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第4章『語る石』

 翌朝――。

 窓から差し込む陽光を感じてツユミはハッと目が覚めた。

 布団は被らず、その上に大の字になって寝ていた。酒の量が多かったせいか、いつ眠ったのかも覚えていなかった。浴衣の下はTシャツだけという薄着だったが、暖房をつけっぱなしでいたせいで、風邪はひいていなかった。そのかわり喉がカラカラだ。

 枕元に立っていたペットボトルは、ゆうべ飲み残したミネラルウォーター。キャップをあけて喉をうるおす。

 いま何時だろうかと室内に視線を転ずるが、時計が見当たらず、畳に転がっていたケータイを手にとった。六時五十分。

 やや寝不足ぎみだったが、疲れはなかった。むしろアルコールのせいで眠りが深かったのか、すがすがしい。

 すぐ横ではキミカがまだ寝息をたてていた。どういうわけかツユミとちがってきちんと布団に収まって。

 ツユミは窓際へ歩みより、テーブルの上のキングブロッサムの花を見下ろす。朝日をうけて、石の表面が光っていた。本物の花とはちがう美しさがあった。

「ゆうべのは、現実のことだったのかなぁ」

 とつぶやく。ワインが見せた幻覚――いや、声だから幻聴か――ではなかったか。次々と新しいメッセージが得られるかと思いきや、同じ単語が断片的に何度も繰り返されるばかりだった。

 明るい窓の外は今日もよく晴れて、夢など覚めてしまう。日本庭園が朝日を受けて、昨日とはちがった趣を見せていた。

 キングブロッサムの花を凝視する。声は聴こえるのか?

 しばらくそのまま、一秒、二秒、三秒、四秒……。

 が、花からはなんの声もしなかった。いくら美しいシンメトリーでも石は石にちがいなく、冷静に考えるまでもなく声などするはずがなかった。

 ツユミは、一瞬でもマジで信じた自分が恥ずかしくなった。キミカに一杯くわされたのではと思った――いや、ゆうべはいっぱい飲まされたのだった。

 きびすを返し、平和に眠っているキミカをたたきおこした。

「こらぁ! いつまで寝てるんじゃあ!」

 布団をはぎ取り、浴衣の襟元から手をつっこんで柔らかいバストを揉みしだいた。

「ひぃーん。なにすんねん」

 目は覚ましたものの、いきなり勢いよくは起きられない。不機嫌そうな顔でモソモソと起きあがる。布団の上に横座り、浴衣の襟元を押さえ、明るさに眼を細めて、

「何時?」

「七時」

「睡眠不足は美容の大敵やで」

「ゆうべ遅くまで飲んだくれておきながら、よくいうよ」

 キミカは立ちくらみに気をつけながら立ち上がると、ふらふらと窓際へ移動する。

 昨日から、変わらずテーブルにあるキングブロッサムの花。

「さ、ご飯、食べに行こ」

 ツユミと同じように石を見つめているキミカに、“声”のことは触れず、何事もなかったかのようにそう言った。

「うん……」

 生返事。思案しているふう。そのまま十秒ほど。

「行こか」

 やっと納得したのか、ツユミを振り返った。



 朝食はゆうべのレストランでバイキング。

 朝はあまり食べないの、というツユミは牛乳とフルーツを少し。

 一方キミカはトレイいっぱいにいろんなものをのせて席についた。味噌汁・ごはんに始まって、半熟たまご、プレーンオムレツ、アジの開き、味付け海苔、なぜかトマトジュース。

「納豆は食べないの?」

「あんなもん喰うのは宇宙人や」

 食べ始めると、みるみるうちに、胃の中に消えていく。朝から見事な食べっぷりだった。テーブルの向かいでそれを見つつ、ツユミは口を開いた。

「で、どうするの?」

 キミカは箸を止め、

「どうするって……。昨日決めたやん」

「本気なの?」

「えらいテンション下がってるやん。事は重大なんやで。ウチらが動かんでどないすんねん。呑気に観光なんかしてる場合とちゃうで」

 と箸でツユミを指しつつ。

「でも、ゆうべのは現実だったのかな……」

「なに言うてんの。二人とも、声聴いたやん」

「だって、今朝はなにも聞こえなかった」

 キミカは黙りこみ、食事をつづける。たしかにそうだった。ツユミのいうとおり、今朝花の前に立ってみたが、なんの声も聴こえてはこなかった。トレイの上のものを全部たいらげて、箸をおく。

