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黄昏の艦隊~The Twilight Fleet~  作者: 柱島頼
第二章
13/25

0-1-2

「グアム島中西部の湾内に港湾施設を確認しました」


 シナノは偵察機から得た情報を白夜に伝える。


「それはよかった。空振りにならなくて済んだ」


 前回の硫黄島ではハズレだったが、今回のグアム島はアタリだ。もしこれが外れていたら冥霞に何を言われるかわかったものではない。最悪、ハワイに引き返させられる――いや、海の上に置いて行かれるかもしれない。


「湾内に入る。艦隊一列縦隊。シナノ、後は任せる」


「宜候。艦隊一列縦隊。両舷半速。湾内に進入します」


 黄昏艦隊は隊列を組み直しながら、北から島の西にある入江――アプラ湾に進入を試みる。先頭は島風だ。

 艦隊速度を微速にまで落とし、艦首のソナーで海底をトレースしながら慎重に進む。艦隊の周りに対潜哨戒ヘリを配置して警戒を(げん)にしてもいる。

 座礁しないように慎重に艦を進めていく。

 じっくり見る時間をかけて、安全な道を開拓しながら島風が湾内に完全に入る。岸波、秋月と前方の駆逐艦が後に続く。

 三隻の駆逐艦の次は重巡洋艦利根。彼女も問題なく湾内に入れた。

 利根が湾内に入る間に、島風、岸波、秋月はアプラ湾の詳細な海底の地形データを取る。

 さらに続いて、武蔵、信濃の六〇〇〇〇トン級。

 駆逐艦が得た地形データではこの二隻が湾に進入しても問題はない。それでも慎重に操艦を行わせる。

 艦隊旗艦信濃が無事に進入できたことを艦橋で見ていた白夜と冥霞はホッと一息ついた。





 黄昏艦隊はアプラ湾を奥に進む。たどり着くのは、目的地である、港湾施設。埠頭、ドックが目に入る。目測ではあるが、全幅六〇メートルもある信濃が入ることのできそうなドックの用意もされている。しかし、やはり最も目に付くのがさらに奥の建物だ。並んだドックに接続する大きな扉が複数付いており、非常に大きい。


「とりあえず、全てドック入りだ。後ろから入れてくれ」


「宜候。両舷最微速、面舵」


 艦を後ろからドックに入れていくために、南を向いていた艦首がゆっくりと東を向いていく。

 回頭が終わり、信濃とドックの軸線が重なる。その時――


「ドックからビーコンが来てきます。加えて、ダウンロードデータが一つ」


「ダウンロードデータか……。どうしようか?」


 冥霞が白夜に尋ねる。ウィルスが含まれている可能性が捨てきれない以上、迂闊にダウンロードなどできない。


――チ――チ――チ――


「『ダウンロードヲ開始シマス』」


「! おい! 待てッ――」


 勝手にシナノがダウンロードを始めてしまう。


「『ダウンロードガ完了シマシタ』」


 制止するも及ばず、データのダウンロードが完了しまった。

 主電算機を量子コンピュータにしていたことが仇となった。既存のコンピュータと比べて、圧倒的な演算力を持つおかげで、ダウンロードを中止させる暇もなく、終わってしまった。

 冥霞は最も近いコンソールに飛びつき、全てのファイルを大まかではあるが、確認していく。

 確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。異常なし。確認。見つけた。

 新しいファイルが複数追加されていた。


「あったわ。これは……」


 冥霞が新たに加わっていたファイルの中身を解読する。一方――


「えぇっ……と、あの――」


 シナノは明らかに動揺していた。





 場所は艦橋から移ってCDC。


「これが今回ダウンロードされたものね」


 冥霞はCDCのコンソールの(うち)の一つを操作して、正面の大型ディスプレイに複数のウインドウを展開する。そこには、コンピュータ言語で記されたプログラムが流れている。


「具体的な内容は基地の操作プログラムね。おそらくだけど。加えて、施設の地図もあったわ」


 冥霞はディスプレイに新たにウインドウを展開する。映し出されたのはこの施設の立体地図だ。


()(ほど)。見た感じ、ウィルスの類はなさそうだな」


「えぇ。このプログラムも下手に(いじ)るよりそのままの方がいいわね」


 冥霞はプログラムを見た自分の所感を述べる。


「それにしてもシナノが勝手をするなんて……」


「――申し訳……ございません」


 シナノは僅かな波にも攫われそうな声で謝罪の言葉を述べる。彼女の表情からして相当()いのだろう。


「彼女の性格上、勝手な行動や命令違反はまずないだろう。つまり――」


「強制された?」


 白夜は黙って頷く。


「つまり問題なのは、俺たちのクライアント様は内の(フネ)に頭ごなしに命令できる、というわけだ」


 何かしらの制限のありそうだが、と白夜は付け足した。


「仕方ないといえば仕方ないわね。なんたって彼女たちを用意したのはそのクライアント様なんだもの」


「結論としては、今考えても仕方がない。シナノ、今回のことはお咎めなしだ。俺たちには防ぎようがなかった」


「そうよ、シナノ。元気出しなさい。どうせ他の()たちも同じ状況だろうしね。あーめんどくさい、これで全員のOSその他を見ないといけないわね」


 二人はそう言ってシナノに微笑む。信濃は困惑した顔を浮かべるが、二人の意図を理解するやいなや、二人に向かって頭を下げた。


「何をしている、シナノ。後進、ドックに入るぞ」


「宜候! 前進用スラスタ収納、後進用スラスタ展開。後進します」


 一難去ってまた一難。それでも、当初の目的を果たすためにゆっくりと信濃は進む。

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