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第9章『救出作戦』

 役割が決められた。

 まずパトカーにキミカとツユミとキングブロッサムの花を乗せて先導する。続いて救出用車両が数台――順番に発見した人を乗せていき、定員になれば順次陸地球から脱出する。市街地をまんべんなく回り、すべての人を救出した後、ツユミたちが最後に脱出するという段取りであった。

 徹夜になることを校山は心配したが、キミカは大丈夫だと胸を叩いた。それでも長丁場になるからと仮眠をとることを勧められた。その間、必要なクルマをかき集めるとのこと。

 消防署の建屋であるがために仮眠室はあった。カーフェリーの二等船室を思わせるような、二段ベッドが四台、それだけの部屋。

 携帯電話のアラームを一時間後にセットして、二人はベッドに横になり、どういうわけか煙草くさい毛布をかけた。

「こんな状態で寝られるわけないっちゅうねん」

 キミカはぼやくが、ツユミはありがたかった。本当なら今ごろはホテルで豪華なディナーの後、大浴場でのんびりくつろぎ、明日のマラソンに備えて床についているところだ。ところが現実は薄汚い部屋で仮眠。この落差はどうしたことかと笑ってしまうほど。

 それでも体を休ませられて、ほっとしていた。なにしろ、普段とは異なる環境におかれてリラックスできる時間がほとんどなかった。すでに十一時をすぎていた。いつもの生活パターンからすれば少し早いが、眠るにはちょうどいい時間。

 部屋の電気を消して、ドアの隙間から漏れる小さな光だけの暗い室内。けれども遠くから人声がして、かすかな騒々しさが耳障りだった。

 キミカは枕元にキングブロッサムの花をおいていた。うつ伏せの姿勢で頬杖をついて、ぼんやりした暗さの中で冷たく浮かぶ石のオブジェを見つめている。

「ちょっとでも寝ておいたほうがいいんじゃないの?」

 たぶんキミカは眠らないだろうと思いながら、すぐ横のベッドから言ってみた。

「ちょうどええわ。じっくり話をしてみたかってん」

「話って、花と?」

「うん。校山さんらがおったら、自由に訊きたいこと訊くいうわけにはいかへんやん」

 学術的興味よりも、人命救助が優先され、それにまつわる情報ばかりを聞き出して、もっと根本的な質問は校山にさえぎられていた。だが文句はいえない。

 だから今、いいタイミングだとキミカは思ったわけである。

「邪魔者はいてへん。聞きたいだけ聞けるわ。質問するで」

《たずねるがよい。知っていることを話そう》

 キングブロッサムの花はそうこたえた。

「ハラショー」

 キミカは瞳を輝かせた。

「あんただけ、なんで人間と会話できんの?」

 ツユミも聞き耳をたてた。すぐ横でこんな重要な問答をされては、おちおち仮眠などとっていられない。

《われが特別なのではない。そなたに原因がある》

「キングブロッサムのカケラを持っているから?」

《所持しているだけでは、その能力は得られない。だが、そなたがわれらにより近い状態にある》

「ウチは小さい頃からキングブロッサムのカケラといっしょやった。小さいカケラと無意識下で意志を通じていたん?」

《われらは、本体から離れた部分は、その大小にかかわらず、意志を持つ。ただし、能動的に活動するのは今このときのみである。だが、われらと共にいて、われらに近い状態に変化した前例はある。それらが集団で行動するのが常であるなら、能力が伝搬したのである》

「ははあ、思たとおりや」

 カケラと長くいっしょにいることにより、本人が気づかないまま、自然とその心が理解できるような頭になってきた、ということ。そして、その能力は、集団生活をする特徴のある人間だからこそ、他人にも伝播したのだ。

