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世界樹物語Ⅰ〜真っ白な鍵〜  作者: hyo
第1章
2/10

合格発表

一週間も降り続けば、滅多に降らない雪にも流石に飽きてくる。

かく度にその上から積もっていく雪は、道路の脇で重い氷に姿を変え、世間ではまるで邪魔者とも言わんばかりに踏み潰され、汚れて溶けていく。

そんなサイクルの中、雪がついに降り止んだかと思えば、東京は3月の頭とは思えないじんわりとぬるい気候に包まれた。


「新都大学」をご存知だろうか。

「打倒、東京大学」を掲げ10年前に発足したこの大学は、少子高齢化による学生不足の流れを物ともしない快進撃で、あっという間に私立トップ大学の一員へと躍り出た。

最初はぽっと出の大学とあざ笑っていた世間も、日に日に勢力を増して行くこの大学を、最近では将来本当に東大の座を奪うのではと、決して無視できない存在となっている。


渋谷駅から原宿方面へ徒歩数分、新生大学とは思えないほどどっしりと構えた趣のある校門の前には、ちょっとしたメディアの人だかりができていた。

外まで漏れ出てくる歓声、中で何が行われているかは一目瞭然だ。

整然と並ぶ8桁の数字が張り出された掲示板は校門の外からは背を向けているため、数字を確認することはできない。

その代わり番号を確認する学生の顔が校門側を向くため、外からの光景でも十分にその歓喜を伝えることができる。


学校に合格番号を張り出すなんてアナログな発表の仕方は、ネットが普及した今ではかなり珍しい存在となってしまった。

学校のホームページやメールで、より簡単に伝えることができるからである。

新都大学の珍しいところは、時代の流れに沿ってネット掲示を行うのと同時に、学校に張り出すアナログな方法も行う点だ。

自宅でも外出先でも簡単に合否を確認できてしまうから、大学に直接見にくる学生は合格に絶対的な自信を持っている人、せっかくの合格記念を現場で味わいたい人がほとんどだった。

今年の新都大学の合否発表も、直接発表を見に来る学生の質はほぼほぼ例年通りと見て取れた。

笑い声も泣き声も、ろ過してこし取ればポジティブな感情が透けて出てくる、わざわざそんなことをしなくても証明できてしまうような声が、雰囲気が、学校内をくまなく包み込んでいた。



自分の聞きたい音と聞きたくない音を判別して聞きたくない音を自動ではじき出す、人間いざという時はそんな能力も必要としないらしい。

憂の耳には、歓喜に満ちた笑い声も感動に満ちた泣き声も、面白いほどに一切耳に入ってこなかった。

しんと静まり返った静寂の中で、視界に入る数字の列を一心不乱に往復する。

規則正しく若い番号から並ぶ掲示板の中で、自分の番号を探すのはそんなに難しいことではない。

憂の目は、最初は自分の番号付近を、次に受験した学科全てを、そして今は受験してもいない全ての学科、掲示板の端から端までを舐めるように見続けていた。


誰かに背後からぶつかられ、持っていた受験票がはらりと落ちた。

また別の人が地面に落ちた受験票を踏みつけた。

受験番号に、名前に、顔写真に、靴の裏面が綺麗に写った黒い汚れがべったりと付く。

しかし憂の目は、そんなこと全く気付いていないように、掲示板を往復し続けた。

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