06 幼馴染と小学校⑤
また忙しくて予約投稿忘れてました。
ダメダメなワタシですが、まだまだ続けて行くのでどうかお許し下さい。
「T君、ごめんなさい」
翌日の早朝。まだ生徒達が登校するには早すぎる時間に、僕は校長室でT君に謝罪することとなった。
いつもよりかなり早い時間に登校して直ぐに職員室に向かい担任教師を伴って校長室に入ると、そこには校長と久し振りに目にするT君の姿があった。
僕の入室を確認した校長はT君に話掛ける。
「T君、先生と若白髪くんが来ましたよ」
するとT君は怖々とした様子で僕に目を向けてくる。その瞳には虐めの加害者として告発したはずの僕への怯えは全く見られず、何処か気まずそうで悪戯が見付かった幼子のように感じられた。
「ほら、若白髪くんも」
T君の様子が気になったが、こんな訳の分からない状況から早く解放されたかった僕は、校長に促されるままT君の元へと向かい頭を下げて冒頭の言葉を吐いたのだった。
「……うん、もういいから」
僕の言葉を聴いたT君は、たっぷりと間を開けてからそう言った。その言葉に僕はほっと胸を撫で下ろし、顔を上げてT君の顔を見ようとしたのだが、彼は顔を背けて僕と目を合わせようとはしない。
その様子に僕は不安を覚えたが、校長と担任の二人の声でそれは強引に吹き飛ばされる。
「よしっ、これで仲直りだ!」
「ほら、二人共握手しなさい!」
担任に無理矢理手を取られ、僕とT君は握手した。
彼の手はひんやりとしていて、緊張からなのか完全に冷えきっているのが分かったが、僕はそれに対して何も言わずにいるのである。
こうして、僕とT君は仲直り(?)した。
それから僕とT君は二人で教室に向かう。
担任教師は久し振りに登校するT君を慮って、友達(仲直りしたばかりの僕)と共に教室に入る姿をクラスメイト達に見せたかったのだろう。
そこには僕に対する配慮は全く見られ無かったが、不登校になっていたT君のことを考えるならそれが良案なのは確かである。
それに、僕もT君と話がしたかったので都合が良い。
僕は隣を歩くT君に平素な態度で話掛けてみた。
「T君、休んでる間に何してた?」
するとT君もいつもの調子で答えるのだ。
「本を読んだり、ゲームしたりしてた……あっ!新しい本を買って貰ったんだ。若白髪くんも好きそうな本だから今度貸してあげるね!」
T君の様子はいつも通り過ぎて少し不気味に感じたが、それに調子を狂わされた僕はT君が告発したという虐めの件を聞くのがどうでも良くなり、彼の楽しそうな顔を見ながら本の内容に耳を傾けるのであった……
「なぁ、何でまたTと普通に話してんだ?」
クラスメイトやグループの仲間には今朝の校長室での謝罪の件を話さず、虐めの件も有耶無耶にしてしまった。
目の前のK也はそれが気に入らないと言っているのだ。
「まぁ、落ち着けってK也。蒸し返しても良いこと何てないだろ?元に戻ったんならそれで良いんだよ」
下手に言い合いなって喧嘩に発展するのを嫌う八方美人で事無かれ主義の僕は、K也を宥めようとしたのだが。
「お前のその誰にでも良くしようとするところ、俺はっきり言って嫌いだから。今度からTが居るときは一緒に遊ばないからな!」
「ちょ、おい!K也!」
結局K也には嫌われてしまった。
でも完全に縁を切ろうとしないところは、面倒見の良いK也らしくて僕には好感が持てるのである。
そして他のメンバーはというと。
「私はどっちでも良いけど、T君が居たら雰囲気悪くなると思うな……」
「N美は、T君のこと嫌いなのか?」
「う~ん……正直言うと、あんなことがあった後でまた仲良くするのは無理だと思うよ?」
「そうかぁ……」
N美らしいハッキリとした物言いに僕は逡巡する。
「あのさ、私らしばらくは他の女子達と遊ぶから。T君との蟠りが無くなるまで、そうした方がいいと思うの。ね、A子ちゃんもそれで良いよね?」
「えっ!?わたしは、その、N美ちゃんがそう言うなら……」
A子ちゃんはN美の提案を渋々といった様子で受け入れてしまう。僕には彼女達の行動を止める権利も無く、その言葉に頷くことしか出来なかった。
そして学年の違うB太はT君を徐々に避けるようになり、一緒に遊ぶことも少なくなっていった。
こうして僕達のグループはバラバラになり、小学校を卒業しても再び全員が集まることは無くなってしまう。
しかし何故かT君だけは、卒業式の日まで僕の後ろをいつも付いて回り、楽しそうに本やゲームの話をするのであった。
彼が何を思いあんな発言をしたのか、何の目的でいつも僕に絡んで来ていたのか、それは十数年以上の年月を経た今でも分からないままである。
……つづく。
次回から少し忙しくなるので、週2~3回の更新となります。
次回は4/15(水)22時頃の更新予定です。