「でも、今『前例』って言ったよ」

「ということは、他にも以前、言葉が通じた人間がおった、いうこと? いや、でも、今しかしゃべらへんのとちゃうのん? 前例っていつのこと?」

《この世界へ移る前の世界でのことである。そのときも、通路から高度知性体が現われた》

「なに? 人間とちがうの?」

《われらは七千二百十一回、世界を移動している。知性体に出会ったのは、今回が最初ではない》

 七千二百十一回! 気の遠くなるような回数だ。次の世界に移るまでの期間がどれくらいかわからないが、仮に百年とすると実に七十万年も別の世界からそのまた別の世界へとさすらいつづけていることになる。そして今回が七千二百十二回目だ。

 キミカはふっと息を吐き、うつ伏せの姿勢から体を起こし、あぐらをかいて居住まいをただした。

「あんたら、いったい何者なの? どこから来て、どこへ行くの?」

 とうとう本題だ。これまでの会話から、かなり高度な知性を有していると思われるが、質問が高度すぎては、哲学的に語られて、禅問答のように、わかったようなわからんような結論に導かれたりするかもしれない。

《われらの始祖がどこからきたかは記憶が不鮮明であり、また、これから最終的にどこへ行くのかも予測不能である。われらが新たな生存環境を開けなかったとき、われらは移動できずに絶滅するであろう。この世界の生命体とは異なるが、われらもまた生命体である。したがって、なにをもって生命体と定義するかによって、われらが生命体といえず、機械に分類されることもあるだろう》

「七千回も移動をって、ちゃんと数までわかってんのに、生まれたことはわからんの?」

《最初の跳躍は偶然であり、それまでは閉鎖した世界にいた。われらの意識がわれらを認識しはじめたのは、最初の跳躍のずっと以後である》

「偶然って……、じゃ、今は偶然とちゃうの?」

《今開いている通路はわれらが開いた》

「えっ……?」

 絶句。

 つまり、生き残るがために、逃げ道を開拓したということになるのか。たしかにそれは、生命という枠から逸脱した能力といえよう。おそらく、地球の四十数億年の生命史において、そんな能力を獲得した種は存在しなかったろう。

 キミカはごくりと唾を飲み込んだ。さらに質問を重ねる。

「地球から、次の世界へ移動するときは、地球が滅びるときなんか?」

 キミカはこわいほど鋭い目つきになっていた。

《世界は永遠ではない。滅びがいつかはそれぞれ固有の値をもっているので、特定はできぬ》

「陸地球ははじめっからこんな世界やったん?」

《否。生命のエネルギーに満ちた世界であった》

 淡々と語るキングブロッサムの花。その口調にはいかほどの感情も含まれず、会話の内容が人間側にとってどんなに衝撃的であるか、との認識をもっていないかのよう。というより、そもそも、感情というものをもっているのか――。外見に惑わされてはならないというものの、やはりそう感じずにはいられない。

「それが、なんで滅びそうになってまうねん。そこにいた知的生命体は、滅亡してもうたんか?」

《左様。われらには寿命がない。条件さえ悪化しなければ永遠に生存できる。われら以外のどんな生命も、絶滅してしまった》

 キミカは黙った。

 かれらは、惑星が消滅する手前までその世界にいつづけるようだ。地球へ移動した場合、あと約五十億年はいつづけることになる。太陽が燃えつき、膨張して地球を飲み込むまで、およそそれぐらいだろうと考えられているからだ。過去の七千回以上の移動の間隔がそのオーダーだとすると、現在考えられている宇宙の年齢をこえている。ビッグバンの以前から存在していたとは考えにくいから、ということは、キングブロッサムたちは、文字どおり別の宇宙から来たことになる。現在知られている物理法則が通じない、別の宇宙。それは驚異的な事実だ。まだ人類が知り得ない宇宙の真実についての証言が得られれば、天文学、物理学、その他のさまざまな分野でとてつもない発展が期待できるはずである。全世界の学者が命より欲しがる情報。その価値は一国の国家予算にも匹敵するやもしれない。マジな話、世界を変える力だ。