「花も寝てたんちゃうか」

 と冗談ぽく言った。トマトジュースを飲みほす。

「植物が寝るかい」

「あれは植物とちゃうで。無機物の知性体、いうたらコンピュータみたいなもんや。――まてよ、コンピュータか」

「また、そんなわけのわからんことを……。コンピュータだったら、なおさら眠らないじゃない。キミカが肩入れしたい気持ちはわかるけど、どうしてそんな自信たっぷりにいられるの?」

「コンピュータは生き物とちゃうけど、生き物――というより、人間のように高いコミュニケーション能力を持ってる。遺跡は、コンピュータなんかもしれへん」

「ヒトの話聞いてんのか」

 キミカは、くすっと微笑した。

「せやから言うたやん。ここでは、ありのままを受け入れるんやって」



 明日の陸地球マラソンを取材にきているテレビ局があるはずだった。海外からの招待選手が走るような国際大会ならいざしらず、大人から子供まで参加できる、いわゆる市民マラソンでは、せいぜいローカル局の取材カメラが当日こっそり来るぐらいで、前日から中継車がやってきて生中継の準備をする、などということはない。

 しかし――、今回はいつもとちがっていた。

 東京のテレビ局の番組企画で人気タレントの笛野レイナが参加することになっているのだ。マラソン参加がメイン企画とはいえ、ただ走るためだけに北海道くんだりまで来たのではもったいないからと、陸地球のあちこちでロケをするにちがいない。となれば、タレント以下番組スタッフが前日早くから現地に入っているはずだ。

 どこかのホテルを基地にしているだろうから、そこで接触できれば、話を聞いてもらえるかもしれない。

 とりあえずインターネットで調べてみることにした。番組の公式サイトでは詳しいことはわからなかった。マラソンに参加する、という程度にとどまっていた。が、予想どおりだったので、べつの方向から検索する。

 タレントのファンサイト。コアなファンなら、なんらかの情報をつかんでいる可能性もあるだろう。とはいうものの、個人サイトはブログを含め山のようにあり、必要な情報にたどりつくのに、どれだけ時間がかかるかわからなかった。

