04 幼馴染と小学校③
続きです。
更新時間間違えてましたね……すみません。
「なぁ、最近女子たち変じゃねえ?」
生徒達の喧騒が響く朝の教室で、K也は宿題のノートを広げながら僕にそう言った。この頃は毎回算数の宿題を忘れてくるK也に、僕が解き方を教えるのが数日ごとの日課であった。
「変って何が?いつも通りに見えるけど?」
「いいや、変だって!N美もA子ちゃんも、俺らを避けるときがあるんだぜ!なぁ、俺達なんか嫌われることしたっけ!?」
K也の話によると、最近グループの女子二人が男子達を避けることがたまにあるのだという。N美に気がある素振りのK也からすれば、心配になるのも仕形が無いという訳だ。
「K也が何かしたんだろ?」
「何もしてないって!若白髪こそ何か知らないの?」
「う~ん、変ってどんな風にだよ?」
いくら頭を捻っても、その時の状況が分からなければ彼女達の行動の意味を推理しようがない。僕はK也に詳しく話を聞いてみることにした。
「N美、たまに具合悪そうにしてんだよ。それで俺が心配して『大丈夫か?』って聞いたら、顔を真っ赤にして怒り出してよ。最近はA子ちゃんも同じ感じでさ。そういう時は必ず変なポーチ持って、二人でトイレに行ったりするんだよ……」
「あ~、お前さぁ……」
年の離れた姉が二人もいる僕は、K也の話にすぐにピンときた。僕の姉達はそうことに杜撰で、そこら辺に薬局の紙袋に入れられたそれを放っておくことがある。僕がそれを注意すると、逆にからかってくるのがまた厄介な姉達なのだ。
低学年の頃なんて特に酷く、無理矢理僕に御下がりのスカートを履かせて女装させたり、髪を弄られ化粧を施され、それを写真に撮って友人達に見せびらかす。
そのせいで見知らぬ女子校生や社会人のお姉さんに街中で話し掛けられ、怖くて泣き出してしまうこともあったのだ(全て実話)。
男女の体の作りについて四年生の保健の授業で習ったとはいえ、父子家庭で一人っ子のK也には未知の領域なのだろう。
「K也、そういう時はそっとしとくんだ」
「へっ?なんでだよ?」
「いいから、絶対二人に理由とか聞くなよ?そうじゃないとお前、ぶん殴られるからな?」
「マジ……?」
「うん、マジで」
「う~ん、分かった……」
その昼休み、顔を真っ赤にしてK也の背中を縦笛で叩くN美の姿を目にするのであった。
そして放課後、僕はK也とB太を連れ立って帰宅していた。
N美とA子ちゃんは体調が悪いと言って二人で帰り、学年の違うB太は僕らより早く授業が終わって既に下校している。
「酷い目にあったぜ……」
「お前なぁ、あれだけ忠告したのに」
「だって気になるじゃん、若白髪は理由知ってるんだろ?なぁ、教えてくれよ~」
女子二人の体調不良の理由は想像出来るが、デリカシーの欠けたK也にそれを話すのは憚られる。だから僕は話を反らすと共に、最近ずっと気になっている事を口にした。
「そんなことより、今日もT君来なかったね」
「あぁ、もうずっと休んでるよな。若白髪、休んでる理由とか聞いてないの?」
「ううん、先生には体調不良だって聞いてるけど……」
T君はここ数週間、学校に来ていなかった。
最初うちは季節外れの風邪でも引いてしまったのか、でも2~3日もすれば登校して来るだろうと思っていた。しかしT君は週が明けても教室に姿を見せず、心配になった僕達がお見舞いに行っても顔すら見せてくれない状況なのだった。
それでも僕は、他のクラスメイト達以上にグループの仲間として……いや、一人の友人としてT君の事が心配だった。
「今日もお見舞いに行ってみる?」
「う~ん、どうせまたT君のお母さんか兄ちゃんに追い返されるんじゃねぇの?それよりさぁ、父さんに新しいゲーム買ってもらったんだ!家で一緒にやろうぜ!」
最近の定番となりつつある僕の提案に、K也は一度うんざりという顔をしてから一転して僕を家に誘う。
「でも……」
「若白髪!お前S雄が転校してから、肩に力が入りすぎなんだよ。1日ぐらい他のこと忘れて遊ばないとダメになるぞ」
「うっ、まさかK也に諭されるなんて……明日は嵐か?」
「お前なぁ……はぁ、いいから行こうぜ」
「はははっ、冗談だって」
僕はその誘いに乗ることにし、その日は久しぶりにT君のことを忘れてK也と遅い時間まで遊び続けたのである。
翌日である、ホームルームで担任の中年教師が朝から難しい顔をしながら僕にこう言った。
「若白髪、このあと職員室まで来てくれ」
「はい……?」
教室では優等生で通っている僕には当然身に覚えの無い呼び出しであり、いつもの様に日直や他の委員に任せられない仕事を押し付けられるかと身構えていた。
職員室に入ると担任は自分のデスクに腰を降ろし、僕と目線を合わせながら予想外の言葉を放つ。
「最近、T君ずっと休んでるよな?」
「えっ?あ、はい。そうですね」
「若白髪はT君と仲良かったよな?」
「ええ、いつも同じグループで遊んでます。休むようになってからはお見舞いにも行ったんですけど……あの、T君がどうかしたんですか?」
突然こんな所に呼び出して、この担任教師どんな意図で僕にそんな質問をするのか図れずにいた。
すると徐にその教師は、僕の想像の枠を遥かに越えた質問を投げ掛けてきた。
「若白髪、お前T君を虐めてないよな?」
「はぁっ!?……僕が、T君を!?えぇっ!?」
その質問の内容に頭の中が真っ白になり、今いる場所が他の教師の目もある職員室だというのを忘れて取り乱す。そんな僕の様子を見た担任の教師は、何やら思案顔をしながらこう続ける。
「その様子だと、身に覚えは無いんだな?」
「え、ええ。あ、はい」
「実はだな、T君ずっと休んでる理由を教えてくれなくて、先生は何度も家庭訪問してたんだよ。それで、昨日ようやく顔を見せてくれて……話を聞いたら、『若白髪くんに虐められるから学校には行かない』って言ったんだよ」
「そんな……」
中年の担任教師の口から飛び出したT君が告げたというその言葉に、僕は訳も分からず立ち尽くす事しか出来なかった。
……つづく。
この場面は前に別のエッセイで書いたけど、今は削除しています。
その時の自分の心境や幼馴染みを含めたグループの仲間の反応も書きたかったので、また綴ることにしました。
次回、4/10(金)23時更新の予定です。