 横で聞いていたツユミは頭がくらくらしてきた。日常からあまりにかけ離れた時間の単位に、なんだかどうでもよくなってきた。

 同時に、目の前の存在がとんでもなく大きく見えた。

 と、ノックの音がした。

「はい」

 とツユミが返事。

「クルマの準備ができました」

 ドアは開かず、若そうな男の声。

「わかりました。今行きます」



 入ってきた正面玄関から外へ出ると、消防署の前には何台ものクルマが停められていた。種類もパトカーをはじめ普通乗用車、マイクロバス、自衛隊のトラックや装甲車まで並んでいた。陸地球中からかき集めてきたのだろう。もしかすると、レンタカー屋から無断で拝借したものもあるかもしれない。

 それらがずらり並んでエンジンをかけ、まさに「救出隊の出動!」といった勇ましさ。

 その一角で、だれかが警官ともみ合っていた。暗い中であったが、ツユミはその巨体に見覚えがあった。

「駅村さん!」

 警官と肥満男が振り向いた。ツユミとキミカを見て、目を見張ると同時に相好を崩した。

「やや、きみたちここにいたんだ。いいところで出会った。このお巡りさん、早く脱出しろとうるさいんだ」

 それはそうだろう。いくら放送局の看板を振りかざして報道の重要性を説いていても、警官の立場にしてみれば一人でも多くの人に避難してもらいたいのだから。

「駅村さん、次はどないしようっちゅうの?」

 キミカが一歩前へ出た。

 キングブロッサムの花による「遺跡の破片のいっせい飛翔予言」をラジオで流し、さらに陸地球が明日閉鎖されてしまうことも放送した。考えてみればこの大騒ぎを演出した張本人であるわけだが、今度はなにをしようというのか。

「ちょうどいい。きみたちのカオでここを通してくれないか」

 警官を振り切って歩みよってきた。「役場に二人がいたということは、キングブロッサムの花に関連する重要な役割があってのこと、なんだろ?」

 ただの観光客が早々に脱出せず、対策本部の設置された役場出張所にいて、しかも警官や役場職員とともに出てきたとなれば、もうそれ以外になにがあろう。

「ぜひ取材させてほしい。な?」

 ウインク。似合わねー。

「でも……」

 ツユミは言いよどむ。

 自分たちはあくまで警察に協力しているという立場であって、陣頭指揮をとっているわけではない。取材となると、本作戦への同行をも意味するが、それが可能かどうかは責任者――この場合は校山――が決めることになるだろう。そして、おそらく許可しまい、とツユミは思った。陸地球閉鎖までまだ時間があるとはいえ、どんな不測の事態が起こるやもしれず(少なくとも校山はその可能性を心配していた。慎重なのである)、安全なうちに一人でも多く脱出してほしいと願っている。

 一方、駅村も己の仕事に情熱を傾けている。今日の行動はそれなりに評価されてしかるべきものだろう。一マスコミ人として、陸地球で起きていることを伝えようと懸命なのだ。

 ツユミの心情としては駅村の肩をもちたかった。

「ええで。これからクルマに乗って、残ってる人を救出しに行くねん。いっしょに来たらええわ」

 キミカがこともなげに言った。

「ちょっと、キミカってば。そんなこと勝手に――」

「ええやろ、校山さん。この人のおかげで、みんなに危険が知れ渡ったんやし」

「うむ、たしかに……。しかし、それとこれとは……」

「ええやん。どうせこのクルマで脱出すんねやから、最後まで乗っててたてええやん」

 問題などない。きっぱりとキミカは言いきった。



 救出隊が出発した。

 先頭のパトカーの後部座席に、キミカ、ツユミ、キングブロッサムの花が乗り込み、残っている人を探索する。助手席に乗った駅村を監視するように、校山が運転席について自らハンドルを握った。

 そのパトカーの後ろに、救出用のさまざまな車両が数珠つなぎのようにつづいていた。順番に乗せていき、満員になった時点で一台ずつ車列を抜け、陸地球から出てゆく手筈。

 カーナビはなかったが、常に本部と連絡をとり、漏れる場所がないように道路を選択する。速度は時速五キロという廃品回収車なみの低速。キングブロッサムの花に誘導されて出てきた人を収容しそこなわないように。