 小さな画面を見つづけて、いいかげん疲れてきたころ、やっとホテルの名前が判明した。

 携帯電話を放り出し、ツユミは大きく息を吐き、やれやれとソファに身体をあずけた。

 ホテルのロビーで作業を始めてから、一時間以上経過していた。高速データ転送を誇る最新型でなければ、もっと時間がかかったにちがいない。

「お疲れさん。コーヒーでも飲む?」

 ツユミは、立ち上がったキミカに視線を送り、

「ん。アメリカンお願い」

 うなずいて、キミカはロビーの喫茶カウンターに向かう。長時間居座ったのだから、コーヒーぐらい飲まないと気まずい。

 カップを両手に戻ってくると、ツユミはせっせとメールを打っていた。

「また彼氏?」

 と、テーブルにカップをおいて。

「うん。一応知らせておこうと思って」

 ありがと、とメール打ちに懸命で、テーブルに置かれたカップを見もせずツユミ。

「飲みおわったら、すぐ出発やで。ぐずぐずしてられへんわ」

 キミカは砂糖とミルクをたっぷりいれ、ぐるぐると下品にかき混ぜた。



 九時すぎ、ホテルを出発。

 スバルR1に慎重に花を運びこんだ。

 向かうは陸地球パレスホテル。今日もキミカがハンドルを握った。カーナビを頼りに走らせる。ネットの情報がガセではないことを祈りつつ。

 ほんの数分でホテルに着いた。五階建ての白亜の美しい外観。駐車場も広い。時間が中途半端なせいか、人の出入りはない。

「どうするの?」

 ツユミが訊ねた。

 とりあえずキミカはR1を駐車場へ入れる。ハンドルにもたれ、しばし熟考。まるで興信所か、張り込み中の刑事の気分。

「ここまで来たはいいけれど、実はこれからどうすんのか決めかねてんねん」

「またあ?」

「なんぼなんでも、ホテルのなかまで入っていって、直訴するっちゅうわけにもいかへんやん。向こうも警戒してるやろし」

 もともとはアニメ声優出身だというが、それだけに熱狂的なファンが多いときく。カメラ小僧のマークも厳しいだろう。

「だいたい、まだここへ着いてへんのとちゃうか。今朝東京を発ったとして、陸地球到着には三時間はかかるから……」

 予想していた熱心な追っかけの姿も見えないことから、ここにはいない可能性は高い。

「すでに着いていても、ロケに直行して、ホテルには今夜入るんじゃない?」

「そうやなぁ……。ロケ隊探して、同行ディレクターをつかまえるしかないかなぁ」

「きっとすごい人だかりよ」

「でも、目立つやろうから、見つけやすいんとちゃう?」

「笛野レイナのファンでもないのに、ここまですることになるとは……」

 ツユミは情けない声をあげた。さっき、笛野レイナ関係のサイト(なかにはろくでもないページもあり、吐き気がしそうなものもあった)を見つづけて、食傷ぎみになっていた。これが原因で笛野レイナがキライになってしまうかもしれなかった。

「でも、笛野レイナには感謝せな。テレビ局と話せる機会をつくってくれたようなもんやから」

 キミカがR1を発進させようと、ギアを入れ替えたとき――。

 ホテルの玄関から、ひとりの男が出てくるのが目に入った。ジーンズにスタジャンを着込んだ小太りの中年オヤジ……。腰のウエストバッグはなにが入っているのか異様に大きい。

「あれは……」

「あの年に似合わない世間ズレした格好、テレビ局のスタッフとちゃうかな。チャンスや!」

 世間ズレってそういう意味じゃないんだけど、とツユミが指摘する前にキミカはドアをあけ、男の進路をふさぐように近づいていった。

「すみません、テレビ局のかたですか?」

 単刀直入。キミカは訊いた。

 相手は突然のことに驚いたようで、キミカを上から下までさっと見て、

「そうだけど、なに?」

 声音に警戒が含まれていた。

「ちょっと見てもらいたいものがあるんです」

 キミカは早口でそう言うと、R1を指し示した。助手席のツユミが降りようとしていた。

 若い女が二人――。その状況にやや安心したのか、男はキミカに促されるままに近づいた。

 ハッチバックのドアを開けた。

「これは……」

 直径五十センチほどの石を見て、男は声を失った。ははぁ……と唸りながら、しげしげと舐めるように見る。

「これ、キングブロッサムの花じゃないの?」

 キミカはにっこりし、

「さすがテレビ局」

「きみ、これをどこで?」

「拾ったんです」

「落ちていたっていうの?」

「そう。でもだれかが落としたんじゃなく、勝手に飛んでったんです」

「ええ?」

「ツユミ、ケータイの画像、見せてあげて」

 立板に水のようにしゃべっていたキミカに突然ふられて、ツユミは一瞬我を失う。

 はいはい、と携帯電話を取り出し、ムービーを再生。だが画面が小さいうえにやたらとブレるので、いまひとつわかりづらい。

 それでも男は、飽きることなく画面を見つづけた。キミカとツユミがキングブロッサムの浮遊花を発見してからの一部始終を話し終えると、ううむ、とうなった。

 おそらくバラエティ番組だろうスタッフが、およそ興味を持つような話ではなかったから、まともに聞いてくれるかどうかは大きな賭だった。だからここまでちゃんと聞いてくれたのは、幸運と同時に意外でもあった。

