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明日、目が覚めたら・・・  作者: ふじい やたく
9/26

 初めましての女の子


 「へー、なんか変わった雰囲気の子だと思ったけど、やっぱ変わってる子だったんだね!」


 僕たちは奏間の話を聞き終わると、食べ終わった昼食のお皿を返却口と書いてある狭いスペースに置きに行った。マナミは口にまだ入っているご飯を飲み込みながら僕たちの後ろに付いて来た。

 

 「のっこんでから話なさい」

 

 奏間がヤレヤレと呆れ気味に言うと、にや~とマナミが笑っていた。

 

 「あっ、なるほど! だから転校生、じゃなくて高坂さん? は不機嫌だったのか!」

 

 「なるほどって?」

  

 僕が一人で奏間の話を整理して、自分の中で想像した朝の光景を思えば納得のいくものだった。つまりはあれだ。人と関わるのが嫌いで周りを見下して孤高を気取っているのだ。それが本性にしろ偽りにしろ、完璧で可憐な一厘の花の醜態を僕は見てしまったのだ。それはお姫様もご機嫌斜めでしょうね・・・

 

 「だーかーら!! なるほどってなんのよ!?」

 

 僕が一人で考えに浸っているとまなみが横腹を突いてきた。むしろ殴ってきた。 

 

 「いって…… いや、だから高坂さんが僕を睨んだ理由! マナミも見てただろ? お前わざわざ教室から戻ってうちのクラス来てたじゃん!」

 

 「えー知らなーい」

 

 マナミはそっぽ向いて少しだけ意地悪に、そして拗ねたように顔を背けた。いったいこいつは何の為に教室に来たのだろう?そんな事を思いながら僕らは食堂をあとにした。

 

 「あー……悪い。俺この後ちょっと野暮用」

 

 「まーた告白か!? この色男!! むしろ色情魔め!!」


 学食を出た後奏間は「わりぃ!」と言いながら校舎裏へと走って行った。あいつはいつもそうだ。昔から女子にも男子にも人気で告白されるなんて人間の三大欲求と同じ位に日常的な事なのだ。

 僕にもし、睡眠、食欲、性欲の代わりに告白欲なんてものがあったら今の今まで生きてはこられなかっただろう。むしろ告白されないから告白して玉砕して、日々生きていると実感するようなマゾになっていたに違いない。平凡って美しい……そう実感する今日この頃である。


 奏間が消えたあと、別棟の食堂から本校舎の教室までの帰り道、僕はまマナミと他愛の無い話をした。昨日の番組、最近はまっているバンドの話、小学生の頃の話。どれも一度はお互いに話してしまったかもしれない話だったが僕らは話し続けた。

 

 「タク! 次の授業は合同体育だね! まーたお姉ちゃんに叱られないように気をつけなよ!」

 

 「おう! もう校庭五十週は勘弁だ!!」

 

 そしてお互いに教室へと入り体育の準備を始めるのだった。

 マナミが言ったお姉ちゃんとは、僕らの体育教師の『伊達 椿』 先生だ。椿ねえ。いや、椿先生はまなみの実の姉で僕にとっては昔からの知り合いだ。幼い頃は優しく、誰よりも綺麗なお姉ちゃんだったが、今の僕にとっては口うるさい近所のおば、お姉さまもとい先生だ。スタイル抜群で長い茶色の髪を美しいラインで結んでゆらゆらと揺らす姿に何人の生徒が見惚れたことか……それに妹のまなみと違いおっぱいがでかい。マナミにその三分の一だけでも残してあげてと心から思うのだった。


 昼休み終了のチャイムが鳴り、僕たちクラスとマナミのクラスの生徒が校庭に集まってきた。体操着の上からほとんどの生徒はジャージを履いている。もう季節は春も終わりかけなのだが、風は心地よいほどに爽やかだ。

 椿先生と気の弱そうで優しそうな男性教師が校庭に入り、僕らを校庭の真ん中に集めた。

 

 「今日は来週の体力テストに向けて各自苦手な種目に分かれて練習をしてもらう。体育館種目、グランド種目に分かれて列をつくりなさい。グラウンドは私に、体育館は浜田先生に続きなさい」

 

 「はい!解散!!」と椿先生が「パン!」と手を叩いて僕らは解散した。圧倒的に男子は校庭に残り、女子は体育館へ向かった。僕も一部の体育館へ向かう男子生徒に紛れて行こうとしたが、奏間に捕まり行くことは叶わなかった。