 軽快なマーチのBGMが似合いそうなシチュエーション。

「気分はサンダーバードやな」

 キミカは言ったが、冗談につきあう雰囲気ではなかった。

 午前一時。街に人影はない。普段の休日でも、さすがにこの時間ともなると人通りはない。

「どう? だれかいてそう?」

 キミカが訊く。

《この周囲にはいない》

「もしいたら、誘導、頼むで」

《了解している》

「でもこんな夜中に出てこいと言われても、寝ていたら聞こえないんじゃないの?」

「夢遊病患者みたいに、ふらふら現われるかも。幽霊みたいやん」

 キャハハ、とキミカは笑った。

「ねっ、眠っていた場合、どうなるの?」

 ツユミはキングブロッサムの花に直接尋ねた。

《脳の活動を制御するところまではできない。だが、人間の存在は把握できる》

「つまり、見つけた後は、わたしたちでなんとかしろってことね」

《然り》

「しかし驚いたな。会話ができるようになっていたなんて」

 助手席から駅村が振り返った。

「これって、短時間による進化? いや、成長といったほうがいいか。どちらにしても、すごいスクープだ」

 ハンディタイプのビデオカメラ(放送に使う業務用ではなく、予備として持参していた家庭用のものである)を回す。室内灯をつけていないので、ちゃんとは映らないだろうが。もっとも、映ったところで衝撃的な映像にはならない。キングブロッサムの花の声も、音声ではないから記録されないし。

「なにかすごいこと、聞き出せたんじゃない?」

「まぁね……」

 駅村が水を向けると、キミカはニコニコ。駅村と再会できたことがうれしいらしい。魂胆が透けて見えた。

「悪いがインタビューはあとにしてもらえるかな」

 校山が苦々しく忠告した。

「もちろん、邪魔をする気はありませんよ」

 前へ向き直り、駅村は真面目くさった口調で返した。

「人命救助が最優先です。仕事ぶりを見守らせていただきます」

「なら、けっこう」

 不機嫌そうな校山の声音。

 パトカーの無線機に指示が入る。次の角を右折、その次は左と、誘導してくれる。校山は指示どおりにパトカーを運転する。

 行き交うクルマも途絶え、交差点の信号の赤と黄色が寂しげに点滅していた。

 残っている人はなかなか見つからなかった。どのくらいの人が残っているのか、事前にはまったくわからなかった。もしかしたら、案外少ないのかもしれない。近所のコミュニティがちゃんと機能していて、孤立しがちなお年寄りなんかをみんなで脱出させたり。

