミッションに失敗は許されない。


「今回のミッションはガキを殺すのとドラガドライブの強奪だろう?」


 フランス出身のイザーク・ミエルがヘッケラー&コッホ社製のG3を構え始める。


 そのような面々を乗せて、江角が運転する車は横田基地へと入る。


 その間に米兵に身分証をチェックされるが、全員は国連軍から米兵の身分を与えられていた為、難なくチェックをすり抜けて行った。


 もっとも、このチェックを行う米兵もピースメーカーの構成員なので、基地には難なく入ることが出来た。


「誇り高い米兵まで俺達の仲間か? 世も末だな」


 イザークがそう言うと、江角は「平和の作り手に協力しているんだ? 十分、誇りをもって良いと思うぜ?」と言った。


「ドラガってどんなソルブスだっけ?」


 レイラがそう問うと江角は「レーザー兵器を積極的に導入したソルブスだそうだ。ダーパが絡んだ実験的な機体さ」とだけ言った後に口笛を続け始めた。


 すると、遠く離れた格納庫から爆発が起きた。


「おいおい、俺達の出番はまだだろう!」


 フォンがそう叫ぶと、江角は「よし、行動に移すぞ!」と号令をかけ、そのまま車で横田基地内にある空軍病院へと向かって行った。


「確認だが、ドラガドライブとガキの奪取が目的だよな?」


「あぁ、全部が病院にある」


 そうさ、奴もあの病院でのうのうとして生きているのさ。


 随分と待った。


 奴をこの手でなぶり殺しに出来るその日を・・・・・・


 江角はM16がある事を確認して車を空軍病院の入り口に突っ込ませた。


 多くの米兵を轢き殺し、病院が混乱したことを確認することなく、江角達は車から降り、作戦行動を開始することにした。


「作戦開始。ガキとドラガドライブを確保したらずらかるぞ」


「了解!」


 時刻は午後を迎えたばかり、江角は長年抱いた復讐心を満たすことを考えていた。


 続く。

 次回予告。

 

 ゴウガとの戦闘で左腕を負傷した亜門だが、アムシュと呼ばれる異能者であり、尚且つ、試験管で生まれた存在だった亜門は驚異的な回復力を見せて、完治をした。

 

 自身はアムシュであるという事しか知らず、デザイナーベイビーである事を知らされていない亜門はアメリカ空軍病院でダーパによる実験に加担させられる。

 

 しかし、試験管で生まれたデザイナーベイビーがこの世にいることを知られたくない、日米の勢力から雇われた、傭兵部隊が横田基地を襲撃して、さらなる新世代型ソルブスを強奪し、亜門を殺害することを狙っていた。

 

 そして、その傭兵部隊のリーダーは亜門に個人的な復讐を遂げようと決意を固めるのであった。

 

 次回、機動特殊部隊ソルブス。

 

 横田攻略戦。

 

 自身の過去から来た敵と亜門は相対す。

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