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明日、目が覚めたら・・・  作者: ふじい やたく
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 ご機嫌は斜め後ろに


 人間は、一度変なスイッチが入ると何にでも笑ってしまう。僕はこの授業が早く終わる事を願い、時計と黒板を凝視していた。今の僕は危うい状況だ。

 奏間がくしゃみをした。前の席の男子がうたた寝をしている。授業中なのに一生懸命化粧を直す女子・・・どうでもいい事でも笑ってしまう。これ以上笑うとさすがに『転校生』も怒ってしまうだろうと、必死に耐えるのだが、

 

「高橋くん……今日は真面目だね……」

 

 今、授業をしてくれているヨボヨボとしたおじいちゃん先生に名前を言われ、クラスの何人かが僕に目を向ける。化粧途中の女子と目が会うと、なんともいえない感覚に陥り

 

 「――んぁ、ハイ……」


  とニコニコ笑いながら答えた。答えたつもりなのだが、きっと変にニヤニヤしてしまったに違いない。ヒソヒソと笑う声が聞こえたので間違いないだろう。


そんなこんなで授業が終わり、短い休み時間になった。

 

 「トイレか?」


 席を立った僕に奏間も立ち上がりながら聞いてきた。学生ならではの『つれション』である。別に尿意があるわけでもないのだが、毎日毎日同じ時間に行っているものだから習慣になってしまう。

 

 「今日のタクなんかいつもとちがうね! なんかいい事でもあった?」

 

 「いや、別に……」


 笑い袋の緒も締まり、何であんなに笑ってたんだろうと賢者タイムのような虚無感に陥り、僕は奏間の隣で用を済ませた。もう一度あの顔を思い出しても今はなんともない。

 

 「そういえばあの転校生ちょっと変わってるよな」

 

 「あー、こんな時期に転校だもんな」

 

 「あっ、それもそうなんだけど、そっか……タクは朝のホームルームいなかったもんな」


 奏間が鏡の前で髪を整えながら横目に僕を見た。

 

 「いや!ほら!あれだ!重役出勤ってやつ!?」

 

 「いやいや、タクはどちらかと言うと窓際族的な……」

 

 ガーン!と大袈裟にショックを受けると 

 

 「ごめんごめん!ほら、泣くなよ!!」

 

 と奏間は綺麗な水色のハンカチを差し出しながら笑っている。

 

 「いい」と水で濡れた手をズボンで拭こうとした時、自分もハンカチを持っている事を思い出した。いや~ほんと助かります。


 

 「それで?転校生がなんだって?」

 

 話が随分逸れてしまったのだが、教室に入る直前に僕が聞くと

 

 「おいおい、このタイミングはアウトだろ?」


  苦笑いをしながら奏間が目配せをした。彼の視線の先には転校生がまた机に突っ伏していた。確かに同じ教室、ましてや隣の席に張本人の転校生がいるのだから「転校生変わってんだよねー!!うけるー!!」なんて出来る訳が無い。それにしたってずっとその体勢はきつくないのかな?

 始業のチャイムと同時に教師が入ってきて、それを合図にクラス委員の男子が号令をかける。

 

 「きりーつ、きょーつけ、れい」


 機械的に交わされる毎日の挨拶にみんな従順に従う。それには転校生も例外なく立ったので、なんとなく少し顔が見たいと思い、少しだけ体を斜めに倒し

 

 「おねがいし――」

 

 「ます」と言いかけたのだが、予想外です。彼女も顔をこちらに向け目と目が合ったのだ。しかしそれはよく漫画などで観る胸キュンな見つめあいではなく、不機嫌そのもののガンの飛ばし方だった。おもわず反対に顔を背けたのだが勢いあまって斜め後ろまで反れてしまった。「なにしてんの?」と奏間が目を丸くしてこっちを見てたが「ハハハ……」と曖昧に笑ってごまかした。

 授業が始まると彼女はそれまでと同じように机に突っ伏して眠っていた。僕は痛めた腰と首を労りながら授業に励んだ。

 


 

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