 キングブロッサムの花の能力を疑う者はだれもいなかった。よもや見逃すことはあるまいと、確実だという根拠はないのだが、だれもがそう確信していた。

 進む速度も遅く、眠気を誘う状況がつづいた。

 ツユミもうつらうつらとしかけていた。だから、キングブロッサムの花の《発見した》という声も、夢の中で聞こえたかのようだった。

「どの方向?」

 キミカがたしかめる。

《こちらに接近するようはたらきかけた。まもなく前方に見えるだろう》

 寝ている人間を起こすことまではできないが、おいでおいでと呼びかけることはできるのだ。

 ヘッドライトはハイビーム。強力な光の中にいつ現われるのかと待つ一同。

 ほどなくして。

 左前方に――ひとつの人影が出現した。しっかりした足取りで接近してくるのは老婆であった。

 校山はブレーキを踏んだ。

 両手を広げて大きく振って止まれと合図する老婆の十メートルほど手前でパトカーは停止。校山が降りた。回転灯の光が、歩み行く背中を赤く照らした。

 老婆と言葉を交わした校山が戻ってきた。

「どうやったん?」

 窓をあけ、深夜の冷気の中へ顔を出すキミカ。

「寝たきりの老人がひとり、いるそうだ」

 言って校山はパトカーのすぐ後ろにつづくマイクロバスに向かう。そして、担架をかかえて降りてきた数人とともに、老婆の案内で闇に消えていった。

「手伝ったほうがいいんじゃない?」

 ツユミおずおずと言い出した。

「今はそんなんプロに任しとったらええねん。ウチらの手が要るほど、人手不足とちゃうやろ。必要なときに手伝えばええやん」

 キミカは切り棄てるように言った。



 最初、なかなか見つからなかったが、一人救助されると、つぎつぎと芋蔓式に現われた。後続のマイクロバスはほどなくして満員となり、Uターンして陸地球から出ていった。

 駅村は、誰かが救出されるたびにメールをせっせと打ち、ときにはビデオカメラを回した。ときどき、電話がかかった。そのたびに丁寧な口調でレポートしているところから、テレビ局からなのだろう。オンエアされているのかどうかまではわからないが。

 普通に走れば三十分とかからないコースを数時間かけてまわった。

 この時期、北海道の夜明けは早い。

 夜が白みはじめてきていた。空の色が見ているうちに明るくなり、東の地平線に太陽が輝き出すのも、もう間もなくだろう。

《トーテムポール城だ》

 そのとき、キングブロッサムの花が言う。

《大勢の人間の気配がある》

 トーテムポール城とは、キングブロッサム同様、陸地球内の遺跡のひとつである(今となっては「遺跡」という呼び名はふさわしくないが、種としての呼称もまだ定められていないので、このまま「遺跡」と呼ぶ)。数本の柱が密集して立ち、西洋の城を思わせた。表面に幾何学的な凹凸がレリーフのように刻まれ、さながら北米先住民のつくるトーテムポールのようであるところから名付けられた。

「なんだと? そんなばかな」

 校山がわめいた。

 脱出できなくて家にいるなら理解できるが、遺跡に大勢の人間が残っているなど、あり得ない。

「避難指示が伝わってないのか」

「いや、伝わっていても、脱出しないのでしょう」

 駅村が携帯電話でメールを打ち始めた。

「自殺するつもりか」

「そうではなく、宗教関係者でしょう」

「出入口は自衛隊がかためているんだぞ。彼らが入って来られるわけがない」

 役場の職員が言ったことが思い出された。陸地球へ入ろうとする一団とそうはさせまいとする自衛隊。どんな宗教的信念をもってしても、自衛隊相手に突破は無理だろう。装甲車が道路をふさいでクルマでは通れないだろうし、徒歩でというのも考えにくい。

「だからたぶん、もともと陸地球にいた人々でしょう」

 言いながら、駅村はメールを発信。「だって、キングブロッサムの花の呼びかけで出てきた人たちは、みんな素直に脱出してくれましたよ。へんな宗教論理を振りかざして拒絶したりはしませんでしたよ」

「それはキングブロッサムの花の催眠術にかかったから、ではないのか」

 校山の見解に、ツユミはうなずいた。遺跡のタネが、自らを運び出してくれるよう観光客を誘導したという、キングブロッサムの花の話を聞いたばかりであった。

 キミカはじれったくて、しようがない。キングブロッサムの花に向かって、

「さっき助けた中に、脱出したがらない人たちまで、いてた?」

《否。かの人間はすべて、この世界からの脱出に同意していた》

「じゃあ、トーテムポール城の人間は?」

《ここからでは、遠すぎて、正確には把握できぬ。個体の人間の思考が入り乱れてしまっている》

「混線してるようなもんか。――近づいたら、わかんねんな?」

《肯定である》

「キングブロッサムの花もああ言うてるこっちゃし――」

 キミカはすぐ前の運転席シートをつかんで身を乗り出す。「とにかく、行ってみるしかないやろ」

「そのとおりだ。何人いるかわからんが、とにかく行かなければ」

 校山はうなずき、無線で対策本部に連絡。

「トーテムポール城に多数の人間がいる模様。これよりそこへ向かう」

 パトカーは、陸地球中心市街地を後にした。そのあとに、やや少なくなった車列を従えて。

 周囲は次第に明るくなり、トーテムポール城へ行くのも、迷うことはなさそうだった。

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