強くても5歳児です
魔物が動かなくなっても私はしばらくぼーっとしていた。
「り、リリーちゃん?」
ネリネに呼び掛けられても答える余裕はなかった。
初めて生き物を自分の手で殺したのだ。
やがて、騒ぎに気づいた門番がやって来た。なにか話しかけている。
ネリネに手を引かれ、私は歩きだした。
「リリー。帰りますよ。」
いつの間にか、ママが後ろにたっていた。
「貴女は?」
「この子の母親です。どうかしましたか?」
「いえ、どうやら魔物に襲われまして、撃退はしたらしいのですが。」
「そうですか。この子が生き物を……。」
「大事がなくてよかったです。」
門番とママが話している。
「疲れてしまっているので、今日はもう連れて帰りますね。」
「あ、はい。まだ魔物がいるかもしれないのでおきをつけて。」
ママは門番に礼をすると私の手を引っ張った。
「リリーちゃん! 今度は私が守るから! もう貴女にそんな悲しい表情なんてさせない!」
ネリネが叫んでる。
私は言葉も返せずに、ママの後をついていった。
やがて、門番とネリネの姿が見えなくなった。
「ごめんなさいね。貴女を一人にするべきではなかったわ。」
「あのね。生き物の命を奪ったの。あの魔物、苦しそうだった。私が苦しめた。」
私が胸のうちにたまったものを吐き出した。
「あの魔物にも家族がいたかもしれないのに。私が殺した。」
視界がぼやける。涙が溢れてきた。
すると、ママが私に抱きついた。
「リリー。それが冒険者になるということよ。魔物と戦うというのは、その命を奪うこと。だから、私たちは無駄に苦しめるために殺してはならない。どうしますか? やめますか、冒険者になることを。冒険者になれば、もっとたくさんの魔物を殺すことになりますよ。」
私は首を振った。
魔物を殺すことになっても世界を見てまわりたかった。
「わかりました。それがリリーの覚悟なのですね。それなら1つ良いことを教えましょう。リリーは確かに魔物を殺しました。しかし、それと同時に救った命もあるのですよ。リリー。が倒していなければ、横にいたあの娘は死んでしまっていたでしょう。奪った命があるのとともに、助けた命があることも忘れないでくださいね。」
私はママを見た。
今のママには、女王と言うだけの威厳があった。私はそんなママの姿に憧れを抱いた。
「ママ。もう大丈夫なの。私もっと力をつけるの。助けたい命を絶対助けるために。魔物に余計な苦しみを与えないために。」
私は涙をぬぐった。
「ふふふ。偉いですね、リリー。じゃあ帰りましょうか。」
「はいなの、ママ!」