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黄昏の艦隊~The Twilight Fleet~  作者: 柱島頼
第二章
14/25

0-1-3

「予定位置に到達。両舷停止」


 シナノは未だドック内に入り切っていないところで推進器を止める。艦体は慣性に従って、そのままドックの奥にゆっくりと進む。しばらくすると水の抵抗などにより自然と艦が止まる。信濃の停止位置はぴったりとドックの中心だ。これも信濃に搭載された量子コンピュータの賜物(たまもの)である。艦隊の他の艦も同様にドックに入っていったようだ。


「基地施設のコントロールを掌握。ドックゲート閉鎖」


「宜候。――――――――――掌握完了。ドックゲートを閉鎖します」


 信濃からの指示に従って、ドックの入り口の下から極厚の壁がせり上がってくる。

 門の先端が水面から顔を出し、地面と一直線になるところで停止する。ドックゲートが閉められることでドック内と海が遮断される。


「艦体固定」


 艦橋から渠門(きょもん)がしまったことを確認した白夜は次の指示を飛ばした。


「ハンガーアーム起動。艦体を固定します」


 渠底(きょてい)から生えたアームが信濃の両脇から迫る。シナノは慎重にアームを操作して、重すぎる自身の巨体を固定する。ここで少しでも重量のバランスが悪いと、水を抜かれ、浮力を失ったときに艦体が渠底に落ち、非常に大きなダメージを追ってしまう。


「ハンガーアームの接続信号を確認。アーム荷重の配分も問題なし。艦体の固定、完了しました」


「排水開始」


「排水を開始します」


 ドック内と海を隔たり、艦体をドックに固定した。これでようやくドックの中から水を抜くことができる。

 じっくりとゆっくりとドック内の水位が下がっていく。露出する赤い艦底部が大きくなる。

 赤色が最大になり、かれこれ五時間でドック内の排水が終わった。

 本当にここのドックに艦体を固定するアームがあってよかった。これがなければ盤木(ばんぎ)の設置と調整でさらにかなりの時間がかかる。

 本来ならば、ここが普通の乾船渠ならば、タラップをかけて終わりだ。しかし、ここは普通ではない。


「格納庫、隔壁を開放します」


 艦の艦尾方向、海とは反対側の建物と接続する大きな扉が動く。左右にゆっくりと壁が割れていき、建物の中に光が差し込む。(まばゆ)いほどの日光に照らされて、内部の様子が(うかが)える。

 建物の内部はドック。すなわち屋内ドックだ。

 あらかじめ地図を見て知っていたが、やはりこれは都合がいい。

 艦は金属で構成されている以上、塗料によって表面がコーティングされているとはいえ、海水や潮風等によって()びることは必至である。すなわち、艦を完全に海から切り離される建物の中に格納されることは、艦を必要以上に劣化させないことにつながる。加えて、上空から偵察されてもこちらの規模、損害その他が知られることはない。

 正に夢の施設である。


――ゴン――ゴン――ゴン――ゴン――ゴン――


 固定された信濃は渠底ごとスロープを下っていく。横には、武蔵、利根、筑摩、明石、島風、秋月、涼月、秋雲、岸波と続く。

 地面が迫り、下からの衝撃とともに屋内ドックに到着する。

 着底してもこれで終わりではない。ここからにもさらに嬉しい機能がある。


「洗浄開始します」


――ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 雨が降ってくる。当然水は真水だ。潮風に吹かれてきた艦体に付着した(しお)を洗い流していく。これで最大限の(さび)対策となる。

 やがて雨が止む。


「洗浄完了しました。舷梯(げんてい)を接続します」


 ドックから生えた舷梯がゆっくりと下りてくる。舷梯は飛行甲板と下ろしたサイドエレベータと接続する。


「全工程終了。施設内に問題はありません」


「それはよかった。機関停止。兵装及び航行システムオフライン」


「宜候。機関停止。兵装、航行システムオフライン」


 信濃の心臓部――熱核反応炉が停止し、電力の供給が止まる。以後、必要な電力は艦内のバッテリーもしくは外部電源から与えられる。そして、入渠(にゅうきょ)中には必要ない兵装と航行を司るシステムが停止する。


「さて、久方ぶりの(おか)だ。降りようか」


 一度死に、依頼を受け、この作られた世界に来て一か月。黄昏艦隊は拠点となる母港を得た。

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