05 幼馴染と小学校④
う~ん、5話位で終わる予定だったのに…
「ということなんだけど……」
職員室から戻ってきた僕は、同じクラスのK也とA子ちゃん達に事の次第を話して聞かせていた。
あのあと担任教師は僕が虐めの加害者では無いと信頼してくれたが、話が大きくなる前に問題を収束させるべく他の教師や校長などと協議すると言って僕をその場から解放した。
身に覚えの無いことに叱責されるでもなく、かといって僕の潔白をT君本人が認めた訳でもない。そんな宙ぶらりんの状態に僕の頭の中はグチャグチャになり、それを何処かに吐き出したくて彼等に溢したのである。
「若白髪がT君を虐めたなんて、そんなわけないだろ!若白髪は少し強引なとこが在るけど根が優しいから、人が嫌がるようなことは絶対しない奴だ!」
「K也……ありがとう」
「それに意外と気にしいだし、みんなでフォローしないとずっと落ち込んじゃうし!リーダーのくせに繊細で、少し面倒臭いのが若白髪だろ?そんな奴が誰かを虐めるなんて有り得ねぇよ!」
「ちょ、K也?」
僕が職員室での出来事を最後まで話し終えたとき、最初に爆発したのはK也だった。
自由奔放でいつも馬鹿な行動をして仲間に呆れられるが、面倒見が良くて頼りになる兄貴分的な存在。そんなK也が僕のことをこんな風に想っていてくれた事が嬉しかった。最後の方は余計だけど……
「そうだよ!若白髪くんは困ってるときは然り気無く助けてくれるし、女子や下級生にも優しくしてくれる男の子だよ!」
「A子ちゃん……」
K也に同調するように、A子ちゃんも僕を擁護する言葉を口にする。そしてそれに反応して、背後からN美が口を挟んできた。
「そうそう、意外とクラスの女の子に人気あるしね~」
「えっ?」
「知らなかった?若白髪くんは雰囲気も柔らかくて誰にでも優しくしてくれるし、身長は低いけどそこが可愛いってみんな言ってるんだよ?」
「おい!背のこは言うなよ……えっ、でもマジで?僕ってマジで女子に人気あるの?ふ、むふふふっ」
僕が誰にでも優しくするのは、喧嘩をするのも悪口を言うのも嫌いで、誰も嫌わず誰にも嫌われずに日々平穏に過ごしたいだけ。いわゆる八方美人な性格のお陰である。
そしてこの頃の僕は同年の子よりも身長が低く、背が140㎝にも満たないことを気にしていた。そんな僕のクラスでの意外な高評価に、思わず顔がにやけてしまう。
「マジマジ!あ~でも、たまに今みたいにヤラシイ顔する時あるのがちょっと……って言ってる子も居るよね」
「分かる、分かる!若白髪くんって結構エッチなとこあるよね!保育園の頃なんてわたしの……」
「えっ、何それ?気になる!」
「ちょ!A子ちゃん!?N美も関係無いこと聴くなよ!」
飛んでもない方向へ話が進み出した。只でさえ虐めの濡れ衣を着せられているのに、自分の悪評まで広められたら立ち直れる気がしない。
だが今考えると、この時のN美は敢えて話を脱線させたのだと思う。彼女は普段から明るい雰囲気を好み、誰かが落ち込んでいるとこうして場を和ませてくれる。
どんな時でも明るく振舞い更には気遣いも出来る、K也が気にするのも当然の素敵な女の子なのだ。
A子ちゃんも同様の性質を持つが少し抜けてる部分があり、それで空回りしてN美にフォローされている場面をよく目にしたものだ。
「若白髪がムッツリでエロいのは、みんな知ってることだろ?そんなことより今はT君の話だ、みんなは何か心当たりとか無いのかよ?」
更に余計な情報を上乗せしながらK也が皆に尋ねる。
しかし僕を含めたグループの仲間は勿論のこと、聞き耳を立てていたクラスメイト達にも思い当たる節は無かったのであった。
モヤモヤしたまま午後の授業を終えると、僕は再び担任教師に呼び出された。
「君が若白髪くんだね?少し話を聞いてもいいかな?」
担任教師の足は職員室を通り過ぎ、気が付くと僕は「校長室」というプレートが掛けられた部屋の中で、そこの主と対面していた。
「校長先生!?え、え~っと……」
僕は校長にT君とどんな風にして接するのか、いつもどんな会話をしてどの様に遊ぶのかということを、辿々しくも事細かに話していった。校長は僕が言葉に詰まると質問を変え、導くように最後まで話を聞き出す。
話し終えて僕が口を閉じると、校長は手元にある数枚の紙に目を落として小さな唸り声を上げた。何を言われるのかと若干怯えながら、校長が口を開くのを待ち続ける。
やがて徐に校長は口を開き言葉を発した。
「若白髪くんとT君は友達なんだよね?」
「は、はい!友達です」
緊張する僕を尻目に校長はこう続ける。
「二人を友達と認めて、先生からの提案があります」
「提案?」
「うん、提案といよりお願いかな?聞いてくれるかな」
「はい……」
「まず若白髪くんはT君に謝って貰います」
「えっ!?」
校長の提案は僕にとって理解の外にあるものだった。
混乱する僕を無視して校長は更に続ける。
「まず聞いて欲しいのですが……ここだけの話、T君は転校する前の学校で色々あって情緒不安定な時期があったそうです」
「情緒不安定って?」
T君は前の学校の話を僕達に話さなかった。今思えば確かに不自然なことだが、僕達は気にしていなかった。出会ってすぐの頃のT君は口数の少ない大人しい印象で、でも好きな本やゲームの話だと饒舌になる、どのクラスにでも存在する普通の男の子だった。
「う~ん……心が少し弱っていたんだ。でもこの学校で友達が出来て、少しずつ善くなっていった。友達とは君らのことだね」
校長は手にした書類を指し示しながら言った。
恐らくだが、あの紙にはT君や僕達の内申が書かれていたのだろう。学校では生徒の評価をテストの点数だけでは無く、その生徒の趣味嗜好・友人関係やクラスでの立ち回り、教科以外の得手不得手や好き嫌いの有無まで、全ての情報から生徒の性格を見極め、素行や生活態度を内申でも評価している。
その内申に何が書かれているのか気になったが、今は校長の話を聞くしかない。
「T君はね、君が謝れば学校に来てくれるそうだ」
「T君が、そう言ってたんですか?」
「うん、そうなんだ。たぶん君とちょっとした行き違いがあってT君の心はまた弱っている。でも学校に来さえすれば、T君の不安は無くなるはずなんだよ」
「僕は、何を謝れば………」
「それは気にしなくていい。とにかくT君が学校にこられる様に、君に協力して欲しいだけなんだ。お願いできるかな?」
「……分かり、ました」
納得は出来ないが、そう答えるしか無かった。
僕はとにかくT君に話が聞きたいと思っていた。
何故、T君は僕に虐められたと言ったのか。
前の学校で何があったのか。
僕が彼に何をしたというのか。
彼は何に対して謝って欲しいのか。
何も分からないまま、翌日T君に謝罪する場所や時間などの段取りが決められていくのを、僕はただ黙って俯瞰するように眺めていた。
……つづく。
次回は
4/12(日)22時頃の更新予定。