漢字を「ひらく」ということ
前回書いたエッセイ(読点を付けよう!)に続いて、Twitterで「#RTした人の小説を読みにいく」を利用した時のこと。募集した小説を読んで、他に気になったことをまたこりずに書く。
今回気になったのは、「漢字だらけの小説が多い!」ということ。
ところで、みなさんは漢字が多い小説と聞いて、どういうイメージを持つだろうか。
――文豪が書いた小説ならよくある?
――ハードボイルド系なら普通?
――そもそも、そんなところに注目して小説を読んだことがない?
単刀直入に言うと、「漢字の多い文章は読みづらい」。もっと掘り下げて言うと、「内容に対して、必要以上に漢字の多い文章は読みづらい」。
漢字が多くてもその雰囲気に浸れる内容ならいいけど、明らかに若年層向けの内容なのに漢字を多く使われると読みにくい。分からない漢字が出てきた時に調べる手間もそうだし、単純に文章自体の視認性が悪くなる。
ネット小説をよく読んでるみなさんが、経験したことがありそうなことで例を挙げるなら……横書きの状態で空行(文章と文章の間の何も書かれてない行)がある程度ないと、今どこを読んでるのか分からなくなる感覚に近いかもしれない。それが漢字が多いことで起こる。
わざわざ、視認性を良くするために空行を設けてるのにもかかわらず、必要以上に漢字を多用するのは本末転倒だと思う。
言わずもがな、ひらがなやカタカナに比べて、漢字は画数が増える場合が多い。たとえなじみのある漢字でも、それが短い間隔で使われると文章が詰まってるように見える。
読みやすさを意識して漢字をひらがなにすることを、漢字を「ひらく」と言う。文章を書く上での技術というか、マナーみたいなもの。
では、一般的にどんな漢字をひらがなにすればいいとされてるのか、例を挙げる。
・常用漢字以外の漢字(固有名詞は除く)
「じょうよう‐かんじ【常用漢字】」の意味
1 大正12年(1923)文部省臨時国語調査会が発表した日常語一般に使用される1962字の漢字とその略字154字。
2 内閣告示の「常用漢字表」にあげられた漢字。一般の社会生活で漢字を使用する際の目安として示されている。方針や採用字種の検討などは文化審議会が行う。昭和56年(1981)、それまでの「当用漢字表」に新たに95字が追加され、1945字として告示。さらに平成22年(2010)11月30日に196字を追加、5字を削除した2136字の「改定常用漢字表」が告示された。
提供元:「デジタル大辞泉」
・補助動詞
「ほじょ‐どうし【補助動詞】」の意味
動詞が、本来の意味と独立性を失って、付属的な意味を添えるものとして用いられるもの。「私は日本人である」の「ある」、「風が吹いている」の「いる」、「本を読んでいらっしゃる」の「いらっしゃる」、「迎えに来てください」の「ください」など、断定・動作の様態・敬意などを示すものとして用いられる。
提供元:「デジタル大辞泉」
<例>
彼の待っている公園まで『行く』。
彼の元まで走って『いく』。
・形式名詞
「けいしき‐めいし【形式名詞】」の意味
その語の表す実質的意義が薄く、常に連体修飾語を受けて使用される名詞。「病気中のところ」の「ところ」、「手紙を書くことが苦手だ」の「こと」、「失礼の段おわびします」の「段」など。不完全名詞。形式体言。
提供元:「デジタル大辞泉」
<例>
重い『物』を持って階段を上がるのは大変だ。
運のない時なんてそういう『もの』だ。
次に、単語でひらいた方がいいとされてるものを、一部挙げる。
予め→あらかじめ
有る/無い→ある/ない
併せて→あわせて
致します→いたします
頂く→いただく
一旦→いったん
及び→および
下さい→ください
事→こと
毎→ごと
先程→先ほど/さきほど
更に→さらに
暫く→しばらく
既に→すでに
全て→すべて
是非→ぜひ
沢山→たくさん
但し→ただし
多分→たぶん
為→ため
出来る→できる
通り→とおり
時→とき
伴い→ともない
共に→ともに
尚→なお
中々→なかなか
等→など
一つ/2つ→ひとつ/ふたつ
他→ほか
殆ど→ほとんど
又→また
全く→まったく
迄→まで
良い→よい
様な→ような
たぶん、他にもよく見る単語もありそうだけど、キリがないのでこの辺で……
ここまで散々、漢字をひらくことを推奨してきたけど、私自身、「これはひらくけど、これはひらいたらやわらかくなりすぎるな……」と悩むことがある。
例に挙げたとおりにひらくこともあれば、そのまま漢字で書くこともある。漢字をひらくのは視認性を良くするのが目的なので、文章のバランスだったり、ある程度は好みで決めてもいいと思う。
とりあえず、「もしかしたら自分、漢字使いすぎ……?」と頭が痛くなった作者さんは、漢字を減らす意識をすることから始めてみてはどうだろうか。
募集して読んだ小説で、漢字が多い! と思ったものはあったけど、漢字が少なすぎる! と思ったものはほぼなかったかな。
もっと読みやすい小説が増えたらいいなあ。