気が付くと
身体の激痛は、今度は聞き覚えのない男の声から始まった。
男性の声だろうか、少し高く、少年のような声だ。
さっきと同じような痛み、ということは、待てば痛みにも慣れて動けるようにもなるだろう。
そんな目論見は一瞬で崩れ去った。
何者かに身体を揺さぶられたのだ。
信じられないような激痛。
全身骨が折れている所を鞭でバシバシ叩かれるとこんな感じの痛みになるだろう。
成す術のないユウは痛みの渦に飲み込まれる意識をその場に残し、逃げるように気を失った。
横の男が、まるで最期を看取るような叫び声を上げたが、ユウには届かなかった。
意識がすっと戻ってくる。
全身の痛みは引いているようだが、何故か両肩が変に痛い。
腕を無理に引っ張られたような、ねじれたような痛みだ。
ユウは慎重に、ゆっくりと目を開けてみる。
夢から目が冷める、そんな淡い期待は目をうっすら開けた段階で砕け散った。
視界いっぱいに広がったのは、薄い紫色の天井だ。
近くに窓があるのか、差し込む光に照らされた天井は、細かなラメを散りばめたようにキラキラと光を反射している。
こんな光景、ユウの身の回りでは見たことがない。
「目開けた!目開けたぞー!!」
この声は、さっきの声だ。
ユウは声の方に目を向けるが、声の主は勢いよくどこかへ飛び出してしまい、後ろ姿しか見ることができなかった。
ただユウはそれだけでも少し安心した。
よかった、人間だ。
本当にあの男が言った通りなら、ここはきっと、日本ではない。
いや、地球でもないかもしれない。
ファンタジーな漫画やゲーム、そんなに多くは知らないが、ユウも最低限通ってきている。
人間がいない世界だったらなどという恐怖を早々に取っ払えたのは大きい。
さらに、彼が話していたのはおそらく日本語だ。
こんな信じられない世界で日本語が使えるなんて、奇跡だ。
ユウは身体を起こして、周りをぐるりと見渡した。
ここは病院だろうか。
学校の教室くらいある広く抜けた部屋に、ベッドが4つ並んでいる。
ベッドといっても、木で組まれた台に白い布団が乗っている形だ。
ユウもその1つに腰掛けている。
ベッドが並ぶ光景だけで病院と言っているだけで、それらしき機械や器具は見当たらない。
部屋にはユウだけ、他に寝ている人もいなかった。
左手には大きな窓が付いている。
外を見ようと立ち上がった時、背後から再びあの声が部屋中に響いた。
「先生!ほら!ほら!立ってるー!!」
振り返ると、ユウと同じくらいの年齢に見える青年と、白衣のような服を着たおじさんが立っていた。
よかった、やっぱり人間だ。
「気分はどうかな?外に倒れていたなんて言うから心配したが。」
白衣の男性はそう言って部屋へ入る。
やはりここは病院のようなもので、先生と呼ばれているこの人が医者なのだろう。
ユウは応えようと口を開いたが、自分でも聞き取れないほどの声が出てきた。
喉がカラカラなことに自分でも気付いていなかった。
「おやおや、コッチ、水を持ってきてくれ。」