「これが、その問題のキングブロッサムの花なの?」

 キミカはうなずいた。

「メッセージは、聞こえないようだが」

「今は聞こえへんけど、聞こえるようになる」

 断言するキミカに、ツユミは目を丸くした。ゆうべのメッセージが幻聴などではなかったとしても、再びそれが聴こえるようになるという確証はなにもない。確証もなしに、あれだけ自信たっぷりに言い切れるとは、大した度胸である。あるいは、ここで話が途切れてしまっては元も子もないと、芝居を打ったのかもしれない。

 男は腕時計(なぜかダイバーズ・ウオッチ)をちらりと見て、

「わかった。きみたちのために時間を都合しよう」

「信じてくれるんですか!」

 ツユミは自分で驚いてしまうぐらいの大きい声をあげた。こんな頼りない話をすんなり受け入れてくれるなど、とうていあり得ないと思っていた。

「だがオレにも仕事がある。ちょっと待っててくれないか」

「いいですよ」

 キミカはうなずいた。

「これから空港へ笛野レイナとスタッフを迎えにいくところなんだ。きみたちの持ってきた話をどうするかは、考えておくよ。そうだ、名刺をわたそう。携帯電話の番号もかいてあるから」

 大きなウエストバッグに手をつっこみ、ごそごそと取り出した紙片を差し出した。カドが折れた名刺には、

 新関東テレビ放送・制作部第二制作課 ディレクター 駅村欽大

 とあった。

 立ち去ろうとして、振り返る。

「そうだ、名前きいてなかった」

「峠キミカ」

「百合山ツユミ」

 二人が反射的にこたえると、駅村は、

「オッケー」

 と手を振り、駐車場に停めてある日産エルグランドに乗り込んだ。

 去りゆくワゴン車を見送る二人。

 さて、これからどうするの? とツユミが訊こうとすると、キミカはもうR1に乗り込んでいた。

 あわてて助手席に滑り込むツユミ。

「どこへ行くの? 駅村さん帰ってくるまで遺跡を見にいく?」

「いや、駅村さんについて行くねん」

「空港まで? なんで?」

 駅村の仕事は、おそらくロケが終わるまで続くだろう。忙しい人気タレントを使うわけだから、できるだけ多くの仕事を詰め込んでいて、となると、夕方までかかるかもしれない。明日はマラソンがあるから深夜までということはないだろうが、それでもかなり待たされるにちがいない。それなら当初の予定どおり、遺跡の観光もできるわけだ。

 だが、状況を考えると、そうも悠長なことはしていられない。ほかのマスコミにもあたって、遺跡の異変が近いことを知らせたほうがよい、ともいえる。

 キミカはしかし迷ってはいないようだった。

「ホンマにあいつ、ウチらの話取り上げるつもりがあんのか、わかれへんやん」

「ううむ……」

「それに――」

 キミカはR1を駐車場から道路に出すと、エルグランドを追跡する。

「笛野レイナを間近で見たいやん」

 ツユミはあきれた。

「ミーハー」

 エルグランドは市街地の中心に建つ、ひときわ大きい塔へ向かう。陸地球の唯一の出入口。天の世界へ行こうと造られたというバベルの塔のようだ。異世界へつながっているわけだから、まさしく現代のバベルの塔といえるだろう。鋼鉄の檻のような外観ではイメージがひどく遠いが。

 勾配のきついスロープを上がり始めると、R1のエンジン音が苦しそうに甲高くなった。前方を走るエルグランドとの距離が開きだした。

「昨日、通ったばかりなのに、なんだかずっと過去みたいな気がする」

 ツユミが窓外に目をやると、遠くにポツンポツンと点在する遺跡が見わたせた。

「せっかく来たのに、ほとんど遺跡、見れなかったね」

「またすぐ戻ってくるやん」

 エルグランドとR1、二台のクルマは長い長いスロープを昇りきり、陸地球の外へ出た。大雪山のまっただ中、いきなり目の前に現れた大パノラマが眼に眩しかった。

 山を降りる一本道はこの時間、走行するクルマも少なく、ストレスのない走りができた。一方、陸地球へ向かう対向車線は、昨日バスで通ったときよりもクルマの数が多いようだった。いよいよ明日にせまったマラソンのためか――。単純に今日が土曜日だからかもしれない。

