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黄昏の艦隊~The Twilight Fleet~  作者: 柱島頼
第二章
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0-1-4

「凄いな――」


 正面には一列に並ぶ大きな窓。そこから見えるのはドック。複数の軍艦が水から上げられて、並べられている姿は感慨無量だ。部屋の中にはたくさんのコンソール。画面にはこの港の様々な情報が映っている。いわばここは、管制室だ。


「アカシ、ムサシも施設のシステムに接続。二人とも、ここを使えるようにしておいて」


「応!」


「はいッ」


 白夜の指示でこの施設の制御権を、信濃と同等の指揮通信能力を持つ武蔵と艦の修理を担う明石も取得する。


「さて、これからだが――明石は基地に電探の敷設と利根の修理、その他は基本自由。港の外に出なければそれでいい」


 彼女たちの表情が明らかに変わる。色めき立っている。“アバター”のみとはいえ、はじめて自由な時間が与えられたのだ。

 しかし、一人だけ、アカシだけは謹厳(きんげん)な表情のままだ。工作艦である明石はこれからが本番なのだ。


「あと、一隻ずつ中を見て回るから呼んだらすぐに来てくれ」


「最初は信濃ね。これが終わったらすぐに行くわよ」


 一先ず伝達事項はこれで以上だ。なら――


「「解散」」





――パッ――パッ――パッ――パッ――パッ――パッ――


 真っ暗だった部屋に明かりが灯り、室内の様子を照らす。

 現れるのは、横倒しになった巨大な円筒。それに様々なもの――コード、パイプ、チューブ等――が接続されている。

 これこそ、信濃の心臓部――試製艦艇用熱核反応缶だ。信濃で消費、貯蓄する電力の全てをこれが作っている。これは黄昏冥夜のチームが色々なものを見て、色々な人と話して、色々試していたら出来上がったものだ。

 この機関はこれまでの反応炉の諸問題の大部分を解決できたものである。理論上大きな問題はなく、コンピュータでのシミュレーション上では予想以上の結果を叩き出した。その後、研究所に作られた実験機は異常無く作動し、現在では耐久試験を兼ねて施設の発電機の一つとして稼働している。クレセリアの依頼を受けた際、この艦隊の艦艇の主機関として搭載したが、問題無く実戦に耐えた。今回の点検は、初めて実戦を経た缶を実際に目で見ての確認と調整だ。


「大きい――」


 感想がこれしか出てこない。設計図の段階で大きさはわかっていたが、目の当たりにするともう言葉が出ない。


「さて、始めようか」


 白夜は白衣を脱いで後ろに控えるシナノに預ける。そして、腰から垂らしていたツナギの上半身を着る。冥霞は持っていたアタッシュケースの中からノートパソコンを取り出して起動する。

 スタスタと巨大な円筒に近づき、簡単なものから点検を始めていく。いつも通り、ハードは白夜、ソフトは冥霞が見ていく。ここは一つのブロックを確認するために、一つ一つのハッチを自分の手で開けたり、自分でコードと繋げたりしていく必要がある。素人に勝手な調整をされないようにするためだ。そのために特殊な工具を必要とする螺子(ねじ)を用いたり、複数の認証を必要としていたりしている。シナノでさえ、炉を動かすことはできても、この調整には介入できない。

 周りの点検を終えると二人は円筒の中に入っていく。この中には反応炉本体が収まっている。目指すのは中心部、炉心だ。

 ちなみに、この缶では今までの発電システムのように、まず熱エネルギーを発生させ、これを水蒸気がタービンを回す運動エネルギー、発電機が生産する電気エネルギーという非常に効率の悪いことはしていない。この熱核反応缶は水素原子どうしを衝突させて、直接電気エネルギーを取り出している。そのため、この缶の発電力は非常に高い。一基で巡洋艦、二基(もち)いれば空母までも余裕で運用できる。また、燃料となる水素は空気や海水から取り出しているため、燃料補給の必要もない。

 炉心とはいえ、二人がやることは変わらない。異変がないか確認し、実戦でのデータを(もと)に調整をする。しかし、膨大なエネルギーを扱うため、調整はシビアになる。調整を間違えれば暴走してしまう。これが唯一の欠点といってもよい。

 そんなこんなで待ち惚けのシナノを置いて、白夜と冥霞の二人はテキパキと点検と調整を済ませていく。一基の点検で七時間近くかかった。そのまま隣のもう一基に取り掛かる。


「ねえ、これが終わったら――」


「ああ、今日はもう終わりにしよう」


 あと七時間。それで今日の作業が終わることが決まった。

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