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死んでからが本番です  作者: 木崎優
二幕目
7/21

『魔女』

 神が天使を遣わし、悪魔が地の底より呼びかける。遠い未来において神話時代と呼ばれるようになる時の中で、一人の少女が懸命に生きていた。

 少女の名はアマリリス。幼少の頃より仲睦まじい婚約者がおり、幾月もせず花嫁となる予定であった。


 花のように可憐なアマリリスは誰からも愛され、穏やかに笑えば怒っていた相手ですら笑みを零すほどだった。

 だが、アマリリスの幸せな日々はある日突然終わりを迎えた。


 当時の王に仕える臣下の一人が、庶子を迎え入れたのが崩壊のはじまりだった。


 庶子として迎え入れられたのは、やせ細り、虚ろな目をした少女であった。母親との折り合いが悪く、命を落としかけていたところを、父親である臣下が救い出した。そうした経緯により王に仕える家に住まうことになったのだが、満足な教育を施されなかった少女にとって、勝手の違うことが多かったようだ。

 何かと問題を起こす少女に困り果てた臣下は、アマリリスに助力を願った。


 アマリリスは少女の教育係を喜んで受け入れ、自身の友人や婚約者を少女に紹介した。そうすることで、環境が変わったことや、これから付き合うことになる相手を教えようと思ってのことだった。


 それが間違いだったと判明したのは、婚姻式まで後ひと月と差し迫った日のことだった。


 呼び出された夜会で、アマリリスは魔女であると糾弾された。


「彼女は悪魔と契約し、人心を掌握いたしました。それに気づいた私を、彼女は……」


 糾弾したのは、アマリリスが心を砕き様々なことを教えた少女だった。

 悪魔との逢瀬を目撃してしまい、言葉にするのもおぞましい行いをされた――荒唐無稽な主張をする少女に、アマリリスは毅然とした態度で立ち向かった。

 だが、アマリリスの主張は虚空に消えた。アマリリスの言葉ではなく、少女の言葉を他の者は選んだ。


「おぞましい」


 憎しみすらこもる声でそう言ったのは、アマリリスの婚約者だった。

 友人であったはずの女性、愛し慈しんでくれた家族――そして最愛の婚約者にまで、アマリリスは魔女と謗られた。


 身の潔白を証明する術はなく、アマリリスはその場で魔女として捕らえられた。だが、誰も彼もがアマリリスを見放したわけではなかった。

 無実を信じ、動いてくれる者もいたのだが、悪魔に心を奪われた異端者として処刑された。


 牢獄の窓から見える景色に見知った顔が一つ二つと増えていくたび、アマリリスは嘆き悲しみ、憎しみを募らせた。


 魔女として火に炙られる中で、アマリリスは初めて悪魔に願った。


「たとえどれほど時が流れようと、私はあなたを許さない」


 恨みと憎しみを抱いた瞳を少女に向け、悪魔の名を呼び、契約を交わした。



 魔女と呼ばれ、魔女として死ぬことになったアマリリスは、最後の最後で、本当に魔女となった。

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