 旭川空港までざっと一時間。

 キミカは、ワゴン車との距離を適当に維持する。駅村には尾行がばれているかもしれないが、ばれてもどうということはない。

「来た!」

 だしぬけにキミカが叫んだ。

 ツユミは反射的にキョロキョロしたが、変化の少ない景色が窓外を流れているだけで、なにが来たのかわからない。

「キングブロッサムの花の声やん」

 その様子に、鈍いな、と言いたげな声音で、キミカ。

「やっぱしウチが思たとおりや」

 どうだ、まいったか――とニンマリ笑う。

 それを受けて、ツユミは瞑想するように意識を集中した。

《発芽の時は近い。遠くへ行こう、散らばろう》

 聴こえた! しかもゆうべよりもはっきり。

 遺跡がただの巨大な石(あの形をして「ただの」とはいいにくいが)ではなく、繁殖することのできる生物であり、そしてその繁殖期がもうすぐやってくる……ということを伝えてきた。――ゆうべ聞いたその内容は衝撃的であったが、それよりもまだ多くのことがわかりそうだった。

 ツユミもキミカも黙り込み、キングブロッサムの声に注目した。

《遠くへ行こう。遠くへ行こう。もうすぐ発芽のときがくる。つながった世界の境目を通って、我々は数百数千と増え、種族は広がり栄えていく》

 昨日のような早口ではなく、ずっと聞き取りやすくなっていた。ゆっくりではないが、暴力的に単語が頭の中に嵐のように吹き荒れるというのではなくなっていた。

 とはいえ、文脈がどうにかこうにか追跡できる、ぐらいの速さだったから、気を抜くとたちまち置いていかれそうになった。

《広がろう、行ってみよう。新たな世界へ》

《古い世界は棄て去られ、すべてが新しく始まる》

 ツユミは驚いた。

「タネは北海道へ出ていくつもりなんだ」

 異世界をつなぐトンネルを、人間以外の生き物が自主的に通っていくなんて。人間によって運ばれた生き物以外は、たとえば大雪山に生息する虫や鳥なんかは、まるで結界でも張っているかのように、決して陸地球内に入ってくることはなかった。本能的に危険を察知するのかもしれない。たしかに、一滴の雨さえ降らず、草一本も生えていないところへ来ても、干からびてしまうのがオチだ。

 キミカはうなずいた。

「それよりタネが異世界トンネルの存在を認識してるっちゅうのが謎やな。なんでわかんねやろ」

「春になって桜が咲くのと同んなじ理屈なんじゃない?」

 周囲の環境がどうなっているかがわかるのは、植物のもつ当たり前の能力だ。

 フムン、とキミカは納得したようだったが、まだなにかひっかかる感じで考えこむ。が、

「ま、遺跡の花がなにをしようと、ウチらにはなにもできひんねんから。タネが発芽して成長して、旭川近辺に巨石の林ができてもうても、どうっちゅうことないやろ。もっとも、あんだけデッカなるには、きっと何百年もかかるやろけどな。ま、なんにしても、これでますます話がしやすなったわ」

 と、結んだ。このまま花がテレパシーを発しつづけてくれれば、今はたぶん半信半疑の駅村も確実に信じてくれるだろう。

「でも、キミカ、どうして花がまたしゃべりだすって、予想できたの? なにか前兆でもあった?」

「いいや」

 キミカはニッと笑みをうかべた。「カンや。でも、すごいそんな感じがしてん」

「ふうん」

 あたしは全然しなかった、とツユミ。だが、キミカの気持ちは理解できた。それが彼女の望みなのだ、キングブロッサムの花がまたしゃべりだしてくれる、という。理屈ではない。

 そしてキングブロッサムの花は、昨日と同じように、同じフレーズを繰り返し始めていた。


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