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黄昏の艦隊~The Twilight Fleet~  作者: 柱島頼
第三章
18/25

0-1-6

――バサァァァァァン


「外れです! しかし至近弾!」


 艦尾から少し離れたところに上がった水飛沫を見て、鉛色の軍服を纏った少女が言う。


「取舵二〇! 急いで下さい!」


「Ja! 取舵二〇! グナイゼナウ、みんな、続いて!」


 戦艦シャルンホルストは艦首を左に大きく振る。真っ直ぐ後ろに連なる僚艦も続く。

 艦隊が回頭を終えた頃にまた砲弾が降ってくる。後方で命中した音がした。


「ブリュッヒャーから入電! 前部砲撃指揮所に命中! 前部砲塔使用不能!」


 とうとう被弾してしまった。敵艦隊は艦尾方向にいるためどちらにせよ前部砲塔は使えないが、これが本で撃沈したらたまったものではない。少なくとも速力は低下するだろう。そうなれば足手纏いになる。


「駆逐艦一隻付けて後ろに! すぐにです!」


 素早く被弾した艦を下げさせる。念のために駆逐艦を付けて。


「あいつらとの距離は?」


「およそ一八〇〇〇メートルです」


 戦艦同士で殴り合う距離だが、こちらは六門搭載のシャルンホルスト級戦艦が二隻、あちらは八門搭載が二隻。巡洋艦は二〇センチ八門のアトミラール・ヒッパー級が三隻と一五センチ九門のケルンとライプツィヒ、向こうはおそらく二〇センチ八門が三隻と一五センチ九門が二隻。加えて、敵に艦尾を向けた状態のこちらが使えるのは後部砲塔のみ、アトミラール・ヒッパー級の重巡洋艦ブリュッヒャーが被弾して駆逐艦を伴って離脱。単純な砲撃力では負けている。

 しかし、この角度だからこそ使える兵装がある。魚雷だ。射程距離と信頼性は高くはないが、射程距離が足りなくても雷跡によって牽制はできる。ましてやこのG7a魚雷は航跡は明瞭だ。もし当たったら儲けもの。回避は必至。一八〇〇〇メートルならぎりぎり届くだろう。


「全艦隊、魚雷発射。目標は敵一番艦です」


「Ja! 目標敵一番艦。魚雷発射!」


 シャルンホルストの艦尾から三本のG7a魚雷が放たれる。グナイゼナウからも三本、アトミラール・ヒッパー及びプリンツ・オイゲン、ケルン、ライプツィヒから六本づつ、二隻の駆逐艦からはそれぞれ八本。合計三十八本の白線が敵艦隊に真っ直ぐ伸びて行く。射程が足りれば、逃げ場はない。

 シャルンホルストたちが発射したG7a魚雷は磁気信管魚雷である。磁気信管魚雷は、敵艦に当たらなくても敵艦の磁気により信管が反応する。装甲を施すことが少ない艦底で爆発することで敵艦の竜骨をへし折り、沈める事ができる。しかし、この磁気信管は地球の地磁気による影響で高緯度地方での使用は発射後に即発する可能性が高い。ここは南緯三〇度くらい。この緯度であれば地磁気による誤爆の可能性は低いだろう。


「前部砲塔は左へ。きっとそっちに来ます。ブリュッヒャーは反対側へ逃がしてください」


 後は敵艦隊が左側に回頭するのを待つだけである。魚雷を避けるために思い切り舵を切るだろう。急な転舵によって速度は落ちているはずだ。さっきよりかは当たりやすいだろう。

 発射から数分経ち、そろそろ魚雷に気付くころだ。


「敵艦面舵!」


「面舵!?」


 敵艦隊も伸びてくる雷跡を確認したらしく、一斉(いっせい)に首を振る。左ではなく右へ。単縦陣から単横陣へ。魚雷から逃げたいらしい。確かに魚雷と艦の向きを平行にすることで被雷数を少なくできる。しかし、艦尾を魚雷に向けるのでは、被雷したときの被害は浸水と速力低下()()では済まない。スクリュープロペラやプロペラシャフトに被雷して航行不能になったり、操舵不能になったりする可能性は大である。また、今回では左に逃げるより右に逃げる方が、必要な転舵角度が大きい。無誘導魚雷の回避としては合理的に見えるが、失敗である。

 予想と異なり、逆方向に行ってしまった。


「後部砲塔だけでいいです! 撃って!」


 敵艦が回頭しきる前に照準、主砲を撃つ。当然当たらない。当たらなくてもいいのだ。今は早く逃げたい。その目的は達成されそうだ。







 艦首が水面を裂き、砲弾が降り注いで荒れ狂う海面にひっそりと佇む二本の影。互いに戦闘に夢中な両艦隊は気付かない。


「どーしよー。どーしよー」


 戦闘海域にただ一隻、艦体を完全に海面下に没した艦が覗き見を行っている。もちろん趣味ではなく、仕事である。

 潜水艦の長所を生かしての監視であるが、問題が発生した。

 発見されたわけではない。戦闘のとばっちりをもらわないように十分な距離をとってある上に、海中にいる。加えて、エンジンもモーターも回していないので見つかる要素は見つからない。

 しかし、慌てている。潜望鏡に頭を引っ付けて、右足、左足、また右足と足踏みしている。

 童女が慌てて足踏みする光景は、後ろから眺めるものとして癒し以外の何物ではないが、当の本人は真剣である。

 ただ、悩んでいる間にも、二つの艦隊の間隔は大きくなっていく。


「と、とりあえず2501に打電しよ」

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