 

 「お前はこっち! 走るの苦手だろ!? 俺が指導しちゃる!!」


 「えー……いいよやだよー……走るの嫌いだよー」


 僕の地味な抵抗も虚しく椿先生の前に連れて行かれた。

 

 「おー! 奏間よくやった! 匠にはその軟弱体質を直してもらわないとね! びしばしいくぞー!」

 

 椿先生の目はまるで獲物を見つけた鷹のように鋭く不敵な笑みを浮かべていた。ほんとこの人僕をいじめるの好きだよなぁ昔から……

 それからの時間は最悪だった。五十メートル走を何セットやらされたか覚えていない。奏間と走り、野球部のエースと走り、挙句の果てには陸上部まで……最後のほうはもうヘトヘトで足がガクガクだった。

 

 「どうだ!?少しは走るの好きになったか?運動好きになったか?」

 

 「いやいや、むしろもう外にすら出たくないっすよ……椿ねぇ、嫌いだ……」


 息を切らし、汗まみれで顔面蒼白の僕にこの人はよくもこんな満面の子供みたいな笑顔で話しかけられるものだ。

 

 「なーんだ軟弱者め。あと、椿せ・ん・せ・い!でしょ!」


  中腰の僕の背中にトドメの一撃をくらわせ颯爽と学校に入って行ってしまった。

 

 「大丈夫かタク?」

 

 「奏間のせいでさんざんだ・・・」

 

 「お、おう・・・悪い」


 地面に伏している僕を見つけた奏間の肩を借りて僕らは教室へと戻った。

 


 教室へ向かう途中に体育館のグループと遭遇した。

 

 「お!タクとソウちゃんはっけーん!!」


 元気よく人ごみを分けてまなみが顔を出した。

 「せい!」と僕は人差し指でまなみの背中を突いた。

 

 「ひゃん!なにすんのさ!」

 

 「八つ当たりだ!」

 

 「ははは、タクは今日も椿ちゃんにしごかれてたからなぁ」

 

 「もー!お姉ちゃんと私は関係ないでしょ!」

 

 顔を赤らめてぷんスカ怒るマナミにお構いなしに僕はもう一撃食らわせた。


 「もう!私じゃなかったらセクハラで訴えられてるよ!」

 

 「うん、知ってる。だからマナミ以外にはしない」

 

 あたり前だ。僕と日常的に話す女子などマナミくらいしかいないのだから。

 

 「えっ……そっか……うん。 ……じゃなくて!!……ふんっだ!」

 

 「俺、たまにタクが怖くなるよ……この好けこましめ」

 

 そんなやり取りをしてると、マナミの後ろに人が立っているのに気付いた。その人影はゆっくりと顔をだし

 

 「あの……」

 

 そこに立っていたのは転校生の高坂栞だった。やはり不機嫌そうな顔だったが、初めて目の前にした彼女の姿はスラリと身長が高く、切れ長の目をし、小顔のまるでモデルさんのような女の子だった。あの時見た彼女はきっと別人だったのではないかと錯覚を起こしそうになった。

 

 「あーこちらシオちゃん! さっき体育でペアを組んで仲良くなったの!」


 マナミがドヤ顔で紹介をしてきた。一応僕らのクラスメイトなんだけど……

 

 「あ、どうも。隣の席の高橋匠です。あ、初めまして……」

 

 自己紹介とかやっぱり苦手だ。何を話せばいいのか分からないし、僕の事なんてみんな興味持たないだろうし、それに相手の目を見るのは緊張して僕には出来ない。

 ボソボソと俯きながら話す僕に彼女はゆっくり近づいてきた。

 

 「え、あの……」


 戸惑いを隠せない僕に一気に詰め寄り、僕の前髪を上にかき上げる。おでこに彼女のやわらかい手が触れ、揺れた彼女の髪から女の子独特の甘い香りがした。目の前にいきなり現れた彼女の顔におもわず見惚れてしまう。すっげー美人……

 

 「ちょっと!どうしたのシオちゃん!? それとタク!しっかりしなさい!!」

 

 マナミに手を引かれ、またいきなり離れる顔と顔は一瞬の出来事だったのだろうと実感させた。

 

 「ななななななな――」

 

 言葉にならない僕の動揺に奏間もマナミも同じように動揺していた。

  


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